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君は花のように・・・

ここでは、「君は花のように・・・」 に関する記事を紹介しています。


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君は花のように・・・





 続編のご要望が来ています。どういうわけか、男性×男性の方が人気があります。さやかの作品は夢任せなので、上手くあたりを引き当てないと、続編を書けません。一応交互に書いていたのですが、ここのところ男女の夢が多いのはなぜ?ま、深く考えずに、今回は男女のお話で・・・。初めて手がける三人称。どうなるかは、書いて見ないとわからないのはいつもの通りの話です。
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 詩織は、目の前にあるA3の写真集を見つめた。表紙は黒く、しゃれた斜体の白抜きの文字で真ん中にBondageと書かれている。ページをめくるとあまりにも月並みなパターンの白っぽくさえ見える金髪に凍るような青い目,そしてミルクのようにまっしろな肌の美しい女性が白いドレスを着て立っていた。手には真っ赤なバラの花を握っている。もう一枚ページをめくる。女性は手枷をはめてうつむいている。さっきのバラは足元に散らばっていた。白い素足が清楚な感じなのに手首の黒い枷はあまりにもまがまがしい。
 またページをめくる。詩織はどきっとした。女性は横向きになっている。ドレスの肩から胸にかけて引き裂かれ、すっきりとしたデコルテのラインがむき出しになっていた。布の影に胸のふくらみの端が見えている。いっそ扇情的ともいえるような写真なのに、女の表情はあくまで静かで瞳は遠くを見ている。
 だが、見つめる詩織の心は、もう、静かとは言えなかった。次々とページをめくっていくとだんだんと女性のドレスは引き裂かれ、明らかに暴力によって引き倒されたかのようにいたいたしいようすをしている。すでに足にも別の枷がかかり彼女のむき出しになった身体は、濡れたように光っていた。
 次のページをめくった時、詩織は息を飲まずに入られなかった。瀟洒な更紗模様の椅子に後ろ向きに拘束された女性は、すでに全裸で、長く流されていた金髪はくるくると巻かれてピンでひとつにまとめられている。後れ毛が光って細いうなじに落ちかかっていた。
 真っ白な背中にくねる腰。ふっくらと丸いふくらみを見せている尻。その尻を斜めに横切って赤い蚯蚓腫れが、くっきりと浮かび上がっている。女の足元には、編みこみの一本鞭が落ちていた。差し出された生贄は、苦痛にふるふると震えているかのようだった。
 詩織はその写真に釘付けになった。あまりにも禍々しくそれでいて、心をわしづかみにされたような衝撃に胸をつかまれて、詩織は大きく息を吸い込んだ。
その美しい西洋の生贄を撮ったカメラマンは、彼女の恋人なのだった。
 磯崎聡史は彼女よりもみっつ年上の三十一歳。カメラマンとしては、ようやく名前が知られ始めたばかりという状態だった。ニューヨークの写真を撮るために渡米して二年が経った。
 その間に一度だけ、彼女に会いに帰ってきた。彼女も一度だけニューヨークに会いに行った。向こうでそれなりに仕事を見つけた彼は、半年前に念願のニューヨークの街の風景の写真集を出した。その写真は、日本でもそれなりに話題になった。けっして楽ではないだろうが、フリーのカメラマンのスタートとしてはまあまあだったのではないか。
 もう一冊、企画があるから、その写真集を仕上げたら帰るという約束は、来週ようやく果たされる予定だった。そして、アパートを引き払うために、あれやこれやの身の回り持ち物とは別に、この写真集も出版前に特別に彼女宛に送られてきたのだった。
 聡史との付き合いは、もう8年になる。長い春。彼がニューヨークへ行ってしまった時には周囲の友達にも随分とあれこれ言われたけれど、お互いに早くに両親をなくしていた気楽さから、そのうちには…と思っているうちに、ここまで来てしまった。
 だが、こうやって送ってこられた二冊目の写真集は、あまりにも意外な内容で、詩織はすっかり動揺していた。その八年の長い春の間、彼がそんな物に興味を持っているという気配さえ見せたことがなかったので、詩織にとっては本当に不意打ちだったのだ。

 都心の小さなギャラリーの受付をしていた詩織は、そこで個展を開いた若いカメラマンのグループの中にいた聡史と出会った。
 まだまだ、学生のような身なりをした貧乏なカメラマンの助手。それが、彼だった。だから、二人の間にあったのは、本当に地味な付き合いだった。きざな台詞も特別なホテルでの夜もなく、だんだんと近づいて静かに恋に落ちた。その恋は深く彼女を捉えていたけれど、決して激しくも強くも無く、いつかやがてゴールへ行きつくことが出来るだろう…と、思わせる自然な流れで、お互いに納得していた。
「悪い。後、半年。待っていてくれないか」
 そう言って頭を下げられた時、その笑顔はいつもどおりだったし、詩織も何の不安も無く、半年たったら彼は自分の元へ戻ってくると思ってうなずいた。それが、二年になり、そして、この写真集だった。彼がこの写真を撮る。想像もつかないようなギャップに、詩織は眉を寄せた。美しく、恐ろしく、物悲しい。痛めつけられた女の身体。あらゆる格好に、あられもなく引き裂かれた身体。エロティックだけど、いやらしさや下劣さとは、まるで無関係な写真だった。しかし、これだけ対象に深く切り込むためには、ただ漠然とカメラを向ければいいというものではない事だけは、詩織にも分かっていた。
 この作品を生み出すためには、彼は、この女性と女性が構築する世界を、深く自分の中で醸成していっただろう。その事実は詩織を不安にさせた。足元から崩れ落ちていくような、確かなよりどころを失った不安。あの人は、変わってしまったの?
