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休みの日におまえは・・・

ここでは、「休みの日におまえは・・・」 に関する記事を紹介しています。


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性的、暴力的な表現を含んでいます。
虚構と現実の区別のつかない方
18歳未満の方はご遠慮くださいませ。
自己責任に於いて閲覧していただきますようお願いします。

 
 なんか、物語が出来そうな気分になって、ackyから、無理やり画像を奪い取ったのに。その後、全然進んでいない。トライバルのtattooの入った表紙もお着替えのぱらぱら漫画も・・・。それに密かに狙っているミートソース付きびしょ濡れシャツの連作も・・・。出番をじーっと待っているというのに。orz
 困ったなぁ・・・。そもそも書いてる時間もあんまり無いんだもん。物語りもなんかぼんやりと取り止めがないし・・・。
もう、これは「見切り発車」しかありませんな。書いてるうちにどうにかなるかもしれない(けど、どうにもならないこともあり得る。)って奴です。よく、考えると、毎日更新してた頃って、常に出たとこ勝負だったんだよね。だから、まぁ、なんとかなるんじゃ。σ(^_^;)アセアセ...(って、ほんとかいな。)

 まずは表紙をぺたんと貼って・・・。

 取り合えずは、これを眺めて、出だしを考えようっと♪




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休みの日におまえは・・・


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 じりじりと照りつける太陽はアスファルトをまるで焼けた鉄板のように熱くしている。昼食のためにちょっとビルを出ただけで、志方拓真はすでに後悔していた。別に、会社の中の食堂でお手軽な食事をしてもよかったのだ。
「海に行きたいなぁ・・・。」
 ネクタイを緩めながら、高野晃がぼそっと呟いた。どういう訳か、このクソ暑い最中にも、きちんとスーツを着て、見た目はちっとも暑そうじゃない涼しい顔をしているこのおかしな男でも、やっぱり暑さは感じているらしい。
「いけばいいじゃないか。」
 むかついた志方は、手を伸ばして会社で同じフロアの端と端で仕事をしている同僚の、上着の襟を引っ張って脱がそうとした。意味はまるでない。ただ、なんとなくじゃれたかっただけだが、晃は眉をしかめて志方の手を振り払う。
「暑いって。」
 だから、触るなと言いたいらしかった。

 会社の先輩の送別会で、すっかり酔っ払った晃を家に泊めた日に、どういう弾みか身体を繋げたことがきっかけで付き合い始めた相手。晃と志方は、別におまえが好きとか言ったことも無く、会いたいとも思わず(会社で始終顔を合わせてるせいもあるが)、ただ、なんとなく続いているうちに、いつのまにかそれが当然のような気がしている間柄になっていた。
 どこかとりとめがなく、べたべたしたかと思うとすいっと離れていく。見かけないなと思ってるとといつの間にかぴったりと寄ってきている。おしゃべりな奴だと思っていたら、急に不機嫌になって黙り込む。 「男同士なんだから、少しは周囲に気を使ってくれ。」と、言いたくなるほど、場所や周囲を気にしないで、キスとか仕掛けてきたり、絡み付いてきたりするくせに、あっさりしすぎるほどにそっけない性格で、ずっとそばに置いておこうと思っても、一体どうしたらいいんだか見当も付かない相手だった。

 幸い誠実で生真面目と評される志方でも、そっち方面は、どちらかというと成り行き任せだ。ゲイってのは、向こうも男で、こっちも男。どちらも主導権をとりたがるし、干渉されるのも好みじゃないって奴が結構多いんで、ま、なるようにしかならないぐらい開き直ってないと、胃がきりきりと痛むようなまねをされてしまうって事だって少なくないわけじゃない。
 それが分かってるから、志方自身、意識して、お気楽に、できるだけ考えないようにしているせいもある。どんな男でも操を守るなんて言葉が似合わないのはあたりまえってことらしい。
 それでも、付き合い始めてからこっち、志方は他の誰かと関係を持っていなかった。晃の方はさっぱり分からないが、志方が気がつかない以上、たとえあったとしても無かったも同じだろう。





「車、売っちゃったからね。」
 ああ、そうか。志方は、ようやく合点がいってうなずいた。志方がうらやましくなるようないい車を持っていたのに、どういう訳かこの男は、買ったばかりに見えたその車をあっさりと、売ってしまったのだった。志方と付き合いだした頃だったろうか。その時は、なんとも思わなかったのだが、彼は趣味にサーフィンをする奴だったのだ。ボードを持ち運ぶのに、自分の車が無いって事は、やっぱり不自由なんだろう。
「おまえ、サーフィンに行ってないの?」
「ああ、うん・・・。」
 髪を掻き揚げながら、すいっとその視線をそらす様子が、なにか、含むものがあるようだったのは、志方の気のせいだったのだろうか。晃が細身ですらりとしてるくせに、やけにスーツが似合うのは、肩幅とその胸の厚みのせいだった。「サーフィンをしてるから・・・。」初めて会った頃、やけに嬉しそうににっと笑ってそう言った様子から、相当好きなんだなと思ったのを覚えている。ディフォだと思っていたから、今まで特に話題にした事も無かったけれど・・・。
(そういえば、こいつ。最近、休みはいつも俺といるかだらだらと家で寝てるんだから、サーフィンなんかする暇なんて無いんじゃないか。)

