★新館・旧館・別館の構成★
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2.別館、女性向けSMあまあまロマンス
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性的、暴力的な表現を含んでいます。
虚構と現実の区別のつかない方
18歳未満の方はご遠慮くださいませ。
自己責任に於いて閲覧していただきますようお願いします。
男はコットンパンツと一緒にブリーフもずり下げた。すっかり勃ち上がってゴムの隙間から顔を覗かせていたペニスは、ピンと勢いよく顔を出した。服は尻の一番盛り上がったところにかろうじて引っかかっている。玉袋の下へ手を差し込んで引き出して、どこもかしこも自由にさわれるようになると、男は、それ以上無理に脱がさないで後ろから抱きかかえるようにして握りこんだ。
あちこち撫で擦られたせいで、もう先走りがたらたらと流れ出ている。それを手で掬い全体に塗り拡げるようにしながら擦られる。手コキなんだから、自分でやるのと同じだと思っていたら大違いだった。他人の手ってどうしてこう気持ちがいいんだろう。さっきからの触り方といい、男が慣れていてうまいっていうのもあったけど、それだけじゃ説明のつけようが無いほどいい
「腰から下は座席で見えないから…」
俺が周囲の視線を気にしているのを知ってか、ちょっと笑いを含んだ声で囁いてくる。てめえが先に意識させたんじゃないか。と、文句を言いたかったが、あそこを握りこまれていては、どんな反抗もできそうになかった。
亀頭の先を握りこむようにしてくりくりと撫で回したと思ったら、棹を握りこんで擦る…ゆっくりと強弱を付けながら徐々に速くなる…快感に脳が痺れるほどに高まると、ぱっと手を離すと今度は袋をやわやわともみしだく。
何度もそれを繰り返されて俺はもう息がつけないほど翻弄されていた。玉がきゅっとあがってきて、なじみの感覚が突き上げてくる。いく……そう、思った瞬間、男に根元をぎゅっと握りこまれた。せき止められたそれは行き場を無くして逆流するかのようだった。棹がびくんと跳ねてから打ちをする。
「うっく」
前かがみになって、歯を喰いしばってその感覚が納まるのを待つしかなかった。すると、今まで後ろから抱きこむようにしていた男がするりと位置を変えて俺の前に膝を着いた。あっと思ったときには銜え込まれていた。
ぬめっ、としたなにかの中に吸い込まれていくそれ暖かく弾力のある濡れたものの中にぴっちりと銜え込まれたまま、俺は呆然としていた。彼が、俺の腰を抱きかかえたので、俺の向きは変わり、左手だけで椅子の背につかまる。背筋をぞくぞくとした震えが這い上がり、膝ががくがくする。ぬめぬめとしたものが俺のそれに絡みつき吸い上げ、固いものでこすりあげてくる。何が起きているのか、何をされているのか考える暇も無くあっという間に俺はもみくちゃになって急坂を駆け上がり、今度こそぱっと弾けた。
理屈では分かっていたつもりなのに、男の口の中に射精してしまったという事実は、俺を愕然とさせた。男は、まったく動じないで俺の精液をごくりと飲み干すと、次のしぶきもあっさりと嚥下してしまい、ぬちゃぬちゃとしている俺のそこを舌で綺麗に舐め取ってくれた。
そして、ものすごく敏感になっている先っちょを、何度か舐めあげて、俺に呻き声を上げさせておいてから、取り出したハンカチで、きれいにぬぐうと下げてあったブリーフとコットンパンツをさっと引き上げボタンを留め、ベルトを締め上げる。
今までじれったいほどゆっくりと進められた愛撫と裏腹に、仕舞い込まれるあまりの手早さに、俺が呆然と相手のその手の動きを見つめていると、ぱっと場内が明るくなった。映画が終ってしまったのだ。
膝まずいていた男は、さっと立ち上がると口元を手の甲で拭い、急いで俺の手を握ると、引っ張って映画館の外へ連れ出した。俺は、頭の中がショートしてしまっていて、相手のなすがままによたよたと付いていった。
映画館から出ると100メートルほど歩いてから、横道にそれた。そして、男はようやく振り返って俺の顔を見た。思っていたよりも若々しい笑顔。30前後というところだろうか?確かにそれなりに垢抜けていたけれど、ごく普通にその辺を歩いている男、ボタンダウンにジーパンを穿いたどこにでもいるような男だった。彼は、俺の顔をまじまじと見ると、にやっと笑った
「また、来る?」
俺は、まだ、頭が働いていなくて、ぽかんと口を開けて、さっき俺のアレを銜え込んでいたはずの相手の口を見つめていた。
男は困ったように首をかしげると俺の腰に取り付けられていた携帯をさっと手を伸ばして取り上げた。パチンと目の前で画面が開かれる。俺が自分の携帯が相手の手に握られているという事実に気がつく前に手早くボタンが連打され、さっと目の前に差し出された。電話帳に携帯番号とアドレスが記入されていた。
「気が向いたら、電話して」
パチンと携帯を閉じると、また俺の腰へ戻す。男はさっときびすを返すと、特に急ぐふうでもなく大通りへと、大股で歩き去って行った。ただ一度だけ、角を曲がる時に振り返ると手を降って見せた。
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あちこち撫で擦られたせいで、もう先走りがたらたらと流れ出ている。それを手で掬い全体に塗り拡げるようにしながら擦られる。手コキなんだから、自分でやるのと同じだと思っていたら大違いだった。他人の手ってどうしてこう気持ちがいいんだろう。さっきからの触り方といい、男が慣れていてうまいっていうのもあったけど、それだけじゃ説明のつけようが無いほどいい
「腰から下は座席で見えないから…」
俺が周囲の視線を気にしているのを知ってか、ちょっと笑いを含んだ声で囁いてくる。てめえが先に意識させたんじゃないか。と、文句を言いたかったが、あそこを握りこまれていては、どんな反抗もできそうになかった。
亀頭の先を握りこむようにしてくりくりと撫で回したと思ったら、棹を握りこんで擦る…ゆっくりと強弱を付けながら徐々に速くなる…快感に脳が痺れるほどに高まると、ぱっと手を離すと今度は袋をやわやわともみしだく。
何度もそれを繰り返されて俺はもう息がつけないほど翻弄されていた。玉がきゅっとあがってきて、なじみの感覚が突き上げてくる。いく……そう、思った瞬間、男に根元をぎゅっと握りこまれた。せき止められたそれは行き場を無くして逆流するかのようだった。棹がびくんと跳ねてから打ちをする。
「うっく」
前かがみになって、歯を喰いしばってその感覚が納まるのを待つしかなかった。すると、今まで後ろから抱きこむようにしていた男がするりと位置を変えて俺の前に膝を着いた。あっと思ったときには銜え込まれていた。
ぬめっ、としたなにかの中に吸い込まれていくそれ暖かく弾力のある濡れたものの中にぴっちりと銜え込まれたまま、俺は呆然としていた。彼が、俺の腰を抱きかかえたので、俺の向きは変わり、左手だけで椅子の背につかまる。背筋をぞくぞくとした震えが這い上がり、膝ががくがくする。ぬめぬめとしたものが俺のそれに絡みつき吸い上げ、固いものでこすりあげてくる。何が起きているのか、何をされているのか考える暇も無くあっという間に俺はもみくちゃになって急坂を駆け上がり、今度こそぱっと弾けた。
理屈では分かっていたつもりなのに、男の口の中に射精してしまったという事実は、俺を愕然とさせた。男は、まったく動じないで俺の精液をごくりと飲み干すと、次のしぶきもあっさりと嚥下してしまい、ぬちゃぬちゃとしている俺のそこを舌で綺麗に舐め取ってくれた。
そして、ものすごく敏感になっている先っちょを、何度か舐めあげて、俺に呻き声を上げさせておいてから、取り出したハンカチで、きれいにぬぐうと下げてあったブリーフとコットンパンツをさっと引き上げボタンを留め、ベルトを締め上げる。
今までじれったいほどゆっくりと進められた愛撫と裏腹に、仕舞い込まれるあまりの手早さに、俺が呆然と相手のその手の動きを見つめていると、ぱっと場内が明るくなった。映画が終ってしまったのだ。
膝まずいていた男は、さっと立ち上がると口元を手の甲で拭い、急いで俺の手を握ると、引っ張って映画館の外へ連れ出した。俺は、頭の中がショートしてしまっていて、相手のなすがままによたよたと付いていった。
映画館から出ると100メートルほど歩いてから、横道にそれた。そして、男はようやく振り返って俺の顔を見た。思っていたよりも若々しい笑顔。30前後というところだろうか?確かにそれなりに垢抜けていたけれど、ごく普通にその辺を歩いている男、ボタンダウンにジーパンを穿いたどこにでもいるような男だった。彼は、俺の顔をまじまじと見ると、にやっと笑った
「また、来る?」
俺は、まだ、頭が働いていなくて、ぽかんと口を開けて、さっき俺のアレを銜え込んでいたはずの相手の口を見つめていた。
男は困ったように首をかしげると俺の腰に取り付けられていた携帯をさっと手を伸ばして取り上げた。パチンと目の前で画面が開かれる。俺が自分の携帯が相手の手に握られているという事実に気がつく前に手早くボタンが連打され、さっと目の前に差し出された。電話帳に携帯番号とアドレスが記入されていた。
「気が向いたら、電話して」
パチンと携帯を閉じると、また俺の腰へ戻す。男はさっときびすを返すと、特に急ぐふうでもなく大通りへと、大股で歩き去って行った。ただ一度だけ、角を曲がる時に振り返ると手を降って見せた。
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もう、二度と行くまい。そう思ったのはほんの少しの間だけ。「場末の映画館で、見知らぬ男に触られて、脱がされて、フェラチオされた様子を何人もの男達に見られた」こう考えると、いたたまれないほどの異常なことのはずなのに、驚いたことに日が経つにつれすごく自然な行為だったような気がしてきた。
自分の精神構造にあきれたって仕方ない。初めての経験は、すっかり俺を魅了してしまった。その時の様子を思い出して。自分で同じようにやってみたって、その時に感じた興奮や快感ほどにはよくない。二週間もたつと、俺はもう一度映画館へ行くための言い訳をあれこれと考える始末だった。
物も言わずに触ってきた男が、思っていたよりもずっとさっぱりとした笑顔で、手を振って角を曲がって行った様子が目に浮かぶ。電話してみようか。何も考えず、もう一度映画館に行くと、今度はどんな奴が触ってくるんだろう。待っているものがなにか分かった後は、やっぱり相手がどんな男なのか気になってしまう。それぐらいだったら、もう一度彼に…。そう、すごくうまかったと思う。俺に何も考えさせず、あっという間に行くべきところへ連れ去った。