 それとも、私は、この八年間なにも見ていなかったのだろうか。脳裏をよこぎる屈託の無い笑顔。それでも、ひとたびカメラを構えれば、私など寄せ付けない世界を築き上げられる人。詩織は、唇を噛んで、窓の外を見やった。ぽつぽつと降り始めた雨が、窓ガラスに模様を作って流れていく。
「聡史…」
 あれほど待っていたはずの、恋人の帰宅は一週間後にせまっていた。



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「いつ日本に帰るんだい?」
 尾高晃は、がらんと片付いた部屋の床に座り込んでカメラを磨いている聡史に話しかけた。
「来週だ。お前は?」
「今週の金曜日だ。じゃあ、お前の方が遅いんだな。それなのに、何もかも売っぱらっちまって、これから一週間どうするんだ?」
「ああ、そうだな。誰かの家に転がり込むさ」
「のんきな奴」
「晃は、帰国してからの日本での仕事はもう決まっているのか」
「うん、何箇所かオファーが来ている。ただ、もともと、定職につけるような職種じゃないんだ。パトロンがいるのさ。渡米費用も彼が出している」
 尾高晃は、いわゆる縄師だった。SMで縄を使って女性を縛る事を生業としている。まだ、二十六歳の若さとはいえ、手早く綺麗な縛りをするという事と、今風のルックスの見栄えとで、ショーのお呼びは結構あるのだった。半年前に、本場のボンデージを知るために渡米してきて、ひょんなことから磯崎聡史の写真集の手伝いをすることになった。
 「Bondage」と、題された写真集の撮影で、ほとんどスタッフを入れないという独自の聡史の撮影方法でも、さすがに、たった一人で女性を責めながら写真を撮る事は不可能だった。それに、拘束具や鞭が女性の体に与える影響も考慮しなければならない。また、それ以上にただ美しい写真を撮るだけでなく、モデルの被虐美を写し取りたいという聡史の希望もあって、モデルを責めることで独特の表情をひきだすという技術的な部分で晃は大きく貢献したのだった。
「Bondage・2の撮影は、いつから始めるんだ?」
 まだ、発売もしていないのに、すでに相当の前評判があるという「Bondage」は、すでに二冊目の企画が進んでいるのだった。
「彼女が承知したらすぐ」
「聡史。本当に、恋人の詩織ちゃんにモデルになってくれるよう口説くつもりなのか」
「うん」
 晃は呆れたように溜息をついた。「Bondage」の撮影の最中も聡史は、ずっと憑かれたようにその話をしていた。だが、晃自身は、終盤、撮影がだんだんとエスカレートしてくると、素人のモデルを使っての撮影は不可能なのではないかと思えてきたのだ。
 第一にその詩織という女性は、SMについては何も知らないという。そんな女性にとって、この写真集を恋人の作品であるとして受け入れる事だって容易じゃないだろう。ましてや、自分がその世界に飛び込むなんて、考えてもいないに違いない。
 それに、ただ、SMをするだけじゃない。写真集として日本とアメリカで広く一般の人の目に触れる写真を撮るのだ。当然、モデルの経験の無い詩織にとってものすごい抵抗があるに違いなかった。プロのモデルであれば、また状況は違ってくる。仕事であれば服を脱ぐ事も、それが流通する事も本人も周囲も当然のことと認識している。たまたま、題材がSMであっても、仕事のひとつであれば、さほど耳目を集める事もあるまい。
「晃、手伝ってくれるだろう?今度こそ、お前がいないとどうにもならないんだ。緊縛がメインなんだからな」
「手伝うけど……。だけど、ちゃんと相手が納得して無いと嫌だぜ。恋愛を盾にして無理強いするなよな」
「お前はそう言うが……」
 聡史は、磨き上げたカメラをケースに仕舞いこみ始めた。
「俺は、もうすっかり、あの世界に足を突っ込んじまった。最初に撮影を始めた時は、必要からSMにのめりこまないと、と自分を煽っていたのに、途中からおかしくなっちまった。嵌っちまったんだよ」
 苦々しげに顔を歪める男は、髪を掻き揚げて立ち上がる。
「多分、俺はもう元には戻れない。だったら……」
 だったら、詩織を。
 別れるか、無理矢理でもSMの世界に引き込むか。悩ましそうに視線を彷徨わせる聡史。
 晃は、再び溜息をついた。そうだ、この男はすっかり染まってしまった。元から、そういう性癖があったのか、それともそうならなければあの写真は撮れなかったからなのか。そこは、晃には判断できないが、だが、墜ちていったからこそのあの写真なのだ……と、いうことだけは分かっていた。
 晃は、縄師としてSMの世界に身を置いてはいても、パフォーマンスを展開するために他人の身体を預かっているせいか、どこか醒めた部分を持ち続けながら行為に及んでいる。そして、冷静でいるからこそ、縛られる人間や、縛る人間の中に、本性のままにのめりこんでいくタイプの人間がいることもよく分かっていた。
 いつか自分もその壁を突き抜けないと、受け手の人間とひとつの世界を構築する事はできない。それは、晃にとっても課題のひとつだった。
