★新館・旧館・別館の構成★
1.新館、通常更新のブログ
2.別館、女性向けSMあまあまロマンス
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性的、暴力的な表現を含んでいます。
虚構と現実の区別のつかない方
18歳未満の方はご遠慮くださいませ。
自己責任に於いて閲覧していただきますようお願いします。
「気持ちを伝えたから何かが変わるとも思っていません」
そこまで言われて何か変えるのも癪な気がして、事さら、視線も合わせないで知らん顔をしているつもりだけど、お互いの身体の方はちっとも同じとはいかなかった。
仕事中の彼の動きをセンサーで拾ってしまう。すっきりとした襟足や、シャツの襟から除く首筋、腕まくりをした時の腕の動き。そんな事を見てない振りをしながらこっそりと見る。
用があって、近づかなくてはならない時の彼の体温を味あう。何気なく身体を寄せる。押さえきれない身震いが彼の身体の中を走り抜けるのを感じると、妙に嬉しくなってしまう。
そして、溜息。
鉄壁のポーカーフェイスを誇っているかのように見えて、一度ばれてしまった本当の気持ちは、隠しようが無く洩れ出てきてしまうものだった。なんでもない振りをして、押し殺した振りをして、それでいて上がってくる体温。にじみ出る汗。なによりも、思いのこもった吐息。「あなだが好きだ」言えない気持ちが、色づいて洩れている吐息。辛い。辛い。辛い。と、背中に、額に、手の震えに、焦がれた気持ちが滲みでていた。
ふうん。
誰かに、慕われているという事実が、これほど自分を有頂天にさせるとは思いもかけなかった。私は、彼が私を欲しがっているという印を、彼の様子から拾い集めるのに夢中になった。
彼が実に上手に自分の感情を隠していると、わざと近づいて刺激する。私がそうしている事を、彼も気づいているはずだった。けれど、お互いに意地になっているみたいに、その事に触れようとしない。ふたりだけの時間の緊張感はいやがおうにも高まっていった。
こんな事は初めてだ。普通、好きになった人にこんな仕打ちしないだろう。ちょっとでも気に入られたくて、少しでも嫌われたくなくて。ああ。でも、そんな感情すら味わった事すら無いかもしれない。
初めて恋した時、私はどうしたんだっけ?初めて好きになった人って?記憶は朧で、思い出せなかった。不思議だ。そうやって物思いにふけっていて、はっと気がつくと東野の視線が痛いほどに突き刺さって来る。私が何を考えているのか、知りたくて、知りたくて、気になって仕方が無いと言った目付き。そして、意識したそぶりで、無理矢理視線を引き剥がしていく。
やがて、水曜日がやってくる。いつもどおりの定時報告。完全に表情を殺した彼の様子が内心の苦痛を露呈させてしまっていた。彼が何を考えているのかが、手に取れるほどに透けている。やきもち。嫉妬。独占欲。彼の中で嵐が吹き荒れ、胸の柔らかいところを食い破っているのが分かる。
「お車をビルの前に廻しました」
横を向き、唇を噛み、歯を喰いしばって、そっと溜息をつく。そうよ…。私は今から男に会いに行くの。その男の体を味わいに。苦痛を味わいに。ちょっとだけ眉を寄せて、私を送り出す東野が、閉まったドアを見つめて手のひらに爪を立てて身もだえしている事が分かっていた。そして、その事が私にとって心地よい事も。
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そこまで言われて何か変えるのも癪な気がして、事さら、視線も合わせないで知らん顔をしているつもりだけど、お互いの身体の方はちっとも同じとはいかなかった。
仕事中の彼の動きをセンサーで拾ってしまう。すっきりとした襟足や、シャツの襟から除く首筋、腕まくりをした時の腕の動き。そんな事を見てない振りをしながらこっそりと見る。
用があって、近づかなくてはならない時の彼の体温を味あう。何気なく身体を寄せる。押さえきれない身震いが彼の身体の中を走り抜けるのを感じると、妙に嬉しくなってしまう。
そして、溜息。
鉄壁のポーカーフェイスを誇っているかのように見えて、一度ばれてしまった本当の気持ちは、隠しようが無く洩れ出てきてしまうものだった。なんでもない振りをして、押し殺した振りをして、それでいて上がってくる体温。にじみ出る汗。なによりも、思いのこもった吐息。「あなだが好きだ」言えない気持ちが、色づいて洩れている吐息。辛い。辛い。辛い。と、背中に、額に、手の震えに、焦がれた気持ちが滲みでていた。
ふうん。
誰かに、慕われているという事実が、これほど自分を有頂天にさせるとは思いもかけなかった。私は、彼が私を欲しがっているという印を、彼の様子から拾い集めるのに夢中になった。
彼が実に上手に自分の感情を隠していると、わざと近づいて刺激する。私がそうしている事を、彼も気づいているはずだった。けれど、お互いに意地になっているみたいに、その事に触れようとしない。ふたりだけの時間の緊張感はいやがおうにも高まっていった。
こんな事は初めてだ。普通、好きになった人にこんな仕打ちしないだろう。ちょっとでも気に入られたくて、少しでも嫌われたくなくて。ああ。でも、そんな感情すら味わった事すら無いかもしれない。
初めて恋した時、私はどうしたんだっけ?初めて好きになった人って?記憶は朧で、思い出せなかった。不思議だ。そうやって物思いにふけっていて、はっと気がつくと東野の視線が痛いほどに突き刺さって来る。私が何を考えているのか、知りたくて、知りたくて、気になって仕方が無いと言った目付き。そして、意識したそぶりで、無理矢理視線を引き剥がしていく。
やがて、水曜日がやってくる。いつもどおりの定時報告。完全に表情を殺した彼の様子が内心の苦痛を露呈させてしまっていた。彼が何を考えているのかが、手に取れるほどに透けている。やきもち。嫉妬。独占欲。彼の中で嵐が吹き荒れ、胸の柔らかいところを食い破っているのが分かる。
「お車をビルの前に廻しました」
横を向き、唇を噛み、歯を喰いしばって、そっと溜息をつく。そうよ…。私は今から男に会いに行くの。その男の体を味わいに。苦痛を味わいに。ちょっとだけ眉を寄せて、私を送り出す東野が、閉まったドアを見つめて手のひらに爪を立てて身もだえしている事が分かっていた。そして、その事が私にとって心地よい事も。
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次の水曜日は、真樹との約束の日だった。私は、ここのところの、東野との無言の駆け引きに、すっかりと夢中になっている自分の事を真樹に相談してみたかった。性癖が恋の邪魔をする事は、真樹が一番よく知っている。荒れていた私生活を清算し、まがりなりにも仕事をする普通の生活へ戻っていった彼の意見を聞きたかった。
ところが、間の悪い事って必ずあるもので、ちょっとしたパーティーの招待客の設定でクレームがあって、どうしても私が顔を出さないと納まらない話になってしまった。今日の顧客は殊の外気難しいだけでなく、どうも、私をそのパーティーに引きずり出したいという思惑があるようだった。
適当なところで切り上げられるという読みは外れ、どう頑張っても抜けられそうに無い。私は、仕方なく東野に柚木に電話するように頼んだ。クレームをつければ、私が出てくるという前例にしたくなくて、思いっきり粘って突っぱねる。
そこは、副業と趣味同然の仕事の強みで、この顧客が気に入らなければ切り捨てるまでという私の強気の態度に、ようやく向こうが折れて帰った時には、すでにその日は終わりになろうとしていた。
真樹はどうしたろう。あの時間なら、すでに館に来ていたはず。誰かと遊んで帰ったろうか。それとも、まだ、居残っているだろうか。
気になって、つい、帰社するとすぐ携帯で電話していた。すぐに柚木が電話に出て、真樹は何もしないで帰ったと告げた。
「もし、ご都合がよろしければ、来週の水曜日にと言付かっておりますがいかがいたしますか?」
「ええ、お願いします。予定を調整してくださる?」
「かしこまりました。お伝えして、他の者の予定を変更しておきますので。どうぞ、お気遣い無く」
電話を切って振り向くと、そこに東野が立っていた。固い表情をして、明日のための予定表を机の上に置く。
「そんなに……キャンセルした事が、気になるんですか?」
東野がそこまで踏み込んできた事に、ちょっと驚いてみつめてしまった。自分でも考えて発した言葉ではなかったのだろう、思わず飛び出した言葉に失敗したというように口をすぼめた。急いで表情を取り繕って目を伏せる。
「申し訳ありません。出すぎた事でした」
「いらいらしているのね。疲れたんでしょ」
「いいえ。社長こそ、お疲れになったでしょう。車を廻しますので…」
「気持ちを伝えたから何かが変わるとも思っていません…そう言ったのは、嘘だったのかしら」
油断しているところを思いっきり深く切り裂いた。
彼は一瞬ひるんで、そして、切り返ししてきた。
「気がついてらっしゃるんですね。…知っていて、そして、弄ってらっしゃる」
身体の向きを変えて一歩詰め寄ってくる。彼の中で秘書という仮面が崩れ去ったのが分かった。
「そうです。嫉妬していますよ。あなたに一番近いところにいる男に。当然でしょう。僕が望んでも得られないものをその男は手にしているんだ」
「どうして?あの時まで私にまったく気がつかせなかったくせに。あそこまで啖呵を切っといて、たった一言で随分と態度を変えたのね」
「それは……!あの時は、あなたが振り向いてくれるなんて思っていなかった。今は違う。僕の事を男だと分かっているでしょう?」
高ぶっていく気持ちを無理に押し殺して、平静に会話をしようとしている彼を、改めてみなおしたものの、だからといって、途方にくれてしまう事態だという事には変わりなかった。自分で始めておいて収集がつかなくしてしまうのは、前回と同じだった。どうしてこう不器用なのかしら。せっかくの面白い遊びもどうやら終わりにしなくてはならないらしい。
「私があなたを男だと認識して、多少の好意を持ったからって言って、何も変わりようが無いでしょう?」
「大違いですよ。それまでは、まるで木石を相手にしているかのように、僕がそこにいるとも思っていなかった」
「だからって、水曜日のお相手に嫉妬しても仕方ないじゃないの。ただの遊び相手なんだし」
「あなたは気付いてないんですね。その男の事を口に出す時、あなたは明らかに表情が違う」
びっくりして、自分の行動を反芻してみた。確かに真樹は普通の相手ではない。だって、彼は私の育ての親同然だったのだから。だからって、プレイの最中は誰だって同じだった。欲しいのは相手の苦痛だけ。真樹が他の人間と違うのは、プレイ以外の部分によるものが大きいのだ。
「ねえ、分かっているの?相手はMで私はS。私達は普通の交際をしているわけじゃないのよ」
「分かっています。三年間ずっとお側にいたんですから。……でも!」
彼は、一瞬口をつぐんで、そして苦しそうに言葉をつないだ。
「……あなたは、僕を秘書として見るのをやめたでしょう?」
気付かれている。当たり前だ。私の気持ちが変わってきている事を気付かれているのは分かっていた。でも、それがどうして起きたのかまで察しているとは思っていなかった。彼の言葉の端々に、私が自分のS性を彼に振り向け始めているのに気が付いている事が伺われて、びっくりした。彼はもう一歩近づいて来て、腕をとって私を引き寄せようとした。私は反射的に振り払った。
