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 明け方の夢を膨らませて作った、切ないSMの物語


★新館・旧館・別館の構成★

1.新館、通常更新のブログ

2.別館、女性向けSMあまあまロマンス
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性的、暴力的な表現を含んでいます。
虚構と現実の区別のつかない方
18歳未満の方はご遠慮くださいませ。
自己責任に於いて閲覧していただきますようお願いします。

 

 ぐったりと体中に力が入らなくなった私を蝶のように留めつけていた枷の金具が手際よく外されて、あっという間に私は、博人さんの腕の中に引き込まれていた。髪の毛を撫でられて。頬を撫でられて。目隠しを外された。アイマスクも……。光が、まぶしく目が開けられないのではと思って、しばしばと瞬きながら周囲を見廻すと、部屋は薄暗いままだった。
「…え?カーテン。博人さん、カーテンを開けたでしょ!」
「開けた」
 博人さんが私の目を捉えてにっこりと笑った。
「そして、閉めた」
 なんてこと!あの、二回のカーテンを引く音は博人さんが私に仕掛けた罠だったのだ。
「カーテンを開け放して光を入れるなんて言ってないよ」
 いたずらっぽい笑いを浮かべて覗き込んでくる博人さん。なんて、いじわるなの!もう!でも、結局はオレンジ色の灯火だけでも私の反応はつぶさに見られていたことになる。
 そう、それから、もうひとつ訊きたい事があったのだ。彼の胸に顔を埋めておそるおそる問いかけた。
「ね。ミントの匂いのするもの塗ったでしょう?」
「ああ。うん」
「あれ、何を塗ったの?」
博人さんは、ひょいと手を伸ばして枕元においてあった緑の小瓶を取った。
「これだよ」
「………」
 マウスウォッシュだった。博人さんはこれ見よがしに口を開けてシュッシュッっと、吹きかけて見せた。妖しげな媚薬を想像していた私は思いっきり脱力した。博人さんはくすくす笑いながら思いっきり私を抱きしめた。
「愛している。夕姫は、すごく可愛い。僕は、もう夕姫にメロメロだよ」
 嘘。嘘。嘘ばっかり。私の気持ちが今日、どれほど上がったり下がったり、きりきり舞いしていたか知っていたくせにその有様を見て楽しんだんでしょ
「うん。すごく楽しかった。特に、触れてこないローターに炙られて、どうしようもなくなった夕姫が必死にシーツにしがみついているところなんか…あまりにも可愛くて、正直、脳が焼ききれるかと思った」
 博人さん!そんな事。そんな事。どうして平気で大きな声で言うの?私が口をパクパクさせると。博人さんは、ぐいっと頭をかき抱くようにして深いくちづけをして来た。それも、何度も何度も。私が、それだけで喘ぎ声を上げて、身もだえせずにはいられなくなるまで何度も角度を変えて、深くディープなくちづけを繰り返す。
「ねぇ、夕姫。君が思っているほど、僕は冷静じゃないんだよ。今まで、僕は何人ものパートナーを調教してきた。それは、サディストだから、酷くすればするほど、興奮するんだよ。
 今までは、自分の手首を切り裂きかねないような自虐の代わりにSMを求めている青年や何人ものベテランのSにきっちりと仕込まれた女性を相手にしていたから、僕がおそるおそる手探りで進んでも、相手はずっと先で待っているような状態だった。
 だけど、今は違う。愛している君をこの腕に抱いて、セックス出来るということだけで僕はいっぱいいっぱいなんだ。君がきりきりまいしてるって思っている以上に、僕は自分をコントロールするのに必死になってるんだよ」
「嘘」
博人さんはいぶかしげに顔を覗き込んでくる。
「…どうして嘘だと思うの?」
「だって、全然そうは見えないもん。博人さんは、いっつも冷静で自信ありげで、偉そうで、実際偉くって、絶対適わないくらい高い空の上を大きな翼で飛んでいるんだもの」
 私の肩を抱いていた手にぎゅっと力をいれた博人さんは、反対の手で額をこれみよがしに押さえた。
「夕姫。冗談だろう?」
「ううん。本気よ」
「さっきの仕返ししているんだろう?」
「だって、全然適わないんだもの」
「やっぱり冗談なんだね」
「…ううん。ホントにそう思っているもの」
 博人さんの目がきらりと光って、私は急いで彼の腕をすりぬけようとした。間に合わなくってあっという間に抱きしめられて。それからキス。もう一度キス。熱くなった体にゆっくりと彼が分け入ってきて……。
「覚悟しておいでよ。僕がサディストだって事を忘れないで」
 博人さんの重い体にのしかかられながら、私はもうすでに十分後悔していた。



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 次の金曜日、博人さんと私はちょっとしゃれたフランス料理のお店で夕食をした。私の仕事が終るのを博人さんは会社の玄関じゃなくって300メートルくらい離れた路地の駐車場で待っている。会社の人に見つからないように。だって、博人さんの乗っている車は大きくってピカピカしていてやけに目立つ。博人さんは、いつも車の外に出て車に寄りかかって待っている。あまりにもしゃれた服装で、かっこよく見えるのでこれまた目立つ。だから、会社の前で待っていたらすぐに噂になってしまうと思って、いつも、ちょっとは離れたところで待っていてもらうようにしたのだった。
 車に乗ると仕事用のバックは、トランクにしまい、上着を脱いで、いくつかアクセサリーをつけて、結んでいた髪をほどく。それから、博人さんが選んでくれたちょっと小ぶりのバックと上品な上着が魔法のように現れるので、それを身に付ける。ちゃんと博人さんが案内してくれる場所で浮き上がらないように、いつもシンプルなワンピースを着て行く様にしていた。
 博人さんが連れて行ってくれるレストランでは、ちゃんと着飾った男女がなごやか食事を楽しんでいるところが多いのだ。料理もとってもおいしいし、私にはちょっと場違いな気分だった。
 でも、回を重ねるうちに最初のように食べたものの味がよく分からないような緊張は無くなった。いつも、メニューは博人さんにお任せ。きちんと説明してくれるので、私はそれらの知識を大急ぎで取り込んで、さも周囲の立派な人たちのお仲間のようなふりをしながら食事をしていた。
 最後のデザートとコーヒーが出たころに、奥の個室から外国人のカップルと何人かの日本人のグループが出てきた。そして、通り過ぎるときにそのうちの一人がおやっというようなそぶりでこちらを見た。博人さんは背中を向けていたので気がつかなかった。その人は、全員をドアの外へ送って行ってから、改めて戻ってきた。
「博人」
 博人さんは、ぱっと振り向くと、ちょっと目を見張って、立ち上がった。
「叔父さん」
 何だかとっても背の高い中年の紳士だった。にっこりと笑って、私のほうへうなずくように顔を向け、ちょっと眉をあげた。博人さんは、すごくためらってから、仕方ないという様子でうなずいた。
「叔父さん、紹介します。大学で同じ学部だった姫野夕姫さん。夕姫、これは僕の母方の叔父で高原弓人氏。僕が、事業を起こしたのも、全部彼のサポートを受けての事なんだ」
 そう、事業。博人さんは大学に在学中からベンチャーの会社を起こして、小さいなりに社長業をやっているんだった
「いやいや、彼は優秀なのでつい手を貸してあげたくなるんですよ」
 差し出された手を、私は立ち上がって握った。暖かくて大きな手。
「で、いつ結婚する?」
 私は高原さんの手の中に手を預けたまま硬直した。
「叔父さん!」
 博人さんが珍しく赤くなっている。
「だって、部屋の総入れ替えをした原因だろう?」
 え?……部屋の総入れ替え……?
 そう、あのマンション。SMのためのプレイルームのあるマンションは「事業を起こすときに出資してもらった母方の叔父のマンション」だと言っていたっけ…。しばらくぼんやりと高原氏の顔を見つめていた私は、急に頭がハッキリしてきて、慌てて自分の手を彼の手の中から取り戻した。
 ということは、ということは。…知っている?博人さんがSMを好きで、三人のプレイメイトを持っていて、その人たちと別れて、私を縛っているってことを知っているってことォ?
 天地がひっくり返ったかと思った。今日初めて会った人が、博人さんが私を抱いているって知っている。SMすることを私が承知した事を知っている