 彼女が、承知しなければ、他の女性をモデルに選ぶ事になる。モデルとの世界に、とことんのめりこんでいく聡史だからこそ、恋人をモデルにと願ってしまうのだろう。だが、その写真が世間に出回るときに、惚れ込んだ相手の責め姿が他の男の目に触れることに、普通の男が耐えられるものなのだろうか。愛する相手を縛り上げる。もし、自分だったら……。
まだ、若く、人とそこまでの深い中になったことの無い晃は、この半年間、ずっと一緒に女を責めていた男が落ち込んでいる泥沼が、想像できなかったのだった。



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「お帰りなさい」
 空港のゲートに待っていた詩織は、白いレースのワンピースを着ていた。ゆるくカールを描いている栗色の髪がふわふわと波打つ。どんな言葉で彼女を説得しようかと飛行機の中であれこれとそればかりを思案していた聡史は、半年振りに会う恋人の思いもかけない微笑みの美しさに胸を打たれた。
 離れている間に、自分の中で美化していたり、勝手に貶めたりしていたはずなのに、実際に会ってみるとなんと彼女は魅力的なのだろう。なぜ、二年もの間離れていられたのか。聡史は、改めて自分の愚かさに気がつかされていた。後先も考えず手を伸ばすと、彼女を抱きしめた鼻先に懐かしい髪の香りが漂ってきて「ああ、日本に帰ってきたんだな」と、驚くほどの喜びが胸に込み上げて来た。
「聡史さん……」
 腕の中で顔を赤くした詩織が、人目を気にして居心地が悪そうにみじろぎした。ここは日本。人前での抱擁などしたことの無いという事実が、感慨に浸っていたはずの聡史の心を沸き立たせた。彼女を困らせたい。もっと、恥ずかしがらせたい。顎をつかんで、無理矢理上向かせる。驚いたような彼女の瞳に、すっぱくなるほど血を滾らせながら聡史は強く唇を押し付けていた。





 そのまま、空港近くのホテルへなだれこむ。一瞬でも待っていたくなかった。詩織は、息を切らせ、驚きながらも、聡史に腕を引かれるままに付いてきた。チエックインするホテルの入り口で赤くなってうつむいている彼女はかわいかった。「待って」と「シャワーを浴びさせて」の二つを交互に繰り返す彼女を、ベッドの上に押し倒して、そのまま強引に突っ走った。白いまろやかな身体に、自分の欲望を打ちつけながら、慌ただしく愛を囁く。考えられるのは、彼女を抱く事だけだった。
 あまりの激しさに波に飲み込まれて振り回された詩織は、事が終った後もシーツにくるまったまま呆然と天井を見上げていた。こんなに、激しく強引な人だっただろうか…。
「詩織、写真集見てくれた?」
 忘れたいと思っていた事実を突きつけられた詩織は、ビクッと震えて我に返った。横を見ると、聡史は肘をついて、うつぶせになったまま詩織の方を見ている。
「見たわ」
「どう思った?」
 詩織は、急に裸で彼と同じベッドの中にいることに気がついて、ぶるっと身震いした。セックスの後の汗ばんだ身体にカメラマンとしての彼の視線が注がれているような気がして、急いでシーツを持ち上げて咽喉もとまでしっかりと隠す。
「綺麗な女ね」
「それだけ?」
「……なんて、言ったらいいのか分からない」
 眉を寄せて困惑した様子で首を振る詩織を見つめて、聡史は何と言って切り出すか一瞬迷った。今でなくても……。しかし、後へ伸ばせば伸ばすほど自分は打ち明けられなくなるに違いない。だったら、今言うのが、ベストなはずだ。
「詩織。あの写真集。シリーズにすることになったんだ。二冊目は日本の女性を使って緊縛の写真を撮る。詩織にモデルになって欲しいんだ」
 飛行機の中であれこれ考えたくどき文句は、彼女を前にすると全部吹っ飛んでしまっていた。びっくりして口を開けたままの詩織の頬が一瞬白くなり、そして赤くなっていく。
 詩織。詩織。頼むよ。お前じゃなきゃダメなんだ。嫌なんだ。二冊目はもっと深く日本の女性のエロティシズムへ切り込んで行きたいんだ。そんな作業を他の女との間にさせないでくれ。早口で言い募る聡史の目の中に憑かれた様な狂気の色が横切る。「やっぱり」と、詩織は思っていた。「やっぱり」「やっぱり」他の言葉が思いつかない。
 あの金髪の美しいモデルとの間になにがあったのか、詩織はずっと考えないようにしてきていた。浮気したとは思っていない。でも、それ以上の時間がモデルとの間に構築されたはずだった。ひとつの世界を二人で分け合うような。肩に手をかけて引き寄せられて、抱きしめられてくちづけされて、何度も何度も耳元で囁かれる。
「詩織。詩織。淋しかったよ。ずっと、会いたかった」
 嘘つき。詩織は唇を噛んだ。写真を撮っている間、聡史がどうなるか知っていた。私の事なんか思い出しもしなかったくせに。
 だが、彼女がモデルを断われば、戻ってきた彼をもう一度手放す事になる。もちろん、それはいつもの事。仕事が始まれば振り返りもしない。そういう聡史を、詩織も好ましく思ってきたのだった。仕事にのめりこむ彼を。でも、今度の仕事は今までとは違う。詩織は指が白くなるほどに身体に引き寄せたシーツを握りしめた。


