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加虐と被虐の輪舞曲

ここでは、「加虐と被虐の輪舞曲」 に関する記事を紹介しています。


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性的、暴力的な表現を含んでいます。
虚構と現実の区別のつかない方
18歳未満の方はご遠慮くださいませ。
自己責任に於いて閲覧していただきますようお願いします。

 
 
 一番遠い領地、シュヴァルツ侯爵領へ、いったん戻らなければならない日が近づいてきていた。山のようの事務処理もあらかた終わり、有力な親族への挨拶回りも終わった。フランツ様は、まだ、妻帯していない。若い当主がお披露目のために大々的な晩餐会を開かなくても、それはそれで仕方ないと納得してもらえる程度にいくつかの晩餐会や、舞踏会に顔を出された。
 親戚の中でも王宮で一番の重責を担っているマンシュタイン伯爵が、後見として自ら主催して舞踏会を開き、引き合わせなければならないと考えられる貴族達に紹介なさってくださり、一応の義理ははたされた。もちろんそのほとんどは、王宮で常に陛下の傍らに控えていたフランツ様とは顔見知りであったのだが……。彼が決められた宮廷社交の手順を踏んでいる間に、私は館を立つ準備を整え、後をまかせるモレンツと細かい打ち合わせをした。
 明日は旅立ちの日という夜、フランツ様はいつもよりもひどく遅くなってお戻りになった。大分お酒が大分入っているようで、青ざめて足元もおぼつかない御様子だった
「ヴァイス?起きていたのか。明日は出発なんだから先に、寝ていてもよかったのに」
「馬車の中で眠りますよ」
 玄関の扉を開けた私が、部屋へお供しようとすると、フランツ様は苦笑して手を振られた。
「ヴァイス、もう休め。身の回りの事は、ミハエルにさせるから、あいつもどうせ起きて待っているんだろう?」
 ミハエルというのは、現在のフランツ様の小姓のことであった。私は、彼を他の人間に預けたくなくて、不機嫌に黙って付いていこうとしたが、彼は手をのばして私の胸を押し戻した。
「ヴァイス。明日からは、ミハエルはいない。二人だけになるんだし、今夜は最後の夜なんだから、ミハエルに譲ってやれ」
 もっともな理屈だったので、私は仕方なく引き下がった。うかつだったと言われればそれまでだった。当然気がついてしかるべき事があったはずなのに。領地へ旅立つ貴族が、「必ずなさねばならないこと」を思い至れば……。
 早立ちの馬車の中で、フランツ様は酷くご気分が悪い御様子だった。顔色も悪く、落ち着かない様子で何度も座りなおされる。
「フランツ様?」
「……どうも、二日酔いのようだ。慣れないお酒を随分飲まされたからな」
「馬車を停めてしばらく休憩されますか?」
「いや……。肩を貸してくれ。少し眠れば治るだろう」
 向かい合わせに座っていた私は、彼の横へ移動した。肩に頭を乗せて、何度か座りなおしたフランツ様の肩を私は抱き寄せた。安定して寄り掛かれるように誘導すると、ほっとしたのか、やがてようやく眠ってしまわれた様子だった。
 私は彼の天使のように美しい寝顔をこんなに間近で眺めるチャンスをありがたく享受していた。だが、もたれかかってくるフランツ様の体はなぜか普段よりも熱いような気がする。額には冷や汗が浮いていて、寝苦しそうに、何度も位置を変えられる。私はだんだん不審がつのってきていた。
 肩に廻していた手を、きづかれないように少しずつずらしていく、移動する手に反応したのかフランツ様が苦しそうに呻かれる。そして、急にビクッと震えたかと思うと腰の辺りにあった私の腕を乱暴に振り払った。
「やめ……嫌。嫌です。お許しを。陛下……。陛下」
 叫んで跳ね起きたフランツ様は、一瞬自分のいる場所がわからないかのようにうつろな瞳を周囲にさまよわせた挙句、あっけにとられているわたしの存在に気がついて、一層に青ざめられた。私は、自分のうかつさ、鈍感さに舌打ちしたいほどの悔しさを感じた。手をのばしてフランツ様の両手を捕まえる。
「昨日、なにかあったのですね」
さっと、そらされるやましさを宿した瞳。
「どうしてです。もう、あなたは小姓ではないのに……」
「……陛下が望めば、誰も逆らえない」
そのとおりだった。絶対無二の至高の権力を持っている存在なのだから。
「だから、あなたは、昨日、わたくしを近づけなかったのですか?ミハイルなら見せてもいいと?」
「ちがう!ミハイルはおとなしく下がっていったさ。あの子は、まだ、……子供なんだ」
「見せてください。なにをされたのです?」
 フランツは、顔色を変えて私の手を振りほどこうとした。だが、力でねじ伏せれば、私のほうが勝っているのは明らかだった。
「いやだ。ヴァイス。こんな場所ではやめてくれ。御者に聞こえてしまう」
「……では、宿でおみせくださいますか?」
 私達はまるで仇敵同士のように、強い瞳で睨みあった。だが、結局は折れたのはフランツ様の方だった。一度強く目をつぶると、開けたときはもう平静になっていた。
「おまえがそうしたいのなら」
 そして、ゆっくりと手を振り払った。そうなってしまうと、もう、私には逆らうことはできない。私が踏み込めるのは、彼が許したところまで。それは昔から変わらない。主人はあくまでも主人。生まれながらに人の上に立つと決められた人間は、確かに存在するのだった。私はおとなしく馬車の隅に引き下がった。
 フランツ様は、ちょっとためらってから、再度私にもたれてきた。私は体の位置を変えて彼が楽に眠れるように受け止める。
「ヴァイス……。おまえ、本気なのか」
 何を聞かれているのかすぐに分かった。私ははっきりとうなずいた。
「領地に帰れば、館の奥深くに尋問用の隠し部屋がございましたでしょう。あそこなら、誰にも気がつかれません。石の壁も、樫の扉もことのほか厚く音が漏れないようになっておりますし」
「……本当は、お前をいたぶってみたって、何も変わらない」
「いいえ。違います。きっと何か分かります。私にとっても、あなたにとっても。私達は知るべきなのです。知らないから怖れている、今の状態は正しくありません」
「そうだろうか。最初、私は、ただ意趣返しがしたかっただけかもしれないぞ」
「意趣返しでもかまわない。あなたが楽になるのであれば」
 フランツ様の熱い体を抱いているうちに、自分の中で高まってくるものを私は感じていた。今まで、一度も見ようとしなかったもの。あってはならないとして、押し殺してきたもの。それが、ゆっくりと己の皮を破って、姿を表し始めていた。