 気がついた志方は、海に行きたいと言った相手の真意を、改めてもう一度測りなおしてみた。
 遠慮をして、遠まわしに言ったりするタイプじゃないんだから、連れて行けと言わなかった以上は、思わずも漏れてしまった本音という所だろうか。聞き流してやるべきなのか、それとも・・・・。
 顔を見ると、定まらない視線をぼうっと車の流れに向けている連れが、なんだか疲れている様子に見える。
「今週末の休みに、海に行くか?」
「あ?」
 思いもかけない事を言われた。そういう表情だった。
「いや、だって・・・・。」
「おまえ波に乗るんだったら、朝早く行くんだろう?俺、車出してやるから。その代わり、向こうへ着いたら、多分寝てるぞ。」
「それって、悪くない?」
「それを、気にするような関係だった?」
 友達でも無いけど、恋人でもない。束縛もしないけど、傍にいる事は必要で必然。だから・・・。
 うん、じゃ頼む、と、ひとつうなずいて、二人は目的のレストランの扉をくぐった。


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 志方は、夜のドライブが好きだった。海に行けない晃のために車を出してやるのを、なんとも思わなかったのはそのせいもある。法的にはちょっと問題のある速度で、車の流れを縫うように追い越して行きながら、次々と迫るカーブを滑らかなハンドルさばきで走り抜けていく。オーディオから流れるギターの音を頭の中で追いかけながら、ベースの刻むリズムに合わせて身体の芯を軽くパンプさせた。ポンポンと軽くブレーキを当てながらカーブに入っていく。ハンドルをゆっくりと戻しながらアクセルをぐっと踏み込んだ。身体がシートに押し付けられるような加速が心地よい。オレンジ色の街灯が次々と後ろへ飛び去っていく。海はもうすぐだった。
 やがて、高速を降りて古ぼけた街を抜けると、海沿いの道路に出た。漆黒の海に月明かりが白波を映し出しているのが見えて来る。





 志方は、いつになく無口な様子で窓の外をまっすぐに見つめる晃の事をチラッと見た。おそらくは、期待と興奮のせいだろう。晃のその様子について、理由を考えるのをやめて志方は、海岸線に入る道へ車を乗り入れて行った。早々とやって来て、並んで海の正面に陣取ったサーファー達の車とは少し距離をおいた場所に、ゆっくりと、自分の車を乗り入れる。シートから身を乗り出して海岸を見つめる晃の瞳が、輝いたのを認めて、志方はにやっと頬を緩めた。

 サイド・ブレーキを音をたててかけると、そのままシートに身を預け、二人は、暫くの間、お互いに何も言わず、海の方を見ていた。水平線の彼方上空がオレンジ色に染まリ出した頃、晃が助手席から降りて軽く伸びをした。潮の匂いがした。
 晃は、手早く半そでのウェットに着替えると、ボードに丁寧にワックスを塗り上げていった。その様子を黙って横で見ている志方の存在など忘れてしまったかのように。

 やがて、晃はボードを抱えると、志方に眼だけで合図をして、砂浜へと向かった。その後ろを、志方は、黙ったままディレクターチェアを肩に担いでついて行った。晃は、ビーチの右端まで行くと、ボードを砂の上に置いてストレッチを始める。志方は砂浜にディレクターチェアをセットして、朝陽でシルエットになった晃を、絵を見るような不思議な感覚で見ていた。 リーシュコードを右足に巻きつけ、大きく息を吸い込んだ晃は、歩き出そうとして、ふと、置き去りにしてしまった運転手の事を思い出したのか軽く振り向いた。週末のうちに読んでしまわないといけない資料を広げていた志方が、それに気がついて、さりげなく笑って手を振って見せると、それだけで、すっかり安心したのか、晃は、嬉しそうに笑った。そして、そのまま、海に向かって第一歩めの脚を踏み出す。

 波の音、潮の匂い、オレンジ色に輝く水面と雲、そして晃を押し返そうと当たっては崩れていく波。懐かしい感覚に思わず笑みがこぼれる。久しぶりの感覚。大好きな海の中に滑らかな動きで身体を滑り込ませていく。きれいにブレークしているポイントに向かって、ゆっくりとパドルアウトする。次々と寄せてきて彼を押し戻そうとする波さえ、晃にとっては、久しぶりに会う友人のようだった。目の前に波が迫ると、重心をボードの前に乗せ、ノーズを沈めて波の下に潜り込む。それと同時に右足を跳ね上げてテールを沈めて波の中にすっぽりと潜って。やあ。晃は、そんな、いつもだったら面倒な動作、ドルフィンスルーまでを楽しんでいる自分がなんとも言えずおかしかった。

