★新館・旧館・別館の構成★
1.新館、通常更新のブログ
2.別館、女性向けSMあまあまロマンス
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性的、暴力的な表現を含んでいます。
虚構と現実の区別のつかない方
18歳未満の方はご遠慮くださいませ。
自己責任に於いて閲覧していただきますようお願いします。
妖艶なる吸血の柏木さんから「ぶんどった」好きな人バトン♪
本宅では自分で答えたけど、別宅ではちょっと趣向を変えて。
さあ、質問に答えてるのは誰でしょう?次の作品は、彼女の好きな人が語り手になる予定なんです。一番お気に入りのキャラなんだけど、語り手が代わるとなかなか難しくって・・・ちょっと難産で、うんうん、うなっています。ただ、エッチなシーンが全然浮かば無いんだよねぇ。ま、来週こそは書き始めたいなぁ。
1.好きな人いる?
いきなり、ぶしつけな人ね。もちろんいますとも。
2.へえ どんなひと?
頭の中にコンピューターを持っているの。すごい記憶力でポーカーフェイス。部下としては最高よ。強情っぱりで、我慢強い所も私にぴったりだし。
3.ふーん
ほんとに失礼な人ね。
4.実はおいらもその人好きなんだ!
うそ!うそ、うそ、うそ、うそ!絶対うそ!
5.ライバルだね
そんな事ありえないわ。残念でした。
6.負けないよ!
言ってれば。
7.おいらとあの子が付き合っても恨まないでよ?
彼の趣味ってそんなに悪くないもの。それに、余所見なんか出来る男じゃないし。
嘘つき( -o-)/☆ビシ! ~(#ToT)アウ!
8.あひゃ
あら、痛かった?
9.両想いになりたい?
別に。ものすごく愛されてるし。不自由はないわよ。
10.ですよね
ちゃんと小説読んだんでしょうね。
11.めーるしてる?
毎日後ろに張り付いてるのにメールの必要があって?
12.内容教えてよw
人の話、聞いてないわね・・・。
13.え・・・
頭の悪い男は嫌いなの。
14.まあいいや
よくないわよ。
15.どれくらい好き?
まあ、そこそこよ。
16.あの子との思い出教えて
初めて会った時にすでに取引先の全ファイルが頭に入ってたことかな。
17.両想いになれたらどーする?
すでに両想いだもの。
18.ちゅうしたい?
彼、キスは上手よ。
19.おいらとちゅうしない?
絶対に嫌。
20.やっぱやめよw
あなたに選ぶ権利は無いわ。
21.もうそろそろ質問終わりにしようか
そうね、早く引き取ってちょうだいな。
22.中途半端だね
(やっぱり聞いてないわね。
23.他に何聞かれたい?
こっちがあなたの悲鳴を聞きたいんだけど。
24.そだ!好きな子の名前教えといて
かずき
25.おーねーがーいー
え?苛めて欲しいの?
26.そっか
ちゃんと正座してお願いしなさいな。
27.好きな子への想いをどうぞ
話、逸らしたわね。もう、遅いわよ。
( ^^)/~~~~~~~~~ν ピシッ!
28.おおお
なかなかいい声ね。
29.君なら両想いになれるさ
うろたえないで、針もあるのよ。
30.頑張ってね
鞭と違って私が頑張らなくともうんと痛いのよ。これ。
31.影ながら応援してるよ
いいわ。とりあえずそこのベッドの上へどうぞ。
32.おいらも頑張るね
そうそう。あなたの方はそうとう頑張らないと耐えられないわよ。
33.あきらめるなんてことすんなよ?
大丈夫。縛っておけば逃げられないし。隅々までいたぶれるわ。
34.強気だ
Sだからね。
35.よし
ふふふふふふ・・・・。
36.そろそろ終わりにしようかw
だめよ。泣くまでやるんだから。
37.またね
もう、遅いわね。
38.幸せにな
あなたの悲鳴が私をいい気分にしてくれるわ。
39.うえい
痛い?
次に回す人
他の人にもされたいの?一緒に館に行く?
もちろんあなたにはこれが誰だか分かってますよね♪
本宅では自分で答えたけど、別宅ではちょっと趣向を変えて。
さあ、質問に答えてるのは誰でしょう?次の作品は、彼女の好きな人が語り手になる予定なんです。一番お気に入りのキャラなんだけど、語り手が代わるとなかなか難しくって・・・ちょっと難産で、うんうん、うなっています。ただ、エッチなシーンが全然浮かば無いんだよねぇ。ま、来週こそは書き始めたいなぁ。
1.好きな人いる?
いきなり、ぶしつけな人ね。もちろんいますとも。
2.へえ どんなひと?
頭の中にコンピューターを持っているの。すごい記憶力でポーカーフェイス。部下としては最高よ。強情っぱりで、我慢強い所も私にぴったりだし。
3.ふーん
ほんとに失礼な人ね。
4.実はおいらもその人好きなんだ!
うそ!うそ、うそ、うそ、うそ!絶対うそ!
5.ライバルだね
そんな事ありえないわ。残念でした。
6.負けないよ!
言ってれば。
7.おいらとあの子が付き合っても恨まないでよ?
彼の趣味ってそんなに悪くないもの。それに、余所見なんか出来る男じゃないし。
嘘つき( -o-)/☆ビシ! ~(#ToT)アウ!
8.あひゃ
あら、痛かった?
9.両想いになりたい?
別に。ものすごく愛されてるし。不自由はないわよ。
10.ですよね
ちゃんと小説読んだんでしょうね。
11.めーるしてる?
毎日後ろに張り付いてるのにメールの必要があって?
12.内容教えてよw
人の話、聞いてないわね・・・。
13.え・・・
頭の悪い男は嫌いなの。
14.まあいいや
よくないわよ。
15.どれくらい好き?
まあ、そこそこよ。
16.あの子との思い出教えて
初めて会った時にすでに取引先の全ファイルが頭に入ってたことかな。
17.両想いになれたらどーする?
すでに両想いだもの。
18.ちゅうしたい?
彼、キスは上手よ。
19.おいらとちゅうしない?
絶対に嫌。
20.やっぱやめよw
あなたに選ぶ権利は無いわ。
21.もうそろそろ質問終わりにしようか
そうね、早く引き取ってちょうだいな。
22.中途半端だね
(やっぱり聞いてないわね。
23.他に何聞かれたい?
こっちがあなたの悲鳴を聞きたいんだけど。
24.そだ!好きな子の名前教えといて
かずき
25.おーねーがーいー
え?苛めて欲しいの?
26.そっか
ちゃんと正座してお願いしなさいな。
27.好きな子への想いをどうぞ
話、逸らしたわね。もう、遅いわよ。
( ^^)/~~~~~~~~~ν ピシッ!