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  宿にはすでに先触れが廻してあったので、大貴族である公爵家の主人とそのお供である使用人の集団を迎え入れる準備はすでにできていた。
「医者を呼びますか?」
 すでに、フランツ様の体からは、血の臭いが漂っている。
「大丈夫だ。たいした傷じゃない。お前が薬を塗ってくれ」
 明日からの旅程に添ってあれこれと手配をすませ、フランツ様が案内された部屋に行くと、すでに荷解きがすまされ、部屋の中には夕食の準備ができていた。簡単に顔と手を洗い、みづくろいをしてテーブルの傍に控える。
「ヴァイス」
 フランツ様に、テーブルの向こう側の椅子を指し示され、私は、一瞬、戸惑った。今まで一度も彼と同じ食卓に座ったことは無かったからだ。
「騎士様、何を遠慮している?お前に用意された椅子に座るといい。これからずっと、私の向かい側にはお前が座るんだ」
 人生の間ずっと……。口に出されなかった約束が聞こえる。許された椅子。あなたの隣の椅子。私は、黙って腰を降ろした。
 そう、これからの長い人生をずっと、私はこの人を助けるために、仕えるために、生きていくのだ。それは、ずっと前から決められたことだった。亡くなった公爵が私を彼のために選び出し、それから彼と私二人で育んできたお互いの関係。だが、その道程を歩む時、彼の傍に自分用の椅子があるという幸せは、考えていなかった。私と彼の間にはあまりにも大きな身分の差がある。それを越える日が来るということは私の想像の埒外だったのだ。
 グラスに葡萄酒が注がれ、お互いの目を見ながらそれをあげる。なにがあろうとも、私はあなたの側を離れません。絶対に。
 そして、夕食の後、部屋にはお湯が運び入れられ、湯浴みの準備が整えられた。すべての使用人を扉の向こうへ追いやって、戻ってきたときには、フランツ様は、落ち着いた様子でシャツを脱ごうとされていた。その背中。思いもかけなかったほどに無残に引き裂かれた背中を私は硬直して見つめた。酷い。なぜ?なぜこんな酷いことを。
「昨日は、陛下はちょっとお酒を過ごされていた。いつもはここまではなさらないんだ。傷が残るといけないから」
「湯に……浸かれますか?」
「どうだろう?きっと沁みるだろうな」
 フランツは顔をしかめた。だが、もう覚悟を決められていたのだろう。ためらいも無く、残りの服もさっさと脱ぐと、バスタブの中に足を差し入れた。
「う……っつ」
「昨日のうちに、手当てさせてくださればよかったのです」
「馬鹿言うな。昨日は、そこまで、開き直るほど覚悟ができてなかった」
 私は、お湯加減を見て、水差しから少し水を足した。その方が少しでも沁みないと思ったからだ。そして海綿で体をそっと撫で洗った。背中の傷も消毒のためには、やはり石鹸で洗うのが一番のようだった。
 洗っている間。海綿が触れる度に彼の体は硬直した。おそらく酷く痛むのに違いなかった。血糊を洗い落としながら私は彼の息遣いを追っていた。少しずつ切迫して上がってくる彼の呼吸音。痛みにみじろぐ背中。こらえきれずに洩れる呻き声。私の中でいつもは押さえつけられている獣が目を覚ましつつあった。私は、慄然としながら歯をくいしばった。これは……これは、なんだ?この気持ち。この、まがまがしい気持ちは……。
 自分が主人に対して欲情し始めていると気が付くと、もう、彼の体に触れる一瞬、一瞬が拷問のように強く心に爪を立てるのを、息を潜めてみつめるしかなかった。自分の動悸が段々と大きく早くなってくる。主人のつく浅い呼吸に、同調し始める。……気付かれる。気付いている。気付かれている。
 フランツ様の体全体がぽおっと赤く染まっていくのを、私は息を呑んで見つめた。体全体をこわばらせていながら、すべてを私にゆだねきっている。私は目を閉じて、必死に高まった快感のうねりをやり過ごした。もう、隠しようが無い。後ろめたさに体が硬直する。
「……フランツ様」
 赤くなって視線をそらす私の瞳を振り返って覗き込んでくる青い目。氷の浮かぶ北の海のように冷たく澄んだ青い瞳。そして、ゆっくりと近づき、私に触れる寸前で止まる紅い唇。開いた唇に彼の甘い吐息がかかる。
「ヴァイス。……私が欲しいのか」
「わかりません。今まで、一度も……いや。欲しい。あなた以外は何も欲しくないのですから。欲しいに決まっています。でも、想像したことも無かった。こんなことは」
 ぱしゃり。水音がしてフランツ様は姿勢を変えた。
「もう、いい。流してくれ」
 私は、溜息をついて、硬直から逃れた。新しいお湯を何度も体に注ぎ、湯から上がった体の水滴を拭うように白く大きな布で包んだ。フランツ様は携帯されていたバッグの中から練り薬を取り出すと、私の手の上に乗せた。白い布を腰に巻きつけるとそのままベッドへ上がる。
「どうやっても痛いに決まっているから、遠慮しなくてもよいからな」
 苦笑のこもった彼の声にほっとしてベッドへ近づく。だが、おそらくは、彼も知っていたに違いない。薬を塗る間、私が何を感じ。何を見て。何を思うのか。そう。私の中の獣が自分の手の下で痛みにゆるりとのたうつ獲物を、捕らえ、引き裂きたがっていることを……。誰よりもよく、彼は。