 波がブレークしているポイントに着くと、晃は、一度だけ振り返って浜辺にいるはずの志方を探してみた。波の背に見える志方は、先ほどと変わりなくディレクターチェアに座って、資料を読んでいる様子だった。正面を向いて、空を見上げてみる。まだ明けきらない東の空にオレンジ色が強くなった雲がある。水面はまばゆく輝き、晃は一人、光の中で波が来るのを待った。
 やがて、沖の方から幅のあるうねりが近づいてきた。波のピークを予想して、水をかきわけて少し右に移動しながら波と重なるタイミングに合わせて、パドルを始める。
 波が後ろから晃の下にもぐりこむようにせり上がってきた。ボードが斜面を滑り出す。ボードが落下しながら加速しだすのと同時に、体勢を立てて左足を胸まで引き寄せる。
 前脚に体の重心をのせて、斜面を加速しながら少し斜めに滑り降りる。波のボトムまで降りきる前に体勢を低く保ったままターンをする。波の中腹で左に体を捻りながら軽くテールを蹴り込む。再度ボトムターンで加速していく。前方では徐々にショルダーが張ってきている。晃は、波のトップをめがけて、腰を低くして深いボトムターンから波のトップに駆け上がった。体をひねりながら後ろ足でテールへ体重をかけていくと、大きなスプレーが朝陽に水のカーテンを広げている光景が視界の端に見えた。 視界の先には次々と立ち上がってくる青い斜面がある。 思わず、叫び声をあげたいような興奮を感じながら、一方で冷静に波が崩れるタイミングを測る・・・そして決めたマニューバーで大きく波を切り刻んでいく。 長らくのブランクにも関わらず、晃は身体が勝手に動き、波と同調する感覚に言い尽くせない喜びが湧き上がるのを感じていた。
 ボトムの色が青から砂まじりの茶色に変わっていく。
 最後のショアブレークに巻き込まれないようにプルアウトした。

「ひゃっほーーーーぅ!」
 晃は誰に聞かせるでもなく、思わず叫んでいた。
 それから2時間程、何度も沖に出て、気に入った波を捕まえてその斜面を駆け抜けた。ぱんっと弾けた気持ちがすっかりからっぽになるまで。身体が重くなって、自然に波にたゆたう時を求めるまで・・・。






 すっかり満足すると、ボードから手を離して思いっきり水の中に潜ってみた。
 晃は水中から見上げる、水面に映る空が大好きだった。出来るだけ、深く深く潜り、くるりと身体の向きを変えて今度は水面を見上げながらゆっくりと浮上する。透明な水が揺らめく向こうにまぶしく煌く太陽の光と、透き通るような青い空がゆらめいて見える時。重力も自分の身体の重みもすっかり忘れて、できるだけゆっくりと水の中を浮上していく時。時間が止まる・・・。このまま、どこまでも漂っていけたら。何もかも忘れて、地上へ戻ることを捨ててしまえたら。

 ちくり。砂浜で待っていてくれる、志方の笑顔が視界をよぎった瞬間、自分勝手な想いをいましめるかのように胸が痛んだ。晃は、ボードを手繰り寄せると、ちょうどやってきた崩れた波にちょいと乗って岸に向かった。



※サーフィンのシーンは、いつものackyに取材協力いただきました。

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 浜に上がってきた、晃は、ちょっと疲れたような顔色で、志方は、不思議な気持ちでその表情を追った。2時間以上も潜ったり、滑ったり、生き生きと波の中を駆け抜けていたというのに。満足して、すっきりとした顔で戻ってくると思っていただけに、おやっと思ったのだ。不思議だった。車の所へ戻るとすぐに、慣れた手つきで手早くウェットスーツを脱いだり、タンクを傾けて頭を洗ったりしている彼を追いかけるように、足早に近づいて行った。
 海の中にいる間、その姿をずっとみつめていたために、片付けるべき仕事の準備はまったく捗らず、ただ、求める相手に近づきたい欲求が高まっただけだった。ウエットスーツを脱ぎ捨て、現れた白いぷりんとしたその尻となだらかに続くくぼみがはっきりとした背中。それが、動くたびに、筋肉の筋がしなやかに浮き上がるのを見つめていると、場所柄も考えずに引き寄せたくなってくる。志方の無造作に伸ばした手が、相手の濡れた腕に触れようとした時、タオルを探して車のドアの奥にかがみこんでいた晃が、ぱっと振り向くなり、その手を激しく払いのけた。






 驚いた。その、振り向いた瞬間の血相が変わった表情と、姿を認めた途端に振り払った相手が志方だった事に、完全に動揺してうろたえた晃が、今、払ったその腕に跳び付くようにしがみついてきた事に。予想もしなかった彼の反応に、
「えっ?ちょ・・・・。晃。どうしたんだよ。」
 普段、彼はあまり激しい感情を表さない。ポーカーフエイスと云うわけでもなく、むしろその表情は、細やかで微妙に移り変わるその気持ちをきちんと表現していたけれど、それでも、やっぱり、どちらかといえば、思ってる事をはっきりと言いたがらない。言わない気持ち。隠そうとする感情。そんなものが痛々しくて、ついつい構ってやりたくなって、そうして始まった二人だったけれど。それだからこそ、いつも晃が、つかず離れずという距離に拘っているのも分っていた。そして、そのせいでつかみどころが無く、感情が揺れ動く理由もいったいどこから来るのかさっぱり分らない。それが、志方に、懐かない猫を飼ってるような気分をもたらしていた。