たまたま、休講が重なりぽっかりと開いた午後。日にちを考えると二週間前の同じ曜日。もしかしたら…と、思って携帯電話に電話した。世の中そんなに甘くは無く、お留守番センターにつながれちゃって、そういう展開を考えて無かった俺は何も言えず、ためらった後に電話を切った。決心がつかず、ウロウロと思い惑った挙句、夜になってしまった。思い切って映画館へ足を運ぶ。知らなかった時よりもためらいが大きいのはなぜなんだろう。切符売り場の前でもまだ迷っていた。
その時、携帯が鳴った。サブ画面の上に瞬く名前に目を見開く。セイイチさんからだった。
「もしもし…」
「もしもし。ええと…。もしかして映画館で会った君かい?」
何のメッセージも残さなかったのに、しかも、誰だかわからなかったのに、それでも、もしかしてと電話を掛けてきてくれたことが俺にとっては、すごく嬉しかった。いまどき誰も携帯へ掛けてくる見知らぬ番号へ掛けなおしたりしない。
「セイイチさん?俺…そうです。二週間前に」
「やっぱり。よかった。電話くれないかなって、待っていたんだよ。今、どこにいるの」
「あの、映画館の前に……」
何だか、すごく恥ずかしかった。一瞬の間が空いてセイイチさんの艶っぽい笑いが聞こえた。
「ふうん。もしかして、俺、よかった?」
俺は携帯電話に向かってうなずいた。相手からは見えてないのに、なにしているんだろ?すっかり、あがってしまっていた。
「また、映画館に入りたい?」
「ええ」
唾を飲み込んでうなずく、今度は声が出た。今までの人生でこんな言葉使ったことも無かった気がする。
「だれでもいいの?それとも俺のこと指名してくれるのかな?」
「セイイチさんが…いい」
「俺か来るまで待てる?それとも…よかったら、俺の部屋にこない?」
びっくりした。こんなにすぐに部屋へ誘われるなんて。この人、警戒感が皆無なんだろうか。
「ギャラリーがいる方がいい?」
「…部屋へ行きます」
また、低い笑い声がして、セイイチさんは、ひとつ手前の駅の東口で待っているように言った。
「君、名前はなんていうの?」
「お、折原です」
「それは、苗字。名前は?」
「樹です」
「そう、いつき君だね。じゃ、15分ほどで行けるから」
電話を切ると、俺は相手よりも自分に対して呆れていた。ほんの短い時間、路地で顔を突き合わせた相手の部屋に行こうとしているのだ。相手はもう、俺の携帯番号も名前も知っている。他人の警戒感なんて、笑えなかった。
それでも、まっすぐその駅まで行った。セイイチさんは、もうすでに来ていて、俺の顔を見ると屈託無く手を振って笑った。紺色のスーツ姿だった。会社帰りに違いない。
「飯、食った?」
俺が首を振ると、セイイチさんは、駅前の定食屋を顎で指した。
「晩飯食って行こう。おごるよ。いつきは、学生だろ?」
セイイチさんは、さりげなく俺の腕をうかんでうながした。俺は、ふらふらと彼の後を付いていった。
定食屋で、彼はしょうが焼き定食をごちそうしてくれた。飯を食っている間、俺たちは当たり障りの無い、会話を交わしたどんな歌手が好きかとか、どんな映画を見るかとか、要するにどうでもいいようなこと。そしてコンビニでビールとつまみを買って、駅から歩いて10分ほどの彼のアパートへ行った。彼の部屋は三階で、俺は表札を見て、初めて彼の名前を知った。
八代誠一。
「入れよ」
玄関の鍵を開けると、彼は俺を部屋へ誘った。
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アパートの中は、トンネル状に三部屋の続く、よくある二DKだった。部屋は、考えていたよりも綺麗に片付けられていた。と、言うよりもガランと何も無いっていうのが正解なのか?台所にダイニングテーブルと冷蔵庫とスリムな食器棚。奥の和室にはテレビ。カーテンこそ下がっているけど家具といえそうな物はそれくらいだった
「部屋に帰っているの?」
「ははは…。寝る時は帰っているよ。片付けるのが嫌いなんだよ。だから、何も置かないんだ」
彼は、押入れを開けるとそこから折りたたみ式の座卓を出してテレビの前に置いた。買ってきたビールとつまみの袋を乗せる。押入れの反対のほうには、中には下段に布団が上段には服が入っているようだった。今、彼が開けた側には上段には棚のような物があって、カゴが並べられている。彼はポケットの中の物をそのカゴのひとつに全部入れ、腕時計も、携帯電話も全部放り込んだ。
それから、スーツを脱ぎながら、風呂場のほうへ行く。そうか、押入れの中に全部入っているのか。真ん中の部屋の何も置かれて無い和室の押入れも、きっとこんな感じなんだろう。足の踏み場も無いような俺の部屋とはずいぶん違う。
「座っていろよ。お湯張ってくるから」
まず、最初に風呂を入れるってことは、やっぱり「する」つもりなんだろうな。わざわざ部屋に呼んだんだし、最後までいくだろうと考えるのが自然のような気がする。部屋に誘われた時に、もうそのことは分かっていたけど、だんだん現実になってくるとちょっと心配になってきた
男同士だとアナルセックスするっていうのは知っているけど、実際にどうやるのかまったく知識が無い。ほんとに、そこまでやれるかどうか、全然想像も出来なかった。だが、前回映画館の時、彼が一方的に「やって」くれるのにまかせてしまい、彼は結局いかずじまいだった。だから、今日は俺もちゃんとお返しせねばなるまい…と、それだけは思いつめていた。
俺に、男のペニスを咥えられるかどうか…?
驚いた。咥えたいような気がする。正直、くらくらするほど興奮してきた。彼のそれを触って口にする。改めてそのことを考えているうちに、もう、座っていられないような状態になってきた。戻ってきた彼は向かいに座るとネクタイを外しながら、ビールの缶を開ける。一つ目を俺の前におくと、もうひとつも開ける。
そして、俺の顔を見ると、不思議そうな表情になって、それからすぐに俺のそこへ視線をやった。そして、にやっと笑うとにじり寄ってきて、手を伸ばしてズボンのボタンを外し、チャックを下ろしてくれた。そして「気にするな」と、言うように、そこを二回撫でると、また元の場所に戻ってビールを飲み始める。
「いつきは、映画館は初めてだったんだろう?」
壁に寄りかかって、風呂を洗う時に濡れてしまったらしいシャツの腕をまくりながら聞いてきた。
「映画館も、男も初めて」
誠一さんはびっくりして顔を上げた。
「そうなのか。高校時代とかなにも無かったの?」
うなずくと、誠一さんはちょっと困ったような顔をした。
「もう、ぶっちゃけ聞いちゃうけどさ。今から風呂に入って、そしたら、この間の続きをやるつもりだったんだけど…初めてなのに、ほんとに映画館で一度会ったきりの男に押し倒されてセックスされてもいいのか?」
いいのかって、言われても。その男とセックスする目的で、この部屋へ来ているんですけど…。真面目に聞いてくる彼の顔を見ているとなんだかおかしくなって、緊張が抜けてきた。
「上手くいくかどうか、わからないけど、やりたくて来ているんだから教えてよ」
「やりたいってことは、いつきは男が好きってことだよね。のんけってわけじゃないんだな?」
「のんけ?」
「映画館に来る奴の何割かはのんけなんだよ。ただ、触られてやってもらうのが目的の奴。くわれのんけって言うんだけどさ。いつきはこの間、まったく、されるがままだったから、そうかもしれないと思っていたんだ」
「違う…と、思う。俺、女はダメだから」
「そうか」
誠一さんは、ぐいっとビールをあおった。
「で、どっちがやりたい?」
ぽかん、と、口を開けて彼を見てしまったような気がする。彼は、くすくす笑って嬉しそうに体を揺すった。
「やるほうか。やられるほうか。どっちがよさそう?」
やるほうか。やられるほうか。え?なんだって?そう言われて初めて、自分が常に掘られる立場にあるという考えは間違いだってことに気がついた。ちょっとうろたえて、ビールをごくごく飲み干す。
「えー。考えてなかった。誠一さんはどっちなの?」
「うーん。俺はどっちでも。リバだから。同じ相手でも両方やるかな。もう、決まっていて、タチしかやれない奴とか、ネコしかやれない奴とかもいるし…」
「ネコって、受けのことだよね…初めてでも、ネコってやれるの?」
「まあ、誰でも初めてはあるからな」
「じゃ、今日は、この誠一さんがやさしくお尻を拡げてやるよ。一回経験しとけば、無理矢理やられたらやばいとか分かるようになるし」
そう言うと誠一さんは、押入れを開けて、イチジク浣腸を出してきた。ポンと俺の手の上に乗せる。
「先に風呂入っているからやっといて」
そう言うと、彼は、押入れの反対側を開けて下着を取り出した。それから洗いざらしのバスローブを放って来る。風呂場に消える彼の背中を見つめて、それから俺は手の中の箱をひっくり返した。やり方は書いてあるんだろうな。やれやれ、考えてもいなかった世界が次々と押し寄せてくる。いったいこれからどうなるんだろう。
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「部屋に帰っているの?」
「ははは…。寝る時は帰っているよ。片付けるのが嫌いなんだよ。だから、何も置かないんだ」
彼は、押入れを開けるとそこから折りたたみ式の座卓を出してテレビの前に置いた。買ってきたビールとつまみの袋を乗せる。押入れの反対のほうには、中には下段に布団が上段には服が入っているようだった。今、彼が開けた側には上段には棚のような物があって、カゴが並べられている。彼はポケットの中の物をそのカゴのひとつに全部入れ、腕時計も、携帯電話も全部放り込んだ。
それから、スーツを脱ぎながら、風呂場のほうへ行く。そうか、押入れの中に全部入っているのか。真ん中の部屋の何も置かれて無い和室の押入れも、きっとこんな感じなんだろう。足の踏み場も無いような俺の部屋とはずいぶん違う。
「座っていろよ。お湯張ってくるから」
まず、最初に風呂を入れるってことは、やっぱり「する」つもりなんだろうな。わざわざ部屋に呼んだんだし、最後までいくだろうと考えるのが自然のような気がする。部屋に誘われた時に、もうそのことは分かっていたけど、だんだん現実になってくるとちょっと心配になってきた
男同士だとアナルセックスするっていうのは知っているけど、実際にどうやるのかまったく知識が無い。ほんとに、そこまでやれるかどうか、全然想像も出来なかった。だが、前回映画館の時、彼が一方的に「やって」くれるのにまかせてしまい、彼は結局いかずじまいだった。だから、今日は俺もちゃんとお返しせねばなるまい…と、それだけは思いつめていた。
俺に、男のペニスを咥えられるかどうか…?