「あなたにできるはずないじゃないの!ただ痛めつけるだけじゃないのよ。彼らは私の足元に這いつくばって、足を舐めたり、尿を飲んだりするんだから。そんな事、まともな男性にできる訳ないじゃない」
その瞬間、自分でも一番見たくなかった事が露になってしまった事が私をひどく動揺させた。そう、自分がSであるかぎり、普通の恋愛なんて出来やしないのだ。出来るだけ酷い言葉を叩きつけて、彼が飛びのいて離れていくのを、しっかりと確認しないと納まらなくなっていた。それなのに、東野はもう一歩近づくと、今度はしっかりと私の腕を捕らえた。
「僕の気持ちがそれだけのものだと?彼にできる事が、どうして僕には出来ないと思われるんですか」
「彼らが私の相手をするのは、私が好きだからじゃないもの。仕事だし、SMが好きなのよ。誰でもいいの」
「あなたもそうなのですか?相手があなたを好きでなくても?ただ仕事だとしても?」
「そうよ」
つかんだ腕を引き寄せて、間近に覗き込まれる。吸い込まれそうなほどに深い相手の瞳の色に見入ってしまった。どうしてだろう。彼の反応は予想していたものとはまったく違う。東野はどうしていつも私をびっくりさせるのだろう。
「だったら、僕でもいいわけですよね」
しまった。理詰めでやったら勝てない相手だったのに。なんて馬鹿。
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ところが、間の悪い事って必ずあるもので、ちょっとしたパーティーの招待客の設定でクレームがあって、どうしても私が顔を出さないと納まらない話になってしまった。今日の顧客は殊の外気難しいだけでなく、どうも、私をそのパーティーに引きずり出したいという思惑があるようだった。
適当なところで切り上げられるという読みは外れ、どう頑張っても抜けられそうに無い。私は、仕方なく東野に柚木に電話するように頼んだ。クレームをつければ、私が出てくるという前例にしたくなくて、思いっきり粘って突っぱねる。
そこは、副業と趣味同然の仕事の強みで、この顧客が気に入らなければ切り捨てるまでという私の強気の態度に、ようやく向こうが折れて帰った時には、すでにその日は終わりになろうとしていた。
真樹はどうしたろう。あの時間なら、すでに館に来ていたはず。誰かと遊んで帰ったろうか。それとも、まだ、居残っているだろうか。
気になって、つい、帰社するとすぐ携帯で電話していた。すぐに柚木が電話に出て、真樹は何もしないで帰ったと告げた。
「もし、ご都合がよろしければ、来週の水曜日にと言付かっておりますがいかがいたしますか?」
「ええ、お願いします。予定を調整してくださる?」
「かしこまりました。お伝えして、他の者の予定を変更しておきますので。どうぞ、お気遣い無く」
電話を切って振り向くと、そこに東野が立っていた。固い表情をして、明日のための予定表を机の上に置く。
「そんなに……キャンセルした事が、気になるんですか?」
東野がそこまで踏み込んできた事に、ちょっと驚いてみつめてしまった。自分でも考えて発した言葉ではなかったのだろう、思わず飛び出した言葉に失敗したというように口をすぼめた。急いで表情を取り繕って目を伏せる。
「申し訳ありません。出すぎた事でした」
「いらいらしているのね。疲れたんでしょ」
「いいえ。社長こそ、お疲れになったでしょう。車を廻しますので…」
「気持ちを伝えたから何かが変わるとも思っていません…そう言ったのは、嘘だったのかしら」
油断しているところを思いっきり深く切り裂いた。
彼は一瞬ひるんで、そして、切り返ししてきた。
「気がついてらっしゃるんですね。…知っていて、そして、弄ってらっしゃる」
身体の向きを変えて一歩詰め寄ってくる。彼の中で秘書という仮面が崩れ去ったのが分かった。
「そうです。嫉妬していますよ。あなたに一番近いところにいる男に。当然でしょう。僕が望んでも得られないものをその男は手にしているんだ」
「どうして?あの時まで私にまったく気がつかせなかったくせに。あそこまで啖呵を切っといて、たった一言で随分と態度を変えたのね」
「それは……!あの時は、あなたが振り向いてくれるなんて思っていなかった。今は違う。僕の事を男だと分かっているでしょう?」
高ぶっていく気持ちを無理に押し殺して、平静に会話をしようとしている彼を、改めてみなおしたものの、だからといって、途方にくれてしまう事態だという事には変わりなかった。自分で始めておいて収集がつかなくしてしまうのは、前回と同じだった。どうしてこう不器用なのかしら。せっかくの面白い遊びもどうやら終わりにしなくてはならないらしい。
「私があなたを男だと認識して、多少の好意を持ったからって言って、何も変わりようが無いでしょう?」
「大違いですよ。それまでは、まるで木石を相手にしているかのように、僕がそこにいるとも思っていなかった」
「だからって、水曜日のお相手に嫉妬しても仕方ないじゃないの。ただの遊び相手なんだし」
「あなたは気付いてないんですね。その男の事を口に出す時、あなたは明らかに表情が違う」
びっくりして、自分の行動を反芻してみた。確かに真樹は普通の相手ではない。だって、彼は私の育ての親同然だったのだから。だからって、プレイの最中は誰だって同じだった。欲しいのは相手の苦痛だけ。真樹が他の人間と違うのは、プレイ以外の部分によるものが大きいのだ。
「ねえ、分かっているの?相手はMで私はS。私達は普通の交際をしているわけじゃないのよ」
「分かっています。三年間ずっとお側にいたんですから。……でも!」
彼は、一瞬口をつぐんで、そして苦しそうに言葉をつないだ。
「……あなたは、僕を秘書として見るのをやめたでしょう?」
気付かれている。当たり前だ。私の気持ちが変わってきている事を気付かれているのは分かっていた。でも、それがどうして起きたのかまで察しているとは思っていなかった。彼の言葉の端々に、私が自分のS性を彼に振り向け始めているのに気が付いている事が伺われて、びっくりした。彼はもう一歩近づいて来て、腕をとって私を引き寄せようとした。私は反射的に振り払った。
「あなたにできるはずないじゃないの!ただ痛めつけるだけじゃないのよ。彼らは私の足元に這いつくばって、足を舐めたり、尿を飲んだりするんだから。そんな事、まともな男性にできる訳ないじゃない」
その瞬間、自分でも一番見たくなかった事が露になってしまった事が私をひどく動揺させた。そう、自分がSであるかぎり、普通の恋愛なんて出来やしないのだ。出来るだけ酷い言葉を叩きつけて、彼が飛びのいて離れていくのを、しっかりと確認しないと納まらなくなっていた。それなのに、東野はもう一歩近づくと、今度はしっかりと私の腕を捕らえた。
「僕の気持ちがそれだけのものだと?彼にできる事が、どうして僕には出来ないと思われるんですか」
「彼らが私の相手をするのは、私が好きだからじゃないもの。仕事だし、SMが好きなのよ。誰でもいいの」
「あなたもそうなのですか?相手があなたを好きでなくても?ただ仕事だとしても?」
「そうよ」
つかんだ腕を引き寄せて、間近に覗き込まれる。吸い込まれそうなほどに深い相手の瞳の色に見入ってしまった。どうしてだろう。彼の反応は予想していたものとはまったく違う。東野はどうしていつも私をびっくりさせるのだろう。
「だったら、僕でもいいわけですよね」
しまった。理詰めでやったら勝てない相手だったのに。なんて馬鹿。
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「待ってよ。私には分からない。だって東野は、SMしたいわけじゃないでしょう」
「あなたが好きなんです。いけませんか。辛いんだ。どうしてその男には許すのに、僕には許してくれないんです」
「許すとか許さないとか、そんな問題じゃないんだってば」
覗き込んでくる彼の瞳の奥を明らかな苦痛の色がよぎった。罪深い私は、ぞくぞくしてしまう。この男は、なんでこんなに私をそそるんだろう。館で会う男たちとは明らかに違う何かを突きつけてくる。
「僕に抱かれるのは、そんなに嫌ですか?」
「SMの相手とは、セックスしないの」
あ、しまった。と、思った時には、もう遅かった。彼の頭の中のコンピューターがめまぐるしく検索する音が聞こえるようだった。すべてのスケジュールがさらいだされ、あっという間に結果がはじき出された。彼の瞳が驚きと喜びに光った。
「だったら、あなたは、この三年間、誰ともセックスしていない」
そのとおりだった。SMを覚えてから一度もセックスしてなかった。日本では、普通、女王様は、奴隷とはセックスしないものなのだ。彼の中の情報が洗い出され、吟味され、そして結論が出た時には、もうしっかりと抱きしめられていた。
「僕の事が好きなんですね」
「いや」
「今だけでいいんです。言ってください。お願いだから」
首筋に熱い唇を押し付けて、懇願してくる。頭がぐるぐると回るような気がして、足から力が抜けていって。もうどうしようもなくて彼の身体にしがみついた。言えない。自分でも分からないのに。どうしたらいいの。忙しく体をまさぐってくる手に、耳に吹き込まれる熱い息に、無意識のうちに反応しながら、心のうちで呟く。
「お願いです。本当の事を言って」
「好き…かも」
唇を強引に奪われた。舌が割って入ってきて絡みつく。強く荒々しい蹂躙するようなキス。ずっと押し殺してきた彼の感情が、急激に膨れ上がって何もかもを押し流して行った。
まさか社長室のソファの上で秘書に押し倒されるなんて事は、想定外だったけど、来客用の思いっきり大きな革張りのソファに、しっかりと体重をかけて押さえつけられると、何だか抵抗するのが馬鹿馬鹿しくなってきた。
この男の身体がいいのは知っている。自分の身体がそれに反応しているのも。しかもこんなにそそられる男なんだし、私の事を好きだと言ってくれているんだし。一生懸命自分に言い訳をして欲望に身を任せた。
彼は、ほとんど服を脱がず、私の服もほとんど脱がせず、ろくに愛撫もしないで、最初のキスの唇を離す事もしないで、考えられる限りの最短距離で侵入してきた。入ってきた瞬間、貫かれた痛みに身体が固くなる。そのとたん、無我夢中の様子だった彼は、ぱっと顔をあげた。その彼の顔が驚愕にゆがんでいる。
「なんで……。初めてだったんですか?」
「そんなはずないじゃない」
荒い息を必死に整えて、唾を飲み込んだ彼は、しばらくじっと私の身体の反応を確かめていた。
「……嘘だ」
腕を突っ張って、歯をくいしばって、今までかけていた体重をかけないように苦労しながら、どうしたらいいのか分からないといった様子で顔を覗き込んでくる。
「なぜ、言ってくれなかったんです」
「違うってば。そんなはずないじゃない」
もう、口をきく余裕も無い様子だった。あの、エレベーターの中のアクシデントから引っ張りに引っ張って、ネチネチネチネチ、毎日刺激しあってきたのだ。我慢も限界だったのだろう。思いを遂げて、中に入ってから後戻りなんて出来るものじゃない。必死に動くまいと突っ張っていた身体が、私の収縮に答えて暴走しだすのは無理もなかった。
「あ…っつ…」
ついていく事は出来なかったけど、受け止める事だけは出来た。結構それで満足して、ぐったりと弛緩した彼の腕の中にまるくなった。一度きりになったとしても、これだけ求められれば十分満たされたような気がしていた。
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「あなたが好きなんです。いけませんか。辛いんだ。どうしてその男には許すのに、僕には許してくれないんです」
「許すとか許さないとか、そんな問題じゃないんだってば」