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 詩織が初めて尾高晃に引きあわされたのは、聡史が新しく借りたマンションの部屋だった。黒いシャツにジーパン。額にかかる髪の毛。渋谷の町で会う、ちょっと垢抜けたかっこいい男の子。晃はまさにそんな感じだった。モデルになることを悩んだ末に引き受けたものの、不安と羞恥と落ち着かなさが絶えず詩織を悩ませていた。詩織にとっては、早くに両親を亡くした事、口うるさい親戚も兄弟もいない事、去年仕事をやめて派遣社員になっているので、仕事を変わるのは未練が無い事だけが随一の救いだった。
「はじめまして。詩織ちゃんだったね。話はいつも聡史から聞かされていた」
「さ、二人とも座って。コーヒーを入れるから」
 聡史がキッチンに消えると、晃はソファにもたれて足を組むとおもむろに質問してきた。
「本当に、モデルを引き受けるの?」
 詩織はぎくっとした。まだ、悩んでいる事を見透かされたと思ったのだ。不安そうにうなずくしかなくて、詩織はちょっとおろおろとした。
「じゃあ、質問させてくれないかな」
 ちょっと、目を細めて身体を上からしたまでじろじろと見られて詩織はますます居心地が悪くなり、椅子の中へ縮こまった。
「SM、したことないんでしょう?」
「はい……」
「聡史とはいつから付き合っているの?」
 思いもかけないことを聞かれて、詩織はちょっとびっくりした。
「で、その時処女だった?」
 いきなり、Deepな質問になって、詩織はうろたえた。なぜ、そんなことを聞いてくるのだろう?だが、相手はじっと返事を待っていた。詩織は赤くなって首を横に振った。
「その前に何人いたの?」
「どうして、そんなこと聞くんですか?」
 詩織はちょっと、腹立たしく思って、つい尖った声を出した。写真のモデルをするのに必要の無いような質問じゃないかと思った。
「知っておきたいんだ。君がどれくらい、経験があって成熟しているのか。それによって、ペースとか決めて行きたいし……。経験の無い女性に、無理をさせたくないからね」
 詩織は、うつむいて、ちょっとためらった。言っている事は、まともそうなのだが、本当にそんな事が必要なのか検討もつかない。聡史が湯気の立つカップをみっつ盆の上に乗せて現れる。
「晃。お手柔らかに頼むよ。彼女は俺と付き合いだした8年前は、処女じゃないのが嘘みたいに、何にも知らない清純なお嬢さんだったんだ。俺と付き合って8年たってもあんまり変わらない……と、思う。そんな質問。平気にぺらぺらと答えられるようなタイプじゃないんだ」
「だけど、重要な事だ。ちゃんと知っておきたい」
 聡史からブラックのカップを受け取ると、改めて晃は、詩織に向き直った。
「晃がいない2年間、他の人と付き合ったことある?」
 聡史は、困惑して額を抑えた。そんなこと俺の前で聞くかよ……。
「詩織。俺は平気だから答えて」
「そんなことしていません」
「って、事は、この2年間。彼女は空き家だったんだな」
「そうだ」
「オナニーしてた?」
「いやっ……」
 詩織は真っ赤になって両手で顔を抑えていやいやしている。こんな質問を恋人の前で第三者にされて平気なはずは無かった。
「ね、正直に言って。こいつが邪魔ならあっちに行ってもらうから。……ほら、聡史、席を外せよ」
「いや、それは……」
「いいから。過保護な奴だなぁ。あっち行ってろってば」
 聡史はちょっと困ったような顔をして、立ち上がると、そっと詩織の肩に手を載せてから、寝室へ入っていった。
「ね、詩織ちゃん。俺、正直に言わせてもらうよ。写真集を撮っている間、俺も聡史も普通の状態じゃなくなる。君をぎりぎりまで追い込んで、恥ずかしくて、苦しくて、痛くて、辛い。そんな、どうしようもなく酷い事をすることになる。そうじゃなきゃ、聡史の望んでいる写真なんか撮れない。だから、こんな露骨な事も聞かなきゃいけないし、それに耐えられないなら今のうちにやめてしまったほうがいいんだ」
 静かな声で、きっぱりと言われてしまうと、そのとおりなのだった。詩織は、そっと手を下ろして、晃の顔を見た。心配そうな誠実な顔……。もう、覚悟を決めるしかない。
「していました三日に一度ぐらい……」
 口にすると、いたたまれないほどの恥ずかしさが込み上げてきて、赤くならずにはいられない。
「聡史とセックスするとちゃんと感じる?」
 詩織は、ますます小さくなって、かすかにうなずく。
「毎回?それとも時々?いつから感じるようになったの?前の男の時から?」
 詩織はかぶりを振った。
「以前の人のときはちっとも。ダメだったの。回数も多くなかったし。最初は18の時で、その人とは二回だけ……。次の人とは半年付き合ったけど月に一回くらいだったし……。聡史と付き合い始めても、最初は、あんまり……。多分4年くらいたってからようやく……。それも、いつもじゃないの。今でも、時々うまくいかなくって」