 この人は、みんな知っているんだぁ!

 かあああっと体中が真っ赤になったような気がして、私はうつむいた。そんなことって!もう、顔をみられないじゃないのぉ~。
 くすくすと高原氏が笑うもんだから、博人さんも困ったような顔をしてチラッと私のほうを見た。
「まだ、そこまで、言ってないんです。叔父さんが先に言い出しちゃ困ります」
「ああ、そうか。悪い。悪い。……すみませんね。夕姫さん。まさかこいつが、ちゃんと恋愛するとは思ってなかったもんで、嬉しくてね」
「叔父さん……」
 博人さんが頭を抱えてますます困った様子をすると、高原氏は心底嬉しそうに声を上げて笑った。ポケットから金色のクレジットカードがひらめく。博人さんは、ちょっと頭を下げてカードを受け取ると、会計をするために入り口の方へ行った。
「悪く思わないで。本当に私は喜んでるんだ」
 高原氏はにっこりして、再度、私の手を取った。私は、恥ずかしくて消え入りたいような気持ちだったけど、まさかその手を振り払うわけにも行かなかった。
「博人をよろしく」
 戻ってきた博人さんからカードを受け取ると、鷹揚に手を振って、礼を言おうとする博人さんを遮って、高原氏は帰っていった。博人さんは、どさっと音を立てて椅子に座った。こんな振る舞いをするなんて、ほんとに珍しくて、私は改めて博人さんを見た。
「まいったな」
 なにが?博人さんはどきまぎする私の目を覗き込んだ。
「もうしばらくは、内緒にしとこうと思ったのに」
 なにを?私はだんだん体が熱くなって、さっきよりも赤くなってるんじゃないかと思うと気が気じゃなくなってきた。
「マンションへ来る?」
 ……それは、つまり…今夜も。
 私は、真っ赤になったままうなずいた。




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 薄暗い部屋の中で博人さんは私を手枷につないで吊り上げた。レストランへ寄るために履いていたハイヒールのかかとが浮くんじゃないかと思うくらい。手枷が下がる縄がぎしぎし擦れる音がする。ノースリーブのワンピースだから、脇の下が無防備にさらされる。それだけで、すごく恥ずかしい。
 鏡の中に釣られた私の姿が映っている。スポットが向けられていて、鏡の中の私を照らしていた。しっかりと足が付いていないため、バランスが取りにくく足を踏み間違えるようにして体が揺れる。ゆらゆら、ゆらゆら。博人さんは椅子に座って、私が足を踏みかえ踏みかえしながら、鏡に映る面積を少しでも減らそうとして体を斜めにしたり、バランスを崩して戻したりするのを見ていた。息が上がってくる。
 腕を吊られているとどうしても息苦しくて大きく息を吸わないと、ただはっはっと短い息を吸うだけになってしまう。その喘ぎを聞かれるのも恥ずかしくて、出来るだけゆっくりと静かに深く、深く息を吸おうとする。それが、また、自分をトランスに引き込んでいく作用をしているなんて、ちっとも気が付かなかった。
 立ち上がった博人さんが影のように近づいてきて、スポットの中に現れたと思うと後ろからしっかりと抱きしめられていた。
「夕姫」
 うなじにかかる博人さんの息が熱い。……私は博人さんのもの。博人さんだけのもの。腰に廻されていた手が広げられゆっくりと胸をつかみあげる。愛撫される。柔らかに、しっとりと…じわじわと拡がる快感。体を這い回る手が、無遠慮にあちこちとさまよう様がすべて鏡の中に映し出されていた。
 恥ずかしい。顔を背ける。するとがら空きになったうなじに彼のくちびるが吸い付いてくる。あ、ううん。思わず伸び上がるほどの鋭い快感が突き抜ける。ちょっと首筋を弄られただけで、なんでこんなに感じるんだろう
 太腿に吸い付いた手がスカートを捲り上げる。あ、いや。体を捻ったけど、博人さんを喜ばせただけだった。腰の辺りまで手がもぐりこんできたと思うとストッキングのふちをつかんで引き降ろし始める。あ、そんな。私は大きく喘いでしまう。恥ずかしさのあまり。じっと、していられない。爪先からストッキングが抜けるまで、博人さんはゆっくりと時間をかけて、私の身もだえを楽しんだ。
「こうやって、脱がされていくのが恥ずかしい?」
 もう、やだ。博人さんはどうしてそんな事聞くの?私がすごく恥ずかしがっていることなんか見れば分かるでしょう?くすくす、笑いながら、素足になった太腿をひとしきりまた愛撫される私は、足がすごく弱い。もう、それだけで息を付くことも難しいくらいに追い上げられてしまう。
 腕を吊っていた縄にもう一本縄が足される。その縄は私の背中の中心を通って、前へ引き出される。彼は私の表情を覗き込みながらその縄を引き上げた。足の間にしっかりと喰い込ませて。
「ああっ」
 声を出すまいとしてこらえていたのに、不意打ちに締め上げられて、つい声を上げてしまう。覗き込まれた真っ赤な顔を必死にそらしながら体をのけぞらす。じわじわと縄があそこに食い込んでくる。…痛い。そして、熱い。
 何だろう?痛いだけじゃない甘い疼き。博人さんは縄をぐいっと引き上げると金具にしっかりと留めてしまった。私は股縄で吊り上げられている。足が、かろうじて床に付いているから全体重がかかっているわけじゃないけれど。
「うう…」
 じわっ……と体に喰い込んでくる鈍い痛み。呻かずにはいられないような、鈍痛がズキンズキンと心臓の鼓動と同じ速さで襲い掛かってくる。博人さんが足元にしゃがむ。そして、私のハイヒールを脱がせる。
 ……もう、片方も。
 体がゆっくりと沈んだ。
「あ…」
 縄に向かって体が下がっていく。ハイヒールの助けがなくなったからつま先だって体を支えようとするけれど、さっきから十分不安定だったんだもの。爪先がたたらを踏み、思いっきり縄に体重を掛けてしまった。痛い…。どーんと響くような鈍痛があって私は息を飲んだ。
 もう一度足場を探って、体を持ち上げる。体中にじんわりと汗が浮き出始めていた。痛い。痛い。何とかして楽になろうとして必死に爪先立つ。息を吸い込む。足を踏みかえる。体が廻る。あ、ダメ。痛い。
 痛みのために顔がゆがむ。目を開けて鏡を見ると、博人さんが鏡の中で苦しむ私をじっと見つめていた。