28.おおお
なかなかいい声ね。
29.君なら両想いになれるさ
うろたえないで、針もあるのよ。
30.頑張ってね
鞭と違って私が頑張らなくともうんと痛いのよ。これ。
31.影ながら応援してるよ
いいわ。とりあえずそこのベッドの上へどうぞ。
32.おいらも頑張るね
そうそう。あなたの方はそうとう頑張らないと耐えられないわよ。
33.あきらめるなんてことすんなよ?
大丈夫。縛っておけば逃げられないし。隅々までいたぶれるわ。
34.強気だ
Sだからね。
35.よし
ふふふふふふ・・・・。
36.そろそろ終わりにしようかw
だめよ。泣くまでやるんだから。
37.またね
もう、遅いわね。
38.幸せにな
あなたの悲鳴が私をいい気分にしてくれるわ。
39.うえい
痛い?
次に回す人
他の人にもされたいの?一緒に館に行く?
もちろんあなたにはこれが誰だか分かってますよね♪

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エッチなシーンがないからというので、避けてきた瑞季がゆきとひとつになるときの物語が明け方の夢に訪れてきました。はっきり言ってあまりの暗さにさやかは落ち込みがひどくなっちゃった。こんな夢見たくなかった!これを、忘れるには、急いで二人をひとつにして、東野を幸せにするしかない。と、言う訳であれこれひねくり回してはみたものの・・・SMのない話ってどうやって書いたらいいんだろ。しかも東野の語りだと・・・|||(-_-;)|||暗い。
(ё_ё)キャハキャハ がんばれ東野 君の幸せは遠いぞ。

ずっとあなたが好きでした・2
(ё_ё)キャハキャハ がんばれ東野 君の幸せは遠いぞ。

ずっとあなたが好きでした・2
くすくすくすくすくすくすくすくすくすくす……。この女性は瑞季とタイプが違うんだな。そう、思った。高月瑞季は、33歳。僕の勤めている会社の代表取締役だ。全員で五人しかいない小さな会社だけど、不肖28歳、東野和希である僕は、彼女の直属の秘書だった。
今夜泊まる予定のホテルのロビーで、彼女の知り合いに偶然に会って、紹介されて、何気ない会話を交わしている間、声に出していないのにずっと笑われているような気がする。それも、たちの悪いくすくす笑い。居心地が悪くて、つい椅子の上で何度も座り直してしまう。この彼女がS女性な事は分かっていた。ホテルのロビーで偶然会って、瑞季はちょっと困ったような顔をしていたから。多分、館での知り合いなのだろう。
館の外では決して中での出来事をほのめかしても、知っている様子を見せてもいけないことになっているものの、瑞季ぐらいの年代の女性のメンバーは少ないし、おそらくは、外での公式な付き合いでも顔を合わせる機会があるのかもしれなかった。そうやって、何度も出会っているうちにプライベートで言葉を交わすようになれば、完全にお互いの事を知らない振りをするのは難しい。
黒いレースのタイトなワンピースに光沢のある絹のストッキング。尖ったピンヒールのハイヒール。細い首を飾る、ダイヤを繋いだネックレスは、彼女が裕福な立場にあることを伺わせた。
「考えてもみなかったわ。瑞季が外で恋人を作るなんて」
「どうして?」
「だって…」
意味ありげに言葉を切ると、彼女はちらりと僕の方へ視線を流して来た。
「館でしつけを受けた男たちと違って、外で知り合った男たちって、どこかしら自己中心的で保身に神経質で覚悟が足りないと思うのよ。SMを恋愛だと勘違いしているし、相手に仕えることよりも自分の快楽を追うことだけに夢中になってしまわなくって?」
この指摘は痛かった。僕自身は、決してSMをしたくてこの関係を選んだ訳ではない。むしろ、瑞季に恋をして、その恋ゆえに彼女の性癖を受け入れている立場なのだ。瑞季に恋をしなければ、SMをしてみたいと思うことはなかったかもしれない。
いや、瑞季のことを好きになった後も、ずっとその事で悩んでいた。自分がそれを受け入れるほど彼女を好きなのか、いつも、いつも、自問する日々。瑞季が自分の事をただの秘書としか見ていないのが分かっていて、それでいて、彼女の相手を務める男たちになりかわる覚悟があるのか…と。そんなことを自分に問いかけるのは、非効率で無駄な事だと理解していながら、その事を考えるのをやめられなかった。
「そういう男って、ご主人様の命令なのに条件付けをして従えなかったり、相手を喜ばせる事だけが大切なんだって忘れて、自分の感情だけに拘ったりして、興ざめな所があると思うのだけど」
「そう?」
瑞季の答えがあまりにも簡潔で、ほとんど表情が無くなっていることに気がついた。明らかに気分を害しているに違いない。それは、無遠慮な話題を口に乗せる相手の女性になのか、あまりにも的を付いた指摘になのか、覚悟の足りない僕になのか…。彼女の硬質な声を聞きながら、不安が胸に兆してきた。
ああ、彼女と一緒にいると、いつも自分の至らなさに気付かされてばかりだ。黙って控えていなければならない場面で、つい動いてしまう身体とその欲望を必死で押さえつけていても、隠しきれずに見透かされているのは分かっている。
そう、「奴隷」の立場から言えば、まだ、全くしつけなどなされていない。僕が館の人間で会った事があるのは真樹という、瑞季の専属だった男性だけだった。この女性が言う「しつけ」と、言うものがどういうものなのかも、全く想像できない状況でしかないのだ。
要求されれば、どんなことでも従う覚悟はある。一歩を踏み出してみれば、その事は経験する前よりもたやすかった。彼女を愛している。彼女を自分だけのものにするためなら、どんな苦痛でも恥辱でも問題にはならない。だが、どういうふうにそれを表現すればいいのかというと、それはまた別問題だった。
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今夜泊まる予定のホテルのロビーで、彼女の知り合いに偶然に会って、紹介されて、何気ない会話を交わしている間、声に出していないのにずっと笑われているような気がする。それも、たちの悪いくすくす笑い。居心地が悪くて、つい椅子の上で何度も座り直してしまう。この彼女がS女性な事は分かっていた。ホテルのロビーで偶然会って、瑞季はちょっと困ったような顔をしていたから。多分、館での知り合いなのだろう。
館の外では決して中での出来事をほのめかしても、知っている様子を見せてもいけないことになっているものの、瑞季ぐらいの年代の女性のメンバーは少ないし、おそらくは、外での公式な付き合いでも顔を合わせる機会があるのかもしれなかった。そうやって、何度も出会っているうちにプライベートで言葉を交わすようになれば、完全にお互いの事を知らない振りをするのは難しい。
黒いレースのタイトなワンピースに光沢のある絹のストッキング。尖ったピンヒールのハイヒール。細い首を飾る、ダイヤを繋いだネックレスは、彼女が裕福な立場にあることを伺わせた。
「考えてもみなかったわ。瑞季が外で恋人を作るなんて」
「どうして?」
「だって…」
意味ありげに言葉を切ると、彼女はちらりと僕の方へ視線を流して来た。