 途切れ途切れ、小さな声で必死に言葉をつむいでいく少女のような女性の赤い頬を、晃はじっと見つめた。
「わかった。ごめん。言いにくいことをありがとう」
 晃は、ちょっとためらってから次の質問を口に出した。
「SMしたいとか思ったことある?」
 詩織は、首をすくめてぶんぶんと激しく横に振った。晃は、内心溜息をついていた。この女性は、なんて男の嗜虐心を刺激するんだろう。彼女を前にしたら、どんな聖人でもむらむらと後先を考えられなくなるんじゃないだろうか。聡史は何で彼女を2年もほったらかしていられたのか。その間、彼女が一人で待っていられたこと事態、奇跡のように思えた。



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 最初の撮影は、晃の知り合いの人の家で始められた。最初にその家の前に車をつけたとき、詩織はびっくりした。どこまでも塀が続いていて、いったいどこから入るのか見当もつかないような大きな家だった。車寄せにいったん車を停めて、案内を請うと、大きな門扉を開いて、車を中に入れてもらえた。撮影は庭の奥まった離れで行われるという。機材を運び込む間、庭でも見ていたらと言われて、詩織は落ち着かない気持ちをなだめながら、庭石を踏んで行った
 詩織は、今日は着物を着ている。一冊目の「Bondage」と、対比を出すために和風の建物に着物の女というコンセプトで撮影は始められることになっていた。ところが、二人とも着物にはあまり詳しくなかったのだろう。なにか二十代の女性がちょっとした外出に着る着物を着て来るように言われて、詩織も困惑してしまった。
 彼女自身何枚も着物を持っている訳でも、詳しいわけでもなかった。しかたなく、箪笥の中から彼女が選んだのは、灰色の地に扇が散らしてある型友禅の着物だった。あわせてある帯は紅柄色の織の名古屋帯で七宝の柄が織り出してあった。クリーム色の帯揚げに牡丹色の帯締め、黒いエナメルの草履には山吹色の鼻緒が付いている。着物の下は綸子の襦袢と、腰巻だけ。脱がされる事を前提の着付けなので、最低限の紐しか使っていないため、着慣れない彼女は落ち着かなかった。
 胃の辺りに、蝶がいて、ぱたぱたと羽ばたいているような不思議な感覚が絶えずつきまとい、時折強く痛みが差し込んでくる。いくら、平気だと自分に言い聞かせても、平気じゃないのが分かっているのだった。
 昨日、聡史が詩織を抱こうとした時、詩織は激しく拒絶してしまった。明日男二人の前で服を脱ぐというのに、その前の日に抱かれるなんて、詩織には考えられなかったのだ。詩織にとっては、聡史は初めての男も同然だった。だが、お互いにそれほど奔放なセックスをしてきたわけではない。
 詩織は、明るいのが苦手で、いつもオレンジ色の小さな灯りしかつけたがらなかった。だから、明るい光の中で彼に身体を見せるのさえ初めてといっても良かった。それなのに、今日、会うのが二回目の男がそれに立会い、しかも詩織を縄で縛るためにいるのだった。
 縛られる。SMの写真を撮る。そんなこと詩織には想像もつかなかった。何が起こるのか。自分がどうなっていくのか。
「恥ずかしくて、苦しくて、痛くて、辛い」晃の言葉が蘇ってくる。「どうしようもなく酷い事」を彼女にして、「ぎりぎりまで追い込む」と言い放った男。
 溜息を付いて池の端にしゃがみこんだ。足に力が入らない。なんだか、ふわふわと足元が頼りなくって、立っているのも危なっかしいような気持ちだった。
「詩織。おいで」
 顔を上げると、同じ様に緊張した様子でこわばった顔の聡史が立っていた。この人も、平気じゃないんだ。二冊目の写真集。そう、観ているだけで身体が火照ってくるほど恥ずかしい写真でありながら、決していやらしいばかりではなかった。哀しくて、エロティックで、どこか胸の深いところに語りかけてくるなにか。
 詩織がモデルになるのを承知したのは、そのなにかを作り出そうとして苦しんでいる恋人のためなのだった。大きく息を吸い込むと詩織は立ち上がった。手を差し伸べてくる聡史のそばへ駆け寄る。耐えられる。きっと。彼のためなら。







「詩織ちゃん。セーフワードを決めておきたいんだ」
 開け放たれた障子の前に道具を並べている晃は、すでに仕事中の顔になっていた。
「おい。あんまり詩織をおどかしてくれるなよ。セーフワードが必要なほど酷い事、最初はしないだろう?」
「だめだ。彼女にとってどれが酷い事なのか俺には分からないからな。人によっては、縄を手首にかけられるだけでも耐えられない事だってあるんだ」
「セーフワードって……なあに?」