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 恐ろしいことに、その儀式は領地へ着くまで毎晩繰り返された。彼の体を洗い。彼の体に薬を塗る。幼い頃から繰り返してきた習慣どおりに彼の身の回りのすべてをお世話する。髪をとかし、服を調える。手の中で痛みをこらえているあなたの体。柔らかなカーブを描いて、男の手で蹂躙されたことを誇示するかのようにゆらめく体。
 最初は自分の感情を持て扱いかねていた私は、だんだんと深く潜行するすべを覚えた。目はいつも彼の動きを追い、わずかな気配でも聞き取ろうと全身の感覚をそばだてる。胸は熱く、鼓動は早くなり、思いは常に彼の上に囚われていた。
 侯爵領へ入ると、フランツ様は馬車の窓を開けて、領地の様子をご覧になられていた。公爵は寛大な領主だったので、領地の民は豊かで、領内は美しい緑とおそろいのレンガの建物と赤い屋根の家で彩られている。馬車に気がついて頭を下げる領民にフランツ様はわざわざ手を振られる。
 そうして、私達は、たまの夏に避暑を過ごす時しか帰らなかった我が家へ辿り着いたのだった。我が家というにはあまりにも壮麗すぎる館ではあったが。玄関を入ると執事を先頭に並んでいる使用人達に出迎えられた。そして、ようやく一区切り付いたはずの事務仕事、視察、ありとあらゆる揉め事の整理がどっと押し寄せてきて、私とフランツ様はゆっくりと語らう時間も無い有様に忙殺されることになった。

 領地に帰ったら……そう約束した部屋は、フランツ様の寝室の控えの部屋に隠し扉があった。通路は館の下を通って、館の裏山の林の中に出る抜け道なのだか、おそらくは代々の領主のみの秘密になっていた。現在のように、平和な治世が長く続くとその通路はほとんど使われることが無いため、林の中へ出る扉にはからくり仕掛けの錠が掛けられて知らぬものには決して入ってこられないようにしてあった。
 入り口の場所も藪に覆われて探しても簡単には見つからない。館の中にはそういった秘密の出入り口が何箇所もあるのだが、私が知っているのはその通路だけだった。その通路は、反対に館の中に作られた隠し部屋にも通じているのだった。
 その部屋は石の壁で覆われていて、普通の部屋よりも天井が高いだけでなく頑丈な梁や柱がむきだしになっている。壁にはいくつもの金輪や鎖が打ち込まれていて、何に使われていたのか明らかであった。しかし、傍らに置かれている大きなベッドやとりどりの優雅な椅子などを見ると、おそらくは、身分の高い囚われ人に使うために作られた部屋だったのだろう。
 私は、暇を見て通路と部屋を掃除し、部屋の中のリネン類は、新しい物にすべて取り替えた。むき出しで寒々しかった壁にはタペストリーを下げて、毎日暖炉で火を炊き湿気を払って、こもっていた臭いが抜けるように天窓を開けて風を入れた。天窓は、周囲を屋根の勾配に囲まれていて館の外側から見えないようになっている。地下室には、本当の囚人を入れるための牢や拷問部屋のような場所もあるのだが、さすがにそこへつながれる勇気はなかった。