驚いた。咥えたいような気がする。正直、くらくらするほど興奮してきた。彼のそれを触って口にする。改めてそのことを考えているうちに、もう、座っていられないような状態になってきた。戻ってきた彼は向かいに座るとネクタイを外しながら、ビールの缶を開ける。一つ目を俺の前におくと、もうひとつも開ける。
そして、俺の顔を見ると、不思議そうな表情になって、それからすぐに俺のそこへ視線をやった。そして、にやっと笑うとにじり寄ってきて、手を伸ばしてズボンのボタンを外し、チャックを下ろしてくれた。そして「気にするな」と、言うように、そこを二回撫でると、また元の場所に戻ってビールを飲み始める。
「いつきは、映画館は初めてだったんだろう?」
壁に寄りかかって、風呂を洗う時に濡れてしまったらしいシャツの腕をまくりながら聞いてきた。
「映画館も、男も初めて」
誠一さんはびっくりして顔を上げた。
「そうなのか。高校時代とかなにも無かったの?」
うなずくと、誠一さんはちょっと困ったような顔をした。
「もう、ぶっちゃけ聞いちゃうけどさ。今から風呂に入って、そしたら、この間の続きをやるつもりだったんだけど…初めてなのに、ほんとに映画館で一度会ったきりの男に押し倒されてセックスされてもいいのか?」
いいのかって、言われても。その男とセックスする目的で、この部屋へ来ているんですけど…。真面目に聞いてくる彼の顔を見ているとなんだかおかしくなって、緊張が抜けてきた。
「上手くいくかどうか、わからないけど、やりたくて来ているんだから教えてよ」
「やりたいってことは、いつきは男が好きってことだよね。のんけってわけじゃないんだな?」
「のんけ?」
「映画館に来る奴の何割かはのんけなんだよ。ただ、触られてやってもらうのが目的の奴。くわれのんけって言うんだけどさ。いつきはこの間、まったく、されるがままだったから、そうかもしれないと思っていたんだ」
「違う…と、思う。俺、女はダメだから」
「そうか」
誠一さんは、ぐいっとビールをあおった。
「で、どっちがやりたい?」
ぽかん、と、口を開けて彼を見てしまったような気がする。彼は、くすくす笑って嬉しそうに体を揺すった。
「やるほうか。やられるほうか。どっちがよさそう?」
やるほうか。やられるほうか。え?なんだって?そう言われて初めて、自分が常に掘られる立場にあるという考えは間違いだってことに気がついた。ちょっとうろたえて、ビールをごくごく飲み干す。
「えー。考えてなかった。誠一さんはどっちなの?」
「うーん。俺はどっちでも。リバだから。同じ相手でも両方やるかな。もう、決まっていて、タチしかやれない奴とか、ネコしかやれない奴とかもいるし…」
「ネコって、受けのことだよね…初めてでも、ネコってやれるの?」
「まあ、誰でも初めてはあるからな」
「じゃ、今日は、この誠一さんがやさしくお尻を拡げてやるよ。一回経験しとけば、無理矢理やられたらやばいとか分かるようになるし」
そう言うと誠一さんは、押入れを開けて、イチジク浣腸を出してきた。ポンと俺の手の上に乗せる。
「先に風呂入っているからやっといて」
そう言うと、彼は、押入れの反対側を開けて下着を取り出した。それから洗いざらしのバスローブを放って来る。風呂場に消える彼の背中を見つめて、それから俺は手の中の箱をひっくり返した。やり方は書いてあるんだろうな。やれやれ、考えてもいなかった世界が次々と押し寄せてくる。いったいこれからどうなるんだろう。
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初めての夜は、驚きの連続だったように思う。風呂から上がると真ん中の部屋に布団が二つ、くっつけて並べて敷かれていた。布団の横に座卓は移動していて、その上にスキンだの、ローションだの、ティッシュだの、タオルだのが並べられている。
そんな道具を見ると「その気になったからってすぐさま押し倒すわけにもいかないんだな」と、思えてきて、なんだか「男同士って、考えていたのと違う」と、不思議だった。
こんなに念入りに準備してくれるのは、ちょっと神経質な誠一さんのそれなりの気遣いだってことは、後からいろいろと経験をつむ過程で分かってくるのだが、その時はもう、これがスタンダードだと思っているから、ローションを持ち上げて「こんなものもって歩くのか」と、溜息をついてしまった。
電気が消され、座卓の上の小さなスタンドだけになると、誠一さんは手馴れた様子で俺を押し倒した。映画館の時と同じ、迷いの無い手で、あちこち撫で回されて、ビンビン跳ねるペニスを咥えられて、喘ぎ声をあげさせられた。しばらくすると、彼は、俺の腰を持ち上げるようにして、四つんばいにさせた。
それから、お尻の割れ目に冷たいローションが垂らされた。それまでの展開とは裏腹のやけに慎重な手つき。最初はしわを押し広げるように、中指でじんわりと揉みこむようにされた。しばらくマッサージすると、もう一度ローションを継ぎ足して、今度は中指をゆっくりと入れてくる。異物感に俺はげげっとなり、ちょっと腰がつんのめる。誠一さんは、分かっていたのかお腹のところで支えてくれて、俺が、もう一度体勢を戻すと、前のほうも触ってなだめるように玩んだ。
指が一本ずつ増えて三本になるまで、ずいぶん時間がかかった。さんざん前を擦られて、俺はもうじれったくて、いきたくて…彼の手に腰を押し付けてしまった。体は汗ばみ、だんだん呼吸が速くなってくる。
指が二本に増えたとき、執拗に擦られる場所に、感じるところがあるのが分かった。俺は、目を閉じて、初めてのその感覚を味わった。それまでの内臓を掻き回されるような異物感が少し後退し、反対に言葉に出来ないような異様な快感が前面に出てくる。だが、三本の指が抜き差しされると、気持ちよさと一緒におさえようもない嘔吐の感覚が突き上げてきて、俺は呻いた。
「大丈夫か?」
大丈夫ってなに?どういうのが大丈夫なの?頭がぐらぐらして答えられない。そのうちに、彼が自分のものにスキンを被せようとしていることに気がついて慌てた。
「誠一さん。俺、まだ、あんたの咥えてないよ」
何しろ今日はお返しをしないと、というそれだけしか考えてなかったから、廻らない頭で、廻らないろれつで、訴えた。
「え?しゃぶりたかった?ごめん。ごめん。また、後でね。時間をおくと尻がもどっちゃうからさ」
そう言うと、手早く俺を仰向けにして、足を抱えてきた。うう。とうとう、犯られちゃうのか。そう思うとさすがに体が固くなる。
俺が固くなったのが分かったのか、誠一さんは押し当てたまま、俺のペニスを握りこんで気をそらせようとした。そして、初めて屈み込んで俺にキスした。キスされるなんて思ってなかったから、びっくりして目を開けると、その隙をついて、めりめりと彼が押し入ってきた。痛い。体が勝手に逃げようとして腰が捻れる。でも、思ったよりしっかりと押さえつけられていたらしく、全く逃げられなかった。
「あうっ」
割とあっけなく「ぽん」と、一番太いところが通り過ぎて、すると少し楽になった。誠一さんは足を抱えなおして、しばらくそのままじっとしていた
そんな中途半端な位置で、待っているなんて、ちょっといたたまれない早く。と、言おうとした時、じんわりと圧力がかかってくる。俺が耐え切れずに喘ぐと、一休みして前を弄る。そうやって、少しずつ少しずつ彼は進み、ようやく彼の腹が俺の尻にぴったりと押し付けられる。入った。
その日、誠一さんはあくまで優しかったと思う。激しく抜き差しすることも無く、その代わりに念入りに前にもローションを垂らして、擦ってくれた。だから、俺がはじけたとき、彼はまだいってなかった。
彼を咥えていかせてやらなきゃと思ったんだけど、気持ちとは裏腹に体はぐったりと布団に沈み込んでいくばかりで、どうにも起き上がれなかった。
「なんで、いくまでやらなかったの」
口を利くのも億劫な気分だったけど、不思議だったから思わず聞いた。誠一さんは、もう少し回数やってから…とか、口の中でもごもご呟いていた後から分かったんだけど、アナルの中って要するに腸だから、まったく締まりがないんだ。女性の膣のように「ねっとりと絡みつく」なんて表現できる状態じゃなくって、広い空間が広がっているばかりだから、締まりがいいのは入り口だけなんだって。その入り口の締め付けで「いく」ためには、しっかりピストンしなきゃダメなわけで。初めての俺にそこまで要求して、キレちゃったとか、吐いちゃったとか、そういう情けない事態に直面させたくなかったらしい。
結局、一休みして、第二ラウンドに入った時、初めて俺は男のあれを咥えた。最初から、 何の警戒も無くぱっくりといったせいで、行き過ぎてえずいてしまった。
「おいおい、初めてなんだから、咽喉まで入れちゃダメだよ」
涙目になってる俺に、慌てて彼は腰を引く。
そんな感じで一から十まで、手取り足取り教えられて、俺はようやく「初めて」を卒業した。恐怖を覚えることも無く、不安も一掃されたわけで、そういう意味では、彼が最初だったことはすごく感謝している
その後6ヶ月ぐらい、俺は、週一の割合で彼の部屋に通っていた。恋していたわけじゃなかったけど、クラブの先輩にあれこれ指導してもらうみたいに、だんだん彼になついていったと思う。やがて、彼は俺の中で「いく」ようになり、おれも彼の体で「たち」の経験も踏ませてもらった。俺は彼のことを「誠一」と呼び捨てにするようになり、彼は俺のことを「樹」と、漢字で呼べるぐらいに親しくなった。そう、だから、俺の初めてはみんな彼のもの…。
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そんな道具を見ると「その気になったからってすぐさま押し倒すわけにもいかないんだな」と、思えてきて、なんだか「男同士って、考えていたのと違う」と、不思議だった。
こんなに念入りに準備してくれるのは、ちょっと神経質な誠一さんのそれなりの気遣いだってことは、後からいろいろと経験をつむ過程で分かってくるのだが、その時はもう、これがスタンダードだと思っているから、ローションを持ち上げて「こんなものもって歩くのか」と、溜息をついてしまった。
電気が消され、座卓の上の小さなスタンドだけになると、誠一さんは手馴れた様子で俺を押し倒した。映画館の時と同じ、迷いの無い手で、あちこち撫で回されて、ビンビン跳ねるペニスを咥えられて、喘ぎ声をあげさせられた。しばらくすると、彼は、俺の腰を持ち上げるようにして、四つんばいにさせた。
それから、お尻の割れ目に冷たいローションが垂らされた。それまでの展開とは裏腹のやけに慎重な手つき。最初はしわを押し広げるように、中指でじんわりと揉みこむようにされた。しばらくマッサージすると、もう一度ローションを継ぎ足して、今度は中指をゆっくりと入れてくる。異物感に俺はげげっとなり、ちょっと腰がつんのめる。誠一さんは、分かっていたのかお腹のところで支えてくれて、俺が、もう一度体勢を戻すと、前のほうも触ってなだめるように玩んだ。
指が一本ずつ増えて三本になるまで、ずいぶん時間がかかった。さんざん前を擦られて、俺はもうじれったくて、いきたくて…彼の手に腰を押し付けてしまった。体は汗ばみ、だんだん呼吸が速くなってくる。
指が二本に増えたとき、執拗に擦られる場所に、感じるところがあるのが分かった。俺は、目を閉じて、初めてのその感覚を味わった。それまでの内臓を掻き回されるような異物感が少し後退し、反対に言葉に出来ないような異様な快感が前面に出てくる。だが、三本の指が抜き差しされると、気持ちよさと一緒におさえようもない嘔吐の感覚が突き上げてきて、俺は呻いた。