「君を縛って、責め始めたら、もう君がどんな反応をしてもしなくても、僕達はやめたりしない。正直、君が嫌がる事も、恥ずかしくて抵抗したくなるような事もするし、責めが進んでいけば痛かったり辛かったりして、じっと耐えてなんかいられなくなる事もある。嫌だって言う事が、相乗効果になって行くから、ずっと嫌、嫌、言う女性もいるし……。もちろん身体に危険な事は僕が見極めてさせないけど、それはほんとに身体の限界の手前だ。君にとっての気持ちの限界じゃない。だから、万が一ほんとに耐えられなくなった時っていうのを僕達にわからせる言葉をセーフワードって言って、前もって決めておくんだ」
「……どんな言葉にするの?」
「お許しください、とか……助けてください、とか……」
 詩織の背中をおびえがぞっと走りぬけた。自分が今からしようとしている事が、ようやく分かってきたような、そんな恐怖。青ざめた、詩織の手を聡史がぎゅっと握った。頼む。口に出さない聡史の想いがその視線に溢れ出ていた。詩織はもううなずくしかないのだ。
「お許しください。で、いい?」
 うなずく詩織の引きつった頬に晃の手が伸ばされる。
「大丈夫。怖いことはしないから」
 にっこりと微笑んだ晃の頬は、すでに獲物を前にした悪魔のように美しかった。ぴったりと後ろに寄り添う聡史の方を振り仰ぐとその悪魔に生贄を差し出そうとしている恋人が、彼女が逃げ出すのを防ぐかのように背中から腕をしっかりとつかんで押し出してきた。
「じゃあ、始めよう」
 聡史がスタンバイさせたカメラとレンズを隣の部屋に並べる。助手を入れないので、全部自分でしないといけない。部屋の中にはいくつものパラソルをつけたプロフラッシュのライトスタンドと光を跳ね返すボードが写真に写りこまないように出来るだけ下げて配置されていた。
 縁側の近く自然光でも明るい場所へ詩織は押し出された。ただ、立っている所を何枚も撮られる。なぜか、それだけでも恥ずかしくて、詩織は胸元を手で押さえた。その手を晃がつかむと後ろへ捻りあげる。
「あ……」
 不意をつかれて詩織は驚いた。両手を後手に重ねられる。その手を左手で握りこんだままで右手は縄の束をひとつ取り、縄先をつかんで振るようにすると、綺麗に巻かれていた縄が、ぱあっとほどけて床の上に広がった。晃の手が動くとその縄はのたくる美しい蛇のように音を立てて床を這いずってくる。詩織の身体をめがけて……。床を打つように縄が踊る……シュッ……シュッ……。
 重ねられた腕に縄をくるくるとかけられた。結び目が作られ二の腕の上を通って胸へ廻される。ギュッ……シュゥ……。手首のところでしっかりと止めつけられ、それからも一度。さっきの縄にぴったりと揃う様に縄目を整えながらくるりと廻してもう一度手首のところで引き絞られると、もう詩織は両手の自由を失っていた。



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 晃は、一度詩織の側を離れた。
辺りには、聡史の切るシャッターの音と詩織の呼吸する音だけが聞こえている。いや、もう一つ。縄が鳴る音がしている。胸を締め付けられてうまく息が吸えない詩織が、必死に息を吸い込むために胸をふくらませ、その度に縄が擦れあって、きゅうきゅうと音を立てているのだった。
 ただ、立っているだけでふらふらしてきた詩織の様子を見て、晃はその腰を支え、肩にそっと手を乗せてその場にしゃがむように誘導する。横座りに座り込み俯むいている詩織は、かすかに震えていた。
 聡史が一本目のフィルムを入れ替えてカメラを構え直すのを待ってから、晃は手を伸ばし、裾をだんだんと乱して行く。思わず詩織は尻でにじるようにして後じさってしまう。 
 晃の手がむき出しになった脛にかかると、詩織は、くすぐったさとないまぜになった表現の出来ない感覚襲われたのだろう。ぶるっと身震いをするとさっと顔を背けた。その頬はすっかり赤く染まり額には汗がうっすらと滲んでいる。
 晃はそのむき出しの脛を掴むと、いきなり引きずり寄せた。バランスを崩した詩織が、畳の上にひっくり返る。両腕がつかえないので思わずバランスを取ろうと足を蹴り出してしまい、よけいに裾を乱してしまった。
「あ……」
 首筋まで赤くなった詩織は起き上がろうともがくが、足首を掴んだ晃はそれを許さなかった。強引にぐいっと足を引き寄せると、横になった詩織は床をなすすべもなく引きずられるしかない。必死に背を逸らし、身を捻ろうとするが、足をばたつかせ、裾がめくり上がるばかりだった。
「いや……」
 晃は、さんざん、詩織を藻掻かせておいてから、詩織との距離をひょいっと縮めると片方の足首にくるくると縄を巻き付けた。しっかりと止め付けたと思うと、立ち上がって欄間の隙間に縄を投げ上げぐいっと引き絞った。詩織の足は、あっという間に空に吊り上げられた。
 初めて味わう縄の喰い込みに、詩織の顔が歪む。すでに乱れていた着物の裾は詩織の足が引き上げられるとともにするすると肌を伝い、もう、太股のあたりまで滑り落ちている。詩織は激しい羞恥に貫かれてやみくもに足をとじ合わせようとした。
 くくられた両手の拳が白くなっている。しっかりと膝を閉じると、吊られた足首に体重がかかる。腰が上がるほどには吊り上げてはいないが、それでも、片足だけを吊られるのは痛みがあるはずだった。