 顔を覗き込もうとして、しがみついてくる身体を引き剥がそうとしてみたが、男がその気になって腕に取りすがってるものを、簡単に動かせるはずも無かった。
「晃?」
 抱きしめた腕に頬をくっつけたまま、震えている晃の背をそっと抱き寄せた。濡れた身体は、急速に冷えていこうとしている。志方は、自由にならない方の反対の腕で、晃が落としたバスタオルを拾い上げると、降り拡げて晃の肩にかけた。片手でやったので、ちゃんと広がらなかったとはいえ、裸の男を抱き寄せてるよりもましだろう。
 周囲へ目を走らせたが、男同士でもつれ合ってる二人を見ている者は誰もいなかった。一安心した志方は、しがみついたままの晃の身体ごと、車の中に押しやって、続いて自分も彼を奥へ押しやるようにしながら乗り込んだ。
「間違えたんだ。」
 掠れた声で晃が呟いた。
「誰と?」
 先を促しながら、彼の身体に申し訳にまつわりついているバスタオルで、濡れた髪から雫が流れ落ちるうなじを擦ってやった。ショックのせいか、身体はすっかり冷たくなってしまっていた。


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 引き結んだ唇を噛み締めながら、駄々っ子のように首を振る彼を見て、志方は、しょうがないなぁと、呟きながら、もう一枚のバスタオルをボストンバックから取り出して、晃の身体を拭いてやり始めた。言えない様子の彼に無理強いしても、かえって依怙地になるだけなのだ。四方八方から覗く事が出来る車の中で出来る事と言えば、少しでも彼の身体を乾かしてやる事。何気なく世話をやいてやる事で、彼のこわばった気持ちを暖めてやる事。話を聞く時間はたっぷりある。そして、お互いの距離を縮める時間も。
 あせるな。あせるな。晃に。そして、自分自身に、心の中で言い聞かせながら。志方は、彼の頭の上からバスタオルをすっぽりとかけてやるとゴシゴシと乱暴に擦りたててた。


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 二人の間で、帰りの車の中は、沈黙がやけに重かった。会話する事が必要じゃなかった往路のドライブとはまったく違う。話すべき事があり、話したい気持ちが充満し、それでいて、その気持ちの圧力があまりにも強すぎてお互いに口を開く事ができない。晃は頑なに顔を背けて、いらいらと爪を噛んでは、辛そうに目を瞑る。振り払えない記憶と、形にならない想いが交互にせめぎあい、その間で身動きが取れなくなっていた。
 志方は、そんな、晃の様子を運転の合間にちらちらと伺っていたが、ため息をひとつ付くと、シフトチェンジをした左手を伸ばして、晃の膝頭ぎゅっと、握ってやった。はっとしたように顔を上げる晃へ、微笑んでみせる。
「家に着くまで、忘れろよ。」
 晃の歪んだ頬へ、手の甲を滑らせる。
「寝室で、無理やり聞きだしてやるからさ。」
 晃の一瞬見開いた瞳が濡れたように揺れる。
「おまえから、話そうとしなくていい。おまえが話したいわけじゃない。話さなきゃいけないわけでもない。俺が無理やり言わせるんだ。心配しなくていい。」
 ゆっくりと降りてきた、シャドウのかかった目蓋が、彼の心を映し出した瞳を覆い隠していく。掌に押し当てられたそそけ立った冷たい頬。志方はその頬を撫で上げた手で、晃の髪の毛をくしゃっと掻き混ぜた。
 後は、踏ん切りをつけたかのように。ぐんっとアクセルを踏んだ。身体をシートに押し付ける加速が、重たい空気を後ろへ吹き流していくように。今から交わさないとならない会話が決して愉快なものではないのは、二人とも充分承知していた。


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 ドライブインで食べたスパゲッティは、安物のケチャップの味がした。うどんのように柔らかい麺がどうしても喉を通らなくって、晃はフォークで麺をかき混ぜているうちにソースを撥ねてしまった。シャツに付いた赤い染みが、まるで、消せない過去の出来事のように鮮やかだ。忘れたい。そして、忘れられない出来事。その事が、繰り返し自分の中で浮かんでは消えていく。海に行きたくて、行きたくなくなった、そのきっかけ。すんでしまった事として押しやった過去。自分の感情を表現する事の苦手は晃は、毎日の出来事をそうやって押しやる事に慣れてしまっていたはずだった。だから、志方が車を出してくれると言ってくれた時、本当に嬉しかったし、なにも考えずにその話に飛びついたのに、まさかこんな形で過去がよみがえってくるなんて・・・。溜息はいつの間にか深く、自分はその事にすっかり捉われている。
 わざとらしく、しらっとした顔で煙草をふかしている志方をちらりと見ると、晃は情けなさにもう一度溜息をついた。