「大丈夫か?」
大丈夫ってなに?どういうのが大丈夫なの?頭がぐらぐらして答えられない。そのうちに、彼が自分のものにスキンを被せようとしていることに気がついて慌てた。
「誠一さん。俺、まだ、あんたの咥えてないよ」
何しろ今日はお返しをしないと、というそれだけしか考えてなかったから、廻らない頭で、廻らないろれつで、訴えた。
「え?しゃぶりたかった?ごめん。ごめん。また、後でね。時間をおくと尻がもどっちゃうからさ」
そう言うと、手早く俺を仰向けにして、足を抱えてきた。うう。とうとう、犯られちゃうのか。そう思うとさすがに体が固くなる。
俺が固くなったのが分かったのか、誠一さんは押し当てたまま、俺のペニスを握りこんで気をそらせようとした。そして、初めて屈み込んで俺にキスした。キスされるなんて思ってなかったから、びっくりして目を開けると、その隙をついて、めりめりと彼が押し入ってきた。痛い。体が勝手に逃げようとして腰が捻れる。でも、思ったよりしっかりと押さえつけられていたらしく、全く逃げられなかった。
「あうっ」
割とあっけなく「ぽん」と、一番太いところが通り過ぎて、すると少し楽になった。誠一さんは足を抱えなおして、しばらくそのままじっとしていた
そんな中途半端な位置で、待っているなんて、ちょっといたたまれない早く。と、言おうとした時、じんわりと圧力がかかってくる。俺が耐え切れずに喘ぐと、一休みして前を弄る。そうやって、少しずつ少しずつ彼は進み、ようやく彼の腹が俺の尻にぴったりと押し付けられる。入った。
その日、誠一さんはあくまで優しかったと思う。激しく抜き差しすることも無く、その代わりに念入りに前にもローションを垂らして、擦ってくれた。だから、俺がはじけたとき、彼はまだいってなかった。
彼を咥えていかせてやらなきゃと思ったんだけど、気持ちとは裏腹に体はぐったりと布団に沈み込んでいくばかりで、どうにも起き上がれなかった。
「なんで、いくまでやらなかったの」
口を利くのも億劫な気分だったけど、不思議だったから思わず聞いた。誠一さんは、もう少し回数やってから…とか、口の中でもごもご呟いていた後から分かったんだけど、アナルの中って要するに腸だから、まったく締まりがないんだ。女性の膣のように「ねっとりと絡みつく」なんて表現できる状態じゃなくって、広い空間が広がっているばかりだから、締まりがいいのは入り口だけなんだって。その入り口の締め付けで「いく」ためには、しっかりピストンしなきゃダメなわけで。初めての俺にそこまで要求して、キレちゃったとか、吐いちゃったとか、そういう情けない事態に直面させたくなかったらしい。
結局、一休みして、第二ラウンドに入った時、初めて俺は男のあれを咥えた。最初から、 何の警戒も無くぱっくりといったせいで、行き過ぎてえずいてしまった。
「おいおい、初めてなんだから、咽喉まで入れちゃダメだよ」
涙目になってる俺に、慌てて彼は腰を引く。
そんな感じで一から十まで、手取り足取り教えられて、俺はようやく「初めて」を卒業した。恐怖を覚えることも無く、不安も一掃されたわけで、そういう意味では、彼が最初だったことはすごく感謝している
その後6ヶ月ぐらい、俺は、週一の割合で彼の部屋に通っていた。恋していたわけじゃなかったけど、クラブの先輩にあれこれ指導してもらうみたいに、だんだん彼になついていったと思う。やがて、彼は俺の中で「いく」ようになり、おれも彼の体で「たち」の経験も踏ませてもらった。俺は彼のことを「誠一」と呼び捨てにするようになり、彼は俺のことを「樹」と、漢字で呼べるぐらいに親しくなった。そう、だから、俺の初めてはみんな彼のもの…。
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「結婚する?」
いつものセックスの後に彼がそういった時、俺は心底仰天した。だって、誠一って、ゲイなんじゃなかったの?
「いつまでも一人でいると、周囲もうるさいしさ。怪しまれちまうのも損だと思って」
そんな理由で結婚できる訳?女とやったことの無かった俺は、彼がどうやってそこまで行き着いたのかまったく分からなかった。
「…出来ないって訳じゃないんだ」
溜息をついて、困ったように言葉をつなぐ、彼の様子は、煮え切らない。
「相手のこと。少しは好きなんじゃないの」
「嫌いではないし、耐えられる」
そんなのって、アリかよ!でも、ありなのだった。今やセックレスが当たり前の時代だから、とにかく結婚してしまえば、何度かやっとけば、別れても、とりあえずは「×イチ」。始終、「ホモじゃないのか?」と、疑われることもなくなるって訳。
「一年ぐらいしたら、離婚しているだろうから、また、連絡するよ」
誠一のこと好きとか恋しているって訳じゃなかったから、一年たって呼び出されれば、俺はのこのこ行ってしまいそうだった。だけど、女を抱いたことのある誠一と、今までどおりに付き合えるかって言われると、なんだか、いやな気分だった。間接的に汚れてしまうような、そんな理不尽な嫌悪感。相手の女はなにも知らないんだろうか。
こんな自己中心的な考えする奴だったっけ。そう思うと、となりに寝ている男が急に見知らぬ奴のように思えてきた。誠一が自分の性癖を受け入れるのだって、結婚しようと決めたのだって、その場の成り行き任せで生きてきた俺と違って、いろいろ悩んで決めた結果なんだろうけど。
今までそんなそぶりを見せたこと無かったし、そう考えれば、俺たちの関係は、結局は体だけのつながりなのだった。でも……彼は、最初の相手で、初めての俺にずいぶん丁寧に、手ほどきしてくれた。何よりも、宙ぶらりんの俺にやさしくしてくれた。そう、思うと、ちょっと涙が出た。それは、そんな生き方を選べそうにも無い自分を憐れんだだけだったかもしれないけれど。
「またな」
翌朝、そう言って俺たちは別れた。これで最後って訳じゃない…。だけど、次に会うときは、もう俺は、昨日までの俺のようには振舞わないだろう。
ばいばい誠一。
感傷に浸ってばかりもいられない。何しろ、欲求はみんな誠一の体で解消していたんだから早急に、次の奴を捕まえないといけないような気がした。後で振り返ってみると、好きになることもしないでセフレからゲイの世界に入って、大して痛い目にも遭わなかった俺は、常識が分かってなかったのかもしれない。
どこで次の相手と知り合うか…誠一の部屋に通っていた6ヶ月の間に、寝物語にあれこれ教えて貰ったせいで、不確かな知識はやけに増えていた。ゲイの世界には「発展場」と呼ばれる場所がある。最初に俺が言ったピンク映画館のような場所。バー、サウナ、ビーチ、公園、トイレ…相手を捜している同じ趣向の人間達が、クルージングしている場所。その中で一番スタンダードなのは、有料発展場だった。
ミックスルームとビデオボックスと個室が設置されているような場所だ。施設が大きくなればきちんと鍵のかかる個室があるところもあり、ラブホテル代わりに使える。だが、たいがいはどこから手が出るか予測もつかなければ、アレになるとして、誰が見ているのか分からないような場所だった。
入り口を入ると受付があって、金を払う。1000から1500円と非常に低価格で利用できた。中には学割がきくところもあって、学生証を提示すると800円くらいになった。入ってすぐにロッカーがあるから、そこで服を脱いで、シャワーを浴びたい奴は浴びる。
館内は指定の服装をすることになっていて、Tシャツとボクサーパンツだったり、ビキニだったり、水着だったり、曜日によっては全裸だったり。要するにハッテンするのが目的で来ているから、ものすごく露骨にお手軽な格好になる場所なのだ。相手を誘うのも、特に手順なんか踏まない。触って嫌がらなければOK。その気がないなら、断る。ただ、それだけだった。
最初に映画館に行った時のうぶな俺は、たった6ヶ月ですっかり経験をつんだつもりになっていた。誠一に対するいくばくかの腹立たしさも手伝って、勢いに任せて俺は、インターネットで検索して適当に選んだ店に出かけて行くことにした。
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いつの間にか価値観すらもすり替わり、そんなことおかしいだろう…と、いう意識もどんどん磨耗していく。普通に知り合って、話をして、好きになって、それから悩んだり、傷ついたり、求め合ったり、離れたり。そんなふうにしてお互いの間に築いていけるもの。そんなものをどこかに置き捨ててしまった俺は、どんどんと快楽と体だけの世界に踏み込んでいった。
男同士ってなんて簡単なんだろう。出会って、気に入ったら、すっとそばに寄っていく。視線が合い、手を伸ばしてくる。触れ合う。熱い体が重なり合う。話をするのはその後。お互いを確かめ合ったその後。
気に入らなければそれで終り。もちろん自分勝手な奴や好みに合わないのにしつこくする奴、そんな相手がいないわけじゃなかったけど、店を変えればそれっきり。顔なじみも出来て、体が先だったはずなのに、会話をするようになってようやくいい奴だなと思った時も。
誰かに話を聞いてもらいたくって、淋しいときは、ゲイ・バーに出かけていく。そこにいるのは、同じ性癖の奴ばかり。ものすごく安心できる世界。何も隠さなくてもいい、何も装わなくてもいい。
一年くらい俺はとにかく遊んだ。何人の男と寝たのか覚えきれないくらいに。遊ぶ金のためにせっせとバイトをして、大学の授業なんかすっかりお留守になった。ラッシュを覚えたのもその頃。合法ドラックの一種で揮発性の液体だ。血管の拡張と筋肉の弛緩が起きるためアナルセックスが楽になる。
ひとつ薬に手を出すと、やがてはどれも同じようなもののように感じて警戒感が薄れていく。中には、すごくヤバイ薬もあるはずだった。一度、乱交パーティーに近いようなイベントで会った男に出所の不明の錠剤を使われて、輪姦されちまったこともあった。快感が倍増して狂うかと思うほどよくって、もう、されるままになるしかなかった。
もし、智哉に会わなかったら、俺は廃人になっていたかもしれない。
智哉に会ったのは、二丁目のビルの1階にある行きつけのバーだった。初めて会った時の印象は、ずいぶん痩せて顔色の悪い男だな…くらいのものだった。特に話をしたわけでもなく、飲んでいるうちに俺はその男がいることを忘れちまったそして、ママとあれこれ世間話をしているうちに、何でかわからな行けどそいつがふらりと立ち上がって、あっという間にぶっ倒れた。もう、店の中は大騒ぎ。彼は囁くような声で「平気」とか「すぐ治る」とか呟いているけど、紙のように白い顔して目をつぶってしまって、はかばかしく返事をすることも出来ない。営業にならなくて困っているママを見かねた俺は、そいつを店の裏口から路地へと引きずり出した。手近なところに積んであるダンボールの箱をつぶして、路地へ並べて、その上に寝かせた。着ていた上着をかけてやる。ママが渡してくれた濡れたお絞りで額を拭いてやりながら、俺はそいつの足元の地面にずるずると座り込んだ。思いついて脈をとってみると、結構速いけど特に乱れているわけじゃなくて、救急車を呼ぶほどでもないかと、そのままそこでタバコを吸っていた。
彼の意識が戻ったのは、そこに座り込んで30分も経っていただろうか。なにか呟いたような気がして覗き込むと目を開けてぼんやりしている。
「おい、大丈夫か」
肩に手をかけて揺すると、そいつは朦朧としたまま俺のズボンに手をかけて脱がせようとしてきた。
「なにしてるんだよ」
俺が彼の手を払いのけると、始めて彼は、俺の存在を認めたように俺の顔を見た。
「…しなくていいの?」
こいつ、ラリってる?