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 「はあっ」
 耐え切れずに息を吸い込む。喰い込んでくる縄の痛みに涙が出てくる。あっ。あっ。助けて。博人さん。

 私は苛んでくる相手に心の中で懇願する。だけど、口に出しては言えなかった。自分で望んで、彼のものになったのに、私は未熟でちっとも彼に答えられていない。身じろぎするのも怖いくて、必死に足に力を込める。今度足を踏み損なってバランスを崩したら、そう思うと体が震えてくる。汗で頬に張り付いた髪を、博人さんが掻き揚げてくれる。目を合わせられない。彼を見たら、泣いてしまいそうだった。
 じっと私を見ていた博人さんは、後ろから抱きかかえるようにしながら、手を廻すと、私の脇の下へ触れてきた。私は驚愕に目を見開くしかなかった。もし、博人さんが激しくくすぐってきたら、きっと私は痛みどころじゃなく叫んで、暴れて、抵抗していたと思う。でも、博人さんの手の動きはそんなんじゃなかった。
 私は目をいっぱいに見開いて、鏡の中の博人さんを見つめながら必死で首を振った。手を握りしめ。体中に力を込めて……。耐える。汗が背中を伝って流れる。あ、だめ。もう、我慢出来ない。無意識のうちに目をつぶって、博人さんの手の動きを追ってしまう。振り払いたい。叫びだしたい。もう、だめ。耐えられない。やめて。やめて。あ。あ。嫌。許して。
 許しはこなかった。博人さんの手は、私の一番弱いところ感じるところをゆっくりと這いずった。痛みと快感が交互に襲ってくる。意識が遠のく。どれくらいの長さ、そうやって耐えていたのか分からない永遠と思うほどの時間がゆっくりと流れた後、足が滑って私は縄に思いっきり体重を掛けてしまった。
「あうっ!」
 悲鳴を上げた私を、博人さんが横抱きに持ち上げた。痛みは遠のき、私は必死で博人さんの足に足を廻して絡みつく。詰めていた息がふいごのように洩れて私は泣きながら博人さんに懇願していた。
「もう、もう、だめ。許して。許して」
 片手で私を持ち上げながら、どこかの縄を引く、とするするっと足の間を締め上げていた縄がほどけて私は手枷にぶら下がった。博人さんはつないでいた縄も難なくほどくと私を抱き上げてベッドに連れて行って、横たえた。するりとその横にもぐりこんでくる。
「痛い?」
 足の間にそっと手を重ねてくる。
「いや、恥ずかしい」
 涙を拭いながら、彼の胸に顔を押し付ける。ジンジンと痛みが拡がって、あそこはどんなになっちゃったんだろうと心配になってきた。抱きしめられる。そっと頬に口付けされて涙を拭われる。恥ずかしさだけじゃない、何か喜びのようなものが体中にいっぱいに膨れ上がって来て、私は博人さんにしがみついていた。

 博人さんに抱かれると私は泡のように溶けてしまう。今までの乏しい経験では一度もそんなことは無かった。私は博人さんの指先に翻弄され、もみくちゃにされて、打ち上げられる期待と不安に、苦痛と快感に、幸せと喜びに浸されながら……。
「結婚したい」
 ぽつりと言ってからはっと気が付いた。私ったらなんて事を口に出しちゃったんだろう。ぴったりと寄り添っていた博人さんが、はっと顔を上げるとやれやれというかのように溜息を付いた。
「夕姫。まだ、だめ」
「…ごめんなさい」
「まったく、叔父さんのせいだな」
 私はちょっと悲しくなって小さくなった。博人さんは私の顎に手をかけると顔を上げさせて頬へくちびるを付けた。
「あの人は、根本的に僕と同じタイプだから、人のことを虐めたくって仕方ないんだよ。わざと口を滑らせて、困った顔を見たがるんだ」
 そう囁くと、こらえきれないようにまた溜息を付いた。
「ねぇ。夕姫。君は、今、夢を見ている。その夢は、僕にとっても心地よくって、君をこのままさらってしまうのはすごく簡単なんだ。本当のところ、そうしてしまいたくってしょうがないんだからね」
 子守唄のように優しく響く博人さんの声が少しうわずった。
「必死で我慢しているんだからそんなふうに油断をしちゃだめだ」
 それでは、まるで、彼のほうが結婚したいみたいに聞こえる。それとも、そうなのかしら。
「君が、本当の僕を見つけるまで、決して気を許しちゃダメなんだよ」
 本当の博人さんってどんななの。今の博人さんはそうじゃないの。サディストの博人さん。本当の顔を見せた時、私は彼が思っているように、逃げ出そうとするんだろうか。それとも…もう、すっかり囚われて壊れていくだけなんだろうか。早く、壊れてしまいたい。彼の体に腕を廻すと、体を摺り寄せた。
 博人さんは心底困ったように呻き声をあげた。ねぇ、博人さん。少しは、私の事が欲しいと思ってくれる?少しは、私の事愛してくれている?
「愛している」
 博人さんは、顔をゆがめ、きつく私を抱きしめると、私の中にもう一度深く押し入ってきた。私はいっぱいに満たされて弾けた。