 暖炉の火を消してから、天窓を閉めてはしごを降りてくると、フランツ様が入り口の扉に寄り掛かっていた。
「……フランツ様……管財人はもう帰ったのですか?」
「うん、ようやく一区切りついた」
 それが何を意味するか分かっていた私は薄く微笑んだ。
「では、今夜でよろしいですか?」
 体を起こして、ゆっくりと一歩一歩近づいてくる主の不思議な目の色。彼は、手を伸ばしてベッドの上に乗せられている皮の枷や何本かの鞭の中から一本を持ち上げた。
「どこから、こんなもの探してきたんだ?」
「王都で、買い求めたんですよ。さすがにこっちで買うと目立ちますから」
「抜かりは無いというわけか……」
 ちょっと、苦笑して溜息を付く。
「まだ、やめられるとは思わないか?」
「……フランツ様。そこまで難しく考えないでください。たいしたことじゃありませんよ。私は、軍隊で苦痛がどういうものかは知りましたし、子供の頃には、旦那様の命令で納屋で馬丁のローランにお仕置きされたことだってあったでしょう?」
「……あの時はお前はまだ子供だったじゃないか。それに、私だって一緒にいたずらしたんだから、父上には、お前だけを打つのは片手落ちだって訴えたんだぞ。それなのにお前だけを納屋へやって、私はここへ閉じ込めるなんて!」
「無理ですよ。公爵家の一人息子とその従者を同列にはあつかえません。それに、あのことがあったからこんなところに部屋があることが分かったんですから」
「部屋は他にもいくつもあるんだ」
 まるで、子供の頃に戻ったようにすねて言い募ってくる主。愛おしさが胸に満ちてくる。一緒にすごした少年時代のいたずらと冒険に彩られた夏。
「それは、当主だけの秘密でしょう」
 フランツ様は手に取った鞭を振った。ひゅん!その空を切る音は、私の心臓の鼓動を早めるのに十分なほど凶悪な音だった。




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 そうは言っても、フランツ様の前で服を脱がなければならなくなったときに羞恥を感じなかったわけではない。何のために裸になるのかといった理由が行為よりも感情に影響するらしかった。ベッドに座って目を細めて見ている彼の前で、一枚一枚服を脱いでいく。
 何をされるのか分かった上で平静な顔で服を脱ぐのは、むずかしかった。ただ、服を脱ぐだけで呼吸が速くなり、心が震える。全裸になると腕を頭の後ろで組み、足を開いて彼のほうへ体を向けた。
 視線がゆっくりと体の上を弄りまわすように移動する。私が一番ショックだったのは、ただそれだけで自分の持ち物が反応して頭をもたげ始めたことだった。正真正銘の羞恥が突き上げてくる。
 立ち上がり、近づいてくるフランツ様が私の赤くなった顔を覗き込んでくる。彼の服が私のそれを擦るほどに近づくと、私のものはすっかり立ち上がって、ただ布が擦れて離れていくだけで、息を呑まずに入られなかった。彼の唇が触れそうなほど近く付けられ、囁かれた。
「王宮にいた間、いつも、考えていたんだ。お前をこうして鎖につなぐことを」
 はっとして、主の顔を見つめなおす。目を細めて、薄く微笑む主の顔を……。彼の両手が拡げられて胸に押し付けられ、そしてわき腹へ、撫で回しながら降りていく。思わず目を閉じずにはいられない。手が尻を抱え込み肉に爪を立てられる。捏ね繰り回され、掴まれる。腰には腰が押し付けられ、足の間には膝が割り込んできた。彼の太腿が足の間を擦り上げる。
 私は歯をくいしばって、喘ぎを押し殺す。背に廻された手が意地悪く背筋を撫で上げ撫で下ろす。私の眠っていた官能はすっかり目覚め、体の中を熱い血がかけめぐる。
 唇が頬を掠める。耳たぶに、瞼に、顎に軽く触れ。そして首筋に吸い付く。今度は声を押し殺せなかった。私は思わず呻き、体をこわばらせた。頭の後ろで組んだ手に必死で力を込める。姿勢を崩したら終わりだった。自分の理性はどこかへ吹き飛び、あろうことか忠誠を誓った主を寝台の上に押し倒しかねなかった。
 手に皮の枷を巻かれる。まず、右手にそれから左手に。そして足の枷を渡される。私は促されるままにしゃがんで自分で枷をはめた。そして、ベッドの傍らに並んでいる二本の柱の間にベッドに背を向けて大の字に体を張り広げられる。
 ひとつ、枷を金具につながれると、その度に胸の鼓動が大きく早くなっていくようだった。向かい側の壁には大きな鏡が立てかけてある。今日の夕刻、フランツ様が寝室に運び入れさせたのだ。大の字に拘束された体が、ちらちらと揺れるランプの明かりに照らし出された。私は鏡の中の自分を見つめた。
 後ろに立ったフランツ様の息がうなじにかかる。ふ……と、一瞬の油断をついて、手が廻されて掴まれていた。背筋を走り抜ける驚愕と苦痛と快感のない交ぜになった感覚に、思わず腰を引き体を捻る。
 その様がすべて逐一鏡に映し出される。射るようなまなざしでのフランツ様の視線が鏡の中から見返していた。手は下腹を弄りながら移動する。肩に這わせられた唇が、中心の快感と連動して、身動きも出来なかった。ただただ、見苦しくあがく姿だけはさらすまいと、それだけを念じるしかなかった。
 掴んだ手がゆるゆると動き始めた。こんな事態は、まったく想像していなかった私は、動揺する様を見られまいと必死で固く目を瞑る。目の色を見られたら終わりだ。フランツ様には隠しようが無い。反対の手が後ろから廻り、尻の間から差し込まれやわやわと揉みこまれる。耐えられない快感が急激にたかまり、思わず目を開けてしまう。目差しに射殺されてもう、逃げられない。捕らえられてしまっている。
「まだだ」
 びくんと撥ねた棹の根元をギュッと指で絞り込まれる。行き場の無い快感が腰の辺りで渦巻く。あっと思う間もなく紐が廻されしっかりと結ばれたのが分かった。それが何のためであるかも……。なおも散々玩ばれてフランツ様の体が離れていったときは、私は、懇願しそうになり、唇を噛み締めているような有様だった。