そうじゃなかった。貧血を起こして朦朧としているだけだった。それが俺の元ウリ専ボーイ智哉との、ぱっとしない出会いだった。
ふらふらしている彼を部屋まで送っていって、遅い時間だったからそのまま泊まって。とにかく俺の人生で、ゲイでそいつの部屋に泊まったのに、一切何も無いままずっと付き合いがあったのは彼一人だけだった。最初の出会いの行為とは裏腹に、彼は俺に体を一切触らせなかった。
HIVだったから。
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男同士ってなんて簡単なんだろう。出会って、気に入ったら、すっとそばに寄っていく。視線が合い、手を伸ばしてくる。触れ合う。熱い体が重なり合う。話をするのはその後。お互いを確かめ合ったその後。
気に入らなければそれで終り。もちろん自分勝手な奴や好みに合わないのにしつこくする奴、そんな相手がいないわけじゃなかったけど、店を変えればそれっきり。顔なじみも出来て、体が先だったはずなのに、会話をするようになってようやくいい奴だなと思った時も。
誰かに話を聞いてもらいたくって、淋しいときは、ゲイ・バーに出かけていく。そこにいるのは、同じ性癖の奴ばかり。ものすごく安心できる世界。何も隠さなくてもいい、何も装わなくてもいい。
一年くらい俺はとにかく遊んだ。何人の男と寝たのか覚えきれないくらいに。遊ぶ金のためにせっせとバイトをして、大学の授業なんかすっかりお留守になった。ラッシュを覚えたのもその頃。合法ドラックの一種で揮発性の液体だ。血管の拡張と筋肉の弛緩が起きるためアナルセックスが楽になる。
ひとつ薬に手を出すと、やがてはどれも同じようなもののように感じて警戒感が薄れていく。中には、すごくヤバイ薬もあるはずだった。一度、乱交パーティーに近いようなイベントで会った男に出所の不明の錠剤を使われて、輪姦されちまったこともあった。快感が倍増して狂うかと思うほどよくって、もう、されるままになるしかなかった。
もし、智哉に会わなかったら、俺は廃人になっていたかもしれない。
智哉に会ったのは、二丁目のビルの1階にある行きつけのバーだった。初めて会った時の印象は、ずいぶん痩せて顔色の悪い男だな…くらいのものだった。特に話をしたわけでもなく、飲んでいるうちに俺はその男がいることを忘れちまったそして、ママとあれこれ世間話をしているうちに、何でかわからな行けどそいつがふらりと立ち上がって、あっという間にぶっ倒れた。もう、店の中は大騒ぎ。彼は囁くような声で「平気」とか「すぐ治る」とか呟いているけど、紙のように白い顔して目をつぶってしまって、はかばかしく返事をすることも出来ない。営業にならなくて困っているママを見かねた俺は、そいつを店の裏口から路地へと引きずり出した。手近なところに積んであるダンボールの箱をつぶして、路地へ並べて、その上に寝かせた。着ていた上着をかけてやる。ママが渡してくれた濡れたお絞りで額を拭いてやりながら、俺はそいつの足元の地面にずるずると座り込んだ。思いついて脈をとってみると、結構速いけど特に乱れているわけじゃなくて、救急車を呼ぶほどでもないかと、そのままそこでタバコを吸っていた。
彼の意識が戻ったのは、そこに座り込んで30分も経っていただろうか。なにか呟いたような気がして覗き込むと目を開けてぼんやりしている。
「おい、大丈夫か」
肩に手をかけて揺すると、そいつは朦朧としたまま俺のズボンに手をかけて脱がせようとしてきた。
「なにしてるんだよ」
俺が彼の手を払いのけると、始めて彼は、俺の存在を認めたように俺の顔を見た。
「…しなくていいの?」
こいつ、ラリってる?
そうじゃなかった。貧血を起こして朦朧としているだけだった。それが俺の元ウリ専ボーイ智哉との、ぱっとしない出会いだった。
ふらふらしている彼を部屋まで送っていって、遅い時間だったからそのまま泊まって。とにかく俺の人生で、ゲイでそいつの部屋に泊まったのに、一切何も無いままずっと付き合いがあったのは彼一人だけだった。最初の出会いの行為とは裏腹に、彼は俺に体を一切触らせなかった。
HIVだったから。
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ウリ専っていうのは、いわゆるゲイのホストで、たいていの場合は性交渉が伴う。こんなにもお手軽にセックスできるゲイの世界にもそういう商売は存在する。それは、やっぱり、かわいい子、若い子を抱きたいと考える男がいるのは確かなことだったから。
彼は、若い頃は結構売れたウリ専だったらしいけど、ウリ専の旬ってあっという間に終ってしまうらしい。そして、HIVに感染しているという事実だけが残った。今では駐車場のバイトなんかをしながら、何とか食いつないでいる状態だった。
まあ、そのことは俺と智哉の付き合いにはあまり関係がない。HIVであることも本当のところどうでもよかった。なぜなら、別にセックスする相手じゃなかったから。なぜ、彼の部屋に通い始めたのか本当のところはよく分からなかった。
智哉は、あんまりおしゃべりなたちではなかったし、なんだかいつもぼんやりとして、世界と膜を隔てて付き合っているようなところのある男だった。俺が訪ねていくと、特に迷惑がるふうでもなくて家に上げてくれるし、じゃあ何をするのかというと向かい合って俺の持ってきたビールを黙って飲んでいたり、二人で並んで寝転がってタバコを吸っていたりするだけなのだった。
彼の部屋は六畳一間に風呂トイレ付の古いアパートで、近所の住人はどういうわけか、夜はほとんど出払っていて、電気がついていない。それで、彼の部屋にあるただひとつの過去の遺物であるステレオで物悲しいジャズなんか流してみたりしながら、ぼーっとしているのだった。
雨が降っていたりすると、彼の安普請のアパートはじめじめと湿っぽく、屋根にはじける雨の音が響く。そんな時なぜか俺はたまらなく悲しくなって、横にいる彼のことなんかまったくいないもののように泣いてしまったりした。彼は、慰めたりせず、言葉もかけることも無くて、ただ黙っていた。
それから、彼が若い頃は美大に通っていたことを知ったりした。彼は、窓の側に座って、手が届くほど近い、隣の同じようなアパートの壁を見つめている俺のスケッチとかを大学ノートに描いてくれた。
ようやく、俺は彼に誠一の話しをした。惚れていた訳でも無かったのに、裏切られたような気がした理不尽さを、始めて人に打ち明けた。
いつのまにか、俺は発展場へ行かなくなり、大学の授業にちゃんと出るようになった。彼の部屋へ教科書を持って行き、眠っている横で勉強したりした。
彼はすでに発症していたから、障害者手帳を持っていたし、病院で薬ももらっていた。今は、いい薬が出来て、簡単に死ぬような病気じゃなくなったとは言っても、いつもなんだか不安な様子で神経質なほど俺に触るのを避けようとしていた。
多分、彼から感染した。好きだった人。最初に抱かれた人。どこまでも一緒に行けたらと思った人。智哉の口からそいつのことを聞いたのは、あのバーでの出会いから6ヶ月も経っていただろうか。
それっきり置き捨てにされて、捨てられたんだと思っていた。特に理由も無く、いつのまにかウリ専するようになって、5年くらいはいい思いをさせてもらったけど、だんだんとひどく痩せて、客がつかなくなってきた。そんなある日、最初の相手が死んでしまったことを人づてに聞いた。検査を受けて感染していることを確認した。それ以来だれともしていない。でも、もう遅いよね。さんざんいろんな男に抱かれた後だったから。そう言うと彼は困ったように笑った。
人生って、そんなもの。そんな言葉でひとくくりに出来るようなことじゃなかったけど、その話をした次の週にアパートに遊びに行ったら、もう部屋は引き払われていた。隣の部屋の住人が珍しく家にいて、彼が荷物を処分して、後始末もしてから出て行ったことを話した。そして、白い封筒を渡された。
「ありがとう。彼のところに行くことにしたから」
たった一行だけの手紙。俺は繰り返し三回読んだ後、その手紙をクシャッと丸めてポケットにつっこんだ。

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彼は、若い頃は結構売れたウリ専だったらしいけど、ウリ専の旬ってあっという間に終ってしまうらしい。そして、HIVに感染しているという事実だけが残った。今では駐車場のバイトなんかをしながら、何とか食いつないでいる状態だった。