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 毎朝、鏡を見ながら考える。博人さんのものになって私は変わっただろうか?分からない。あまりにも幸せすぎて・・・。会社へ行く時に見慣れた風景でさえも、まるで磨きたてのガラス窓のようにクリアに見える。街路樹の緑の葉っぱ。花壇に咲くピンクの花。ひとつひとつが、くっきりとして、空があまりにも青い。好きな人と一緒にいられる。それだけですべてが美しく見える。
 会えない日は会える日を思い。会えた日はその出来事を噛み締める。彼がふれた頬。彼がしてくれたキス。彼が抱きしめてくれたときの喜び。彼がくれた痛みさえもが、不思議に満たされたような気持ちをもたらしてくれる。私は指先までも彼に支配されている。この身体はすべて彼のもの。そして、彼のくれる優しい気持ちはすべて私のものなのだ。
 私はまだ、何も知らない。彼がサディストだとして、私に何を仕掛けてくるのか・・・・。SMって何だろう。私の前にはどんな扉が待ってるんだろう。私はその扉をくぐっていけるのだろうか。彼と一緒に。彼の求めるままに・・・。

 「明日は、何時に帰れるかわからないんだ。」
電話の向こうの彼の声を聞きながら困ったような彼の顔を想像する。
「大丈夫。待ってるから。」
「ほんとに何時までかかるかわからないんだよ。じゃあ、マンションへ入っていてくれる?」
「え?いいの?」
「この間、指紋認証の設定を入れただろう?だから一人でも入れる。先に行ってお風呂にでも入ってくつろいでて。」
「分かった。」
「遅くなるようだったら寝ちゃってて。」
「大丈夫よ。起きて待ってるから。」
「さーや。・・・お願いだから、待ってないで好きにしてて。気になって仕事にならない。」
「分かったわ。好きなことしています。待たないで寝ちゃう。それならいい?」
「頼むよ。」
 思わずくすくす笑いながら電話を切った。最近の彼は、仕事が忙しいようだ。一人で事業を切り盛りしていれば、会社勤めのようには行かないのだろう。それでもほとんど週に二三度は会っていた。そして、私たちの関係も少しづつ深まっていた。拘束される事にはまだ慣れないし、恥ずかしさもちっとも減らないけれど。

 駅から彼のマンションまでゆっくり歩いても10分足らず。景色を楽しみながらぶらぶら歩いた。マンションの前まで来て、オートロックの番号を入力しようとしていると若い男の人が近づいてきた。
「姫野あやかさん?」
「え、はい?」
「よかった。高柳博人さんの所へいらしたんですよね。」
「ええ、どうですけど。」
 見たことのない人。細身ですっきりとした額と細い唇の整った顔立ち。誰だろう?あまりにも当然の様子で自然に近づいてきたので何も疑わなかった。
「これ。」
 差し出されたものを確認しようと、うつむいたとき。何か身体に押し付けられたと思ったらバリバリという音がして身体に激痛が走った。膝がかくんと折れふらふらする。立ってられなくてしゃがみこんでしまった。
「どうしました?大丈夫ですか。」
 覆いかぶさるようにされてはっとなった時は、もう遅かった。何か濡れたような布が顔に押し付けられた。抵抗しようとしたが最初のショックが大きくて思うように体が反応しない。そうするうちに意識がだんだん薄れていった。

「いや。助けて・・。博人さん。」

 最後に思い浮かんだのは、何時に帰れるかわからないんだ。と、繰り返す博人さんの困ったような笑顔だった。



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 HIMEGURI-NET
 だんだんと意識が戻って来ると頭がひどく痛んだ。お腹の辺りに殴られたような鈍痛が走る。私……どうしたんだろう。そっと首を廻して辺りの様子を伺う。ここは、どこ?工事中のビルの中のような様子……埃っぽい。ビニールが風にはためく音が聞こえる。オレンジ色の床置き式の明かりが天井を照らしている。後ろ手に縛られている手首が痛い。体を起こそうとしたけど、足も縛られていて力が入らなかった。
 五メートルぐらい離れたところに、建築資材が積んであって、そこに男は腰掛けていた。辺りを見回した私と目が合う。まだ、若い。私と同じぐらいの年恰好に見えた。
「あ…」
 突き上げてくる恐怖に私は、芋虫のようにのたくりながら後ろへ下がろうとした。そんな私の様子を彼はじっと見ている。
「あなた…誰なの?」

 相手は、答えなかった。水の中にいるように、立ち上がる相手の動きが緩慢に見えた。一歩一歩近づいてくる。世界がぐんにゃりとゆがむ。自分の置かれている状況があまりにも非現実的で信じられない。それなのに恐怖だけが鋭くきつく胸を締め上げてきた。叫ぼうと口を空けても声が出てこない。
 彼は私の側まで来るとしゃがんだ。ぽっかりと開いた黒い瞳がなんの表情も浮べていない事が私の恐怖をあおる。いったい何なの?…この人いったい誰?彼がふと手を伸ばしてきて頬を撫でられる。嫌悪感が溢れてきて顔を背け必死に後ろへ下がろうともがく。
「あなた…マゾなんでしょ?」
 え?聞かれた事の唐突さに、思わず相手の顔を見上げていた。薄く笑ったくちびるが、気味が悪い。思っていたよりも若々しい声が、妙に場違いだった。
「だって、博人と付き合っているんだから」
 博人さんの事、知ってる?そのせいで私を拐ったの?
「どうされるといいの?」
 指が顎の周囲をなぞる。彼の声はまるで子守唄を囁いているように静かで、それが私を尚更恐ろしくさせた。
「博人はあなたをどうするの?」
 なぞる指がくちびるの周囲をたどる。いや。やめて。思わず顔を背けると、乱暴に顎をつかんで顔を仰向かされる。痛い!
「まず、服を脱がせる」
 歌うような囁き。
「それから、縛る。手を…。それから足を」
 嬉しそうにくちびるがつりあがる。
「天井から吊るのもいい」
 膝を付いた姿勢から床に座り込んだ。
「ベッドに縛り付けてもいい」
 顎をつかんだ手に強い力が込められ、無理矢理こじ開けられた口にポケットから取り出した布を押し込まれた。もう一枚拡げて口の中に押し込むようにしながら後ろで結ばれる。思わず叫んだ声は布の中に吸い込まれた。首を振りたくるが結ばれた猿轡はもう外れなかった。
 顎をとらえ、顔を覗き込んでいた視線が、今度は私の体をじろじろと眺め回す。
「やわらかくて、綺麗な体なんだろうね。博人は綺麗なものが好きだから。…鞭で打つ?それともパドル?」
 私は、体をくねらせて彼から少しでも離れようとする。じわじわとのしかかられてどこにも逃げ場がなかった。いや。何なのこの人。すごく変。何を考えているの?
 おもむろに手を伸ばしてきてブラウスの上から乳房をなぞってくる。嫌悪に鳥肌が立つ。やめて。触らないで。
「怖い?触られるのいや?」
 その青年の目がだんだんと吊り上がって、声も大きくなってくる。得体の知れない恐怖。目をそらすことも出来ない。
「そんなはず、ないよね。マゾヒストなんだから」
 私、違う。違う。いや。触らないで。私はそんなんじゃない。
「博人」
 いきなり胸をつかみしめて来た。いやああ!痛い。膨れ上がる恐怖と嫌悪感に私は思わずのけぞった。パチンと音を立ててナイフが現れる。私はビクッと跳ねた。銀色の刃がまがまがしく光を跳ね返す。
「あなたの代わりに。……僕が汚してあげる」
 嫌。誰か。助けて。何をされるのか分からない恐怖が体を金縛りにしているようだった。ナイフの刃は焦らすように、体の上を這い回りさんざん私を喘がせた。それから、ブラウスの首の辺りに刃が滑り込んだと思うと、一気に下まで引き下げられた。ブラウスは派手な音を立てながら引き裂かれ、次にはスリップ。そしてブラもあっという間に切り裂かれて、私は男の前に白い胸をさらしていた。