「館でしつけを受けた男たちと違って、外で知り合った男たちって、どこかしら自己中心的で保身に神経質で覚悟が足りないと思うのよ。SMを恋愛だと勘違いしているし、相手に仕えることよりも自分の快楽を追うことだけに夢中になってしまわなくって?」
この指摘は痛かった。僕自身は、決してSMをしたくてこの関係を選んだ訳ではない。むしろ、瑞季に恋をして、その恋ゆえに彼女の性癖を受け入れている立場なのだ。瑞季に恋をしなければ、SMをしてみたいと思うことはなかったかもしれない。
いや、瑞季のことを好きになった後も、ずっとその事で悩んでいた。自分がそれを受け入れるほど彼女を好きなのか、いつも、いつも、自問する日々。瑞季が自分の事をただの秘書としか見ていないのが分かっていて、それでいて、彼女の相手を務める男たちになりかわる覚悟があるのか…と。そんなことを自分に問いかけるのは、非効率で無駄な事だと理解していながら、その事を考えるのをやめられなかった。
「そういう男って、ご主人様の命令なのに条件付けをして従えなかったり、相手を喜ばせる事だけが大切なんだって忘れて、自分の感情だけに拘ったりして、興ざめな所があると思うのだけど」
「そう?」
瑞季の答えがあまりにも簡潔で、ほとんど表情が無くなっていることに気がついた。明らかに気分を害しているに違いない。それは、無遠慮な話題を口に乗せる相手の女性になのか、あまりにも的を付いた指摘になのか、覚悟の足りない僕になのか…。彼女の硬質な声を聞きながら、不安が胸に兆してきた。
ああ、彼女と一緒にいると、いつも自分の至らなさに気付かされてばかりだ。黙って控えていなければならない場面で、つい動いてしまう身体とその欲望を必死で押さえつけていても、隠しきれずに見透かされているのは分かっている。
そう、「奴隷」の立場から言えば、まだ、全くしつけなどなされていない。僕が館の人間で会った事があるのは真樹という、瑞季の専属だった男性だけだった。この女性が言う「しつけ」と、言うものがどういうものなのかも、全く想像できない状況でしかないのだ。
要求されれば、どんなことでも従う覚悟はある。一歩を踏み出してみれば、その事は経験する前よりもたやすかった。彼女を愛している。彼女を自分だけのものにするためなら、どんな苦痛でも恥辱でも問題にはならない。だが、どういうふうにそれを表現すればいいのかというと、それはまた別問題だった。
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「たとえば、今ここでわたしの靴を舐めてと言ったら…瑞季の彼は出来るかしら」
びっくりした様子で瑞季は僕を振り返った。そんな事を提案されるなんて考えてもみなかったんだろう。何しろ、三人がいる場所はホテルのロビーに備え付けの休憩のためのソファのひとつで、その目の前を何人もの客やボーイが常に行きかっている場所だったからだ。だが、この女性が目論んでいるのは、人目を気にして、もしくは、瑞季以外の女性にそれはできないと僕が二の足を踏むだろうという事実を露呈させる事なのだった。
ここで、躊躇ったり間を置いたりして、この女性を喜ばせたくない。その負けん気が僕を、突き動かし、僕は即座に立ち上がると女性の前に跪いた。恭しい手つきで相手が組んだ脚の片方のくるぶしを支えて顔を差し伸べて靴先にキスしようとした。
途端に瑞季が手を伸ばしてきて靴にかけていた僕の手を強く打った。
「東野。やめて」
嬉しそうに三日月の形に唇を吊り上げていた女性は、急いで脚を引っ込めながら驚いたように瑞季を見上げた。瑞季は、立ち上がって忌々しそうに、固まってしまった私達を見下ろしていた。
「私は彼にそれをさせるつもりは無いわ。私は、彼にしつけや服従が必要だとは考えてないの」
途端に、女性の眉が釣りあがり、口元が嘲るように歪む。
「あら、瑞季。あなたらしくもないのね。あんなにたくさんの男たちに這い蹲らせて泣き喚かせて懇願させながら、顔色ひとつ変えずにさんざん酷い事していた人が、自分の恋人は大事にしまいこんでおくつもりなの?きちんとしつけてみんなに披露する自信が無いのかしら。それとも、それほどは愛されていないという事なのかしらね」
「なんとでもおっしゃって。東野、立ちなさい。行くわよ」
取り付くしまもない様子で瑞季がきびすを返してエレベーターの方へ歩き出した。僕は、ゆっくりと立ち上がると膝を形だけ払い、黙ったまま相手の女性に会釈して瑞季の後を追いかけた。結局、僕は女性の靴に唇を触れさせることはなかった。
人前で、いや、それよりも愛する人の前で他人の靴を舐めるなんてことが本当に出来たのかそれとも出来なかったのか、自分に問いかけても分からない。瑞季がそうしろと言えば、何の苦も無く出来るような気もしたが、それだって推察の域を出ないままだった。
僕が躊躇わずに女性の前に膝を付くことができたのは、悔しさと、相手を喜ばせてなるものかという負けん気から出たものに過ぎなかった。女性が指摘したように相手の女性や何よりも瑞季を喜ばせる事を第一に考えての行動ではなかった。だから、瑞季は怒ったのだろうか。だが、女性の靴を舐める事の出来なかった僕は、結局は出来損ないの奴隷として女性からは侮られてしまっただろうし、それは、瑞季の立場を貶めることなのだと考えると、瑞季の満足のいくように振舞えなかった事に対する苛立ちが込み上げてくるのだった。
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びっくりした様子で瑞季は僕を振り返った。そんな事を提案されるなんて考えてもみなかったんだろう。何しろ、三人がいる場所はホテルのロビーに備え付けの休憩のためのソファのひとつで、その目の前を何人もの客やボーイが常に行きかっている場所だったからだ。だが、この女性が目論んでいるのは、人目を気にして、もしくは、瑞季以外の女性にそれはできないと僕が二の足を踏むだろうという事実を露呈させる事なのだった。
ここで、躊躇ったり間を置いたりして、この女性を喜ばせたくない。その負けん気が僕を、突き動かし、僕は即座に立ち上がると女性の前に跪いた。恭しい手つきで相手が組んだ脚の片方のくるぶしを支えて顔を差し伸べて靴先にキスしようとした。
途端に瑞季が手を伸ばしてきて靴にかけていた僕の手を強く打った。
「東野。やめて」
嬉しそうに三日月の形に唇を吊り上げていた女性は、急いで脚を引っ込めながら驚いたように瑞季を見上げた。瑞季は、立ち上がって忌々しそうに、固まってしまった私達を見下ろしていた。
「私は彼にそれをさせるつもりは無いわ。私は、彼にしつけや服従が必要だとは考えてないの」
途端に、女性の眉が釣りあがり、口元が嘲るように歪む。
「あら、瑞季。あなたらしくもないのね。あんなにたくさんの男たちに這い蹲らせて泣き喚かせて懇願させながら、顔色ひとつ変えずにさんざん酷い事していた人が、自分の恋人は大事にしまいこんでおくつもりなの?きちんとしつけてみんなに披露する自信が無いのかしら。それとも、それほどは愛されていないという事なのかしらね」
「なんとでもおっしゃって。東野、立ちなさい。行くわよ」