覗き込んでくる彼の瞳の奥を明らかな苦痛の色がよぎった。罪深い私は、ぞくぞくしてしまう。この男は、なんでこんなに私をそそるんだろう。館で会う男たちとは明らかに違う何かを突きつけてくる。
「僕に抱かれるのは、そんなに嫌ですか?」
「SMの相手とは、セックスしないの」
あ、しまった。と、思った時には、もう遅かった。彼の頭の中のコンピューターがめまぐるしく検索する音が聞こえるようだった。すべてのスケジュールがさらいだされ、あっという間に結果がはじき出された。彼の瞳が驚きと喜びに光った。
「だったら、あなたは、この三年間、誰ともセックスしていない」
そのとおりだった。SMを覚えてから一度もセックスしてなかった。日本では、普通、女王様は、奴隷とはセックスしないものなのだ。彼の中の情報が洗い出され、吟味され、そして結論が出た時には、もうしっかりと抱きしめられていた。
「僕の事が好きなんですね」
「いや」
「今だけでいいんです。言ってください。お願いだから」
首筋に熱い唇を押し付けて、懇願してくる。頭がぐるぐると回るような気がして、足から力が抜けていって。もうどうしようもなくて彼の身体にしがみついた。言えない。自分でも分からないのに。どうしたらいいの。忙しく体をまさぐってくる手に、耳に吹き込まれる熱い息に、無意識のうちに反応しながら、心のうちで呟く。
「お願いです。本当の事を言って」
「好き…かも」
唇を強引に奪われた。舌が割って入ってきて絡みつく。強く荒々しい蹂躙するようなキス。ずっと押し殺してきた彼の感情が、急激に膨れ上がって何もかもを押し流して行った。
まさか社長室のソファの上で秘書に押し倒されるなんて事は、想定外だったけど、来客用の思いっきり大きな革張りのソファに、しっかりと体重をかけて押さえつけられると、何だか抵抗するのが馬鹿馬鹿しくなってきた。
この男の身体がいいのは知っている。自分の身体がそれに反応しているのも。しかもこんなにそそられる男なんだし、私の事を好きだと言ってくれているんだし。一生懸命自分に言い訳をして欲望に身を任せた。
彼は、ほとんど服を脱がず、私の服もほとんど脱がせず、ろくに愛撫もしないで、最初のキスの唇を離す事もしないで、考えられる限りの最短距離で侵入してきた。入ってきた瞬間、貫かれた痛みに身体が固くなる。そのとたん、無我夢中の様子だった彼は、ぱっと顔をあげた。その彼の顔が驚愕にゆがんでいる。
「なんで……。初めてだったんですか?」
「そんなはずないじゃない」
荒い息を必死に整えて、唾を飲み込んだ彼は、しばらくじっと私の身体の反応を確かめていた。
「……嘘だ」
腕を突っ張って、歯をくいしばって、今までかけていた体重をかけないように苦労しながら、どうしたらいいのか分からないといった様子で顔を覗き込んでくる。
「なぜ、言ってくれなかったんです」
「違うってば。そんなはずないじゃない」
もう、口をきく余裕も無い様子だった。あの、エレベーターの中のアクシデントから引っ張りに引っ張って、ネチネチネチネチ、毎日刺激しあってきたのだ。我慢も限界だったのだろう。思いを遂げて、中に入ってから後戻りなんて出来るものじゃない。必死に動くまいと突っ張っていた身体が、私の収縮に答えて暴走しだすのは無理もなかった。
「あ…っつ…」
ついていく事は出来なかったけど、受け止める事だけは出来た。結構それで満足して、ぐったりと弛緩した彼の腕の中にまるくなった。一度きりになったとしても、これだけ求められれば十分満たされたような気がしていた。
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あきれた事に出血してしまった。そのせいで、本当に初めてじゃなくて、久しぶりだっただけだと、何度繰り返しても東野は納得しなかった。バージンで、男とふたりきりでSMなんて怖くて出来ない。
すっかり青くなっていた東野は、根掘り葉掘り過去の事まで食い下がってきて、私を困惑させた。データーを与えてしまうと、つじつまが合わない時に余計な疑いを招いてしまいかねない。忘れたい過去の事はすっかり記憶の彼方に追いやってしまっている私としては、おぼろげな記憶を彼に言うのはごめんだった。
とにかく初めてではなかった事は何とか納得させたものの、あまりにも性急な行為で私に痛い思いをさせたと信じ込んだ東野は、ひどく自己嫌悪に陥っている様子だった。だが、とろとろと愛撫なんかされていたら、どこかで破綻していたと思う私としては、彼の性急さに救われたのだと分かっていた。
簡単に後始末をして、起き上がろうとしたところを、また腕を引かれて押さえ込まれた。
「東野」
とがった声を出して見せたが、向こうも完全に開き直っている。
「離しませんよ。今、行かせたら、これきりにするつもりでしょう?」
なんて、鋭いんだろう。ものすごく早まった事をしてしまったような気がして頭を抱えたくなった。
「セックスしたからSMしない、なんて言わせませんから」
「東野ぉ…」
なんだか、すっかり身体中の活力を吸い取られたような錯覚に陥る。どうしたいんだか。どうしたらいいんだか。自分でも訳が分からなくって。あきらめて、彼の腕の中にもたれかかった。
「…少し考えさせて」
「嫌だ」
だだっこのように、腕をつかんだ掌に力をこめて来る。いつもビロードのようになめらかで耳にやさしく響く彼の声がざらざらとかすれてうわずっていた。
「もう、何もなかったように振舞うなんて、耐えられない」
「だけど、だけど、しょうがないでしょう。そういうのが私は好きなんだから」
一瞬、東野の動きが止まった。それから、抱きしめていた腕をちょっと緩めて、そこに書かれている筈の何かを探り出そうとするように、まじまじと私の顔を覗き込んで来た。
ここで、負けちゃダメ。Sなんだから!私は、しっかりと彼の目を見返した。彼は、私の顔を見つめ、もう一度すべてのデーターをさらいなおした。(多分)そして一瞬目を閉じて、溜息をついて諦らめたかのようにうなずいた。
「分かりました」
え?何が分かったの?なんで納得したの?彼は身体を起こすと、腕を取ってゆっくりと私の身体を支えて起き上がらせた。それから、すばやく身じまいをし、乱れていた私の服も手早く整えてくれた。そして、ソファの下に転がっていたハイヒールを拾うと、片方ずつ足を持ち上げて履かせてくれる。私がぼんやりしているうちに、立ち上がって机の上の書類を取上げ私の腕を取って立ち上がらせた。
「車を正面に廻します。家まで送りますから、明日の予定に眼を通して置いてください」
何かを振り払うように、何かを吹っ切るように、彼がドアを開けて部屋を出て行くと、何がどうなったのかよく分からないまま、しばらく呆然としていた。それから、渡された書類をぱらぱらとめくった…。ものすごくまずい事態に突入しているという自覚が襲ってきて、めまいがした。
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すっかり青くなっていた東野は、根掘り葉掘り過去の事まで食い下がってきて、私を困惑させた。データーを与えてしまうと、つじつまが合わない時に余計な疑いを招いてしまいかねない。忘れたい過去の事はすっかり記憶の彼方に追いやってしまっている私としては、おぼろげな記憶を彼に言うのはごめんだった。
とにかく初めてではなかった事は何とか納得させたものの、あまりにも性急な行為で私に痛い思いをさせたと信じ込んだ東野は、ひどく自己嫌悪に陥っている様子だった。だが、とろとろと愛撫なんかされていたら、どこかで破綻していたと思う私としては、彼の性急さに救われたのだと分かっていた。
簡単に後始末をして、起き上がろうとしたところを、また腕を引かれて押さえ込まれた。
「東野」
とがった声を出して見せたが、向こうも完全に開き直っている。
「離しませんよ。今、行かせたら、これきりにするつもりでしょう?」
なんて、鋭いんだろう。ものすごく早まった事をしてしまったような気がして頭を抱えたくなった。
「セックスしたからSMしない、なんて言わせませんから」
「東野ぉ…」
なんだか、すっかり身体中の活力を吸い取られたような錯覚に陥る。どうしたいんだか。どうしたらいいんだか。自分でも訳が分からなくって。あきらめて、彼の腕の中にもたれかかった。
「…少し考えさせて」
「嫌だ」
だだっこのように、腕をつかんだ掌に力をこめて来る。いつもビロードのようになめらかで耳にやさしく響く彼の声がざらざらとかすれてうわずっていた。
「もう、何もなかったように振舞うなんて、耐えられない」
「だけど、だけど、しょうがないでしょう。そういうのが私は好きなんだから」
一瞬、東野の動きが止まった。それから、抱きしめていた腕をちょっと緩めて、そこに書かれている筈の何かを探り出そうとするように、まじまじと私の顔を覗き込んで来た。
ここで、負けちゃダメ。Sなんだから!私は、しっかりと彼の目を見返した。彼は、私の顔を見つめ、もう一度すべてのデーターをさらいなおした。(多分)そして一瞬目を閉じて、溜息をついて諦らめたかのようにうなずいた。
「分かりました」
え?何が分かったの?なんで納得したの?彼は身体を起こすと、腕を取ってゆっくりと私の身体を支えて起き上がらせた。それから、すばやく身じまいをし、乱れていた私の服も手早く整えてくれた。そして、ソファの下に転がっていたハイヒールを拾うと、片方ずつ足を持ち上げて履かせてくれる。私がぼんやりしているうちに、立ち上がって机の上の書類を取上げ私の腕を取って立ち上がらせた。
「車を正面に廻します。家まで送りますから、明日の予定に眼を通して置いてください」
何かを振り払うように、何かを吹っ切るように、彼がドアを開けて部屋を出て行くと、何がどうなったのかよく分からないまま、しばらく呆然としていた。それから、渡された書類をぱらぱらとめくった…。ものすごくまずい事態に突入しているという自覚が襲ってきて、めまいがした。
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次の水曜日の夜、真樹に会うと、私は前置きもなしに、すべての顛末をぶちまけた。ソファでセックスした事に話が及ぶと、真樹は驚いた様子で口笛を吹く。
「それはまた、すごい快挙じゃないの」
嬉しそうに笑う真樹の頭を、衝動に任せて思いっきりはたいた。あの翌日から東野は、もとの東野に戻っていた。何もなかったかのように、衝動を押し殺してみせた。もちろん、それはあまりうまくいっていなかったけれど。とにかく、なんでもない振りをしようとしていた。
「瑞季は、こだわりすぎなんだよ。Sだから女王様にならないと、なんて、ほんとは思ってないでしょ。好きなようにしたら」
私は、ちょっと悲しくなって、真樹の顔を見られなかった。
「それが、どういう事だか分かっているの?」
真樹は薄く微笑むと、そっと手を伸ばしてきて、私の頭を引き寄せた。
「分かっているよ」
そっと、髪の毛を撫でてくれる。
「結果がどうなるか。三ヶ月は水曜日を空けて待っているよ。何も連絡がなければそれで終わりだ」
「ねぇ。ほんとにそれでいいの?」
「瑞季。プレイしなくなっても、そのまま二度と会わなくても、僕は一生君のものだよ。僕が必要な時はいつでも柚木に電話して。どんな時でも、君を優先するから。何も心配しなくていいんだ」
優しすぎる言葉に思わず涙がこぼれた。真樹はいつでも優しすぎる。この三年間、私は彼がいたから楽に生きてこられたのに。彼は私の前にひざまずくと、顎にそっと手をかけて、初めてのキスをくれた。ついばむような優しいキス。