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「そろそろ、従業員を入れて規模を大きくしたらどうだ」
 弓人叔父は、手元の資料に目を通しながら言う。この人は、こっちの余裕が無くなっていっぱいいっぱいになるようにどんどん押してくるのが得意だ。
「分かっているんですか?そうなると、事務所の場所から探さないといけないんですよ」
 彼の肘掛の椅子に腰を乗せて寄りかかる僕を片方の眉だけをちょっと上げていたずらっぽく見あげる。
「あの、マンションではだめか?」
「だめに決まっているでしょう。他人を入れれば、どこから秘密が洩れるかわからない。夕姫にそんな危険をおかさせませんよ」
「まったく、お前がそこまで、恋に入れ込むような男だとは思わなかったよ」
「指摘していただかなくても結構です。正直自分でも呆れていますよ」
 咽喉奥でクックッと笑いながら叔父は、手を伸ばして僕の首に手をかけると引き寄せようとした。キスされる直前にくちびるとくちびるの間に手を入れるのが間に合う。
「キスもだめなのか」
「だめです。何のために、パートナーを整理したのか分からなくなる」
「おやおや。それは、まったく残念」
「叔父さん。夕姫に手を出さないでくださいよ。僕は自分でもコントロールしきれてないんですから」
「大事な甥っ子を、虐めたりしないさ」
 あやしいものだ。本質的なサディストの叔父は、人を困らせるのが大好きなのだから。僕は立ち上がると拡げてあった資料をひとまとめにして、袋に戻した。
「データーの方は、全部パソコンに入れときましたから。今日は、これで帰ります。夕姫が来るので。もう、一時間も遅刻している」
 叔父は肘掛に付いた肘に顎をのせるとにやにや笑った。まったく嫌な人だ。
「事務所を探すなら秘書の矢崎に言っとくぞ」
「…あなたがそう急ぐのは理由があるんですね」
「…どうかな」
「わかりました。お願いしますよ。明日は、直接に会社の方へ顔を出しますから」
 鍵を開けて部屋に入ると部屋は真っ暗だった。不審に思って腕時計を見ると、午後8時12分。夕姫が来るといっていた時間は、とっくに過ぎていた。上着を脱いでソファに放り出すと額を押さえて考える。
 まず携帯のメールと着信を確認した。何も入っていない。電話のところへ行って、留守電を再生する。メッセージが流れ出す。聞きながらドアを開けっ放しで書斎へ移動し、パソコンを起動する。メールをチェック。何の連絡も入っていない。
 夕姫が何の連絡も無しに遅れる?ありえない。時間にはことのほかしっかりしているのだ。僕が何時間遅れようと10分前には必ず来ている。電話を取り上げ、彼女の会社に電話した。
「1時間半ほど前に退社しましたよ」
「分かりました。お手数をおかけして申し訳ありません」
 彼女の同じ部署の上司はキッパリと、彼女が退社したことを認めた。おかしい。胸騒ぎが押し寄せてきて、急いで携帯を取り上げた。GPS計測をおこなうための検索コールを掛ける。電源を切ってなければ、居場所が特定できるはずだ。GPS計測には、時間がかかる。上着を取り上げ、車の鍵を握ると部屋を出た。
「分かった。すぐに行く」
 幸い場所が特定できて携帯に地図が示される。急いで車のナビに情報を入力する。最近工事している大きなビル。緊急事態の予感に、躊躇無く叔父に電話した。こんな時に叔父ほど頼りになる人間はいない。無条件な援助とあらゆる権力を行使することをためらわない人なのだ。車のエンジンを掛けてタイヤを鳴らしながら、僕は夜の街へ飛び出していった。