 そんな自分を振り払って消し去りたかったのか、晃は、志方の家のドアをくぐるなり、蹴りつけるように靴を脱ぐと、挑むようにきつく志方を睨んだ。すっかり、煮詰まってしまって、思うようにならない自分のもどかしさに捉われて、いつのまにかそれを志方にぶつけてしまっている事にも気が付かなかった。
「シャワー浴びてもいい?なんか、べとべとする。それに、シャツも洗いたいし・・・。」
「あ?うん、いいよ。お湯を張ってゆっくり浸かって来い。」
 志方のいつもと変わらない静かな声音に、一瞬くしゃっと顔をゆがめた晃は、きびすを返して行く。大きな音をたてて、脱衣場のドアが閉まると、志方は、髪をかきあげてひとつ溜息をついた・・・。
「なんなんだ、いったい・・・・。」
 荒れてる相方の本音を無理にでも聞いてやったほうが楽になるはずだ。その確信はあったものの、さっき車の中で約束したその「無理やり聞き出す」が、本当のところはどうやればいいのかは見当がつかない。冷蔵庫を開けて、一番最初に目に付いたミネラルウォーターの蓋を捻り、一気に喉の奥へと流し込む。ソファに座って、煙草に火をつけて・・・それでも、その一本目を吸い終わる頃には志方の気持ちも落ち着いてきていた。ああ、なるようにしかならないか、と、ひとりごちた。志方は、やはり、どこか腹の据わったところのある男なのだった。
 白い壁紙にモノトーンの家具が並ぶ、ほどよく散らかった殺風景な部屋は、身辺にかまわない独身男性の部屋そのものだった。それでも、いつ晃が泊まっていってもいいように、わかりやすく、かつ、見苦しくない程度には整頓されている。いくつか並べられた観葉植物の葉が、つやつやと光って、何気ないでようでいて志方がちゃんとこの部屋を居心地よくするために気を配っている事を現していた。
 何本目かの煙草を灰皿に捻りつけた後、ふと、志方は時計へ目をあげて、いぶかしく思った。あれから、湯を張って浸かっているにしろ、いやに長い。だけでなく、絶え間なくシャワーの出る音が聞えてきている。湯を張っていないのなら、いったい何をしてるんだろう。急に不安になった志方は立ち上がると急ぎ足で風呂場へと向かった。

「おい、入るぞ。」
 ずっと、シャワーを出しっぱなしなのだ。辺りはもうもうと湯煙が立ち込めて・・と思った予想に反して、風呂場はひんやりと冷たい空気の中に水しぶきが飛んでいる。え?っと自分の感覚を疑って目を凝らせば、その水の流れの下にシャツを着たまま頭からシャワーを浴びつつけていた様子の晃を見つけて、志方はぎょっとした。
 いくら夏だといってもとんでもない行為である。
「こら、やめろよ。風呂に入れって言っただろう?」
 服が濡れるのに頓着せずに腕を伸ばしてコックを捻った。ずぶ濡れで、ペットリと張り付いたシャツをまといつけた晃の生気の無い瞳がゆらりと志方の方を見た。見たと思った。見えている?いや、見ていない?
「晃?」
「シミが落ちない・・・。」
「ああ?」

 言われた事の意味を捉えかね、それでいて、こいつはいったい何をと思いながらも身体は勝手に動いていた。シャワーノズルを取り上げて水が晃にかからないように向きを変えてから、設定温度を上げてもう一度コックを捻る。温かい湯になるまで待つ間、晃は何か言うでもなく、壁に身体をもたせかけてぼんやりと志方の手元を眺めている。
 充分温かくなったシャワーを晃の頭からかけた、まるで人形のようにぼんやりとしていた晃が驚いたように腕を上げて、水流から逃れようとするのに唖然とした。こいつ・・・とことんおかしくなってないか?もう一度シャワーフックにノズルを戻すと、腕を伸ばして晃を抱き寄せた。無理やりお湯の下に引きずり込み、抗う相手を抱きしめるようにして壁に押さえつける。

 服を着たままシャワーを浴びるという異常事態と、暴れる相手の身体を無理やり押さえつける行為のせいなのか。志方は、自分がその気になっている事に気づいて、驚いた。暴力と性的興奮は裏表の密接さで存在するのだろうか。その事を考える余裕も無く、首を抱きかかえると頭を傾けて相手のその唇へ自分の唇を押し付けた。むさぼりつくような志方のキスに、晃は、必死になって逃れようと抵抗してきた。何で逆らう?何が気に入らない?
 こんな事は初めてだった。急に膨れ上がった凶暴な衝動に任せて、志方は相手の舌を思いっきり吸い上げた。キスは噛み付くように相手の口をむさぼる行為になり、押さえつける腕にも力がこもる。吸い上げられ、息が出来ずに、腕の中でもがいていた晃の身体も志方の押し付けるそれに反応して勃ち上がってきた。

「い、いやだ。いや。こんなの嫌だってば。どうしてさ。なんで勃っちゃうんだよ!」
 力任せに志方を振り払った瞬間に、晃は思いっきり叫んでいた。晃の瞳に盛り上がる涙を見つけて志方は唖然とした。いらいらして、相手に八つ当たりする。泣きながら怒鳴りつける。志方が普段見ている晃が、いつも茫洋とした膜の下に隠してけっして見せようとしなかった素顔。最初の夜にしがみついてきたときから、そこにあるのが分っていながら、もどかしく掴む事のできなかった素顔が浮かび上がってきていた。ああ、これだ。志方は、自分の中がなぜか切なく嬉しい気持ちで満たされていくのに気が付いた。おれは、こいつのこんな所に魅かれたんだった・・・。