まあ、そのことは俺と智哉の付き合いにはあまり関係がない。HIVであることも本当のところどうでもよかった。なぜなら、別にセックスする相手じゃなかったから。なぜ、彼の部屋に通い始めたのか本当のところはよく分からなかった。
智哉は、あんまりおしゃべりなたちではなかったし、なんだかいつもぼんやりとして、世界と膜を隔てて付き合っているようなところのある男だった。俺が訪ねていくと、特に迷惑がるふうでもなくて家に上げてくれるし、じゃあ何をするのかというと向かい合って俺の持ってきたビールを黙って飲んでいたり、二人で並んで寝転がってタバコを吸っていたりするだけなのだった。
彼の部屋は六畳一間に風呂トイレ付の古いアパートで、近所の住人はどういうわけか、夜はほとんど出払っていて、電気がついていない。それで、彼の部屋にあるただひとつの過去の遺物であるステレオで物悲しいジャズなんか流してみたりしながら、ぼーっとしているのだった。
雨が降っていたりすると、彼の安普請のアパートはじめじめと湿っぽく、屋根にはじける雨の音が響く。そんな時なぜか俺はたまらなく悲しくなって、横にいる彼のことなんかまったくいないもののように泣いてしまったりした。彼は、慰めたりせず、言葉もかけることも無くて、ただ黙っていた。
それから、彼が若い頃は美大に通っていたことを知ったりした。彼は、窓の側に座って、手が届くほど近い、隣の同じようなアパートの壁を見つめている俺のスケッチとかを大学ノートに描いてくれた。
ようやく、俺は彼に誠一の話しをした。惚れていた訳でも無かったのに、裏切られたような気がした理不尽さを、始めて人に打ち明けた。
いつのまにか、俺は発展場へ行かなくなり、大学の授業にちゃんと出るようになった。彼の部屋へ教科書を持って行き、眠っている横で勉強したりした。
彼はすでに発症していたから、障害者手帳を持っていたし、病院で薬ももらっていた。今は、いい薬が出来て、簡単に死ぬような病気じゃなくなったとは言っても、いつもなんだか不安な様子で神経質なほど俺に触るのを避けようとしていた。
多分、彼から感染した。好きだった人。最初に抱かれた人。どこまでも一緒に行けたらと思った人。智哉の口からそいつのことを聞いたのは、あのバーでの出会いから6ヶ月も経っていただろうか。
それっきり置き捨てにされて、捨てられたんだと思っていた。特に理由も無く、いつのまにかウリ専するようになって、5年くらいはいい思いをさせてもらったけど、だんだんとひどく痩せて、客がつかなくなってきた。そんなある日、最初の相手が死んでしまったことを人づてに聞いた。検査を受けて感染していることを確認した。それ以来だれともしていない。でも、もう遅いよね。さんざんいろんな男に抱かれた後だったから。そう言うと彼は困ったように笑った。
人生って、そんなもの。そんな言葉でひとくくりに出来るようなことじゃなかったけど、その話をした次の週にアパートに遊びに行ったら、もう部屋は引き払われていた。隣の部屋の住人が珍しく家にいて、彼が荷物を処分して、後始末もしてから出て行ったことを話した。そして、白い封筒を渡された。
「ありがとう。彼のところに行くことにしたから」
たった一行だけの手紙。俺は繰り返し三回読んだ後、その手紙をクシャッと丸めてポケットにつっこんだ。

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その後、俺は智也の分までも生きるために素行を改めた。……と、なるべき展開なんだろうけど、俺はそんなに感動的にはできていなかった。途切れていた発展場通いも復活し、バーで男を拾うこともあった。何しろ、行く場所がまだしても無くなったし、性欲が消えるはずも無かったから。
でも、真面目に通い始めた大学の勉強が面白くなってきていたから、荒れて遊びまくっていた一年の時よりもましになったと言えるかもしれない
ちゃんと通うようになれば、また、大学の友達との付き合いも復活する。最初の頃、ちょっと好きだったイケメンっぽい緒方やその他同じゼミをとることになった爽やか青少年の河野とか、その彼女のメガネをかけた委員長タイプの後藤とか、勉強しか能の無いと思わせといてしっかりおたくの関本とか。
幸い俺がゲイってことはまだ定着してないみたいで、うすうす気付いた奴とか怪しんでいた奴もいたはずだけど、まったく気がつかない奴もいたわけで、驚いたことに同じクラスの女の子に誘われてコンパに行ったり、グループで映画を観に行ったり、まずまずの普通の学生生活を送ることができたりもした。
だけど、世の中そんなに甘くない。そうやって、知り合った女の子に交際を申し込まれれば、やっぱり断わるしかないのだった。
ゼミの教室で後藤と向き合ってレポートを書いている時、昨日の飲み会で隣に座った女の子に呼び出された。CanCanの表紙に出られるようなかわいい女の子。当然、相手にしてみれば、俺程度の男が断わるなんて許せなかったらしい。それまで、かわいらしくしなを作っていたのに、俺が付き合うことを断わると、いきなり顔色を変えてののしってきた。
「あんたほんとはホモなんでしょ!噂は聞いているんだから。もう、サイテー。不能!」
正直言うと、結構図太くなっていたつもりだったけど、大学の廊下という場所での出来ことに俺はめりこんだ。
戻ってきた俺は、黙って後藤の前に座った。後藤は、顔も上げずにレポートの続きを打ち込んでいる。アレだけ大声で叫ばれたんだから筒抜けのはずなのに、まったく表情も変えてなかった。何だか続きをやる気がうせて、背もたれに肘を乗せると、俺は、溜息を付いて周囲の風景を眺めた。窓から差し込んでくる夕日にきらきらと埃が舞っているのが見えるカチャカチャと後藤の打つキーボードの音だけが響いている。
「気にすることないわよ。馬鹿女の言うことなんて」
自分が話しかけられたということが分かるまでしばらくかかった。
「気にしてないつもりだけど…」
ガシガシと頭を掻いた後、椅子の上で座りなおした。
「なんか、傷ついたかも」
「わかるけど。私だってめがねかけているからって、メガネってののしられるのやだし」
「……」
やっぱ、聞こえていたわけね。俺は、顔を上げた後藤のふちの無いめがねを見つめた。めがねと一緒にしないで欲しい。
「後藤は、キモいとか思わないわけ」
一瞬の沈黙の後、後藤は眉を寄せてこっちをちらりと見たが、またパソコンの画面へと戻っていった。
「なんで?折原が、一生待っていても私に恋してくれなくても別に平気だよ」
ああ、やっぱり気がついていたんだな。さっきの慰め方から、もしかしたらと思っていたけど最初にカミングアウトする相手が、女の子で友達の彼女ってことになるのはちょっと気持ちの準備が足りなくて、思わず溜息をついてしまう。
「…そうじゃなくってさ。ほら、ビジュアル的に男同士ってエグイだろ」
後藤は、初めて俺の顔をまじまじと見た。
「……。ふうん」
「なんだよ」
「それって、男と女だったらビジュアル的に綺麗だと思ってんの?」
「そうじゃないの?だって、何だか…何だか男同士ってケダモノって感じしない…?」
憮然とした後藤がゆっくりと手を伸ばしてきて机の上をトントンと叩いた。
「ねぇ、折原さ。それは明らかに間違い」
キッパリと断言されて、しかもそれが真剣な声だったので、俺も真剣に後藤の言葉の続きを待った。
「映画の中の美男美女ならともかく、実際のセックスなんて、男と女だろうが男と男だろうが女と女だろうが、同じくらいに綺麗に見えない。男以上に女の性器なんかグロ以外の何物でもない」
何だか、納得できない意見だ。ものすごい偏見があるような気がした。
「だけど…AVビデオとかでさ。わざわざそこを見たがるだろう」
「ま、男は見たがるわね」
「女は見たくないの?」
「私は、見ない。性器なんて見ても興奮しない。なんで自分のそこ見て喜ぶの?男のだって観たくないのに」
今、俺の常識を覆すような意見を聞いたような気がする。こいつは異性愛者のはずだった。
「…後藤。お前、それって問題じゃない?河野と付き合っているんだろう」
「ああ。それは全く話が別。好きな人の性器は汚くないよ。かわいいと思うし、さわれるし、咥えられるし。その後でご飯もちゃんと食べられる」
俺はちょっとひるんだ。ここまで女性にあけすけに言われた経験がなかったからだ。だが、もう一度その言葉を咀嚼して気がついた。それって、ペニスを見たらご飯が食べれないってことか?