「大丈夫だよ。彼が納得したらまた会える。会えなくても「君の欠落」が僕にとっては支えになるさ」
その夜、私たちは最後になるかもしれないプレイをした。私は彼の身体を吊って、バラ鞭で彼の身体をまんべんなく打ち叩いた。強くなく、手加減をしながら、それでいて長く、長く…・痛みがどうやっても耐えられなくなるほどひどくなるまで身体中にみみずばれを作って、呻いている彼の背中に、痕になるほど強く一本鞭をひとつ打ち込んで、彼を吊るしたまま、部屋を出た。そして、私は後始末を柚木に任せて館を後にした。
真樹に背中を押された事で、私は、東野との関係を見つめなおさざるをえなかった。こだわらないで好きにやれって事は、好きな時に彼に抱かれて、好きな時はじゃれて、好きな時に痛めつけてもいいって事よね。それって、信じられないくらい鬼畜な行動よね。
机の上に肘をついて、部屋の中を、書類を持って移動する彼を眼で追った。視線に気がついて眼を上げた東野が、もの問いたげにみつめかえしてくる。私は昨日、いつものように彼を置き去りにして館へ行った。別れ際の彼の表情は、撃ち殺されるのを待っている獣のようだった。そのせいで、彼の態度は、今日は妙に硬い。ちょっとやつれた様子で、昨日は眠れなかったのがありありだった。
そんな自分勝手な事をして、普通の男は納得するんだろうか。真樹のようにぶっ飛んだ人生を送っている男に保障されても、安心できない。でも、それ以外の生き方なんてできそうにもなかった。じゃあ、どうすればいいんだろう。とりあえず、プレイしてみなくちゃ分からないわよね。東野は、頭で考えているだけでやれると思っているみたいだけど、ほんとにその場面になれば、現実を知って、とっとと逃げ出すかもしれない。そうなったら、すごく便利で有能な秘書を失う事になる事になる。それは、困る。
「社長?」
あんまりじっと見つめたんで、とうとう無い振りができなくなったらしい。息だけの声で、問いかけてくる。
「ねえ。もし、上手くいかなくても、仕事やめないって約束して」
あまりに短絡的な物言いに、自分で言ってしまってから赤面してしまっていた。彼は、ぱたぱたとまばたきをしてからこくこくとうなずいた。
「約束します」
「じゃあ、今日、ホテルを押さえて。SMが出来るラブホテル。吊りが出来る設備があるところにして」
東野が思わず息を呑んだのが分かった。私は、出来るだけ何気なく視線をそらせた。
「分かりました」
東野の声は冷え冷えとして硬かった。
「社長、申し付けられておりましたホテルの手配が整いました」
社員と打ち合わせをしていた場所に入ってきた東野が、後ろからかがみこむようにしてはっきりとした声で告げたのは、終業30分前の事だった。
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「それはまた、すごい快挙じゃないの」
嬉しそうに笑う真樹の頭を、衝動に任せて思いっきりはたいた。あの翌日から東野は、もとの東野に戻っていた。何もなかったかのように、衝動を押し殺してみせた。もちろん、それはあまりうまくいっていなかったけれど。とにかく、なんでもない振りをしようとしていた。
「瑞季は、こだわりすぎなんだよ。Sだから女王様にならないと、なんて、ほんとは思ってないでしょ。好きなようにしたら」
私は、ちょっと悲しくなって、真樹の顔を見られなかった。
「それが、どういう事だか分かっているの?」
真樹は薄く微笑むと、そっと手を伸ばしてきて、私の頭を引き寄せた。
「分かっているよ」
そっと、髪の毛を撫でてくれる。
「結果がどうなるか。三ヶ月は水曜日を空けて待っているよ。何も連絡がなければそれで終わりだ」
「ねぇ。ほんとにそれでいいの?」
「瑞季。プレイしなくなっても、そのまま二度と会わなくても、僕は一生君のものだよ。僕が必要な時はいつでも柚木に電話して。どんな時でも、君を優先するから。何も心配しなくていいんだ」
優しすぎる言葉に思わず涙がこぼれた。真樹はいつでも優しすぎる。この三年間、私は彼がいたから楽に生きてこられたのに。彼は私の前にひざまずくと、顎にそっと手をかけて、初めてのキスをくれた。ついばむような優しいキス。
「大丈夫だよ。彼が納得したらまた会える。会えなくても「君の欠落」が僕にとっては支えになるさ」
その夜、私たちは最後になるかもしれないプレイをした。私は彼の身体を吊って、バラ鞭で彼の身体をまんべんなく打ち叩いた。強くなく、手加減をしながら、それでいて長く、長く…・痛みがどうやっても耐えられなくなるほどひどくなるまで身体中にみみずばれを作って、呻いている彼の背中に、痕になるほど強く一本鞭をひとつ打ち込んで、彼を吊るしたまま、部屋を出た。そして、私は後始末を柚木に任せて館を後にした。
真樹に背中を押された事で、私は、東野との関係を見つめなおさざるをえなかった。こだわらないで好きにやれって事は、好きな時に彼に抱かれて、好きな時はじゃれて、好きな時に痛めつけてもいいって事よね。それって、信じられないくらい鬼畜な行動よね。
机の上に肘をついて、部屋の中を、書類を持って移動する彼を眼で追った。視線に気がついて眼を上げた東野が、もの問いたげにみつめかえしてくる。私は昨日、いつものように彼を置き去りにして館へ行った。別れ際の彼の表情は、撃ち殺されるのを待っている獣のようだった。そのせいで、彼の態度は、今日は妙に硬い。ちょっとやつれた様子で、昨日は眠れなかったのがありありだった。
そんな自分勝手な事をして、普通の男は納得するんだろうか。真樹のようにぶっ飛んだ人生を送っている男に保障されても、安心できない。でも、それ以外の生き方なんてできそうにもなかった。じゃあ、どうすればいいんだろう。とりあえず、プレイしてみなくちゃ分からないわよね。東野は、頭で考えているだけでやれると思っているみたいだけど、ほんとにその場面になれば、現実を知って、とっとと逃げ出すかもしれない。そうなったら、すごく便利で有能な秘書を失う事になる事になる。それは、困る。
「社長?」
あんまりじっと見つめたんで、とうとう無い振りができなくなったらしい。息だけの声で、問いかけてくる。
「ねえ。もし、上手くいかなくても、仕事やめないって約束して」
あまりに短絡的な物言いに、自分で言ってしまってから赤面してしまっていた。彼は、ぱたぱたとまばたきをしてからこくこくとうなずいた。
「約束します」
「じゃあ、今日、ホテルを押さえて。SMが出来るラブホテル。吊りが出来る設備があるところにして」
東野が思わず息を呑んだのが分かった。私は、出来るだけ何気なく視線をそらせた。
「分かりました」
東野の声は冷え冷えとして硬かった。
「社長、申し付けられておりましたホテルの手配が整いました」
社員と打ち合わせをしていた場所に入ってきた東野が、後ろからかがみこむようにしてはっきりとした声で告げたのは、終業30分前の事だった。
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東野が手配したホテルは、よくも素人がこんなところ見つけ出した、と、思わず感心してしまうようなホテルだった。確かにラブホテルなんだけど、白い壁が真新しくて清潔感がただよっている。白木の柱と梁がさりげなく、黒い金具もまがまがしくチャーミングだ。
しかも、吊り上げるためのチェーンブロックが付いていた。非力な女にはありがたい設備だった。今まで至れり尽くせりの設備の館を常用していただけに、不安だったけど、これならなんとかなるだろう。
一通りの手回り品の詰まったキャリーバックを東野にガラガラ引かせて、部屋に入るとまずシャワーを浴びる事にした。バックの中から黒い絹のローブを取り出すと、東野を置き去りにしてバスルームに消えた。シャワーを浴びている間に考え直す事も可能だ。いや、できれば考えなおして逃げ出して欲しい。けれど、戻ってくると、東野は置いていった時のままの姿勢で、座って待っていた。
私はソファにわざと「どさっ」と音をたてて座った。足を投げ出して組む。もちろん下着をつけてないからむき出しの素足を絹のロープが滑り落ちていくと、きわどい足の線が露になる。手を組んでうつむいていた東野の目が釘付けになったのが分かる。たった一回。それも、あまりのも性急なセックスが、彼の欲望と焦燥を、いっそうに煽り立てただけの結果になってしまった事は、この一週間の彼の様子で分かっていた。
「脱いで」
さあ、どうする?ほとんどケンカを売っているような気分だった。昨日の真樹とのプレイがまだ気持ちにも身体にも残っている。彼は、一瞬だけ目を泳がせたが、すぐに真剣な表情で見つめ返してきた。立ち上がると二歩椅子から離れ、ネクタイを緩め、引き抜く。そして、座っていた椅子にそのネクタイを放り投げた。次に靴を脱ぎ、靴下を脱ぐ。それから、上着。まったく逡巡しない手つきでシャツのボタンをひとつずつ外していく。
前が開くと袖のボタンに移る。シャツをネクタイの上に脱ぎ捨てると。上半身裸になっていた。顔が赤くなってきて、彼が羞恥をこらえているのが分かった。だが、ためらったのは一瞬で、ベルトの金具を外してズボンを蹴り脱いだ。かがんで拾うと、それもネクタイの上に投げる。
すでに、全裸だった。下着を着けてこなかったらしい。一度だけ目が合い。さっと逸らされる。唇がかすかに震えているのが分かった。下から上までじろじろとねめつけた。見られる羞恥に、何度か深く息を吸って、どうにかして落ち着こうとしてはいるものの、身体が熱くなって震えが押さえられなくなっているのが分かった。
「後ろを向いて」
ギュッと眼をつぶって、くるりと身体を廻す。落ち着きなく手が居場所を探して握りしめられる。彼の羞恥に当てられて、頬が火照ってくるのが分かる。初体験の相手とプレイするのは、私にとっても初めてだという事に気が付いた。立ち上がると後ろから近づいた。
左手をお尻に押し付けて、右手を前に廻す。彼の身体がビクッと跳ねた。前に廻した手で胸から下腹へと撫で回す。
「あ……」
溜息のような喘ぎがもれる。勃ち上って来ているモノはわざとさけて太腿へと手を滑らした。背中を押して、ベッドに座らせる。ゆっくりと身体を返して元のソファに戻って座った。テーブルに準備されていた水割りを一口飲む。
「オナニーして見せて」
彼の頬が言われた言葉にショックを受けて凍りつくのを、見つめた。逡巡と羞恥を押さえつけようとして、自意識と格闘する彼の苦悶を舌なめずりして味わう。ひとつ、ふたつ大きく息を付くと、ベッドに浅く腰を掛けて、眼を閉じてそろそろと手を這わし始めた。
人前でオナニーするなんて、普通の経験じゃない。そう簡単に思い通りにいかないのが常だった。視線を意識すると、快感は途切れ、快感を追いすぎると、羞恥が強まる。
彼が、必死に私の存在を意識の外に追い出そうとして、眼をギュッと閉じて自分の中の感覚だけを追いかけようと努力しているのを黙って見つめた。だんだんと高ぶってきて息が速くなる。
「東野って、そんな恥ずかしい事が平気で出来る男だったのね」
一瞬で彼の意識が墜落したのが分かった。あっという間に素に戻り、萎えていく。やめていいといわれない以上、もう一度やり直しだった。
二度目のトライはさっきよりも恥ずかしく、さっきよりもみじめさがつのる。東野の喘ぎはさっきよりも切羽詰って、苦しそうだった。必死に自分をあおっているのが、分かる。今度は上手くいった。もう少しでいきそうだ。
「ストップ!」
びくっ!と身体が大きく揺れる。いく瞬間にとめられた経験の無い彼の身体が、混乱しながらも必死に踏みとどまったのが分かった。身体中に力をこめて、息をつめて、シーツに爪を食い込ませる。