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 鞭打ちの一打目は背中を斜めに走って打たれた。十分覚悟していたはずなのに、その苦痛に体は勝手にねじれ両手は枷を引こうとして金具を打ち鳴らす。痛い。想像していたよりもずっと、喰い込んでくる痛み。フランツ様は小波のように痛みが体全体に拡がり染み渡る様をじっとみつめておられる。
 そして、二打目。さっき打たれた場所よりも少し下がったところを正確に狙って鞭が飛んできた。体全体に力を込めて迎えうつ。さっきよりも強い痛みが、体の中を走り抜けていく。私は目をいっぱいに見開いて鏡の中のフランツ様の姿を見つめる。そうしていないと、喚きだしそうな恐怖があった。
 三打目。体を仰け反らせ、歯をくいしばる。耐え難い痛みに体が引き裂かれる。無意識のうちに枷を思いっきり引いてしまい、自分で自分を痛めつけてしまっていた。鞭の位置はわずかに下がってきている。息がはずむ。全身に冷や汗がどっと湧き出てくる。鏡に映る振りかぶられる鞭をみつけ次の打擲に備えて息を吸い込んだ。
 四打目。吸い込んだ息が瞬間で全部吐き出される。その痛みに体がひきつれる。自分の思い上がりに唾棄するようなくやしさがつきあげてくる。かすんでくる瞳をもたげフランツ様の姿を探した。自分が枷につながれている理由、鞭で打たれている理由にしがみついていた。
 鞭は計ったように少しずつ位置をずらしながら降りていった。位置が太腿へ移っていくと、痛みは一層耐え難く、思うように息もすえない有様だった。一打事に、体が跳ねのたうち、首が打ち振られる。最後に膝裏に打ち込まれたときは、一瞬あたりが暗くなるような気がした。大きく息をつき、酸素を求めて口を空けてむなしく喘ぐ。
 その有様をじっと見つめていたフランツ様は、つと、鞭をもちかえると体にくっきりと浮かび上がる縞模様にその指を這わせていく。ぴりぴりとするような、痛みがその指によってもたらされる。紐によって萎えることを許されなかった場所がびくりと頭を上げる。え?今のは……な……んだ? 熱い何かが腰の辺りにたぐまっている。
「ヴァイス……今度は向きを変えて打つ。続けられるか?」
 心配そうな囁き声。私は目をしばたき、金具にかけていた体重を自分の足に取り戻した。目を上げて、主の姿を探す。
「平気……です。ご存分になさってください」
「……お前の叫び声が聞きたいんだ。耐えるのはやめてくれ」
 え? 心臓を捕まれたような恐怖が湧き上がってきた。声を上げろとおっしゃっているんですか?どんな苦痛でも耐える方が簡単だった。じっと見つめてくる彼の視線は、そらすことも許さない。
「でき……できません。どうすればいいのか……」
「口を開けるんだ。歯をくいしばるな」
 彼の細い指が唇を割って入ってくる。体だけでなく心の中まですべてさらけ出せという命令に、私は総毛だった。再度フランツ様の体が離れていき、今度の私は、覚悟が付かないまま取り残された。立ち位置が変わり、反対方向に鞭が向けられる。
 一歩、二歩、彼が前に出るのが鏡の中に映る。それが何を意味するのか分かったときには、次の鞭が体に食い込んでいた。最初の鞭打ちの赤いみみずばれに交差するように、新たな鞭が体に後を残しながら巻きつき、その最後の舌が体の一番柔らかいところにひときわ強く叩きつけられた。

「あうっ!」
 口を開けていた私は、思わず叫び声を上げた。そして、慄然とする。最後の砦が崩れ、私はもう、耐えるすべを持たなかった。鞭の交差した場所が錐を揉み込まれるように激しく痛む。恐怖が私を捉え、ひきずりまわそうとしていた。
ひゅん!
 次の鞭音が、迫る。方向を掴み損ねて感覚が混乱する。思わず逃れようとする体にまた次の一打が食い込む。そして、激しい痛み。もがきのたうつ体。「あなたの味わった地獄」私はそれを願っていたはずなのに。
「ううっ……」
 考えることが出来なくなっていく。あるのは今の苦痛。叫び声。そして一瞬の弛緩。安堵。そしてまた苦痛。涙が溢れる。痛い。膝が体をささえられなくなり、鎖を鳴らし、全体重が腕にかかる。その揺れる体を、彼は正確に十センチ刻みに切り刻んだ。最後の膝裏への一打が入ったとき、私は気を失っていた。