「うん。だって、えぐいんだもん。男同士だからってことじゃなくって、そういう場所ってもともとえぐいもんじゃない?女性の性器を花びらにたとえたり、クリトリスを真珠にたとえたりするけど、結局は赤貝じゃん」
あまりのシュールなご指摘に頭が痛くなってくる。普段、あまりにも清々しい、白いブラウスが似合う大和撫子振りに俺が抱いていた幻想はガラガラと音を立てて崩れ落ちていく。
「みんな同じようなもんだから、別にホモだけが特別にどうとか思わないよ。彼女は、折原に振られて頭にきたから、あんたが一番傷つきそうな言葉を言っただけでしょ」
率直で飾らない。慰めるというより、事実を指摘しただけ、というような口調だった。だけど、今まで生きてきた間、常に女性に言って欲しかった本音に遭遇できたような気がした。傷つけたかったから、痛いところをつく。その通りだ。そして俺はその通りに傷ついた。ホモとののしられて、傷つくのは、あたりまえだし、しかたない。俺は、後藤の慰めをありがたく受け取った。
「ねぇ、折原って男のあそこみてえぐいとか思わないの?」
「いや、平気だよ。誰のでも咥えられる」
俺は、彼女の恬淡とした口調に引きずられて、つい、言わなくてもいいことまで吐露してしまっていた。
「やっぱり、そうか。男って、ほんと節操ないよね。好きな子と歩いていても、女子高校生のスカートとかひるがえると無意識に見ているもんね。据え膳食わぬは男の恥とか言って、迫られたらホイホイ言ってついてっちゃうの。どだい女と脳の構造が違うんだもんね。あんたも好みの男とすれ違ったら、きっと、じっとあそこを見てるんでしょ」
そんな風にして、俺は少しづつ友達と呼べる知り合いを増やし、カミングアウトした友人を増やし、再び、発展場から遠ざかった。恋人がいなければセックスしないこともある。そんな日常があり得ることをやっと学んだのだ。たまに思い出したように、ゲイ・バーへ行ってママとおしゃべりをして、仲間のいない日常の寂しさを振り払う。そうして俺はようやく大学生活になじんでいった。
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でも、真面目に通い始めた大学の勉強が面白くなってきていたから、荒れて遊びまくっていた一年の時よりもましになったと言えるかもしれない
ちゃんと通うようになれば、また、大学の友達との付き合いも復活する。最初の頃、ちょっと好きだったイケメンっぽい緒方やその他同じゼミをとることになった爽やか青少年の河野とか、その彼女のメガネをかけた委員長タイプの後藤とか、勉強しか能の無いと思わせといてしっかりおたくの関本とか。
幸い俺がゲイってことはまだ定着してないみたいで、うすうす気付いた奴とか怪しんでいた奴もいたはずだけど、まったく気がつかない奴もいたわけで、驚いたことに同じクラスの女の子に誘われてコンパに行ったり、グループで映画を観に行ったり、まずまずの普通の学生生活を送ることができたりもした。
だけど、世の中そんなに甘くない。そうやって、知り合った女の子に交際を申し込まれれば、やっぱり断わるしかないのだった。
ゼミの教室で後藤と向き合ってレポートを書いている時、昨日の飲み会で隣に座った女の子に呼び出された。CanCanの表紙に出られるようなかわいい女の子。当然、相手にしてみれば、俺程度の男が断わるなんて許せなかったらしい。それまで、かわいらしくしなを作っていたのに、俺が付き合うことを断わると、いきなり顔色を変えてののしってきた。
「あんたほんとはホモなんでしょ!噂は聞いているんだから。もう、サイテー。不能!」
正直言うと、結構図太くなっていたつもりだったけど、大学の廊下という場所での出来ことに俺はめりこんだ。
戻ってきた俺は、黙って後藤の前に座った。後藤は、顔も上げずにレポートの続きを打ち込んでいる。アレだけ大声で叫ばれたんだから筒抜けのはずなのに、まったく表情も変えてなかった。何だか続きをやる気がうせて、背もたれに肘を乗せると、俺は、溜息を付いて周囲の風景を眺めた。窓から差し込んでくる夕日にきらきらと埃が舞っているのが見えるカチャカチャと後藤の打つキーボードの音だけが響いている。
「気にすることないわよ。馬鹿女の言うことなんて」
自分が話しかけられたということが分かるまでしばらくかかった。
「気にしてないつもりだけど…」
ガシガシと頭を掻いた後、椅子の上で座りなおした。
「なんか、傷ついたかも」
「わかるけど。私だってめがねかけているからって、メガネってののしられるのやだし」
「……」
やっぱ、聞こえていたわけね。俺は、顔を上げた後藤のふちの無いめがねを見つめた。めがねと一緒にしないで欲しい。
「後藤は、キモいとか思わないわけ」
一瞬の沈黙の後、後藤は眉を寄せてこっちをちらりと見たが、またパソコンの画面へと戻っていった。
「なんで?折原が、一生待っていても私に恋してくれなくても別に平気だよ」
ああ、やっぱり気がついていたんだな。さっきの慰め方から、もしかしたらと思っていたけど最初にカミングアウトする相手が、女の子で友達の彼女ってことになるのはちょっと気持ちの準備が足りなくて、思わず溜息をついてしまう。
「…そうじゃなくってさ。ほら、ビジュアル的に男同士ってエグイだろ」
後藤は、初めて俺の顔をまじまじと見た。
「……。ふうん」
「なんだよ」
「それって、男と女だったらビジュアル的に綺麗だと思ってんの?」
「そうじゃないの?だって、何だか…何だか男同士ってケダモノって感じしない…?」
憮然とした後藤がゆっくりと手を伸ばしてきて机の上をトントンと叩いた。
「ねぇ、折原さ。それは明らかに間違い」
キッパリと断言されて、しかもそれが真剣な声だったので、俺も真剣に後藤の言葉の続きを待った。
「映画の中の美男美女ならともかく、実際のセックスなんて、男と女だろうが男と男だろうが女と女だろうが、同じくらいに綺麗に見えない。男以上に女の性器なんかグロ以外の何物でもない」
何だか、納得できない意見だ。ものすごい偏見があるような気がした。
「だけど…AVビデオとかでさ。わざわざそこを見たがるだろう」
「ま、男は見たがるわね」
「女は見たくないの?」
「私は、見ない。性器なんて見ても興奮しない。なんで自分のそこ見て喜ぶの?男のだって観たくないのに」
今、俺の常識を覆すような意見を聞いたような気がする。こいつは異性愛者のはずだった。
「…後藤。お前、それって問題じゃない?河野と付き合っているんだろう」
「ああ。それは全く話が別。好きな人の性器は汚くないよ。かわいいと思うし、さわれるし、咥えられるし。その後でご飯もちゃんと食べられる」
俺はちょっとひるんだ。ここまで女性にあけすけに言われた経験がなかったからだ。だが、もう一度その言葉を咀嚼して気がついた。それって、ペニスを見たらご飯が食べれないってことか?
「うん。だって、えぐいんだもん。男同士だからってことじゃなくって、そういう場所ってもともとえぐいもんじゃない?女性の性器を花びらにたとえたり、クリトリスを真珠にたとえたりするけど、結局は赤貝じゃん」
あまりのシュールなご指摘に頭が痛くなってくる。普段、あまりにも清々しい、白いブラウスが似合う大和撫子振りに俺が抱いていた幻想はガラガラと音を立てて崩れ落ちていく。
「みんな同じようなもんだから、別にホモだけが特別にどうとか思わないよ。彼女は、折原に振られて頭にきたから、あんたが一番傷つきそうな言葉を言っただけでしょ」
率直で飾らない。慰めるというより、事実を指摘しただけ、というような口調だった。だけど、今まで生きてきた間、常に女性に言って欲しかった本音に遭遇できたような気がした。傷つけたかったから、痛いところをつく。その通りだ。そして俺はその通りに傷ついた。ホモとののしられて、傷つくのは、あたりまえだし、しかたない。俺は、後藤の慰めをありがたく受け取った。
「ねぇ、折原って男のあそこみてえぐいとか思わないの?」
「いや、平気だよ。誰のでも咥えられる」
俺は、彼女の恬淡とした口調に引きずられて、つい、言わなくてもいいことまで吐露してしまっていた。
「やっぱり、そうか。男って、ほんと節操ないよね。好きな子と歩いていても、女子高校生のスカートとかひるがえると無意識に見ているもんね。据え膳食わぬは男の恥とか言って、迫られたらホイホイ言ってついてっちゃうの。どだい女と脳の構造が違うんだもんね。あんたも好みの男とすれ違ったら、きっと、じっとあそこを見てるんでしょ」
そんな風にして、俺は少しづつ友達と呼べる知り合いを増やし、カミングアウトした友人を増やし、再び、発展場から遠ざかった。恋人がいなければセックスしないこともある。そんな日常があり得ることをやっと学んだのだ。たまに思い出したように、ゲイ・バーへ行ってママとおしゃべりをして、仲間のいない日常の寂しさを振り払う。そうして俺はようやく大学生活になじんでいった。
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「ねえ、聞いた。神崎先輩が帰ってきたってこと」
「ああ?ほんとに?」
大学の帰りにゼミの仲間と寄ったコーヒーショップで、始めてその名前を聞いた。嬉しそうな様子の後藤を見やって河野が眉をしかめて、嫌な顔をした。
「だれ?それ…」
関本が黒いセルロイドのめがねを押し上げながら、びっくりしたように俺を見た。
「ああ、そうか。お前、真面目に大学に来るようになった時は、もう先輩いなかったっけ?」
「去年の今頃だっけ?もう、後は論文出すだけだったのに、やりたいことができたとか言ってスタンフォードへいっちゃった院生だよ。歩くフェロモンって言われるくらい、女にモテまくっていた人」
河野の口調を聞くと、彼がそのことを歓迎してないことは分かった。だが、その名前は、まったく記憶に無かった。どうやら知らないのは俺だけだったみたいだ。
「後藤はその先輩が好きなの?」
「え?折原でも、そういうの分かるの? ふふふ。だって、かっこいいんだもん」
「おい、彼氏の俺の前でぬけぬけ言うなよな」
河野は本気で嫌がっている。それもだけど、普段、俳優とか歌手とかそういうものにひどく冷静な反応しか返さない後藤の、妙にテンションの高いハートマアクの付いているような口調にびっくりしてしまった。
「折原なんか、見たらきっと惚れるって。論文出して卒業資格もらったら、また、すぐアメリカに行っちゃうかもよ。早く見ておかないと」
女にモテまくっていたってことは、異性愛者だろ。何で俺にふってくるんだ。だったら、自分で押さえとけよ。
「うーん。だめ。なんかね、人種が違うって感じ。まとっているオーラが違うの。すごくやばい感じ」
何がやばいんだ?だけど、所詮は、別世界の人間ってことだな。その時はよくわからなかったから、機嫌の悪くなる河野を刺激したくなくって、急いで違う話題を持ち出した。もっとよく、後藤の意見を聞いてればよかった。後でそう思っても、ほんとにあとの祭り。後悔先に立たず。
だから、教授の部屋で初めて偶然神崎と顔を合わせた時、俺はまったく無防備な状態だったのだ。ノックに返事をもらって、ドアを開けると教授の机の横に彼は立っていた。百八十五センチはあろうかという背の高さ。それにしっかりと筋肉がついた、それなのにスリムな体。黒いシャツの胸元は第二ボタンまで開いていて、ちらちらと銀色の鎖がのぞく。教授の前に立っているって言うのに、俺の目はそのやけにエロティックな鎖骨のくぼみに吸い付いてしまって、離れようとしない。