 詩織はしっかりと目を瞑り肩で息をしている。胸にかかった縄が、彼女の息を喘がせる度に、きゅう、きゅうと鳴る。晃は、幾重にも足首にかかった縄が血行を完全に止めてしまっていないのを確認してから、膝の下辺りにに別の縄をもう一本かけて、体重を分散させた。それから、ゆっくりとまた後ろに下がった。
 入れ替わりにカメラを構えた聡史が前に出た。晃は、一番後ろの柱に寄りかかって腰を下ろした。そこからでも、ライトの当たっている詩織の表情ははっきりと読みとれた。すでに額にびっしりと汗が浮かんでいる。寄せられた眉が詩織の苦痛を表していた。聡史がフィルムをかえる僅かな時間に、晃は、右手を伸ばしてさらに裾をめくりあげる。
「い、いやっ!」
 反射的に詩織が腰をひねる。だが、それは、身体を隠すのに何の役にも立たず、ただ、吊られた足首を痛めつけるだけだったろう。詩織の身体が苦痛から逃れようとして、微妙に少しずつ位置を変えて行くが、どうやっても楽にはならなかった。
 足が震えはじめる。だんだんと詩織も理解し始めているのだ。その苦痛から逃れるには、しっかりととじ合わせた足を開いて、くくられていない方の足を床に付き身体を支えることしか術が無いという事に。
 心はどんなに抵抗していても、身体はいつまでも耐えられはしない。苦痛は歯を食いしばって凌いでも、体力はどんどんとそぎ落とされていく。詩織の足は、気を許すと膝が離れ始め、はっと気が付いて一時は持ち上げてもやがてはゆっくりと下がってくるしかなかった。
「あ……」
 嫌々、と首を振り、滲む涙を振りこぼしながら、詩織はやがて、降参した。足はぱっくりと開き、晃の手で乱された裾は床に落ちた足とともにすっかりとめくり上がって、下腹の淡い茂みさえも覗いてしまっていた。その様はまるで月の光に誘われて開く花のように咲き、隠微に匂い立っていた。


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 聡史の合図で、晃は立ち上がって行くと、足の縄から手早く解いた。ぐったりとしている詩織の裾を直してやってから、身体を抱き起こし、足で支えながら上半身の縄をほどく。
「詩織ちゃん掌を握ったり開いたりして?」
 詩織は、何も考えていないかのようにぼんやりとしていたが、不思議そうに晃の顔を見てから、素直に何度も拳を作って見せた。
「痺れてない?」
 こっくりとうなずく詩織を確かめると、晃は聡史を呼んで、詩織を引き渡した。
「ちょっと、席外す。三十分位したら戻ってくるから、続けるかどうかよく彼女の話を聴いてくれ」
 晃は、手早く縄をまとめると、障子を閉めて出て行った。
「大丈夫?」
 二人きりになって、感情を抑えきれなくなった詩織は半泣きで聡史の胸にもぐりこんだ。
「恥ずかしい……」
「分かっている。すまない」
 聡史は、詩織の背中を静かに撫でてやりながら、なんと言えばいいのか必死に考えをめぐらしていた。晃の気配りはありがたかったが、もうやめる気は無い。縄をかけられて、詩織が床にひっくり返った瞬間、わしづかみにされるような加虐への欲求に突き動かされていた。
 以前の撮影の時にはここまで強くなかった欲望が聡史を捉えていた。やりたいことが次々と頭を横切り、捉えたい映像が泉のように湧き出てくる。とことんまで彼女を追い詰めて、頭の中で思い描いている彼女の表情を引き出して行きたい。
 背中を撫でていた手を、腕へと滑らせて行きながら、どうやって彼女に承知させるかそのことばかりを考えている自分の浅ましさをどうしようもなかった。俺は、優しいばかりの男じゃない……。
 ぐいっと彼女を抱きしめると、その気持ちをぶつけるかのように激しく唇を奪った。逆らわせはしない。詩織。お前を絶対に手放しはしない……。詩織は、自分に羞恥と混乱を与えたその相手以外にすがりつくものが無いかのようにしがみついてきた。
「聡史、続けられそう?」
「ああ……」
「詩織ちゃん?」
 一言も言葉を交わさなかったのに、続ける気の聡史を前にして、詩織はただ黙ってうなずくしかなかった。激しいキスのためにぷっくりと腫れた唇を見つめて、晃は溜息を付く……。
「俺、次は止められそうにないぞ」
 ビクッと、詩織の肩が揺れた。聡史は、喉につかえる塊を無理矢理に飲み込むと、俺はもうとっくにさ……と自嘲の笑いを浮かべて見せた。
 晃は、詩織を縁側の中央の柱に背中を向けて座らせた。聡史は、もうカメラをスタンバイさせている。前縛りに手首を縛るとぐいっとその手を頭上に引き上げて柱にくくりつけ始めた。着物の袖が滑り落ちて二の腕が露になる。
 なぜなの?詩織は自分に向かって問いかけていた。腕を見せるなんてなんでもないことなのに……。ノースリーブの服で外を歩いたって、なんとも無いのに……。着物を着ていると、腕を真上に引き伸ばされただけで、鋭い羞恥が身体を駆け抜けていくのだ。しっかりと留めつけられた腕は、もういくら引いても自分の自由にはならなかった。