「あぅ…」
打ち上げられた魚のように、空気を求めて口が開いた。ふいごのように息を付きながら、身体がもう少しで得られたはずの快感を逃した苦痛に引きつる。私は立ち上がって彼に近づいた。見上げてくる瞳はすっかり欲望に曇っている。中断させられた快感を求めて身もだえする。髪をつかんで顔を引き上げると、深くくちづけた。彼の口の中を舌でなめずりまわす。突き放すように手を離すと。また、ソファに戻る。
「もう一度よ」
歯を喰いしばって屈辱を必死に押さえつけている。いつもより暗い瞳が、一瞬私をねめつけるように閃いたが、すぐにさっと逸らされた。今度はさっきのようなおずおずとした動きからではなかった。
挑発するように、袋にも手を這わせて、ねっとりと絡みつかせる。すっかり先走りで濡れそぼっているのでぴちゃぴちゃと淫猥な音がする。突き上げてくる羞恥を赤い顔を左右に振って振り払う。逝かせて貰えないのは承知の上での三度目のトライ。今度は、待ち構えていたので逝きそうになる瞬間を自分で捉えていた。
「ストップ!」
「く…っ」
身体中がいく事を求めて捻れる。握りこんだ手を意志の力で引き剥がし、シーツにめりこむほどに身体を突っ張らせて耐えた。
「あ…あ…」
懇願しそうになる口を必死で閉じているのが分かる。初めての彼にはいかにも辛いはずだった。喘ぎが収まり、ようやく顔を上げられるようになるまで、長い時間が掛かった。
「もう一度よ」
絶望の眼で見返してきても、東野は逆らわなかった。今度はあっという間に坂を駆け上がる。でも、いかせるつもりはなかった。今は、彼もそれは知っている。腹筋に力を込めて、崖から滑り落ちまいとしがみつく。濡れた手で顔を覆い、びくびくと身体を引きつらせた。四度目の欲求も、彼は押さえつけて見せた。
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しかも、吊り上げるためのチェーンブロックが付いていた。非力な女にはありがたい設備だった。今まで至れり尽くせりの設備の館を常用していただけに、不安だったけど、これならなんとかなるだろう。
一通りの手回り品の詰まったキャリーバックを東野にガラガラ引かせて、部屋に入るとまずシャワーを浴びる事にした。バックの中から黒い絹のローブを取り出すと、東野を置き去りにしてバスルームに消えた。シャワーを浴びている間に考え直す事も可能だ。いや、できれば考えなおして逃げ出して欲しい。けれど、戻ってくると、東野は置いていった時のままの姿勢で、座って待っていた。
私はソファにわざと「どさっ」と音をたてて座った。足を投げ出して組む。もちろん下着をつけてないからむき出しの素足を絹のロープが滑り落ちていくと、きわどい足の線が露になる。手を組んでうつむいていた東野の目が釘付けになったのが分かる。たった一回。それも、あまりのも性急なセックスが、彼の欲望と焦燥を、いっそうに煽り立てただけの結果になってしまった事は、この一週間の彼の様子で分かっていた。
「脱いで」
さあ、どうする?ほとんどケンカを売っているような気分だった。昨日の真樹とのプレイがまだ気持ちにも身体にも残っている。彼は、一瞬だけ目を泳がせたが、すぐに真剣な表情で見つめ返してきた。立ち上がると二歩椅子から離れ、ネクタイを緩め、引き抜く。そして、座っていた椅子にそのネクタイを放り投げた。次に靴を脱ぎ、靴下を脱ぐ。それから、上着。まったく逡巡しない手つきでシャツのボタンをひとつずつ外していく。
前が開くと袖のボタンに移る。シャツをネクタイの上に脱ぎ捨てると。上半身裸になっていた。顔が赤くなってきて、彼が羞恥をこらえているのが分かった。だが、ためらったのは一瞬で、ベルトの金具を外してズボンを蹴り脱いだ。かがんで拾うと、それもネクタイの上に投げる。
すでに、全裸だった。下着を着けてこなかったらしい。一度だけ目が合い。さっと逸らされる。唇がかすかに震えているのが分かった。下から上までじろじろとねめつけた。見られる羞恥に、何度か深く息を吸って、どうにかして落ち着こうとしてはいるものの、身体が熱くなって震えが押さえられなくなっているのが分かった。
「後ろを向いて」
ギュッと眼をつぶって、くるりと身体を廻す。落ち着きなく手が居場所を探して握りしめられる。彼の羞恥に当てられて、頬が火照ってくるのが分かる。初体験の相手とプレイするのは、私にとっても初めてだという事に気が付いた。立ち上がると後ろから近づいた。
左手をお尻に押し付けて、右手を前に廻す。彼の身体がビクッと跳ねた。前に廻した手で胸から下腹へと撫で回す。
「あ……」
溜息のような喘ぎがもれる。勃ち上って来ているモノはわざとさけて太腿へと手を滑らした。背中を押して、ベッドに座らせる。ゆっくりと身体を返して元のソファに戻って座った。テーブルに準備されていた水割りを一口飲む。
「オナニーして見せて」
彼の頬が言われた言葉にショックを受けて凍りつくのを、見つめた。逡巡と羞恥を押さえつけようとして、自意識と格闘する彼の苦悶を舌なめずりして味わう。ひとつ、ふたつ大きく息を付くと、ベッドに浅く腰を掛けて、眼を閉じてそろそろと手を這わし始めた。
人前でオナニーするなんて、普通の経験じゃない。そう簡単に思い通りにいかないのが常だった。視線を意識すると、快感は途切れ、快感を追いすぎると、羞恥が強まる。
彼が、必死に私の存在を意識の外に追い出そうとして、眼をギュッと閉じて自分の中の感覚だけを追いかけようと努力しているのを黙って見つめた。だんだんと高ぶってきて息が速くなる。
「東野って、そんな恥ずかしい事が平気で出来る男だったのね」
一瞬で彼の意識が墜落したのが分かった。あっという間に素に戻り、萎えていく。やめていいといわれない以上、もう一度やり直しだった。
二度目のトライはさっきよりも恥ずかしく、さっきよりもみじめさがつのる。東野の喘ぎはさっきよりも切羽詰って、苦しそうだった。必死に自分をあおっているのが、分かる。今度は上手くいった。もう少しでいきそうだ。
「ストップ!」
びくっ!と身体が大きく揺れる。いく瞬間にとめられた経験の無い彼の身体が、混乱しながらも必死に踏みとどまったのが分かった。身体中に力をこめて、息をつめて、シーツに爪を食い込ませる。
「あぅ…」
打ち上げられた魚のように、空気を求めて口が開いた。ふいごのように息を付きながら、身体がもう少しで得られたはずの快感を逃した苦痛に引きつる。私は立ち上がって彼に近づいた。見上げてくる瞳はすっかり欲望に曇っている。中断させられた快感を求めて身もだえする。髪をつかんで顔を引き上げると、深くくちづけた。彼の口の中を舌でなめずりまわす。突き放すように手を離すと。また、ソファに戻る。
「もう一度よ」
歯を喰いしばって屈辱を必死に押さえつけている。いつもより暗い瞳が、一瞬私をねめつけるように閃いたが、すぐにさっと逸らされた。今度はさっきのようなおずおずとした動きからではなかった。
挑発するように、袋にも手を這わせて、ねっとりと絡みつかせる。すっかり先走りで濡れそぼっているのでぴちゃぴちゃと淫猥な音がする。突き上げてくる羞恥を赤い顔を左右に振って振り払う。逝かせて貰えないのは承知の上での三度目のトライ。今度は、待ち構えていたので逝きそうになる瞬間を自分で捉えていた。
「ストップ!」
「く…っ」
身体中がいく事を求めて捻れる。握りこんだ手を意志の力で引き剥がし、シーツにめりこむほどに身体を突っ張らせて耐えた。
「あ…あ…」
懇願しそうになる口を必死で閉じているのが分かる。初めての彼にはいかにも辛いはずだった。喘ぎが収まり、ようやく顔を上げられるようになるまで、長い時間が掛かった。
「もう一度よ」
絶望の眼で見返してきても、東野は逆らわなかった。今度はあっという間に坂を駆け上がる。でも、いかせるつもりはなかった。今は、彼もそれは知っている。腹筋に力を込めて、崖から滑り落ちまいとしがみつく。濡れた手で顔を覆い、びくびくと身体を引きつらせた。四度目の欲求も、彼は押さえつけて見せた。
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その後彼を手枷につないで吊った。両手を拡げてバーの両端につなぐ吊り。足が床に届きそうで届かないくらいの高さ。吊りは静かだけれど本人にとってはすごく辛いのは知っていた。私は新しい水割りを作ってソファに戻った。
大きかった氷がからからと音を立てなくなるくらいに溶けた頃には、彼は吊られた体を脂汗でてらてらと光らせていた。どこを見ているか分からない視線は、時々私の姿を求めてさまよう。眉は寄せられ、青い顔は苦痛にゆがむ。足は、つくはずのない床を求めて探る。息が浅くなり、速くなる。吹き出す汗が身体を伝わり足先から床にたれる。ぽたん。ぽたん。と、滴のたれる音の間隔がだんだんと早くなってくる。眼を閉じた彼は殉教者のようだった。
ひょいと足を伸ばして腰の辺りを押す。吊られた身体が力を加えられた事でゆらゆらと揺れる。
「く……」
筋肉が一瞬で浮き上がり、苦痛を減らそうと緊張する。体力が無い方が早く終わりになる。彼は、なまじきちんと鍛えた身体を持っているせいで、身体が勝手に逆らおうとして苦痛をいや増しているのだった。
『こんなに辛そうなのに、いつ、根をあげるのだろう』と、不思議に思い。これは、自分から言い出す気はないなと気が付いた。
プレイに慣れてくれば、どの辺りが自分の限界か分かってくるし、どの辺でギブアップすれば身体を痛めつけずにすむか見極めも付く。館で私の相手をした男達は商売だから、身体を壊してしまっては元も子もないのだ。
真樹はそうじゃなかったけど、それでも、自分の楽しみのためにやっているのだから、懇願するのもその楽しみの一つなのだった。
東野は違う。苦痛を喜びに変える術を知らない彼は、ただ闇雲に耐えている。しかも「出来ない」と言ったが最後、私が放り出しかねないのを恐怖しているのだった。
チェーンブロックのスイッチを切り替え、ガラガラとバーを降ろして彼の足を床につけた。これ以上粘ると肩の関節が外れてしまう。
「う…」
足が付いた瞬間、安堵と、ゆるんだ筋肉がきしむ痛みに東野の身体が震えた。腕の痺れが取れて、ずきずきと筋肉が痛み出すその頃合まで黙って待った。それから、その背中にバラ鞭をゾロリと這わせる。何が起きようとしているのか気が付いた東野の身体が、緊張に引きつった。
「ああ……」
溜息が洩れる。持ちこたえられるかちょっと危ぶんだが、思い切って振り下ろした。ビシッ!と皮の鳴る音が響き、踏みとどまれなかった彼の身体が揺れた。ちょっと間を置いてもう一度。
「あうっ!」
しっかりとした声の悲鳴が上がって安堵した。もう一度鞭を背中に這わせてから、強く叩きつけると、バーをもっと降ろして手枷を外した。
片方の手枷を外す時には意識も朦朧としているようだったのに、もう片方の手枷が外れた瞬間に抱きすくめられた。どこにこんな体力が残っていたんだろうと、びっくりするほど強い力で、腕の中に囲い込まれる。
「合格しました?」
「プレイの最中にそんな事しないの!」
胸が喜びにきゅうんと絞り込まれた事を悟られたくなくて、事さら蓮っ葉に肩をはたいて見せた。静かでせつない色の瞳に出会ってうろたえる。
「こんなに我慢したのに、誉めてくれないんですか?」
「いいかげんにして。そんなべたべたした身体で触らないで。ちゃんとお風呂に入ってきて」
「お風呂に入ってくれば抱きしめてもいいんですね」
笑いの滲んだ声に驚いた。ここまで手加減無しに痛めつけられて、それでも笑える男なんて、貴重品だった。
「いいわ。お風呂から上がったら、セックスしましょう」