取り付くしまもない様子で瑞季がきびすを返してエレベーターの方へ歩き出した。僕は、ゆっくりと立ち上がると膝を形だけ払い、黙ったまま相手の女性に会釈して瑞季の後を追いかけた。結局、僕は女性の靴に唇を触れさせることはなかった。
人前で、いや、それよりも愛する人の前で他人の靴を舐めるなんてことが本当に出来たのかそれとも出来なかったのか、自分に問いかけても分からない。瑞季がそうしろと言えば、何の苦も無く出来るような気もしたが、それだって推察の域を出ないままだった。
僕が躊躇わずに女性の前に膝を付くことができたのは、悔しさと、相手を喜ばせてなるものかという負けん気から出たものに過ぎなかった。女性が指摘したように相手の女性や何よりも瑞季を喜ばせる事を第一に考えての行動ではなかった。だから、瑞季は怒ったのだろうか。だが、女性の靴を舐める事の出来なかった僕は、結局は出来損ないの奴隷として女性からは侮られてしまっただろうし、それは、瑞季の立場を貶めることなのだと考えると、瑞季の満足のいくように振舞えなかった事に対する苛立ちが込み上げてくるのだった。
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ホテルの最上階のスイートルームへ入ると、もう、我慢が出来なかった。先を行く彼女に追いすがると腕を掴んだ。
「どうして、止めたんです」
瑞季はきつい眼つきで僕を睨みつけた。僕は彼女に証明したかった。僕が、ただ彼女を愛しているだけでなく、彼女のためなら何でもする覚悟なのだという事を。さっきの拒絶は、その僕の覚悟を信じていないかのように思え、僕はつい言い募らずにはいられなかった。
「僕が、出来ないと思っているんですか。あなたのために…。僕の覚悟がその程度のものだと?」
「そんな事を言ってるんじゃないわ」
「じゃあ、じゃあ…どうしてなんです。あなたのためなら、僕は…」
ぴしゃり!と音を立てて彼女の掌が僕の頬で鳴った。振り上げられ、振り下ろされる瑞季の手の動きを見つめながら、僕はかわしもせず、彼女が叩くに任せた。
「あたし、あたしが東野に、あんな場所で、あんな事を、あんな女にさせたがると思っているの?あたしが東野を痛めつけるのが、あなたを奴隷のように扱うためだと考えているんだったら大間違いなんだから…あたしは、あたしは」
覗きこんだ彼女の見開かれた瞳に涙が盛り上がる。僕は仰天して息を呑み、手を振り払って逃げようとする彼女の肩を慌てて捕まえた。
ああ……しまった。また失敗した。
自分のプライドに拘るあまりに、彼女の気持ちを置き捨てにしていた事に改めて気が付いた。自分が彼女にとっての飾りとしての役目を果たしていないと罵られることに拘泥して、彼女が望んでいる事は何かと推し量る事ばかりに気を取られて、彼女が、自分がそう望んでいる事をどこかで嫌悪している事を忘れてしまっていたのだ。
その気持ちは普段はほとんど出てこない。彼女は自由にサディストとしての自分を楽しんでいるかのように見えた。だが、あの日、真樹が指摘したように、扱いようによってはサディストであるという事は彼女を不幸にすることもできるのだった。
他人を貶めたり辱めたりする事は、彼女の本当に求めるカテゴリには入っておらず、プレイの展開上どうしてもそこに触れずにはいられない時、彼女は自分自身を唾棄すべきもののように感じてしまうところがあるのだ。
あの女性の足元に跪く事も、靴を舐める事も、実際にやってみれば決して僕自身にとって、屈辱でも苦痛でも無いはずだ。だがそれが、ただただ、見返してやろうとする衝動から出たものだとしても、瑞季を喜ばせたいという願いから出たものだとしても、瑞季にとっては肯定すべき行為ではなかったのだろう。
「あんな女の足元に東野に膝を付かせて、あたしが嬉しいとでも思った?あなたはあたしのものなのに、あんな女の口先だけの言葉にあなたをいいようにされても私が平気だと思ったの?」
泣きじゃくる彼女はまるで子供のようで、僕は自分のした失敗が、彼女を傷つけた事に心底後悔しながら彼女の背を引き寄せた。
「ああ…ごめん。瑞季。ごめんよ。そんなつもりじゃなかったんです。ただ、つい、むきになってしまって。君の気持ちを考えてなかった」
彼女の背中を撫でながら、僕は突き上げてくるそのあまりの愛おしさに胸苦しさを感じながらも、彼女を抱きしめてその頬に唇を押し当てた。次々と溢れ出てくる涙をそっとその唇で吸い取りながら。しがみついてくる彼女の体を抱きしめた。瑞季。瑞季。僕の愛するただひとりの女。
腕の中の彼女の細い身体の温もりをしっかりと抱きしめながら、僕の心は、ついこの間までの、満たされず明日の見えない、ただ耐えるだけだった日々を思い返していた。あの時、あれほど決心して、彼女だけをみつめていこうと決めたのに、どうして僕はそれを忘れてしまうのだろう。舌打ちしたいほどの悔しさに、自分の未熟さを噛み締める。いつになったら、満足の行く男になれるのか。
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「どうして、止めたんです」
瑞季はきつい眼つきで僕を睨みつけた。僕は彼女に証明したかった。僕が、ただ彼女を愛しているだけでなく、彼女のためなら何でもする覚悟なのだという事を。さっきの拒絶は、その僕の覚悟を信じていないかのように思え、僕はつい言い募らずにはいられなかった。
「僕が、出来ないと思っているんですか。あなたのために…。僕の覚悟がその程度のものだと?」
「そんな事を言ってるんじゃないわ」
「じゃあ、じゃあ…どうしてなんです。あなたのためなら、僕は…」
ぴしゃり!と音を立てて彼女の掌が僕の頬で鳴った。振り上げられ、振り下ろされる瑞季の手の動きを見つめながら、僕はかわしもせず、彼女が叩くに任せた。
「あたし、あたしが東野に、あんな場所で、あんな事を、あんな女にさせたがると思っているの?あたしが東野を痛めつけるのが、あなたを奴隷のように扱うためだと考えているんだったら大間違いなんだから…あたしは、あたしは」
覗きこんだ彼女の見開かれた瞳に涙が盛り上がる。僕は仰天して息を呑み、手を振り払って逃げようとする彼女の肩を慌てて捕まえた。
ああ……しまった。また失敗した。
自分のプライドに拘るあまりに、彼女の気持ちを置き捨てにしていた事に改めて気が付いた。自分が彼女にとっての飾りとしての役目を果たしていないと罵られることに拘泥して、彼女が望んでいる事は何かと推し量る事ばかりに気を取られて、彼女が、自分がそう望んでいる事をどこかで嫌悪している事を忘れてしまっていたのだ。
その気持ちは普段はほとんど出てこない。彼女は自由にサディストとしての自分を楽しんでいるかのように見えた。だが、あの日、真樹が指摘したように、扱いようによってはサディストであるという事は彼女を不幸にすることもできるのだった。
他人を貶めたり辱めたりする事は、彼女の本当に求めるカテゴリには入っておらず、プレイの展開上どうしてもそこに触れずにはいられない時、彼女は自分自身を唾棄すべきもののように感じてしまうところがあるのだ。