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「お館様。ヴァイスがなにをしたのかは存じませんが、これは、あまりにやりすぎではありませんか」
「分かっている。すまない」
「私に謝られても、困ります」
 コール医師の耳元でがなりたてる大声に、現実に引き戻される。私が気を失ったばっかりに、医者が呼ばれてしまったらしい。目を開けると、すでに、フランツ様の寝室に運ばれていた。
「先生……」
 叫びすぎたのか声がすっかりしゃがれてしまって思うように出ない。コール医師は、目を覚ました私に気が付いてベッドに顔を寄せてきた。
「ヴァイス。気が付いたか」
 体を動かそうとして、思わず呻いた。骨がばらばらになりそうなほど痛い。
「いったい。お前はなにをしたんだ。ええ!」
「もうしわけありません。でも、フランツ様のせいではありません。私が至らぬ事をしてお怒りをかったのです」
 ドアの向こうへ視線をめぐらすと、医師も気が付いたのかすぐに声を小さくして来た。腕白小僧の頃からあれこれと怪我をして世話になった気心の知れない相手だからフランツ様も気を許されたのだろうが、他の使用人には知られたくない。
「とにかく、今日はこの薬を飲んで」
 ちょっと頭を持ち上げられて、吸いさしを口元に突きつけられる。苦い薬がのどを降りていって、また、体を横たえられる。動くたびに激痛が体を襲う。
「今夜は熱が出るはずです。私が付いていた方がいいですか?」
「いや、いい。下がってくれ。ヴァイスの面倒は私が見る」
「まったく、それほど大事にされていながら、何を考えてこれほどまでに折檻されたのか!」
 怒りを振りまきながらも医師は、戸口に控えていた執事に案内されて部屋を出て行った。
「……叱られてしまいましたね」
「平気さ。若い公爵は、短気でかんしゃく持ちだと思われても、侮られるよりいい」
主の優しい目がのぞきこんでくる。
「痛むだろう」
「はい」
「立場が逆転したな」
 笑おうとして苦痛に顔がゆがむ。まったく、この人は……。あの王都での最後の夜。露ほども私に悟らせず、しりぞけておしまいになった。同じような苦痛を抱えていたはずなのに。ゆっくりと彼の顔が降りてきて、唇を軽くついばまれた。思わず顔を持ち上げておいすがってしまう。
「ヴァイス?」
 自分の気持ちも持て扱いかねているのに、どうしてこの人から隠しとおせるだろうか。思い出して、手を伸ばしで自分に触れた。紐はすでに解かれている。あたりまえか。コール医師に見せられるはずも無いし……。そして、痛みに呻いているというのに、それは起き上がり始めていた。
「何か……着るものを……」
「馬鹿言うな。服なんか着られないぞ」
「あなたは着て帰って来たじゃありませんか」
「裸では帰れないからな」
 そう言いながら、自分の服をくるくると脱いでしまわれる。そして、まったく自然な様子でシーツを持ち上げで、ベッドへ入っていらした。フランツ様のベッドは大人三人でも悠々寝られるほどに大きい。しかし、一度も彼と同衾したことが無い私は、無意識にすでに起き上がった体を彼から隠そうと必死でベッドの中で後ずさった。そのため傷を擦り上げてしまい、また呻き声をあげる。フランツ様が咽喉奥でクックッと笑った。
 その瞳の久しぶりに見る明るさ。やっと、喜びと安堵が湧いて来て、思わず魅入ってしまった。
「なんだ。どうした?」
 腕を差し出す。
「抱かれるのでしょう?」
 驚いたように瞳が見開かれる。
「今やると、ひどく痛いぞ」
「そうでしょうが……。苛まれるのが目的なんですから、回復を待っていたのでは、意味ありません」
 フランツ様は、困ったように迷っていらしたが、やがて眉をしかめると、肩に手を廻してぐいっと引き寄せられた。今度は待ち構えていたのでうめき声を押し殺すことが出来た。
「縛っていいか?」
「どうぞ」