東野の不思議そうな目が右から左へくるりと移動する。
「SMの相手とはセックスしないんじゃなかったんですか?」
「東野は、SMの相手だけでいいの?」
笑っていた瞳が急に真剣になった。
「いいえ。もちろん全部いただきたいです」
そして、私の身体を捉えていた腕をゆっくりとほどくと、確認するようにもう一度顔を覗き込んでから、くるりと背中を向け、シャワーに消えた。
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大きかった氷がからからと音を立てなくなるくらいに溶けた頃には、彼は吊られた体を脂汗でてらてらと光らせていた。どこを見ているか分からない視線は、時々私の姿を求めてさまよう。眉は寄せられ、青い顔は苦痛にゆがむ。足は、つくはずのない床を求めて探る。息が浅くなり、速くなる。吹き出す汗が身体を伝わり足先から床にたれる。ぽたん。ぽたん。と、滴のたれる音の間隔がだんだんと早くなってくる。眼を閉じた彼は殉教者のようだった。
ひょいと足を伸ばして腰の辺りを押す。吊られた身体が力を加えられた事でゆらゆらと揺れる。
「く……」
筋肉が一瞬で浮き上がり、苦痛を減らそうと緊張する。体力が無い方が早く終わりになる。彼は、なまじきちんと鍛えた身体を持っているせいで、身体が勝手に逆らおうとして苦痛をいや増しているのだった。
『こんなに辛そうなのに、いつ、根をあげるのだろう』と、不思議に思い。これは、自分から言い出す気はないなと気が付いた。
プレイに慣れてくれば、どの辺りが自分の限界か分かってくるし、どの辺でギブアップすれば身体を痛めつけずにすむか見極めも付く。館で私の相手をした男達は商売だから、身体を壊してしまっては元も子もないのだ。
真樹はそうじゃなかったけど、それでも、自分の楽しみのためにやっているのだから、懇願するのもその楽しみの一つなのだった。
東野は違う。苦痛を喜びに変える術を知らない彼は、ただ闇雲に耐えている。しかも「出来ない」と言ったが最後、私が放り出しかねないのを恐怖しているのだった。
チェーンブロックのスイッチを切り替え、ガラガラとバーを降ろして彼の足を床につけた。これ以上粘ると肩の関節が外れてしまう。
「う…」
足が付いた瞬間、安堵と、ゆるんだ筋肉がきしむ痛みに東野の身体が震えた。腕の痺れが取れて、ずきずきと筋肉が痛み出すその頃合まで黙って待った。それから、その背中にバラ鞭をゾロリと這わせる。何が起きようとしているのか気が付いた東野の身体が、緊張に引きつった。
「ああ……」
溜息が洩れる。持ちこたえられるかちょっと危ぶんだが、思い切って振り下ろした。ビシッ!と皮の鳴る音が響き、踏みとどまれなかった彼の身体が揺れた。ちょっと間を置いてもう一度。
「あうっ!」
しっかりとした声の悲鳴が上がって安堵した。もう一度鞭を背中に這わせてから、強く叩きつけると、バーをもっと降ろして手枷を外した。
片方の手枷を外す時には意識も朦朧としているようだったのに、もう片方の手枷が外れた瞬間に抱きすくめられた。どこにこんな体力が残っていたんだろうと、びっくりするほど強い力で、腕の中に囲い込まれる。
「合格しました?」
「プレイの最中にそんな事しないの!」
胸が喜びにきゅうんと絞り込まれた事を悟られたくなくて、事さら蓮っ葉に肩をはたいて見せた。静かでせつない色の瞳に出会ってうろたえる。
「こんなに我慢したのに、誉めてくれないんですか?」
「いいかげんにして。そんなべたべたした身体で触らないで。ちゃんとお風呂に入ってきて」
「お風呂に入ってくれば抱きしめてもいいんですね」
笑いの滲んだ声に驚いた。ここまで手加減無しに痛めつけられて、それでも笑える男なんて、貴重品だった。
「いいわ。お風呂から上がったら、セックスしましょう」
東野の不思議そうな目が右から左へくるりと移動する。
「SMの相手とはセックスしないんじゃなかったんですか?」
「東野は、SMの相手だけでいいの?」
笑っていた瞳が急に真剣になった。
「いいえ。もちろん全部いただきたいです」
そして、私の身体を捉えていた腕をゆっくりとほどくと、確認するようにもう一度顔を覗き込んでから、くるりと背中を向け、シャワーに消えた。
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ラブホテルのバスローブを着て戻ってきた東野は、冷蔵庫からペリエを出すと、ごくごくと飲んだ。そして、ベッドに座っていた私の横に座る。3年間もいろんな男を金で買うような生活をしていながら、私のセックスの経験は、非常にお寒いものだった。
「どうすればいいんですか?」
前回、ほとんど何もせずにあっという間に終わってしまっただけに、お互いに、相手の身体の事はまだ何も知らないも同然だった。
「……東野は、どうしたいの?」
「それは、僕の好きにしていいって事?」
「うん、まあね。本当言うとよく分からないの」
「さっきと大分違うんですね。本当に、何もしていなかったんだ」
「まったく何もってわけじゃないけど、長い事、挿れなかったのはほんとよ」
「確かに……僕が乱暴すぎたんだけど、まさか、出血するとは思わなかった」
「東野、私が東野と対等に接する事ができるのはセックスの時だけだと思う」
「それ以外の時は、社長で、上司で、主人って事ですね?」
「うん…私には…痛みを与える関係が必要なの…。普通のカップルには、なれない…と、思う」
「その理屈から行けば、セックスの時は恋人同士になれるって事なんでしょう?」
まったく。私のあぶなげな理論の隙間をしっかりと捕らえて攻めて来る。彼を本気でやっつけるなら、感情に任せて突き進むしかない。
「…多分」
「分かりました」
東野は、しばらく黙って、考え込んでいた。頭の中でコンピューターがカタカタいってるんじゃないかと思うと、ちょっと笑えた。
「社長?」
「ね。瑞季って言いなさい。社長じゃ……ムードが…めり込みそう」
「…難しいですね。使い分けられるかな」
「それは……平気だと思うけど」
東野ったら、自分で気が付いてないの?あんた、場面によってしゃべり方が違うよ。
「今日は、ゆっくり『させて』欲しいんです。この間、あんまり急ぎすぎたから」
「ふふ……。東野はせっかちなんだと思った」
「ずっと、我慢していたんですよ。ずっと、ずっと…あなたを好きだったのに……」
彼の言葉はだんだんと優しいささやき声に変わっていった。そして片手で頬を引き寄せてそっとふれてくるキスをする。いつも強引に噛み付くようなキスをする東野の意外な顔。軽くふれて、離れて、そしてまた軽くふれる。何度も何度も繰り返しているうちに、彼の吐息が熱くなっていくのが分かる。片手でベッドの毛布をはぎながら、もう片方の手で背中を支えてくれながら、ゆっくりと身体を倒してくれる。
いきなり押し込まれた前回と別人のような丁寧な愛撫。少しずつ少しずつ強く、少しずつ少しずつ核心に近づいていく。さっきアレだけ焦らされた彼の身体は、もうすっかりと固くなっていて太腿に当たって痛い。それでも、弾んでくる息を、押さえながら彼の手は、私の感じるところを探して優しくさまよう。
思わず長い溜息が洩れた。こんなに優しくされて、こんなに大事にされて、こんなに愛してもらって、心の中が静かに、静かに彼の愛情で満ちていくような気がする
何度も寸止めさせられたのに、東野はまだ逝かせてもらってない。おそらくは、苦しくてたまらないはずなのに、彼は私がゆっくりと高まってくるのをじっと待っていた。私の肩の辺りにぞくぞくする場所があるのを発見した東野は、そこへ唇をぴったりとつけて、念入りに舌を這わせてくる。
あまりに強い快感に思わず身体が逃げようとすると、今度は感覚を拡散させるかのように、肩への愛撫を続けながらも胸に手を這わせてくる。さわってもいないのに、あそこが熱くなり、甘い快感が突き抜けていくようで思わず腰をもたげてしまう。もっと……。
彼の手はようやく会陰のスリットの上をゆるゆると前後に動いている。熱くなった体を押し付けたくなるほどの優しい愛撫。
それから親指が亀裂の中へ少しずつもぐりこんできた。入り口をふさぐぐらいの位置でほんの一センチほどの動きで前後にゆりかごの揺れのように出し入れされる。それもすごくゆっくりと……そして動かなくなる。あ……。もどかしいくらいの愛撫なのに…内側から高まってくるものを感じて喘いだ。
繰り返し、繰り返し。軽く唇をついばまれた。何度も何度も溜息を付かずにはいられない。東野。泣いてしまいそう。本当に長い時間をかけて、膣の中が痙攣を始めるほど高まるまで待ってから、東野は静かに身体を差し入れてきた。私が身体を固くしたので、東野は息を吸い込むと動きを止めた。身体から力が抜けるまで、待って、ゆるゆると進む。少しずつ少しずつ、おそろしくゆっくりと時間を掛けて彼は入ってきた。
完全に入り込むとようやく彼は溜息を付き、ぶるっと身震いをする。
「ああ。いい。熱くて。やわらかくて。絡み付いてきています」
私は恥ずかしくなって、彼の胸に顔をぴったりと伏せてしまう。それを、顎に手をかけて上向かせながら
「大丈夫ですか?痛くありません?」
私は、返事が出来なかった。痛みがあるかといえばまだ痛い。何だか腰の骨を無理矢理開かれているような感覚。だが、それと一緒に、内臓を掻き回されているような剥き出しの快感も存在していた。彼は、動かない。私の身体が反応するのを、耳を澄ますようにして待っている。じれったさにどうにかなってしまいそうだった。何度も何度も乳房や肩の上にキスされた。髪をすきあげ撫で下ろす。
まったく動いていないのに、だんだんと身体の中にうねりが産まれて、それに引き込まれていく。感覚に引きさらわれそうになって彼の首にしがみついた。彼は、ゆっくりと深く突いて、また抜いていく。考えていたような激しい動きではなかったのに、急激にオーガズムの波が迫ってきて驚きのうちにその波に打ち上げられた。
初めて知る不思議な感覚。一緒に。私のつぶやきを捉えた彼は、一度目は私がいくにまかせ、二度目に合わせて来た。
確かに射精があったはずなのに、彼のそれは萎える事なく確かに私の中にあった。私がオーガズムの無反応から目覚めるのをじっと待っている。そして、もう一度。同じやり方で私をいかせた。激しい愛撫も、華麗な技巧もなかったのに、満たされてすっかり満足した私は、溜息を付きながら、彼の咽喉にくちづけた。
彼の腕枕に寄り添って、うつらうつらするのは、なかなかに楽しい経験だった。彼が手を伸ばして前髪を掻き揚げてくれる。それからシーツを引っ張りあげてむき出しの肩をくるんでくれる。私はなすがままになり、彼の腕の中ですっかりたゆたっていた。
こんなに気持ちよくていいんだろうか?起き上がり、眼をつぶって瞼の上にキスを落としてくる彼は。もうすでに高ぶっていた。私はもう一度彼の中で溶けた。
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「どうすればいいんですか?」
前回、ほとんど何もせずにあっという間に終わってしまっただけに、お互いに、相手の身体の事はまだ何も知らないも同然だった。
「……東野は、どうしたいの?」
「それは、僕の好きにしていいって事?」
「うん、まあね。本当言うとよく分からないの」
「さっきと大分違うんですね。本当に、何もしていなかったんだ」
「まったく何もってわけじゃないけど、長い事、挿れなかったのはほんとよ」
「確かに……僕が乱暴すぎたんだけど、まさか、出血するとは思わなかった」
「東野、私が東野と対等に接する事ができるのはセックスの時だけだと思う」