あの女性の足元に跪く事も、靴を舐める事も、実際にやってみれば決して僕自身にとって、屈辱でも苦痛でも無いはずだ。だがそれが、ただただ、見返してやろうとする衝動から出たものだとしても、瑞季を喜ばせたいという願いから出たものだとしても、瑞季にとっては肯定すべき行為ではなかったのだろう。
「あんな女の足元に東野に膝を付かせて、あたしが嬉しいとでも思った?あなたはあたしのものなのに、あんな女の口先だけの言葉にあなたをいいようにされても私が平気だと思ったの?」
泣きじゃくる彼女はまるで子供のようで、僕は自分のした失敗が、彼女を傷つけた事に心底後悔しながら彼女の背を引き寄せた。
「ああ…ごめん。瑞季。ごめんよ。そんなつもりじゃなかったんです。ただ、つい、むきになってしまって。君の気持ちを考えてなかった」
彼女の背中を撫でながら、僕は突き上げてくるそのあまりの愛おしさに胸苦しさを感じながらも、彼女を抱きしめてその頬に唇を押し当てた。次々と溢れ出てくる涙をそっとその唇で吸い取りながら。しがみついてくる彼女の体を抱きしめた。瑞季。瑞季。僕の愛するただひとりの女。
腕の中の彼女の細い身体の温もりをしっかりと抱きしめながら、僕の心は、ついこの間までの、満たされず明日の見えない、ただ耐えるだけだった日々を思い返していた。あの時、あれほど決心して、彼女だけをみつめていこうと決めたのに、どうして僕はそれを忘れてしまうのだろう。舌打ちしたいほどの悔しさに、自分の未熟さを噛み締める。いつになったら、満足の行く男になれるのか。
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サディズムの感情がいったいどこから来るのか、どういう形で彼女の中に存在し、顕現するのか。僕にとっては、ただ想像するしかない。それは、僕には、よく解らない嗜好だった。だが、僕が彼女を愛し、その側にいる事を強く希うのと同じ様に、彼女がだれかに苦痛を与えずにはいられないというのなら、その相手はせめて僕であって欲しかった。
彼女に気持ちを告げたいとじりじりと願う、ある意味静かに醸造を待つかのような三年を経た後、隠しきれない自分の感情を彼女にぶつけてしまった。そして、その三年間は、淡い恋心のような形ばかりの甘い苦痛だったのだと思い知らされた。彼女に触れてしまった後は、もう後戻りする事は到底肯えず、彼女の側にいるためなら何を犠牲にしても構わないと思いつめるほどにひたすらに彼女が欲しかった。
愛しているという気持ちは、どうしてこうも簡単に、人を幸せにも不幸にもするのだろう。そして、幸せな喜びは常に苦痛と不幸に縁取られて、僕を苛まずにはいられないように思えた。
彼女の側にいるという幸福と、彼女を全き幸せに導く力が無いという不幸が、常にぎりぎりの縁に爪を立てるような感情を引き起こし、僕はそれにきりきり舞いさせられながらも、彼女の温もりを感じるだけで頭がくらくらとする。だから、うっとりと酔いしれるような苦痛の日々を重ねていくしかなかった。
瑞季の中のゆきに出会ったのは、僕が瑞季と付き合いだして、一ヶ月も経たない頃だった。ゆきは、瑞希が少女の頃にしたひどい体験を肩代わりしている少女だった。そうして、ゆきを瑞希の中に眠らせておくには、彼女の気持ちを穏やかに保ってあげなければならないことを知った。そのための一番の近道が彼女の中にあるサディストとしての欲求を認め、受け止めてやる事だということも。
ところが、就寝儀式とまで真樹に言わしめたほどに、真樹という男が守っていた間、瑞季は自分の体の中のリズムに従ってプレイをし、そしてゆきは眠ったままだったのに、真樹が去り、僕が彼女の身体を抱くようになってからは、ゆきは全く突然に現れるようになってしまった。
どんなに気をつけていても少女は不意を付いて現れ、僕に自分の不甲斐なさを突きつけた。瑞季が真樹という男を痛めつける事を覚えてから、そのつながりの日々にゆきをすっかり封じ込めていたと思われる安定した時期のルールは、どういう訳かすっかり崩れてしまったのだ。
その原因も理由も、彼女がいつ現れるのかも、僕には皆目見当が付かなかった。瑞季の記憶は途切れ、それが頻繁に起これば、本人の不審を招かずにはいられない。自分の中のゆきに気が付いていない瑞季に、入れ替わりが頻繁になっている事を知られまいとする僕の努力は、穴だらけのザルで水を汲むにも似た行為でしかなかった。

「かずき」
ベッドの中で身体を寄せ合い、ゆったりとした休日の眠りを分け合っていた恋人が、不意に顔をあげるとあどけない少女の声音で僕を呼ぶ。
ああ、また。心臓の上を鋭い針で突き通されるような失望の痛みを堪えながら、精一杯の優しい表情で彼女の顔を覗き込む。まだ10代の少女であるゆきは、彼女を腕に抱いている男を血のつながった近親者のように疑いも無く身体を押し付けてくる。
「いたい」
「ゆき、どうしたの」
「かたが……」
十何年も経っているというのに、彼女は身体中に付けられた噛み傷をひとつづつ抑えては痛みを訴えるのだ。暴力というトラウマが産み出した一人の少女。彼女は瑞季の少女の時の傷を引き受けて生きている。彼女の存在が、瑞季を恐ろしい思い出から守っているのだった。
だが、僕が瑞季を満足させられていれば、ゆきは彼女の中で眠っているはずだった。こうして起きて来て、僕に痛みを訴えるのは、僕が瑞季を満足させられていない証拠なのだ。
失望の痛みとはうらはらに、しがみついてくる少女は瑞季とはまた別の意味で愛おしく愛らしい。瑞季とは全く異なる顔と性格を持った少女ではあっても、僕はゆきの中に瑞季の少女時代を重ねずにはいられないのだ。僕の知り得ることの出来なかった幼い頃の瑞季。仕えるべき主人でも無く、従うべき上司でもない。守り慈しむ事だけが許されている少女。
彼女が差し出す肩の見えない傷にそっと唇を押し付けながら、僕は自問自答する。僕は瑞季に命令される事のない、恋人としての関係を求めているのだろうか……。もし、そうだとしたら僕の瑞季に対する愛情はまがい物なのではないか。彼女を自分のものにするためだけに、サディストとしての彼女を愛している振りをしているのではないだろうか。
そういう疑問が浮かぶたびに、真樹の事を思い出さずにはいられなかった。「君に言っておく」彼は全くゆるぎない自信を持って僕に宣言した。「僕はもう彼女のものだ」真樹はマゾヒストとして、瑞季に仕えていた。そして、彼女への完全な従属を僕に伝えたのだ。この先一度も会うことも無くとも……と。
それは、どういう愛の形なのだろう。痛みを求めることのない僕には、どうしても理解できない彼らのつながり。その完全なるプラスとマイナスの結合が瑞季に安定をもたらしていたとしたら、この先どう僕が努力しても、ゆきを眠らせることは出来ないのではないだろうか。
幻の傷跡に舌を這わせながら、にっこりとあどけなく笑うゆきの微笑を見つめながら、つかみどころの無いせつなさに彼女を抱き寄せる。彼女は僕にとって瑞季なのか、ゆきなのか。もしかして、もしかして、僕がゆきを求めているからこそ、彼女は現れるのではないだろうか。自分を従えるのではない、ただただ守られる女の子として…。その、想像は僕にとっては胃の辺りを冷たく堅くする恐ろしい事実だった。