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 フランツ様は、ベッド下から縄を取り出すと私が体を起こすのを手伝った。膝を付いた姿勢からうつぶせにさせ、右手に縄を廻すしっかりと結ぶとそれを右足首に引き付けてひとつにくくり合わせた。反対の左手と左足をも同じように縄をかける。その縄尻はベッドの下をくぐらせて、両脇でひとつに結び合わせられてしまう。結ぶために、縄が引かれると、足はじりじりと開かれていった。足首を手で掴んでうつぶせたうえ、尻を突き上げ、顔は横向きにぺったりとベッドに押し付ける格好に留めつけられてしまったのだ。
 体中の皮が薄くなり張り詰めてぴりぴりと痛む。真後ろに座った彼が手を伸ばし鞭痕をなぞり始める。すでに薬を塗られた痕なので唇を付けることは出来なかったが、彼の指が念入りに十字の形に付けられた縞模様を一本づつ辿り始めると、すぐに息が上がってきた。
 痛い。しかもそれだけじゃないのだ。微妙な快感。むずむずとしてじっとしていられないような快感がわき腹を這い上がってくるのが分かった。狼狽して体を捻る。縄がギシギシときしみ、自分が身動きできなくされているのを思い知らされた。
 許しを請うことも出来ず、ただわずかに身じろぎするだけ……。手は、きわどい場所をさまよい続け、私は喘がずに入られなかった。何度か、暴行された経験から、どうすれば、この窮地をしのげるのか知っていた。心を閉じて、感覚を締め出す。痛みも快感も屈辱も締め出すことが出来る。
 だが、どうしてもできなかった。それどころか、自分の感覚を普段以上に研ぎ澄まして、彼の手の動きを追ってしまう。彼の視線の移動さえも、感じるくらいに。指が肩から背中へみみずばれの上を辿っていく、その動き。指の腹が皮膚に当たる感触。時には強く、時には触れるか触れないかくらいに、そよ風が髪に触れていくように優しく動いていく彼の指。
「あ……」
 思わず声が洩れていた。必死に歯をくいしばる。体が熱くなってきて、さっきよりもしっかりと腹を打つほどに立ち上がってしまっていた。手が、感じやすい腰骨から下腹のほうへ滑り込む。腰が跳ねる。握りこまれた瞬間。ギュッと目を瞑り息をつめて、彼の手の感触を味わった。なんだろう、これは。どうかしている。あまりにも変だ。
 喜びに息も絶え絶えになるくらいに撫で回されるうちに、正常な判断は跡形も無くなり、何のためにここにいるのかも分からなくなってきた。分かっているのは、自分の体を撫で回している主人の手の感覚だけ。

 尻の狭間に冷たいものが流れる。多分オイルだ。アナルをほぐそうとしてる。遠くの方で、無理矢理引き裂かないと、苛んだことにならないんじゃないかと囁く自分の声があったが、忍び寄ってくる快感に遮ることもできなかった。
「ヴァイス。指を入れるよ」
 今まで何度か経験してきた汚辱感、嫌悪感、そして、異物が入り込んでくる違和感を待ち構えていた体に、その指がじんわりとはいってきた。息を呑む。
 指。あなたの細い指。指が……入ってくる。
 内臓を裏返しに擦りあげられるような耐え難い快感が体中に走り。私は震えた。息をすることも忘れて、ただの排泄器官でしかないそこの感覚を総動員させて、その指を感じようとする。指がくるりと廻され中を擦られると、稲妻のような震えが走りぬけた。体が勝手に暴走を始めて、尻をもたげ、その指を締め付けからめとろうとする。中が快感に痙攣し、蠕動して導きいれようとする。それに伴って、快感の波が何度も打ち寄せて、私は呻いた。
 どうしたらいい?あ……あ……耐えられない。
 どうしようもなかった。縄を引き、手足を縮めて力をこめどうにかして、その感覚を弱めやりすごそうとした。だが、その行為が、ただ墓穴を掘っただけだったことはすぐに分かった。力を込めてしまったことで、かえって指を強く深く咥え込んでしまった結果になっただけだった。
「ヴァイス?」
 脳がとろとろと溶けて流れ出していくようだった。意識が薄れていく。体力の限界を感じ取ったのか、彼が体を乗せてくるのが分かった。
「力を抜いて……」
 首を振る。だめ。だめだ。そんなこと。できない。彼の体が入って来る時、引き裂かれる苦痛とない交ぜになった確かな快感に打ち倒されて、私は吐精していた。
 揺さぶられる。強い力で引き摺り回される。傷だらけの体が悲鳴を上げ、その痛みの底に潜む快感に体は勝手に喜びをむさぼった。私は、恥知らずにも主人の体を味わい尽し、彼の精を絞り取った。