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 切り裂かれた服の間から手を差し込まれた。酷い事されちゃうんだ!いや!猿轡の奥からはくぐもったような声しか出ない。必死に首を振り、手首の縄を緩めようとめちゃくちゃにもがいた…だめ。全然ゆるまない。
 あ、あ、いや。博人さん。乱暴にあちこちまさぐられて、嫌悪に総毛立つ。涙が溢れてくる。見られたくない。私が嫌がれば嫌がるほど相手を喜ばせてしまう。のし掛かって来る体から、ちょっとでも離れようとのけぞった。相手のたぎりたったペニスが柔らかな体を擦りあげてくる。助けて。助けて。そんなこと!いやあ!
 その瞬間、私の上に覆いかぶさっていた体が乱暴に引き剥がされて突き飛ばされた。
 博人さん!彼の力強い手があっという間に、私を抱き寄せると、犯人が取り落としたナイフで手首の縄を切った。猿轡を乱暴に引きほどかれる。
「ひ…博人さん」
 涙で顔が見えない。上着を着せ掛けられて強く抱きしめられた。
「夕姫」
 絞り出すような声。博人さん。来てくれたんだね。大丈夫。大丈夫だよ。泣かないで。私は大丈夫だから。彼は泣いてなんかいなかったのに、でも確かに声はしめっぽかった。私は彼のシャツにしがみついた。
「あ…博人さん。気をつけて…」
 まだ、そこに犯人がいるの。なにをするかわからない。恐ろしい。博人さんの腕の中からふりかえって見ると、その男の人は床にうずくまったまま震えながら泣いていた。
「聡。自分が何をしたか分かっているのか」
 初めて聞く、博人さんの冷たい声。氷のように低く響く…。私は思わず、ぞくりとして、彼の体から身を飛行とした博人さんは、許さず、懐に引き寄せる。
「……ご主人様。どうして?……どうして?俺はあなたのものだったのに。一生あなたに仕えていくと思っていたのに。なんで、俺を手放すんだ。俺は、誰よりもあなたの与えてくれる痛みに耐えていた。どんなことをされてもひるまなかった。あなたの鞭が、あなたの手が、俺を切り裂くのをどんなに俺が焦がれているか知っていて…知っていて……」
 私はその時初めて分かった。あの電話。博人さんのベッドの上で聞いたあの留守電の声の持ち主。彼は、まさしく博人さんのパートナーの一人だった人。私が切れてと頼み、博人さんがその言葉の通りに切り捨てた奴隷の一人だったのだ。
 博人さんが聡と呼んだ青年はしゃくりあげて泣いていた。見捨てられた子供のような泣き声。私が彼をそうさせたのだ。私が、まだ、博人さんに満足に答えられない何の覚悟も出来てない私が。ずっと長い間博人さんに奴隷として使えていた彼を切り捨てるように言った。そして、博人さんはその通りにしたのだ。
「聡。立ちなさい」
 私は驚いて博人さんを見た。あまりにも哀れな様子で泣いている青年になんて冷たい響きの声。でも、床に手を着いてしゃくりあげていた青年は、はじかれるように立ち上がった。
「お前は私を主人としてはいなかっただろう。お前は野良で、好きに相手を選んでいたじゃないか」
 男は激しく首を振った。
「だって、そういう形じゃないと、俺を受け入れてくれなかったじゃないか」
「そうだ。私は、お前の主人になる覚悟が無かった。だか、野良であることはお前の誇りのような物だと思っていたから、お前が主人を持ちたいといった時はびっくりしたよ。お前は私と別れることではなく、新しい主人へ正式に譲られる事を選んだ。お前が選び、私はそれに従って、お前に新しい主人を与えたはずだ」
 そんな!右を選んでも左を選んでも彼には博人さんと別れるしかないってことじゃない。自分が望んだことなのに、博人さんを責めるような考え方をしている自分に気が付いて、震えるくちびるを両手で押さえた。言葉が外に飛び出してこないように。
「そうです。そうです。でも、俺は…耐えられなかった。あなたが、あなたが…彼女を…。俺を捨てて…彼女を……」
「聡。お前は考え違いをしている。お前を新しい主人に譲り渡した手は私の手だろう?」
 はっと、青年は博人さんの顔を見た。蒼白になった顔をゆがませて、がたがたと震え始める。
「やれやれ。どうにか間に合ったみたいだな」
 全員が振り返ると、そこに立っていたのは高原氏だった。
「博人。お前が全速力で走るから、えらい目にあったぞ」
 髪を掻き揚げると青年をじっと見る。青年は脅えたように後ずさった。
「各務、そいつを繋げ」
 高原氏の後ろに控えていたもう一人の男が進み出て青年の腕を取り、後ろにねじ上げたと思うと手錠を掛ける音がした。青年はよろよろとされるままになっている。各務と呼ばれた男性は、博人さんの腕の中にもぐりこんでいた私のほうへ視線を向けた。
「怪我はありませんか?」
 博人さんは、急いで私の顔をのぞきこみ、忙しく体に手を這い回らせて確認した。私が、人前でそうされることに赤くなって腕をつっぱり、首を振ると、博人さんの体からほっとしたように体から力が抜けた
「…大丈夫のようです」
「何かあったら、すぐに連絡をください」
 あっさりとひとつうなずいて、男性は青年を引き立てていった。
「博人、自分で運転できるか?」
「ええ、大丈夫です」
「俺の預かりにしていいな」
 博人さんは、顔を上げて、私の体をそっと離すと、きっちりと高原氏に向けてお辞儀をした。
「お願いします」
 あっさりとうなずいた高原氏は、さっきの二人の後を追うようにして消えていった。
どこかでエンジンのかかる音がする。
「ど、どうなるの?…彼」
「分からない。罰を与えるのは彼の新しい主人だ」
 私は、呆然と宙を見つめた。
「夕姫が、彼を警察に訴えたいのなら、別だけど」
 急いで首を振る。急に寒気が襲ってきて、ぶるっと震えてしまった。博人さんが慌てて私を抱きしめる。
「夕姫。夕姫」
「ご、ごめんなさい。こんなことになるなんて」
「君のせいじゃない」
 博人さん。泣いているの?そんなばずはないのに私は、彼の声を聞きながらなぜかそう考えていた。
「帰ろう」
 うなずいて、博人さんの腕に体を預ける。立っているのがやっとだった。ともかく危機は去ったのだ。