けっして認めたくない。自分が、瑞季を、ありのままの瑞季を愛せていない事を。
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彼女に気持ちを告げたいとじりじりと願う、ある意味静かに醸造を待つかのような三年を経た後、隠しきれない自分の感情を彼女にぶつけてしまった。そして、その三年間は、淡い恋心のような形ばかりの甘い苦痛だったのだと思い知らされた。彼女に触れてしまった後は、もう後戻りする事は到底肯えず、彼女の側にいるためなら何を犠牲にしても構わないと思いつめるほどにひたすらに彼女が欲しかった。
愛しているという気持ちは、どうしてこうも簡単に、人を幸せにも不幸にもするのだろう。そして、幸せな喜びは常に苦痛と不幸に縁取られて、僕を苛まずにはいられないように思えた。
彼女の側にいるという幸福と、彼女を全き幸せに導く力が無いという不幸が、常にぎりぎりの縁に爪を立てるような感情を引き起こし、僕はそれにきりきり舞いさせられながらも、彼女の温もりを感じるだけで頭がくらくらとする。だから、うっとりと酔いしれるような苦痛の日々を重ねていくしかなかった。
瑞季の中のゆきに出会ったのは、僕が瑞季と付き合いだして、一ヶ月も経たない頃だった。ゆきは、瑞希が少女の頃にしたひどい体験を肩代わりしている少女だった。そうして、ゆきを瑞希の中に眠らせておくには、彼女の気持ちを穏やかに保ってあげなければならないことを知った。そのための一番の近道が彼女の中にあるサディストとしての欲求を認め、受け止めてやる事だということも。
ところが、就寝儀式とまで真樹に言わしめたほどに、真樹という男が守っていた間、瑞季は自分の体の中のリズムに従ってプレイをし、そしてゆきは眠ったままだったのに、真樹が去り、僕が彼女の身体を抱くようになってからは、ゆきは全く突然に現れるようになってしまった。
どんなに気をつけていても少女は不意を付いて現れ、僕に自分の不甲斐なさを突きつけた。瑞季が真樹という男を痛めつける事を覚えてから、そのつながりの日々にゆきをすっかり封じ込めていたと思われる安定した時期のルールは、どういう訳かすっかり崩れてしまったのだ。
その原因も理由も、彼女がいつ現れるのかも、僕には皆目見当が付かなかった。瑞季の記憶は途切れ、それが頻繁に起これば、本人の不審を招かずにはいられない。自分の中のゆきに気が付いていない瑞季に、入れ替わりが頻繁になっている事を知られまいとする僕の努力は、穴だらけのザルで水を汲むにも似た行為でしかなかった。

「かずき」
ベッドの中で身体を寄せ合い、ゆったりとした休日の眠りを分け合っていた恋人が、不意に顔をあげるとあどけない少女の声音で僕を呼ぶ。
ああ、また。心臓の上を鋭い針で突き通されるような失望の痛みを堪えながら、精一杯の優しい表情で彼女の顔を覗き込む。まだ10代の少女であるゆきは、彼女を腕に抱いている男を血のつながった近親者のように疑いも無く身体を押し付けてくる。
「いたい」
「ゆき、どうしたの」
「かたが……」
十何年も経っているというのに、彼女は身体中に付けられた噛み傷をひとつづつ抑えては痛みを訴えるのだ。暴力というトラウマが産み出した一人の少女。彼女は瑞季の少女の時の傷を引き受けて生きている。彼女の存在が、瑞季を恐ろしい思い出から守っているのだった。
だが、僕が瑞季を満足させられていれば、ゆきは彼女の中で眠っているはずだった。こうして起きて来て、僕に痛みを訴えるのは、僕が瑞季を満足させられていない証拠なのだ。
失望の痛みとはうらはらに、しがみついてくる少女は瑞季とはまた別の意味で愛おしく愛らしい。瑞季とは全く異なる顔と性格を持った少女ではあっても、僕はゆきの中に瑞季の少女時代を重ねずにはいられないのだ。僕の知り得ることの出来なかった幼い頃の瑞季。仕えるべき主人でも無く、従うべき上司でもない。守り慈しむ事だけが許されている少女。
彼女が差し出す肩の見えない傷にそっと唇を押し付けながら、僕は自問自答する。僕は瑞季に命令される事のない、恋人としての関係を求めているのだろうか……。もし、そうだとしたら僕の瑞季に対する愛情はまがい物なのではないか。彼女を自分のものにするためだけに、サディストとしての彼女を愛している振りをしているのではないだろうか。
そういう疑問が浮かぶたびに、真樹の事を思い出さずにはいられなかった。「君に言っておく」彼は全くゆるぎない自信を持って僕に宣言した。「僕はもう彼女のものだ」真樹はマゾヒストとして、瑞季に仕えていた。そして、彼女への完全な従属を僕に伝えたのだ。この先一度も会うことも無くとも……と。
それは、どういう愛の形なのだろう。痛みを求めることのない僕には、どうしても理解できない彼らのつながり。その完全なるプラスとマイナスの結合が瑞季に安定をもたらしていたとしたら、この先どう僕が努力しても、ゆきを眠らせることは出来ないのではないだろうか。
幻の傷跡に舌を這わせながら、にっこりとあどけなく笑うゆきの微笑を見つめながら、つかみどころの無いせつなさに彼女を抱き寄せる。彼女は僕にとって瑞季なのか、ゆきなのか。もしかして、もしかして、僕がゆきを求めているからこそ、彼女は現れるのではないだろうか。自分を従えるのではない、ただただ守られる女の子として…。その、想像は僕にとっては胃の辺りを冷たく堅くする恐ろしい事実だった。
けっして認めたくない。自分が、瑞季を、ありのままの瑞季を愛せていない事を。
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「かずき…」
ゆきに変わった瑞季の覚束なげな手が僕の身体を探る。
「痛むの?ゆき。……可哀想に。辛かったろうに。君はずっとその痛みから瑞季を守っているんだね」
抱き寄せて背を撫でる。小さな子供にするように。しがみついてくる頼りない身体。
「かずき…ゆきは…かずきが…すき……」
「僕もゆきが好きだよ」
ゆきは、僕の胸に擦り付けていた顔をゆっくりとあげる。
「わたしがすき?」
「ああ、もちろん」
「みずきは?」
「瑞季ももちろん好きだ。愛しているよ。瑞季を」
「じゃあ、ゆきとみずきとどっちがたくさんすき?」
僕はゆきを抱きしめたまま凍りついていた。なんと答えればいいのか分からず、どう答えてもそれが嘘のような気がした。彼女達はふたつでひとつのようでいて、別々の人間なのだ。僕がゆきを好きな気持ちは瑞季に対しての裏切りで、瑞季を好きなのはゆきに対する裏切りなのではないかという迷いが、僕の中にずっとあった。
僕は、どっちの瑞季が好きなんだろう。
「ゆきが好きだ」
口に出した途端に自分の本当の気持ちが溢れた。違う。どうごまかしようも無い、嘘偽りのない強い瑞季を求める気持ちが喉元から突き上げ、それを押し留めようとして僕は歯を喰いしばった。感情が凍りついていく、身体が二つに引き裂かれそうだ。今すぐ彼女を揺さぶって、今のは嘘だと言ってしまいたい。
どれほど、ゆきを愛しく思っていても、瑞季と比べる事などできようもなかった。ああ…たとえ裏切りであったとしてもこの言葉は君のためなんだ。瑞季。君なら分かってくれるだろう?