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 それから三日の間、私は高熱を出して床から起き上がれなかった。ねがえりをうつこともままならないくらい体中がぎしぎしときしむように痛むせいで、時折、意識が戻るのだが、朦朧とした状態だったのでかえって耐えられたのかもしれない。
 枕辺に付き添っている、見知らぬ少年が私の意識が戻るたびに、口元に薬湯の入った吸い差しを突きつけるので水分だけは摂取できていた。薬のせいもあったのか、三日目にぽっかりと目が覚めたときは、体の痛みも最初ほどではなくなっていた。
 付き添ってくれていた少年は、ヨハネスと名乗った。とうもろこしのような髪に、そばかすの浮いた丸い頬。年は14くらいだろうか。コール医師の助手だと言う。私が眠っていた三日間に背中に薬を塗ったり、包帯を巻きなおしたりしてくれていたらしい。私が起き上がろうとすると、制止して、台所へ走り、あたたかいスープを運んでくれた。
「何も食べてないのに、起き上がるとめまいがしますよ」
「ありがとう」
 結局起き上がってちゃんと歩けるようになるまでに、それからまた、三日ほどかかってしまった。その間フランツ様は一度も会いに来てくださらず、ヨハネスの話では、領地の見廻りや領民の面会などで忙しく過ごされている様子だった。
 コール医師は、夕方になるとやってきて、傷の様子をあらためては、新しく調合した薬を置いていってくれた。もう、初日に全部見られているので、今さら抵抗しても仕方ない。素直に体を見せて、罰を受けた使用人らしく、愁傷におとなしく反省しているそぶりを見せて礼を言った。
「まったく、子供の頃はこんな無体をするような性格じゃなかったのに」
 包帯を巻きながら、ぶつぶつと文句を言う。
「フランツ様のせいではないんです。私が全部いけなかったんです」
「……ヴァイス。お館さまは、いつもお前を打つのか?」
「いいえ」
 コール医師は、重ねて何か言いたそうにしていたのに、頭を振って、黙り込んでしまった。私もそれ以上詮索されるのが嫌で、出来るだけ言葉は少なくしていた。
 痛くて動けないとはいえ、考える時間はたっぷりすぎるほどある。全然顔をみせてくださらない主人がうらめしくもあり、寂しくもあった。
 だが、使用人が具合が悪いからといって、主人が見舞うなど聞いたことも無い。当たり前の状況なのだ。だが、ヨハネスが帰ってしまった後は話し相手も無く、床の中で居心地のいい姿勢を探りながら転々とするだけの長い一日ではどうしようもなく、繰り返しあの夜の出来事を反芻してしまう。
 切り裂かれるような鞭の痛み。食い込んできた枷の感触。触れてきた手のひらの動き。そして熱く柔らかな唇。焦らされる快感。激痛。想うだけで体が反応してしまう……。
 あの人は、何かを得たのだろうか。満足したのだろうか。そして、また、私を欲してくださるのだろうか。お会いできないだけで、不安が膨らんでくる。だが、それだけだったら、まだましだったろう。必死で押し殺し、考えないようにしようと思うそばからフランツ様と過ごした旅の夜の出来事が頭を横切る。
 あの人の体に触れたこと。眉をしかめ、身じろぎする背中を洗ったこと……。思考は、行きつ戻りつ妄想がだんだんと膨らんでくる。そして、恐れと不安がない交ぜになって胸をふさぐ。
 なぜ、一度もいらしてくださらない?
 さすがに七日目にちゃんと立ち上がったときは、背中の痛みも大分落ち着いていた。風呂を使い、服を改めてひげをあたる。見苦しく無いように髪をとかして鏡を覗いた。
 ちょっとやつれた様子は否めないが、まあ、無様と言うほどでもないだろう。とにかく、一刻も早くフランツ様の顔をみたい。急ぎ足で書斎へ向かったものの、ドアの前でためらわずに入られなかった。あの夜以来一度も会ってないのだ。どんな顔をして入ればいいのか分からなかった。息を吸い込み思い切ってドアをノックする。
「入れ」
 たった一週間で涙が出そうなほど懐かしい声。私は急いでドアを開けて部屋の中へ滑り込んだ。そして、ドアを閉めて正面へ向き直る。机に頬杖をついて、書き物をしていたらしいフランツ様は、顔を上げて私の姿を認めた。視線が合う。黙ったままじっと見つめられて、私はどうしたらいいのか分からなくなってうろたえていた。
「フランツ様……」
 羽根ペンを机の上にそっと置き、両肘をついて顎を乗せてじっと私の顔をご覧になる。冷たい海のように澄み切った青い瞳。どうなさったのです。なぜなにもおっしゃってはくださらないのですか。
「もう、いいのか」
「はい、長い間、ご不自由をおかけして申し訳ありませんでした。今日より、仕事に復帰できます」
 そして、また沈黙……。私はますます動けなくなって立ちすくむだけだった。
「フランツ様……」
「背中をみせろ」
 おもわず咽喉もとのシャツを掴んでいた。平静すぎるほど平静な声。
 我に返り、ためらうことを許さない主の命令に私はまっすぐ机の側に歩み寄り、背を向けて服を脱ぎ始めた。机の斜めの位置にある椅子の上に脱いだ服を載せていく。上半身裸になると、向き直りフランツ様を見つめ返した。
「ズボンも」
 息を吸い込む。一瞬の間の後、靴を脱ぎ靴下を脱ぎ、ズボンに手を掛ける。軍隊暮らしが身についているせいで、服の着脱は手早い筈だ。机を回りこみ彼の側に行くと背中を向けて傷をさらす。
 長い時間、私はただじっと立っていた。じわじわと羞恥が込み上げてくる。書斎の真ん中で、裸で立っていることの異常さ。なにを求められているのか分からないまま、ただ見つめられることの苦痛。息を吸う胸が震える。鼓動の音がだんだんと大きくなって、彼に聞こえるのではないかと思うほどだった。やがて、体の中心が立ち上がってくる。素裸でいれば隠しようが無い。
 ふと……空気が動いて、彼が手を伸ばしてきたのが分かった。待ち構えていると冷たい指がそおっと背中に触れてくる。

「あ……」
 目を閉じて、手の動きを追う。彼の手。私を打ち倒し、喜ばせ、絶望させることの出来る主の手。ゆっくりと背中の傷をなぞり、最後に尻をぎゅっと掴まれた。私は瞼に力を込め、歯を喰いしばった。





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