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 不安な時、悲しいことがあった時、抱き寄せてくれる手の暖かさ。重なってくるからだの重み。囁かれるつぶやきの一つ一つが胸に染み入ってくる。キスを重ねる。ひとつ。ふたつ。みっつ。何度求めても足りなくて、手足を絡めあう。体中に痛いくらいのキスをいくつもいくつも残しながら私の体をさまよう彼のくちびる。
 ぴったりと重なった体を溶け合わせようとしながら、熱くなった体に熱くなった相手を呼び込もうと腰を押し付ける。分け入ってくる大きさをいっぱいに感じながらなおも奥へ吸い込もうと貪欲に足を絡める。もっと。もっと。もっと。私をいっぱいにして…。私はあなたのものだとあなたは私のものだと囁いて、証明して、刻み付けて…。
 あの事件があった翌日、仕事が終るとまっすぐに博人さんのマンションに行った。誘われて居間へ行くと、聡という青年に手錠を掛けて連れ去った各務と呼ばれていた人がそこに座っていた。前髪をふんわりと額にながして銀縁メガネを掛けた背の高い人。明るいところで改めて見ると博人さんとはまた違った意味ですごくハンサムだった。
「こんにちは」
 彼は、私を見るとすぐに立ち上がり自分から名乗った。
「各務祐輔です。今日は、高原の命を受けて伺いました」
 私は、真っ赤になってしまう。また、一人。私たちの事を知っている人が増える。こうして、いつのまにかなにもかもあからさまにされていくんだろうか。
「博人さんは、大丈夫だと言ったんですが、高原は納得しないんです。私はこの病院で外科医をやっています。一応、体を診せていただけませんか?」
 差し出された名刺を受け取ると、都内でも有名な病院の名前が書かれた名刺だった。体…体って?え?まさか、裸を見せろって事?内診するとか?うろたえる私を見て。彼は苦笑しながら手を振った。
「違いますよ。そっちは未遂だったと聞いています。お腹のところ…ほら、スタンガンを押し当てられたでしょう?」
 笑われて、私は自分の早とちりがすごく恥ずかしくなった。博人さんを見ると、困ったような笑顔でうなずいたので、私は各務さんの横に腰掛けてブラウスとキャミソールをめくった。相手がお医者様だってことは、分かるけど…博人さんとの関係を知っている人に体を見せるのは、すごく恥ずかしかった。スタンガンのあとはうっすらと赤くなっているだけだ。そろえた指先でそおっと押された。
「痛みませんね?」
「ええ、ほとんど」
 細い指がスライドして、その側の赤い花びらのような痕を確認して離れた。私は、すっかり忘れていた自分を呪い、心の中で博人さんに思いっきり罵声を浴びせかけた。
 博人さんは肩をすくめてちょっと拝むようなしぐさをする。もう。もう。ばれちゃったじゃない。ばれちゃったじゃない。昨日、愛し合ったときに博人さんが体中につけた痕のひとつ。数え切れないほど体中に残された印が燃え上がるような気がした。
「手首は?」
 各務先生は、気付いた事実にまったく動じた様子もなく無造作に私の手を取もちあげる。赤い縄に擦れた痕。昨日、博人さんが念入りに薬を塗ってくれた。
「ゲンタシンを塗ったんですね」
「ああ。擦過傷がついていたからね。足首もほとんど同じだ」
 うなずいた彼は私の足をひょいと持ち上げた。あまりにもあっさりとした態度に抵抗する間もなかった。足首の赤い擦り傷を確認すると、今度は恭しく捧げるようにして床へ戻した。
「それで、昨日博人さんとセックスしたんですね」
 真剣な表情で瞳を覗き込むようにして尋ねられて、考えるより先にうなずいてしまっていた。
「しました」
 答えてしまってから真っ赤になった。しらじらとした顔で何って事言わせるんだろう。博人さんの知り合いってみんなこうなの?
「普通のセックス?なんともなかったですか?」
 彼が何を心配しているのか理解できたので、そこは素直にうなずいた。
「ええ。……平気でした」
 各務先生は、あくまでお医者さんの顔で、博人さんのほうへ顔を向ける。
「縛ったりしなかったんですね」
「ああ。昨日はそういったことは何も」
「では、次に縛るときは用心してください。夕姫さん、あなたも、もしファラッシュバックのようなものが起きたら無理をしないで、ちゃんと博人さんに言ってください。しばらくは、夢を見たりすると思いますが、そのときもできるだけ彼に話すように。話す事で気持ちを排出してください」
 心配させているのがよく分かったので神妙にうなずいた。

「今日、結城氏から、詫びの電話が入った」
「向こうの決着が着いたら、高原の方からも詫びを言ってくると思いますよ」
「あれは、僕のミスだ。聡の気持ちを読み間違えた」
眉を寄せて不機嫌に言う博人さんに、各務先生はひとつうなずいて、答えた。
「もし、そうだとしても、高原が立ち会って結城さんに正式に譲り渡した以上、責任は高原と結城さんにあるんです」
 どういう理屈なんだろう?二人の会話は私にはよく分からなかった。
「夕姫さんは、不審に思うかも知れませんが、高原の人脈のつながりの間では、一般的な世間では通用しないルールがあるんですよ」
「もし、聡さんが譲られたくないって言ったら、どうなっていたんですか?」
「普通の恋愛関係と同じですよ。別れるしかない。話はこじれたかもしれませんがね」
「譲り渡される相手を選んだりできるの?」
「まあ。でも、そういう嗜好を持った人間の数はそう多くないんですよ。狭い社会なので、なかなか難しくて。結局は決められなければ、博人さんのように決まった相手を持っていない人に仮預けのようになったりします」
「夕姫、君はもうそういったことは知らなくていい。そうだろう。各務」
「そうですね」
「どうしてなの?博人さんのことなのに、どうして私は知っちゃいけないの?」
「博人さんは、三人を整理されたのを機に抜けられたんですよ」
「え?」
「博人さんは、あなたをその輪の中に入れるのを嫌がった。だから、預かっていた相手も全員返して抜けたんです」
 私は、びっくりして博人さんを見た。預かり……。
「聡さんも…そうだったの?」
「いや、彼の場合はまた全然違う。彼は、もともとは、主人を持たないMだった」
 主人を持ってない……。そんなことできるものなの?
「できる。完全にプレイのみの相手を何人もキープしておいて、自分の好きな相手と遊ぶんだ。だから、彼ともう付き合わないと決めた時も特に心配してなかった。彼にとっては、僕は、大勢の中の一人だと思っていたからね」
 博人さんは、ゆっくりと窓の外へ視線をそらした。
「だから、誰か主人に譲り渡して欲しい。と、言われた時はちょっと意外だった。でも、そういう時期に入ったのかと……。深く考えていなかったんだ。すまない。夕姫」
「しかし、彼の試みは間違っていない。もし博人さんが抜けていなければ、鎖の輪のひとつとして、彼にとっては、あなたは最初の主人になり、一生消えない権利が発生したはずなんだ」
 各務先生の説明に、本当に悲しそうな顔をして首を振る博人さんに私は何も言えなかった。それに、あの青年の気持ちも…。彼からすれば私なんておままごとの相手のように見えて、なおさら許せなかったんだろう。
「何にしても、心配することはもうありませんよ。結城さんは、ベテランですから、彼が本気で調教を始めたら、もう、よそ見したりする事は許さないでしょう。聡君は、本質的にマゾヒストみたいですから、今回のことも含めて結城さんに厳重に締め上げられれば、あっという間に落ち着きますよ」
 各務先生は、私の肩を安心させるようにぽんぽんと叩いた。



 