ぎゅっとしがみついてきたゆきが小刻みに揺れる。彼女はくっくっと笑いを堪えていた。
「うそつき」
「え?」
「かずきのうそつき。ほんとうはみずきのほうがすきでしょう?」
ゆき。僕だけの少女。
「でも…ありがとう」
ゆき。無垢でまっしろで今降り積もったばかりのような…。
「うれしい」
ゆき。僕だけに微笑み語りかけてくる。
「ゆきがみずきのなかにとけていっても、ゆきはみずきのなかにいるの」
ゆき。君を愛している
「きっと…いるからね」
ゆき。愛しく思う恋人の大事な分身……。
僕に出来るのは君の名前を心の中に刻む事だけだった。ゆき、君は消えてしまうのかい?そして、その時、瑞季に何が起るんだろう。僕はどうすれば瑞季を守れるんだ。
「その時は、彼女を瑞季とひとつにしてやってくれ」
真樹の告げた言葉が、僕の胸の中で重苦しくのしかかってきているのが分かった。
ゆきがゆっくりと溶けていく。頭を撫でて、抱きしめて、静かに優しく話しかける。かたくなに強張っていた身体から緊張が抜けていく。しがみついてくる冷たい手がほんのりと温まり、ぎこちなかった動きが確かに抱きついてくる力になる。舌足らずのおしゃべりが、途切れ途切れに続き、たゆたい、淀みをつくり、また、流れ出す。ゆき。呼び声に応えるその微笑が、うっすらと濡れて開いた花びらのようなぴんくの唇が、言葉を紡ごうとするかのように動いて、そして閉じた。
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いつの間にか、少しずつ、いつの間にか、段々と大きく、事態がほころび始めていた。失われた時間に、瑞季が気が付くのも、すぐだった。前の夜に飲んだ筈のないグラス。交わしたはずの無い会話のおぼろげな記憶。波状に襲ってくる頭痛と意味の無い映像。
きっちりと分けられていたはずの瑞季とゆきの記憶が交差しあい交じり合いだすと、それは加速度的にひずみを大きくしていく。不審げに向けられて来る瑞季の視線に、隠し通すのは限界なのでは…と、危ぶみながら薄氷を踏む毎日。それはゆっくりと近づいてきている。
その日、いつもの週末を過ごそうと、仕事帰りに彼女を車で送ってマンションを訪れた。簡単な夕食の支度をして、風呂に入っている彼女が上がってくるのを待つ間、ソファに腰を降ろして雑誌を読んでいた。
薄曇の空がすでに暗い。ガラスに映る遠い街並みの灯りがぽつぽつと増えていくのを時々、見やりながら、僕は所在無く雑誌のページをめくる…。これから、どうして行くのがベストなのか、その事が常に頭から離れなくなっていた。
バスロープのままの瑞季が濡れた髪を拭いながら、バスルームから出てきた。雑誌をめくっている僕を見つけ、その横に座る。
「あたし……最近、変じゃない?東野」
「どうしたんです?何か変わったことがあったんですか?」
「あたし、あたしね……」
眉を寄せて頭を振る彼女の中で何が起きているのか分からない僕は、不安に胸を絞り上げられるようだった。思わず彼女の身体を掴んで揺さぶってしまいたくなる衝動。やめるんだ。考えないで。まだ、思い出すんじゃない。
何を探しているのか思い出せない様子でいぶかしげに視線を部屋の中に彷徨わせ、それから不思議そうにゆっくりと顎を上げて、僕をみつめた彼女は、ぱちぱちと、瞬きをして、何かを話そうと、口を、開けたまま、動かなくなった。
そして、フラッシュバックが彼女を捕まえた。
一瞬で蒼褪め、恐怖に凍りつく彼女の表情が、時の向こうの記憶が押し寄せてきたのを僕に報せた。僕は、持っていた雑誌を放り出して、ひと跳びで彼女の側まで行った。彼女の身体を捕まえて、引き寄せようとする。
「いやああああああああああっ!!」
彼女の無意識のうちに振り払った腕が、僕の肩にぶつかった。押しのけようとする鉤爪のように曲がった指が、僕の身体に食い込む。パニックになって、彼女を捕まえようとしたのにうまく行かなかった。
後から思い返せば、彼女は僕と少女の頃に自分に危害を加えた犯人との区別が付いてなかったのだと思う。喉が切れるんじゃないかと思うほどに叫び続け、めちゃくちゃに暴れて僕をつきのけようとした、押さえつけようとする僕の腕や身体を殴りつけ蹴りつける。
恐ろしく長く本当は短い数分の後に、彼女は笛のように甲高く息を吸い込んだと思うとひくっと引き付けて昏倒した。受け止めた彼女の体がぐったりと重く冷たいのを知って、混乱を起こした僕は、思わず彼女の名を呼びながら揺さぶった。彼女は息をしてなかったのだ。必死になって、彼女の頬を張り、名前を呼ぶ。首を仰け反らせて気道を確保して息を吹き込む。
「瑞季!瑞季!お願いだから。息をして!」
そんな馬鹿な。息をしていない彼女の顔がどんどん紅潮していく。それがどういう事なのか解らず、混乱に拍車をかけた。恐怖に凍りつきその顔を見つめながら激しく揺さぶった。死んだりしない。ちょっとヒステリーを起こしたぐらいで、そんな事になるはずが無い。そう思いながらも怖ろしさに自分のほうがどうにかなりそうだった。
実際はほんの短い時間だったに違いない。次の引き付けが来た時には、彼女は息を吹き返していた。二度。三度。彼女の身体は、まるで壊れた人形を揺さぶったときのように頼りなく跳ね。そして、彼女は意識を取り戻した。
ぱっちりと開けた目が、驚いたように僕を見つめた。あっという間に涙が盛り上がってあふれ、次の瞬間には、号泣していた。声を張り上げて泣く瑞季を僕はしっかりと抱きしめて胸の中にかいこんだ。
「大丈夫。大丈夫だから。もう、終わったんだ。何も心配ないよ。瑞季。瑞季」
激しく泣き続ける彼女を抱きしめて、揺すりながら、僕はどうしていいのか皆目検討が付かなかった。