「それ以外の時は、社長で、上司で、主人って事ですね?」
「うん…私には…痛みを与える関係が必要なの…。普通のカップルには、なれない…と、思う」
「その理屈から行けば、セックスの時は恋人同士になれるって事なんでしょう?」
まったく。私のあぶなげな理論の隙間をしっかりと捕らえて攻めて来る。彼を本気でやっつけるなら、感情に任せて突き進むしかない。
「…多分」
「分かりました」
東野は、しばらく黙って、考え込んでいた。頭の中でコンピューターがカタカタいってるんじゃないかと思うと、ちょっと笑えた。
「社長?」
「ね。瑞季って言いなさい。社長じゃ……ムードが…めり込みそう」
「…難しいですね。使い分けられるかな」
「それは……平気だと思うけど」
東野ったら、自分で気が付いてないの?あんた、場面によってしゃべり方が違うよ。
「今日は、ゆっくり『させて』欲しいんです。この間、あんまり急ぎすぎたから」
「ふふ……。東野はせっかちなんだと思った」
「ずっと、我慢していたんですよ。ずっと、ずっと…あなたを好きだったのに……」
彼の言葉はだんだんと優しいささやき声に変わっていった。そして片手で頬を引き寄せてそっとふれてくるキスをする。いつも強引に噛み付くようなキスをする東野の意外な顔。軽くふれて、離れて、そしてまた軽くふれる。何度も何度も繰り返しているうちに、彼の吐息が熱くなっていくのが分かる。片手でベッドの毛布をはぎながら、もう片方の手で背中を支えてくれながら、ゆっくりと身体を倒してくれる。
いきなり押し込まれた前回と別人のような丁寧な愛撫。少しずつ少しずつ強く、少しずつ少しずつ核心に近づいていく。さっきアレだけ焦らされた彼の身体は、もうすっかりと固くなっていて太腿に当たって痛い。それでも、弾んでくる息を、押さえながら彼の手は、私の感じるところを探して優しくさまよう。
思わず長い溜息が洩れた。こんなに優しくされて、こんなに大事にされて、こんなに愛してもらって、心の中が静かに、静かに彼の愛情で満ちていくような気がする
何度も寸止めさせられたのに、東野はまだ逝かせてもらってない。おそらくは、苦しくてたまらないはずなのに、彼は私がゆっくりと高まってくるのをじっと待っていた。私の肩の辺りにぞくぞくする場所があるのを発見した東野は、そこへ唇をぴったりとつけて、念入りに舌を這わせてくる。
あまりに強い快感に思わず身体が逃げようとすると、今度は感覚を拡散させるかのように、肩への愛撫を続けながらも胸に手を這わせてくる。さわってもいないのに、あそこが熱くなり、甘い快感が突き抜けていくようで思わず腰をもたげてしまう。もっと……。
彼の手はようやく会陰のスリットの上をゆるゆると前後に動いている。熱くなった体を押し付けたくなるほどの優しい愛撫。
それから親指が亀裂の中へ少しずつもぐりこんできた。入り口をふさぐぐらいの位置でほんの一センチほどの動きで前後にゆりかごの揺れのように出し入れされる。それもすごくゆっくりと……そして動かなくなる。あ……。もどかしいくらいの愛撫なのに…内側から高まってくるものを感じて喘いだ。
繰り返し、繰り返し。軽く唇をついばまれた。何度も何度も溜息を付かずにはいられない。東野。泣いてしまいそう。本当に長い時間をかけて、膣の中が痙攣を始めるほど高まるまで待ってから、東野は静かに身体を差し入れてきた。私が身体を固くしたので、東野は息を吸い込むと動きを止めた。身体から力が抜けるまで、待って、ゆるゆると進む。少しずつ少しずつ、おそろしくゆっくりと時間を掛けて彼は入ってきた。
完全に入り込むとようやく彼は溜息を付き、ぶるっと身震いをする。
「ああ。いい。熱くて。やわらかくて。絡み付いてきています」
私は恥ずかしくなって、彼の胸に顔をぴったりと伏せてしまう。それを、顎に手をかけて上向かせながら
「大丈夫ですか?痛くありません?」
私は、返事が出来なかった。痛みがあるかといえばまだ痛い。何だか腰の骨を無理矢理開かれているような感覚。だが、それと一緒に、内臓を掻き回されているような剥き出しの快感も存在していた。彼は、動かない。私の身体が反応するのを、耳を澄ますようにして待っている。じれったさにどうにかなってしまいそうだった。何度も何度も乳房や肩の上にキスされた。髪をすきあげ撫で下ろす。
まったく動いていないのに、だんだんと身体の中にうねりが産まれて、それに引き込まれていく。感覚に引きさらわれそうになって彼の首にしがみついた。彼は、ゆっくりと深く突いて、また抜いていく。考えていたような激しい動きではなかったのに、急激にオーガズムの波が迫ってきて驚きのうちにその波に打ち上げられた。
初めて知る不思議な感覚。一緒に。私のつぶやきを捉えた彼は、一度目は私がいくにまかせ、二度目に合わせて来た。
確かに射精があったはずなのに、彼のそれは萎える事なく確かに私の中にあった。私がオーガズムの無反応から目覚めるのをじっと待っている。そして、もう一度。同じやり方で私をいかせた。激しい愛撫も、華麗な技巧もなかったのに、満たされてすっかり満足した私は、溜息を付きながら、彼の咽喉にくちづけた。
彼の腕枕に寄り添って、うつらうつらするのは、なかなかに楽しい経験だった。彼が手を伸ばして前髪を掻き揚げてくれる。それからシーツを引っ張りあげてむき出しの肩をくるんでくれる。私はなすがままになり、彼の腕の中ですっかりたゆたっていた。
こんなに気持ちよくていいんだろうか?起き上がり、眼をつぶって瞼の上にキスを落としてくる彼は。もうすでに高ぶっていた。私はもう一度彼の中で溶けた。
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週末は、不意のアクシデントに備えて、常にひとりで、マンションに待機してすごすのが普通だった。会社は株式が動かないのでお休みしている以上、手配したパーティーや個人的な小さなお茶会への対応は、私が処理するしかない。もともと私の個人的な付き合いから派生した仕事だし、家でのんびりするのが好きなので自然とそういう形になっていた。
東野とは、金曜日の朝に送ってもらったっきり。もちろん、会社では顔を合わせている。社長と秘書として。身体のつながりが出来たからといって、態度が変わるようだったら会社では、とてもやっていけないと思っていたから、変わらない態度に勤めようと感情をセーブしている東野の努力はありがたかった。だがそれも、月曜日、火曜日と、日を重ねていくにつれ怪しくなってきた。
東野は、明らかに視線を合わすのを避けていた。私は言葉に出すのが苦手だったし、彼は、秘書としての分をきっちり守るタイプだった。当然、気持ちを伝える会話は極端に少ない。お互いに目の色、顔の色を読みながら付き合ってきただけに、お互いの顔をさりげなく覗き込む事が習慣になっていたので、すぐにその不自然さに辟易した。
いったい、何が不満なのか。金曜日の朝の熱烈な別れを思い返しても、特に思い当たる事はないような気がした。だが、東野の表情は明らかに、辛い気持ちを無理矢理押し込めている様子だった。
もちろん、そうやって弄って遊ぶのが大好きなのだから、放って置いていいのだが、理由が分からないのでは面白さも半減だった。やっぱり、日がたつにつれて、あの夜の事に嫌悪を抱くようになってきたのかと思ったりしたが、それにしては、態度が不自然だった。
打ち合わせの最中の彼のふっと浮かび上がる思いつめた表情…。そして、気づかれないようにじっと見つめてくる熱い視線。すれ違う時に、思わず伸ばそうとして無理矢理引き戻される掌が、日を重ねるに従って、彼の思いがつのってきている事を示している。そして、それがぴりぴりと肌で感じられるほどに、はっきりと現れてきたのが水曜日の午後だった。水曜日…。そうか。
この三年間、私が館に出かけるのを習慣にしてきた日。
真樹と話した最後の日に、その後のすべての約束をキャンセルしてきてしまった事は、彼にまだ伝えていなかった。もともと、二股をかけるようなまねをするつもりは無い。東野は、ただのSMのプレイ相手とは違うのだから。でも、ただのセックスの相手でもない以上、それを説明したりしない。体を重ねて一週間経って、お互いに何もなかったような振りを装っているのだから、水曜日が来れば、私はいつもの通りに出かけていく…と、思うのは当然だった。
嫉妬している。以前よりも強く。東野の性格なら当然だ。もし普通の恋人同士だったら、自分の恋人を夢中にさせて、絶対によそみをさせないように策を張り巡らせるタイプに見える。一歩引いて、従わないといけないというのは苦痛でならないに違いない。
まだ、私が自分のものでない時から、苦しんでいた。一言、言ってやればいい。もう館に行くのはやめた、と。
……本当に?本当に私はもう館へ行かないのだろうか。真樹とは別れたわけじゃない。『会わなくなっても僕はあなたのもの。』SとMである以上、プレイしなくても隷属していられる。そう、真樹に宣言された。そして、私もそれを受け入れた。この感情を東野は理解するだろうか。ううん。無理。私ですら、おかしいと思う。真樹本人を知らなければ、信じられない。彼が、私が与える苦痛に求めていたものを知らなければ…。
なにも言わなくても東野もいつかは気が付く。私が館に行くのをやめた事は。どんな時でも、私のスケジュールも、どの場所にいるかも東野は把握しているのだから。
あれこれ、思い惑っていながらもいつもの習慣どおりに仕事をこなしているうちに終業時間がやってきて、東野がいつもどおりに明日の予定表を持って現れた。青い顔をしている。
「社長、明日の予定表です」
いつもどおりの動作で机の上に書類を置く。平坦な声。何も感情を表していない声で、東野は続けた。
「お車を正面玄関に廻させます」
「ありがとう」
ぎゅっと握りこまれた彼のこぶしが白い。だが、彼はそれ以上何も言わずにくるりと回れ右をして、部屋を出て行った。彼は、知っている。そう、知っていた。私がそれを楽しんだ事を。そういうのが好きだと言ったら、私の顔を覗き込んでひとつうなずいて「分かった」と、答えた。
そう、彼は本当に分かったのだった。私は、溜息をひとつ付いて立ち上がった。おいしすぎる。私は東野に本当の事を告げずに、そのまま会社を出て、正面玄関に付けられたハイヤーで家に帰った。
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東野とは、金曜日の朝に送ってもらったっきり。もちろん、会社では顔を合わせている。社長と秘書として。身体のつながりが出来たからといって、態度が変わるようだったら会社では、とてもやっていけないと思っていたから、変わらない態度に勤めようと感情をセーブしている東野の努力はありがたかった。だがそれも、月曜日、火曜日と、日を重ねていくにつれ怪しくなってきた。
東野は、明らかに視線を合わすのを避けていた。私は言葉に出すのが苦手だったし、彼は、秘書としての分をきっちり守るタイプだった。当然、気持ちを伝える会話は極端に少ない。お互いに目の色、顔の色を読みながら付き合ってきただけに、お互いの顔をさりげなく覗き込む事が習慣になっていたので、すぐにその不自然さに辟易した。
いったい、何が不満なのか。金曜日の朝の熱烈な別れを思い返しても、特に思い当たる事はないような気がした。だが、東野の表情は明らかに、辛い気持ちを無理矢理押し込めている様子だった。
もちろん、そうやって弄って遊ぶのが大好きなのだから、放って置いていいのだが、理由が分からないのでは面白さも半減だった。やっぱり、日がたつにつれて、あの夜の事に嫌悪を抱くようになってきたのかと思ったりしたが、それにしては、態度が不自然だった。