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 事件の後、博人さんは、以前にも増して用心深くなった。責めはバリエーションを変えながら、だんだんと深まっては来ていたけど、拘束はあくまでゆるくどこかもどかしい日々。私はずっと悩んでいた。聡という青年が私に問いかけた。ひとつの言葉を。
「あなた……マゾなんでしょ」
 君はあまりにもノーマルすぎる…。博人さんは、今でもそう思っているのかしら。日毎夜毎に、深まってきている被虐への欲望に気がついていないのかしら。もっと、強く。もっと、深く。あなたの世界へ入って行きたい。そう、思っている私のことを……。
 …それとも知っていて待っているの?熟しすぎた木の実が自らその手の中に落ちてくるのを……。
 プレイルームの飾り戸棚の扉を開けると、そこにはいろんな種類の鞭が並べてかけてあった。背筋がぞっとするような、暴力の道具…。
「夕姫」
 振り返るとドアのかまちに手を掛けて、博人さんが立っていた。私は、自分を奮い立たせるようにして、そこに掛かっている鞭の中から、ピンクがかった優しい色合いに染めてある何本もの皮ひもを綴じてある鞭を取り上げると、それを持って博人さんの側に行った。
博人さんは私の差し出した鞭を黙って見つめた。それから、手をのばして鞭を取り上げた。その手がかすかに震えている。
「本気なんだね」
 私は、ことさらキッパリとうなずいて見せた。
「分かっている?一度、始まれば嫌は通らないよ」
「分かっている…わ」
 その夜、お風呂から上がってプレイルームへ行くと博人さんはベッドに座って私を待っていた。ベッドの上には五個のモーターで動くおもちゃとバラ鞭が並べられていた。おもちゃには、それぞれにコードでコントローラーがついている。五個のおもちゃは全部違う色と形で、一つ一つに番号が付けられていた。博人さんが「一」と書かれているおもちゃを取り上げて私に見せながらスイッチを入れる。ブーンという音がして先についている楕円形の丸いものが振動する。
「ローターって言うんだ」
 止める。そして、二番を持ち上げてスイッチを。さっきのとは違い、取っ手のように持つところが付いていて、少し低い音がした。
「音を覚えて」
 順番に動かしては止める。ちょっとずつ違う振動音。五番まで行くと、一番に戻って私の手に握らせる。同じようにスイッチを入れてみた。ブーンと私の手の中で震えるローターは、初めてそれを足の間に当てられた日のあの快感を鮮やかに思い出させた。顔が思わず赤くなる。順番にもう一度五番まで動かしてみた。もう一度。もう一度。私が納得するまで彼はただ黙って私の様子を見ていた。
 それから、彼は私の着ていた絹のガウンの紐をほどいた。合わせ目が開いて彼が肩から引きはぐと、するすると滑り落ちていく。恥ずかしさに身震いした。いつまでたっても彼に見られるのは恥ずかしい。ソファに座る時に足を乗せるための椅子、オッドマンが引き出されその上にうつぶせになるように言われた。ためらう気持ちを必死に叱咤して言われた通りの姿勢になった。
 オッドマンの足には手首や足首を留めつけるための絹の紐が付けられている。くるりと巻きつけられふんわりと結ばれる。膝をオッドマンの足に止められるときは、顔が上げられなかった。博人さんは意地悪く、椅子の外側に膝の内側が来るように縛り付けた。まず右足を。そして、左足を。足が引きはだけられた時、思わず声を上げていた。明かりを細めてあるとはいえ、何もかも見られているのだ。私は焼かれるほど熱くなり火照る頬を必死に椅子のふちに押し付ける。紐を結ぶ動作が四回繰り返されると、私は起き上がったり逃げたりできなくなっていた。
 お尻のほうに座った博人さんがじっと私の足の間をみているのが分かった。ちりちりと視線が感じられるくらい。
 膝を閉じられないのは分かっているのに力をこめずに入られない。内腿の筋肉が震える。見ないで。見ないで。どうしてそんなにじっと見るの。どうしてだか分かっている。私を恥ずかしさでたまらない思いをさせるため。そのために博人さんは、私を縛った後は、しばらく何にもしないでじっと私の体を見る。
 そうして、さんざん焦らして、焦らして、私が自分から何かして欲しい何でもいいからとにかく触って欲しい。と、願わずにはいられなくなるまでじっと待っている。ふと、彼の伸ばした手が足の間に咲く花びらに触れてくる。私は必死にずり上がる。もちろん、何の意味もないんだけど。そうせずにはいられないのだ。ゆるゆると花びらのふちを撫でられる。
それから足の付け根から中心に向かって指はゆっくりとさまよい歩く。ほとんど何もしていないのに、気が狂うほど心地よい指の動き。たまらない。思わず喘ぎのけぞってしまう。ああ、もう、許して。

 ローターのスイッチが入れられた。私はぎゅっと目を瞑った。お尻の割れ目の始まる辺りに吊り下げられたローターが降ろされる。そしてゆっくりと合わせ目をなぞりながら落下していく。博人さんはつながったコードでローターをあやつっているらしく、ふちまで来ると急に落下する。そして花びらの合わせ目にぶつかって離れる。とんとんとリズムを刻みながら刺激は移動してクリトリスの尖りを掠める。
「うん。う……。あ、あ」
 十分に高ぶった体はそれだけで、考えられないほどに感じる。つと、ローターが離れて行き、スイッチが止められる。
「何番?」
 え?目を開けて後ろを振り返ろうとしてしまった。すばやく手が頭の位置を戻す。
「振り返っちゃだめだよ」
 私はどきまぎして、目をぱちぱちさせた。
「今のローターは何番だった?」
 そんなこと。わからない。だってあまりにも、その動きに夢中になっていたから
「夕姫。答えて」
 優しい促しに、記憶を必死にめぐらせる。
「よ…四番?」
「はずれ」
 その瞬間、まったく予期していない痛みがお尻全体に弾けた。
「あうっ!」
 私のお尻は私の意志に関係なく跳ねてオッドマンにお腹を打ちつけた。バラ鞭!私が昼間博人さんに差し出したバラ鞭でお尻を打たれたんだ。鞭の穂先がお尻をゆっくりと這いずり回る。私は、震え上がった。考えていたよりもずっと痛かった。
 鞭が離れて行く、息を詰めてその鞭の動きを探ろうとする間もなくもう一度。そして、またもう一度。痛い!
 博人さんは、初めての鞭の痛みを私が十分味わえるようにしばらく待っていた。そして、弾んだ息がようやく納まったころ、ふたたびローターのスイッチが入れられる。
 お尻の合わせ目に、ぽとんとローターが落ちてくるそして、またゆっくりとコードの動きに引かれて降りていく。私は身動きもならずそのローターの振動を味あうしかなかった。



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