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  降り注ぐお湯の中で、お互に主導権を奪おうと揉みあった。押さえつける志方と、その腕を跳ね除けようとする晃。狭い浴室の中では、思ったように動けはしない。すぐに、どちらがしかけ、どちらが抵抗しているのか、分らなくなっていく。つるつると肌が滑り、その感触とお互いの筋肉が絡み合う事だけに、夢中になっていく。熱い湯気の中の激しい呼吸音が浴室の中にこだまし、お互いの耳に、心に変化をもたらしていく。ひとつの行為を奪い合っているか、分け合っているのか、訳が分らなくなっていく。
 噛み付くようなキス。どちらが仕掛けたのかも分らないキス。お互いの気持ちを、欲望を、愛情をぶつけ合ったキス。吐息を奪い合う、舌を絡め合う、深く、深く、心の奥底まで確かめ合うように。志方の首に腕を廻した晃が、必死にしがみついてきた。熱くたぎるものを擦りつけあう。何度も何度も息をついで、お互いの唇をむさぼり合っているうちに頭はぼうっとして、なにをしていたのかも定かでなくなっていた。

「入れて・・・。」
 晃が、ようやく、唇をもぎ離したかと思うと、性急に、志方の身体の上にずり上がるようにのしかかってきた。
「だいじょうぶ。もう、洗ってある。」
 そんなふうに、何の準備もなく無理だ・・・こら、やめろよ・・・頭の中では、志方は必死に抵抗していたのに、自分の体に、相手の谷間が押し付けられ、なぞり上げながら位置を探ってくる馴れた動作に、冷静になろうとする努力は吹っ飛び、惑乱した心はすでに動いていて止めようがなかった。志方は、スキンもつけずに、慣らしもせずに無理矢理に相手に押し入った。晃の身体が硬直し、志方の腕を掴んでいた掌が皮膚に喰い込んできた。

 悲鳴が・・・・

 ・・・・聞こえた。どちらのものか分からない悲鳴。音になった訳でもなかったのに、まるで、触れられるかの様に感じられた悲鳴が。一番大きい場所が通過しないうちに皮膚が裂けた。志方は、まるで自分のもののようにその感覚を味わった。そして、その瞬間、自分があっけなくはじけた事を知って呆然とする。そして、引き裂かれた晃の硬直がほどけた時に、相手が一緒に達したことに気がついた。
 荒く息をつきながら、お互いの身体に腕を廻したまま、ふたりは頭から降り注ぐ湯の中に座り込んでいた。風呂場の床に赤い鮮血が模様を描いて流れていくのをぼんやりとみつめながら・・・・。



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 身体に訊くという約束だったから、志方は、ベッドへ移って仕切りなおすことにした。風呂の中で分け合った異様な興奮状態は、射精とともにすっかり抜け落ちてしまったとは云え、何もなかったように日常に戻っていくのも居心地が悪い。間を置かないで、ちゃっちゃと済ましてしまおう・・・。志方の気分としてはその程度だったが、晃はどうだったんだろう?
 だが、もう一度、腹にしまい込むのは無理なのは晃のほうだっただろう。すっかり乾いたお互いの肌をぴったりと重ね合ってはいても、話さなければ何も分からないのはお互いさまだった。


 ・・・・去年の夏に、一人で海に行って・・・やっぱり同じように、あんな感じで身体を洗って拭ってた時に、誰とも分からない奴に車の中に押し込まれて犯られた事がある。
 顔もよく見る暇もないうちにさ・・・・。乱暴に押し倒されて、抵抗しようとしたら殴られた。腕を捻じり上げられて、縛られて・・・。押さえつけて手を突っ込まれた。

 知らない奴だからっていうよりも、あまりの性急さと乱暴さに驚いて、そのやり方にかっとなって、反射的に暴れたんだけど、それがいけなかったのかなぁ。手加減なしに何度も殴られるし、痣になるほど手酷く押さえつけられるし、縛っただけじゃなくって、タオルを口に突っ込まれて上から猿轡みたいなのかけられるわ、なんなのか分からない物で目隠しされるわ。もう、後ろ手に縄を掛けられてるから、出来る事ってもがいたり、足を使ったり、はねのけようとすることぐらいだろう?向こうは、それがうざかったのか、乱暴に押さえつけて、膝のあたりにも・・・なんか、縄みたいなものをひっかけてさあ・・・ヘッドレスト辺りに結び付けられてぐるりと胴に回してから、反対の膝にも・・・。
 そうすると、もがくと腹に巻きつけられた縄が締まって苦しいんだ。無理な体勢になってて、それだけで痛いのに男の体重で乗っかられると、なんか関節にもろ体重がかかって、こっちは悲鳴をあげるんだけど、タオルのせいで声にならないし、文句も言えないし、息をするのも苦しくって・・・・。で、仕方なく、おとなしくするしかないか、って・・・。
 そしたら、相手もはあはあ言いながら、じっと見てるんだよ。動けないで、でも、なんかじっとしてられない俺がもぞもぞするのを、黙あってはあはあ喘ぎながら。