 晃は、柱の後ろへ移動するとむき出しになった腕に沿って指先でそっとなで擦り始めた。ぞくぞくするようなくすぐったさが詩織の身体中を駆け巡った。晃は、まったく急がない。念入りに彼女の手首から肘の内側そして柔らかな二の腕の内側へ向けて、その掌を何度も何度も彷徨わせる。詩織の体はどんどん敏感になっていき、さっきは平気だったはずの愛撫が、もうたまらないほどくすぐったくなってしまい、身を捩じらせた。
「くすぐったがりやなんだね」
 そうやって、口に出して言われる事で一層耐え難くなる刺激に詩織は身悶える。
「もっと、くすぐってあげるからね」
 何をされるのか気が付いた詩織は、必死に腕を縮めようとしたがどうにもならなかった。晃の手は、身八つ口の辺りを焦らすように彷徨っている。
「いや。お願い。しないで。……お願い。お願い……」
 さんざん詩織に懇願させておいて、晃は無情にも脇の下へ手をもぐりこませてくる。
「くすぐるよ」
「いや……」
「嫌がってもダメだよ。逃げられない」
「いや。いや。お願い」
「くすぐられるところ、聡史に見せるんだ」
「ああ……。だめ」
 そっと当てられた掌がたくみに脇の下を撫で上げる。ぐんっと背中をそらして詩織は、身体を突っ張らせる。自由にならない身体をくすぐられる事がこんなに辛いものだなんて、詩織は想像もしていなかった。歯を喰いしばり。何とか気持ちをそらそうとするが、どうしようもなかった。くすぐりは強く、弱く、やさしく、はげしく、波を伴って続く。いつまでもいつまでも。
「ああああ……いや。ゆるして。我慢できない。やめて」
 ばたばたともがきのけぞり、悶えてみても、何の役にも立たなかった。続けさまにシャッター音が響く。詩織にとっては、恐ろしく長い時間、そのいたぶりが続いたような気がした。
 激しく息を喘がせて、裾もすっかりと乱してしまった詩織が、何とかその息を整えるのを待って、次に晃は、帯の上に手をかけて力を込めて帯を前に向かって押し下げるようにした。それから、襟の合わせにかけて無造作に胸元を広げ始める。強い力で襟を引き、続いて襦袢の襟もくつろげる。シャッターの音が鳴り響き、着物を乱されていく様を聡史に正面から見つめられている事に気が付いた。
「ああ……」
 顎を突き上げていやいやと首をふる…。次々と続くいたぶりに、詩織は神経を根こそぎ揺さぶられそぎ落とされていくような気がしていた。晃の手が、ゆるんだ合わせ目からもぐりこんできて、乳房をつかみ出す。
「ひいっ……」
 強い力で無理矢理に胸を露わにされて行く。覗いた乳房のふくらみを晃の手が優しく撫で回し始める。詩織はその巧みな手の動きに総毛だった。さんざんくすぐられた詩織は、どこもかしこも敏感になっていて、ちょっと触られただけでむき出しの神経を撫で上げられるようだった。
 悪魔の手から逃れようと腰をもち上げて、上に向かってずり上がる。だが、縄に止められた手首が、それをさせなかった。乳首が立ってくるのが自分でも分かる。レンズのズームが動く音がして、詩織は足を突っ張って後ろへ下がろうとした。だが、柱に身体を押し付けただけで何の役にも立たない。しかも彼女の乳房をつかみ撫で回している男は、その柱の後ろにいるのだった。
「い、いやっ……」
 聡史がフィルムを代えるために立ち上がる気配がしたが、晃はその乳房への玩弄の手を休めなかった。ことさらゆっくりとやわやわと撫で回し、乳房を絞り上げ、乳首を抓み捻りあげる。ぞくぞくするような快感と痛みが交互に詩織を襲った。
「どう?詩織ちゃん?恋人の目の前で他の男に胸をいたぶられる気分は?」
「いや、言わないで……」
「感じているでしょ。乳房が張り詰めて来ている。乳首もこんなになってるし……」
 詩織は再びじっとりと沸いてくる冷や汗にまみれながらも、首を激しく振るしかなかった。聡史が正面に位置取りをするのを見計らって、晃は彼女の裾から除く足首を握った。
 稲妻のようにさっきの記憶が蘇った詩織は、必死になって抵抗した。だが、がっちりと押さえられた足首は、彼の手を振りほどく事もできない。晃はくすくす笑いながら位置を変え、前に移動してくる。そしてつかんだ足首を彼女の胸に強く押し付けるようにしてのしかかってきた。膝が身体に押し付けられる。詩織の油断だった。身体を開かれる事にばかり気をとられて今の姿勢が、次に何を招くのか想像もしていなかった。
 足首を握っていた晃の左手とは反対の手が、裾を割って潜り込んでくると彼女の膝頭の内側からぐいっと外側へ向けて圧力をかけてきた。あっと思ったときはすでに遅く、彼女は膝をしっかりと割り拡げられていた。いつのまにか晃の手にあった縄が膝の上にくるくると巻きつけられると、縄は手首を止めつけた場所に向かって引き上げられていた。
「いやああああっ!」




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