打ち合わせの最中の彼のふっと浮かび上がる思いつめた表情…。そして、気づかれないようにじっと見つめてくる熱い視線。すれ違う時に、思わず伸ばそうとして無理矢理引き戻される掌が、日を重ねるに従って、彼の思いがつのってきている事を示している。そして、それがぴりぴりと肌で感じられるほどに、はっきりと現れてきたのが水曜日の午後だった。水曜日…。そうか。
この三年間、私が館に出かけるのを習慣にしてきた日。
真樹と話した最後の日に、その後のすべての約束をキャンセルしてきてしまった事は、彼にまだ伝えていなかった。もともと、二股をかけるようなまねをするつもりは無い。東野は、ただのSMのプレイ相手とは違うのだから。でも、ただのセックスの相手でもない以上、それを説明したりしない。体を重ねて一週間経って、お互いに何もなかったような振りを装っているのだから、水曜日が来れば、私はいつもの通りに出かけていく…と、思うのは当然だった。
嫉妬している。以前よりも強く。東野の性格なら当然だ。もし普通の恋人同士だったら、自分の恋人を夢中にさせて、絶対によそみをさせないように策を張り巡らせるタイプに見える。一歩引いて、従わないといけないというのは苦痛でならないに違いない。
まだ、私が自分のものでない時から、苦しんでいた。一言、言ってやればいい。もう館に行くのはやめた、と。
……本当に?本当に私はもう館へ行かないのだろうか。真樹とは別れたわけじゃない。『会わなくなっても僕はあなたのもの。』SとMである以上、プレイしなくても隷属していられる。そう、真樹に宣言された。そして、私もそれを受け入れた。この感情を東野は理解するだろうか。ううん。無理。私ですら、おかしいと思う。真樹本人を知らなければ、信じられない。彼が、私が与える苦痛に求めていたものを知らなければ…。
なにも言わなくても東野もいつかは気が付く。私が館に行くのをやめた事は。どんな時でも、私のスケジュールも、どの場所にいるかも東野は把握しているのだから。
あれこれ、思い惑っていながらもいつもの習慣どおりに仕事をこなしているうちに終業時間がやってきて、東野がいつもどおりに明日の予定表を持って現れた。青い顔をしている。
「社長、明日の予定表です」
いつもどおりの動作で机の上に書類を置く。平坦な声。何も感情を表していない声で、東野は続けた。
「お車を正面玄関に廻させます」
「ありがとう」
ぎゅっと握りこまれた彼のこぶしが白い。だが、彼はそれ以上何も言わずにくるりと回れ右をして、部屋を出て行った。彼は、知っている。そう、知っていた。私がそれを楽しんだ事を。そういうのが好きだと言ったら、私の顔を覗き込んでひとつうなずいて「分かった」と、答えた。
そう、彼は本当に分かったのだった。私は、溜息をひとつ付いて立ち上がった。おいしすぎる。私は東野に本当の事を告げずに、そのまま会社を出て、正面玄関に付けられたハイヤーで家に帰った。
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東野が思っていたよりもずっと周到な男だった事はすぐに分かった。家について、ハーブを入れた風呂につかって、ゆったりとした部屋着に着替えてから、冷蔵庫を開けて、夕食をなんにするか考え込んでいた時。つまり会社を出て一時間も経っていないうちに、チャイムが鳴った。私は、まったく警戒せずにインターホンに出た。
「はい?」
「社長?わたくしです」
声を聞いて、改めてテレビを見た時には、遅かった。髪を乱して、別れた時よりも青い顔をした東野が、画面に映っている。答えてしまったから、家にいる事はもうばれてしまっていた。
「あー。東野?」
彼は、マンションに入ってくるためのパスワードを知っている。追い払うか、中に入れるか、一瞬で決めなくてはいけなかった。
「社長。ここを、開けてください」
「今日は、だめ」
東野は、一瞬黙った。
「なぜ、おっしゃってくださらなかったんです?」
東野、そこまで途中の会話をすっとばすか?
「なにを?」
また、一瞬の間があった。眉を寄せた、辛そうな表情を見せた東野は、オートロックの前でしばらく眼を閉じて立っていた。震えているのがテレビカメラの画面でも分かる。
「もうしわけありませんでした。お邪魔いたしました」
頭を下げると、画面の中の東野はいなくなった。今頃、カメラの範囲外へ出て、気持ちを落ち着けているだろう。私は、どうしようか、まだ迷っていた。この男は潔すぎる。私が考えていた以上にあっさりと引き下がって見せた。本人の気持ちが行動とは一致していない事までは、隠しきれていなかったけれど。
私はゆっくりと十まで数えた。彼はもう帰っただろうか。それとも……。オートロック解除のスイッチを入れる。
「東野、いつつ数える間に入って」
いつつ数えてオートロックを閉めた。もう!きっぱりと追い返せなかった自分に、ついつい、舌打ちをしてしまった。けれど、すぐに深呼吸を三回してその気持ちを振り捨てた。こだわりすぎない。好きなようにする。そう決めたんだった。東野がすぐにその場所から離れていれば、もう、いなくなっているはずだった
ピンポーン。
ドアチャイムが鳴った。やっぱり。テレビカメラの範囲外のどこかに立っていたらしい。多分、無理矢理に自分の感情を曲げるために。
玄関へ行って、チェーンを外して上の鍵を開け、続けて下の鍵を開けた。
勢いよく、ドアが開かれると、息をきらした東野が飛び込んできた。物も言わずに引き寄せられた。のしかかるようにキスされてしまう。ひとつ譲るのも二つ譲るのも同じ。腰に手を廻して応えた。随分長いキスの後、乱れた息のままで強く抱きしめて首筋に顔を埋めた彼は、辛そうに呻いた。彼の心の中の声が聞こえるようだった…。
どうして。どうして。どうして。教えてくれなかったんですか。けれど、結局は言葉にしなかった。私がなぜ言わなかったのか。分かっている。そして、その事で更に傷つけられているはず。
玄関の鍵も閉めずに、そのまま私達は立ったままつながった。普段は押さえつけられている東野の本当の顔。プライドが高く、頭がよく、欲しいものを無理矢理奪い取ろうとする激しい情熱の顔を見つめて、私は、その彼を踏みつけにしている快感に酔った。
すごく、不自然だ。彼は、すぐに耐えられなくなるだろう。こうやって引き回され、打ち据えられ、味あわされる苦痛に。普通の人間には耐えられない。でも、しばらくの間は、彼は私の腕の中にいる。このプライドの高さゆえに、簡単には認められない。自分が考えていた通りに耐えられない事を。
「どうして、分かったの?」
ベッドの中で改めてもう一度ゆっくりと愛し合った後、うつ伏せになっている私の背中に頬をつけて、まどろんでいた東野は、ちょっと顔を上げて、背中にキスをした。
「ハイヤーの運転手に報告させているんです。あなたがどこへ行ったのか」
「もう!それって、プライバシーの侵害よ」
「社用のハイヤーですから、誰も不審に思いませんよ。あなたの行方を把握するのが僕の仕事ですから」
「これからは、自分の車で会社に行くわ」
唇を這わせていた、東野が、動かなくなる。
「そこまでなさりたいんですか?」
「やめたわけじゃないもの」
背中を辛そうな溜息がくすぐった。
「引き裂かれるようですよ」
私は、くるりと身体を返して、東野の瞳を覗き込んだ。彼の瞳をよぎる苦痛を味あうために。
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「はい?」
「社長?わたくしです」
声を聞いて、改めてテレビを見た時には、遅かった。髪を乱して、別れた時よりも青い顔をした東野が、画面に映っている。答えてしまったから、家にいる事はもうばれてしまっていた。
「あー。東野?」
彼は、マンションに入ってくるためのパスワードを知っている。追い払うか、中に入れるか、一瞬で決めなくてはいけなかった。
「社長。ここを、開けてください」
「今日は、だめ」
東野は、一瞬黙った。
「なぜ、おっしゃってくださらなかったんです?」
東野、そこまで途中の会話をすっとばすか?
「なにを?」
また、一瞬の間があった。眉を寄せた、辛そうな表情を見せた東野は、オートロックの前でしばらく眼を閉じて立っていた。震えているのがテレビカメラの画面でも分かる。
「もうしわけありませんでした。お邪魔いたしました」
頭を下げると、画面の中の東野はいなくなった。今頃、カメラの範囲外へ出て、気持ちを落ち着けているだろう。私は、どうしようか、まだ迷っていた。この男は潔すぎる。私が考えていた以上にあっさりと引き下がって見せた。本人の気持ちが行動とは一致していない事までは、隠しきれていなかったけれど。
私はゆっくりと十まで数えた。彼はもう帰っただろうか。それとも……。オートロック解除のスイッチを入れる。
「東野、いつつ数える間に入って」
いつつ数えてオートロックを閉めた。もう!きっぱりと追い返せなかった自分に、ついつい、舌打ちをしてしまった。けれど、すぐに深呼吸を三回してその気持ちを振り捨てた。こだわりすぎない。好きなようにする。そう決めたんだった。東野がすぐにその場所から離れていれば、もう、いなくなっているはずだった
ピンポーン。
ドアチャイムが鳴った。やっぱり。テレビカメラの範囲外のどこかに立っていたらしい。多分、無理矢理に自分の感情を曲げるために。
玄関へ行って、チェーンを外して上の鍵を開け、続けて下の鍵を開けた。
勢いよく、ドアが開かれると、息をきらした東野が飛び込んできた。物も言わずに引き寄せられた。のしかかるようにキスされてしまう。ひとつ譲るのも二つ譲るのも同じ。腰に手を廻して応えた。随分長いキスの後、乱れた息のままで強く抱きしめて首筋に顔を埋めた彼は、辛そうに呻いた。彼の心の中の声が聞こえるようだった…。
どうして。どうして。どうして。教えてくれなかったんですか。けれど、結局は言葉にしなかった。私がなぜ言わなかったのか。分かっている。そして、その事で更に傷つけられているはず。
玄関の鍵も閉めずに、そのまま私達は立ったままつながった。普段は押さえつけられている東野の本当の顔。プライドが高く、頭がよく、欲しいものを無理矢理奪い取ろうとする激しい情熱の顔を見つめて、私は、その彼を踏みつけにしている快感に酔った。
すごく、不自然だ。彼は、すぐに耐えられなくなるだろう。こうやって引き回され、打ち据えられ、味あわされる苦痛に。普通の人間には耐えられない。でも、しばらくの間は、彼は私の腕の中にいる。このプライドの高さゆえに、簡単には認められない。自分が考えていた通りに耐えられない事を。
「どうして、分かったの?」
ベッドの中で改めてもう一度ゆっくりと愛し合った後、うつ伏せになっている私の背中に頬をつけて、まどろんでいた東野は、ちょっと顔を上げて、背中にキスをした。
「ハイヤーの運転手に報告させているんです。あなたがどこへ行ったのか」
「もう!それって、プライバシーの侵害よ」
「社用のハイヤーですから、誰も不審に思いませんよ。あなたの行方を把握するのが僕の仕事ですから」
「これからは、自分の車で会社に行くわ」
唇を這わせていた、東野が、動かなくなる。
「そこまでなさりたいんですか?」
「やめたわけじゃないもの」
背中を辛そうな溜息がくすぐった。
「引き裂かれるようですよ」
私は、くるりと身体を返して、東野の瞳を覗き込んだ。彼の瞳をよぎる苦痛を味あうために。
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