 それまでは、頭来てたから、怒りの方が強かったのに、その瞬間に、なんか、モロ「変態」って感じで、ぞおっとしたんだ。嫌悪感に鳥肌が立ってくる感じ。そしたら、相手が触れてきた。もう、ゲロしちゃいそうに嫌な気分で、でも、どうしようもなくって・・・しかも、無防備な男の急所を、そんな変態に握られても逃げようがないんだ。
 で、嬲られて、唾つけて、手を突っ込んでこられて・・・痛いし、気持ち悪いし、身体は反射的に逃げようと仰け反るのに、縄が締まって逃げようがなくって・・・準備もろくに出来てないのに乗っかってこられて、押し入ってこられて、そいつの汗ばんだ肌が気持ち悪くって、いやな匂いが・・・・はあはあって息を吹きかけられる度にそいつの口臭が・・・

逃げられない。痛い。嫌だ。嫌だ。嫌だ・・・・

それなのに・・・・

それなのに・・・・

なんだ・・・・これ・・・・

「ほんとに嫌だったんだ。だけど、身体は反応した・・・。」
 志方は、考え込んだ。自分だったらどうだろう。よく、そういうことの願望とか、男の幻想であげつらうことがあるけれど、実際に直面してみたら男だろうと女だろうと、関係なくそりゃ厭だろう。だからって、直接的に刺激されたら、反応しないで済むっていう自信はまったくない。
「生身なんだし、誰だってそうさ。だからって、被虐趣味があるとは限らないだろう。」
「そうだけど・・・。」
 志方は、晃の額にうっすらと冷や汗が浮いているのを認めた。そっと手を伸ばして、拭ってやる。両腕で身体を抱きしめた、晃が、かすかに震えているのが分かった。

「その後から、夢を見るんだ。その時の夢じゃない。ただ、無理やり、犯られる夢。」

 そして、苦しそうに彼は眉を寄せると、首を振った。
「すごく、嫌なんだ。ぞっとする。」

「・・・なのに、・・・なのに。」
ゆっくりと一度目を閉じて、それから、またゆっくりと開く・・・。
「身体は勃ってる。興奮してるんだ。」
 一瞬泣きそうに歪んだ表情が、あっという間に普段の彼の整った仮面に吸い込まれた。
「もう一度、犯されたいとか思ってるわけじゃないんだ。あの車の中に充満した、やられちゃった時のあいつの匂いとか・・・ほんと、もう思い出すだけでも嫌だったし。だから、結局、あの車にも乗るのが厭になって、売ってしまったし。いや、だからってさぁ・・・おぼこじゃないんだから、ちょっと無理やりされたからって、その事が忘れられないとか、夢に見ちゃうとかなんて変だろ?」
「変だとは思わないけどな。」
「変だよ・・・だって、男のくせにさぁ。」
「納得できないでいるくせに、無理やり蓋をするから、整理できないままに忘れられなくなってるんじゃないのか?」
「分からない・・・。自分が何を感じてるのか・・・何を考えてるのか・・・どうしたのか分からないんだ。」





 しばらくの沈黙の後、それを振り払うかのように晃は顔をあげた。
「だから、やってみれば、分かるかなと思ったんだ。・・・けど。どうしたらいいか分からなくて・・。」

 なにを、やってみるなのか一瞬、話の流れを見失った志方は、腑に落ちたとたんに、げんなりするような、安心したような、笑い出したいような混乱に襲われてしまった。

「・・・おまっ、だからって、俺を縛ってどうするんだ。」
「よくなかった?」
「違うって、お前、反対なんじゃないか?」
「え?」
「俺を縛るんじゃなくってさぁ。」
 頭がくらくらしてきた志方は、自分の額を押さえた。ほんとに、よく分かってないような、ぽかんとした晃の表情に、志方は「こいつ、ぜってぇ、Mでも、Sでもないんじゃないか。」と、ぶつぶつ思わずにはいられなかった。確かに、時々、自暴自棄なのか、考えなしなのか、分からない行動を取る奴だとは思っていたが、それが、嗜好の結果だとはとても思えない、いいかげんさだった。
「縛ってやっても、やられても、俺は、気にしないけどさ。お前、どっちの方が好みかちっとは考えてくれよ。第一、よくなかったかって、俺を縛った上に俺の反応を考えてどうするんだ。」
 長い長い沈黙が続いて一層、志方を脱力に誘う。
「あ・・・、そうか。」

 本気でお馬鹿な奴・・・志方は心底呆れて首を振った。仕事をやらせたらすごく切れるし、先へ先へと読んで先手先手を打って驚くべき成果を引き出す事のできる実力の持ち主だから、頭がいいと思っていたのは、勘違いだったのかもしれない。
 だが、びっくりしたように、見つめてくる彼の瞳を見ていると、何を考えているのか分からない普段の彼よりもずっと可愛く、何でもしてやりたい、悩みがあるのなら、消し去ってやりたい・・・と、思わずにはいられないものがあった。
 俺、ほんとに惚れてるのかなぁ。志方は、半分、諦めモードで自分に問いかけてみた。嗜好がどうとか、やりたいとか、やられたいとか、そんな事抜きでも、相手のためなら何でもしてやりたいような気がする。今までに、感じたことの無い保護欲のようなものに、志方としては、ただただ、ため息を付くしかないのだった。