泣く事は、考えている以上に彼女の体力を消耗させたのだろう。一時間もたって彼女がしゃくりあげながら、ぐったりと僕の腕に身体を預けた時には、彼女はすでに意識を失っていた。
動かなくなった彼女を抱きしめたまま、僕は迷い続けた。どうするか選ぶのは、僕しかいない。彼女の保護者代わりになっている高原氏に連絡を取ったとしても、普段から忙しい彼がすぐ駆けつけられるかどうか。僕は彼女のために連絡できる相手の名前を次々に思い出しては捨てた。
その夜は寒く霙が降っていた。遠くからだんだんと近づいてくる救急車のサイレンは、思いの外甲高く響き、僕は自分の冷たい心臓の上を迷いと後悔と不安にかられて、強く握りしめた拳で押さえるしかなかった。
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きっちりと分けられていたはずの瑞季とゆきの記憶が交差しあい交じり合いだすと、それは加速度的にひずみを大きくしていく。不審げに向けられて来る瑞季の視線に、隠し通すのは限界なのでは…と、危ぶみながら薄氷を踏む毎日。それはゆっくりと近づいてきている。
その日、いつもの週末を過ごそうと、仕事帰りに彼女を車で送ってマンションを訪れた。簡単な夕食の支度をして、風呂に入っている彼女が上がってくるのを待つ間、ソファに腰を降ろして雑誌を読んでいた。
薄曇の空がすでに暗い。ガラスに映る遠い街並みの灯りがぽつぽつと増えていくのを時々、見やりながら、僕は所在無く雑誌のページをめくる…。これから、どうして行くのがベストなのか、その事が常に頭から離れなくなっていた。
バスロープのままの瑞季が濡れた髪を拭いながら、バスルームから出てきた。雑誌をめくっている僕を見つけ、その横に座る。
「あたし……最近、変じゃない?東野」
「どうしたんです?何か変わったことがあったんですか?」
「あたし、あたしね……」
眉を寄せて頭を振る彼女の中で何が起きているのか分からない僕は、不安に胸を絞り上げられるようだった。思わず彼女の身体を掴んで揺さぶってしまいたくなる衝動。やめるんだ。考えないで。まだ、思い出すんじゃない。
何を探しているのか思い出せない様子でいぶかしげに視線を部屋の中に彷徨わせ、それから不思議そうにゆっくりと顎を上げて、僕をみつめた彼女は、ぱちぱちと、瞬きをして、何かを話そうと、口を、開けたまま、動かなくなった。
そして、フラッシュバックが彼女を捕まえた。
一瞬で蒼褪め、恐怖に凍りつく彼女の表情が、時の向こうの記憶が押し寄せてきたのを僕に報せた。僕は、持っていた雑誌を放り出して、ひと跳びで彼女の側まで行った。彼女の身体を捕まえて、引き寄せようとする。
「いやああああああああああっ!!」
彼女の無意識のうちに振り払った腕が、僕の肩にぶつかった。押しのけようとする鉤爪のように曲がった指が、僕の身体に食い込む。パニックになって、彼女を捕まえようとしたのにうまく行かなかった。
後から思い返せば、彼女は僕と少女の頃に自分に危害を加えた犯人との区別が付いてなかったのだと思う。喉が切れるんじゃないかと思うほどに叫び続け、めちゃくちゃに暴れて僕をつきのけようとした、押さえつけようとする僕の腕や身体を殴りつけ蹴りつける。
恐ろしく長く本当は短い数分の後に、彼女は笛のように甲高く息を吸い込んだと思うとひくっと引き付けて昏倒した。受け止めた彼女の体がぐったりと重く冷たいのを知って、混乱を起こした僕は、思わず彼女の名を呼びながら揺さぶった。彼女は息をしてなかったのだ。必死になって、彼女の頬を張り、名前を呼ぶ。首を仰け反らせて気道を確保して息を吹き込む。
「瑞季!瑞季!お願いだから。息をして!」
そんな馬鹿な。息をしていない彼女の顔がどんどん紅潮していく。それがどういう事なのか解らず、混乱に拍車をかけた。恐怖に凍りつきその顔を見つめながら激しく揺さぶった。死んだりしない。ちょっとヒステリーを起こしたぐらいで、そんな事になるはずが無い。そう思いながらも怖ろしさに自分のほうがどうにかなりそうだった。
実際はほんの短い時間だったに違いない。次の引き付けが来た時には、彼女は息を吹き返していた。二度。三度。彼女の身体は、まるで壊れた人形を揺さぶったときのように頼りなく跳ね。そして、彼女は意識を取り戻した。
ぱっちりと開けた目が、驚いたように僕を見つめた。あっという間に涙が盛り上がってあふれ、次の瞬間には、号泣していた。声を張り上げて泣く瑞季を僕はしっかりと抱きしめて胸の中にかいこんだ。
「大丈夫。大丈夫だから。もう、終わったんだ。何も心配ないよ。瑞季。瑞季」
激しく泣き続ける彼女を抱きしめて、揺すりながら、僕はどうしていいのか皆目検討が付かなかった。
泣く事は、考えている以上に彼女の体力を消耗させたのだろう。一時間もたって彼女がしゃくりあげながら、ぐったりと僕の腕に身体を預けた時には、彼女はすでに意識を失っていた。
動かなくなった彼女を抱きしめたまま、僕は迷い続けた。どうするか選ぶのは、僕しかいない。彼女の保護者代わりになっている高原氏に連絡を取ったとしても、普段から忙しい彼がすぐ駆けつけられるかどうか。僕は彼女のために連絡できる相手の名前を次々に思い出しては捨てた。
その夜は寒く霙が降っていた。遠くからだんだんと近づいてくる救急車のサイレンは、思いの外甲高く響き、僕は自分の冷たい心臓の上を迷いと後悔と不安にかられて、強く握りしめた拳で押さえるしかなかった。
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