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 晃がやりたいっていうなら、やれば分かるような気がするなら、試しに「SM」してみよう。別に、やってみて、ダメだったら、やめればいい。やってみてなにも分からなくても今と変わらない。志方にとっては、「SMしてみる」って、言う事は、その程度の感覚しかなかった。
 反対に「Mの方やってよ」と、言われても「ああ、いいよ。」と、答えたかもしれない。会社で晃に手首を縛られた時も、深く考えもせずに腕を差し出した。
 ただ、風呂場での乱暴なセックスの合間に、閃くように何か見えたような気がしたのも本当だった。楽しむことや感じる事、技巧を凝らす慣れた手順。そんなものを全部起き捨てて、ただ、気持ちをぶつけあった。

「うーん・・・、けど、なんか違うような気もするしなぁ・・・・。」
 正直に言うと、SMが何なのか全く見当がついていない。今、彼が見ているのは、会社帰りに寄ってきたレンタルビデオで適当に2、3本。借りてきたSMビデオだった。
 お手軽に近場で済ませたために、もちろん普通の男女のカップルだ。日頃、視界に入ってきても、大して気にも留めないし、むしろ意識的に避けて来たためによく見たこともない裸の女性が、パンパンに膨れた胸を縄で絞り上げられて、男の上で腰を弾ませている。
 ものすごく、嫌悪を感じるほどでもないが「あんあん」うるさいビデオだなと思う。さっきまでは、胡坐に縛られた身体を転がされたまま、ヴィンヴィンと唸るバイブを抜き差しされて、やっぱり「あんあん」言っていた。
 縛られているだけで、普通のセックスだろう。むしろ、女を感じさせることに躍起になっている男と、与えられる物に貪欲な女が、お互いにもつれ合っているだけで、その本質は、快楽を求めるごく当たり前の行為のように思える。
 リモコンでしばしば早送りしているうちにあっけなく終わってしまった。がっくりと脱力した志方は、二本目のビデオをデッキへ突っ込んだ。さっきとほとんど変わらない導入部分は、最初から早送りですっとばした。

 一本目よりもスレンダーに見える女性が、手首を後ろに押さえつけられている所に来て、ようやく志方は普通の再生スピードに戻した。肩を揺すって泣いている女性の身体に縄をかけ回す男。
 なんかおかしい。相手が本気で逆らっていたら、こんなふうに縄をかける事は出来ないような気がする。まず、横倒しに転がられたら、終わりなんじゃないか。まあ、AVなんだから、お互いに協力し合っての撮影なんだし、そんな所を突っ込んでも仕方ない。
 ゲイ物のビデオだって似たり寄ったり、ホントのところ、別にストーリーなんか見ちゃいないから、もっといい加減な展開だったりするのに、どうでもいいように思っていた。男女になった途端に、不自然に感じるのは、冷静に見ているせいなんだろうか。

 部屋を暗くしているせいで、テレビ画面の明滅につれ、部屋が照らされたり暗くなったりする。志方は椅子の背によりかかってぼんやりと、画面の中の男のする事を見つめていた。後手に縛りあげられた女性の身体が、天井から下がっている縄に繋がれる。男は房のついた鞭を取り出して、女の尻を叩き始めた。
 悲鳴を上げて、女性の身体がくるりと回る。立たせておきたいなら、なんで後ろ手に縛るのかよく分からないな。俺だったら、腕は一つにくくってつるした方がいいような気がする。いや、多分、あの縄が問題なんだな。ぐるぐる巻きにする事が、肝心なんだろう。
 そんな事を、とりとめもなく考えているうちに、女の尻がだんだん紅くなってきた。ぺらぺらとした、鞭で打たれても腫れてくるらしい。ひいひい泣いている女の「性別」が、いけないのか。それとも演出が悪いのか。志方は溜息をひとつついて、目を瞑った。

 今、見たばかりのビデオの記憶を追い出して、晃の身体を思い浮かべる。どこから見ても、柔らかいところのない、細くしなやかな身体。手首を縛って吊り上げると、浮いてくるはずの筋張った筋肉。あいつは、こんなに声を上げたりしないだろう。いや、痛ければやっぱり叫ぶのだろうか。多分・・・。
 縛られるのは嫌なはず。してみたいって言いだしたくせに、縛られた自分を容認できず、嫌悪に眉をしかめながらも、黙って素直に打たれるのだろうか。俺は嫌じゃない。だが、あいつはきっと心底それが嫌なんだ。だからこそ、興奮する。だからこそ、怖しい。
 志方は、床に転がされ、落ちてくる蝋に仰け反って悲鳴を上げる女を背にしながら、パソコンのスイッチを入れた。まず、縄だ。それから鞭。そして、蝋燭。多分、他の道具も。どうすればいいのか書いてある本も必要だろう。ノウハウのビデオとか出ているといいけどな。



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