名前を呼ばれて我にかえって、初めてその男の顔を見た。すっきりとした額と強い視線の瞳の印象的な整った顔。俺は、ぽかんとして、それから慌てて目を逸らした。話しかけてくる教授へ必死になって意識を集中した。
どくん…心臓の音が聞こえる。どくん…スローモーションのように世界が間延びした。どくん…これはなんだ?鼓動がだんだんと速くなってくる、耳元で鳴り響くように。部屋の隅がどんどんと遠ざかる感覚に俺はめまいを感じた。足が震える。冷や汗が滲む。どくん。どくん。どくん。まずい。ぶっ倒れるかも。と、思った瞬間、誰かに腕を強くつかまれた。
はっとして、相手を見上げる。神崎だった。紹介されてもいないのに間違えようがない歩くフェロモン。ちょっと眉を寄せて不機嫌そうに俺をじっと見つめている。急激に世界が縮み、教授の声がはっきりと聞こえた。
「折原くん。大丈夫かな」
「ハイ!大丈夫です」
反射的に返事をして、差し出された注意事項の紙を受け取った。明後日から始まる実験のために、掲示板へ貼っておくこと。俺は、教授の言葉をもう一度復唱して、了承をもらうと、回れ右をして、部屋を退出した。
「じゃあ、失礼します」
「ああ、来週には結果が出るはずだから…」
手短な返事に軽く会釈すると、神崎は俺と並ぶようにして、一緒に部屋を出た。後ろでドアが閉まったとたん、俺は、隣に立つ男の気配に総毛だった。なんとか空気を吸わないと…と思って、じたばたしながらもなにひとつ生産的な事ができない
「倒れるなよ」
バレてる。再び腕をとられて、強い力で引かれた。大またに歩き出す相手に引きずられるようにして、その並びの空き部屋に引きずり込まれてしまった。一番近い椅子を引くと、彼はそこへ俺を押し込んだ。膝の上に肘を突くと頭を抱え込む。ガンガンと耳鳴りがして、世界が暗転した。どうすりゃいいんだ…。
ようやくめまいが納まった頃を見計らったように突っ込まれた。
「…お前、ゲイか?」
速攻、言い当てられて、否定することもできなかった。すっかり体は反応してしまっていたし、そんな事態に動転していたから、ごまかしようも無くて俺は黙ってうなずいた。顔を上げると、さっきと変わらない不機嫌そうに眉をよせた神埼の表情にぶつかった。
「俺は、男は抱かないぞ」
神崎は、俺の肩の上に手を乗せて、ぎゅっと押し付けると部屋を出て行った。俺の初めての恋はこうして5分で破れた。
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「ああ?ほんとに?」
大学の帰りにゼミの仲間と寄ったコーヒーショップで、始めてその名前を聞いた。嬉しそうな様子の後藤を見やって河野が眉をしかめて、嫌な顔をした。
「だれ?それ…」
関本が黒いセルロイドのめがねを押し上げながら、びっくりしたように俺を見た。
「ああ、そうか。お前、真面目に大学に来るようになった時は、もう先輩いなかったっけ?」
「去年の今頃だっけ?もう、後は論文出すだけだったのに、やりたいことができたとか言ってスタンフォードへいっちゃった院生だよ。歩くフェロモンって言われるくらい、女にモテまくっていた人」
河野の口調を聞くと、彼がそのことを歓迎してないことは分かった。だが、その名前は、まったく記憶に無かった。どうやら知らないのは俺だけだったみたいだ。
「後藤はその先輩が好きなの?」
「え?折原でも、そういうの分かるの? ふふふ。だって、かっこいいんだもん」
「おい、彼氏の俺の前でぬけぬけ言うなよな」
河野は本気で嫌がっている。それもだけど、普段、俳優とか歌手とかそういうものにひどく冷静な反応しか返さない後藤の、妙にテンションの高いハートマアクの付いているような口調にびっくりしてしまった。
「折原なんか、見たらきっと惚れるって。論文出して卒業資格もらったら、また、すぐアメリカに行っちゃうかもよ。早く見ておかないと」
女にモテまくっていたってことは、異性愛者だろ。何で俺にふってくるんだ。だったら、自分で押さえとけよ。
「うーん。だめ。なんかね、人種が違うって感じ。まとっているオーラが違うの。すごくやばい感じ」
何がやばいんだ?だけど、所詮は、別世界の人間ってことだな。その時はよくわからなかったから、機嫌の悪くなる河野を刺激したくなくって、急いで違う話題を持ち出した。もっとよく、後藤の意見を聞いてればよかった。後でそう思っても、ほんとにあとの祭り。後悔先に立たず。
だから、教授の部屋で初めて偶然神崎と顔を合わせた時、俺はまったく無防備な状態だったのだ。ノックに返事をもらって、ドアを開けると教授の机の横に彼は立っていた。百八十五センチはあろうかという背の高さ。それにしっかりと筋肉がついた、それなのにスリムな体。黒いシャツの胸元は第二ボタンまで開いていて、ちらちらと銀色の鎖がのぞく。教授の前に立っているって言うのに、俺の目はそのやけにエロティックな鎖骨のくぼみに吸い付いてしまって、離れようとしない。
名前を呼ばれて我にかえって、初めてその男の顔を見た。すっきりとした額と強い視線の瞳の印象的な整った顔。俺は、ぽかんとして、それから慌てて目を逸らした。話しかけてくる教授へ必死になって意識を集中した。
どくん…心臓の音が聞こえる。どくん…スローモーションのように世界が間延びした。どくん…これはなんだ?鼓動がだんだんと速くなってくる、耳元で鳴り響くように。部屋の隅がどんどんと遠ざかる感覚に俺はめまいを感じた。足が震える。冷や汗が滲む。どくん。どくん。どくん。まずい。ぶっ倒れるかも。と、思った瞬間、誰かに腕を強くつかまれた。
はっとして、相手を見上げる。神崎だった。紹介されてもいないのに間違えようがない歩くフェロモン。ちょっと眉を寄せて不機嫌そうに俺をじっと見つめている。急激に世界が縮み、教授の声がはっきりと聞こえた。
「折原くん。大丈夫かな」
「ハイ!大丈夫です」
反射的に返事をして、差し出された注意事項の紙を受け取った。明後日から始まる実験のために、掲示板へ貼っておくこと。俺は、教授の言葉をもう一度復唱して、了承をもらうと、回れ右をして、部屋を退出した。
「じゃあ、失礼します」
「ああ、来週には結果が出るはずだから…」
手短な返事に軽く会釈すると、神崎は俺と並ぶようにして、一緒に部屋を出た。後ろでドアが閉まったとたん、俺は、隣に立つ男の気配に総毛だった。なんとか空気を吸わないと…と思って、じたばたしながらもなにひとつ生産的な事ができない
「倒れるなよ」
バレてる。再び腕をとられて、強い力で引かれた。大またに歩き出す相手に引きずられるようにして、その並びの空き部屋に引きずり込まれてしまった。一番近い椅子を引くと、彼はそこへ俺を押し込んだ。膝の上に肘を突くと頭を抱え込む。ガンガンと耳鳴りがして、世界が暗転した。どうすりゃいいんだ…。
ようやくめまいが納まった頃を見計らったように突っ込まれた。
「…お前、ゲイか?」
速攻、言い当てられて、否定することもできなかった。すっかり体は反応してしまっていたし、そんな事態に動転していたから、ごまかしようも無くて俺は黙ってうなずいた。顔を上げると、さっきと変わらない不機嫌そうに眉をよせた神埼の表情にぶつかった。
「俺は、男は抱かないぞ」
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振られたんだから男らしく諦めろ。他人に言うのはたやすいが、自分がその立場になればとても言えたもんじゃなかった。嵐のように襲い掛かってきた、このコントロールできない感情に俺は引きずり回された。
恋っていうものはもっと甘酸っぱい感情なんじゃないのか。と、我と我が身に突っ込んでみてもどうしようもない。
考えるのは、あの瞬間の彼の鎖骨のくぼみ。シャツを張り付かせた体のライン。空気を振るわせた低く響く声。俺の腕をつかんできた強い握力。そしてあっというまに心まで突き通した瞳の暗いゆらめき。
こんなのは恋じゃない。あまりにかっこよい奴だったから、肉欲にあおられてくらくらしただけだ。なんてったって、歩くフェロモンって言われていたぐらいだし、そういう意味で女をひきつける奴なんだから。いくら自分に言い訳しても事態がよくなるわけじゃなかった。一瞬でもいい。もう一度その姿を目にしたい。もう一度その声を聞きたい。
考えられるのはゼミの実験室。教授の控えの部屋。それから。それから…。だが、彼の姿を見つけることは出来なかった。
「来週結果が出る」だとしたら、その結果を受け取りに大学に来るはずだ。週が明けると俺はありとあらゆる手を使って教授の部屋へ入り浸った。幸い連絡係だった俺が雑用を引き受けると、教授はまったく疑わずに俺を部屋へ入れてくれた。その週の間、俺はずっと教授の部屋でシュレッダーを掛けて過ごした。だが、神崎は現れなかった。俺は焦った。結果を受け取ったらアメリカへ帰ってしまうのじゃないだろうか。
最後の勇気を振り絞ると、俺は教授に直に質問した。
「神崎先輩は、いつアメリカに戻られるんですか」
教授は、シュレッダーに掛けるために、ホチキスの針を外そうと書類と格闘している俺に優しく答えた。
「向こうの用事はすんだと言っていたから、アメリカには戻らないんじゃないかな。もう、就職もこっちで決まっている筈だから。今は、そっちの研究室の方へ行っているんじゃないか」
俺は、思わず目を閉じた。アメリカへ行ってしまう怖れは消えた。でも、もう一度彼に会うにはいったいどうしたらいいんだ?
「連絡を取りたいなら、そのコルクボードに携帯の番号が貼ってあったと思うが…」
俺は、弾かれたように振り向いた。彼の名前と携帯番号がすっきりとした字体で書かれたメモは、いろんな連絡用のメモがピンで止めてあるコルクボードの上に確かに貼ってあった。
やった。一歩彼に近づいた。でも、電話番号が分かったからって、電話を掛ける理由が見つからなかった。何しろ初対面の時にこっぴどく振られているんだから。どんな意味でも電話をするのは、困難だった。俺は、ありとあらゆるシチエーションを吟味して、そのすべてを捨てるしかなかった。
残ったのは、先輩後輩として学業に関して質問することだった。人並み以上に優秀な人だったのだから、それだったら、電話を掛けても不思議じゃない。俺は、周囲の人間に尋ねて廻り、神埼が研究していたというテーマを探り出した。そして、図書館に行くとその関係の本を片っ端から読み漁った。生半可な質問を持って行くと、あっという間にその魂胆を悟られそうで、不安でならなかった。
電話をする決心をするのに一週間かかった。携帯からかけて、知らない番号は取らない人だったらと思って、思い余って学校の事務局で電話を借りた。そして震える手を叱咤しながら、俺は彼に電話を掛けた。
「はい、神崎です」
あっけないほど簡単に電話はつながり、俺は彼のあの声を聞いていた。俺は、相手が気付いて切ってしまわないうちに用件を全部言おうとして焦った。
「おれ、俺、二週間前に、横山教授のお部屋でお目にかかった、折原樹です。この電話番号は横山教授に教えてもらいました。あつかましいのは分かっているんですが、聞きたいことがあって…」
神崎は沈黙した。俺は、もっと焦った。頭の中をでっち上げた質問がぐるぐる廻っている
「あの、あの…リアプノフ法による同期平衡過渡安定度解析についての…」
「俺は、男は抱かないって言ったよな」
一瞬で全部見透かされた。俺は打ちのめされてぺしゃんこになった。重ねて嘘をつく度胸なんてこれっぽっちも残っていなかった。
「はい」
俺は、うなだれてうなずくしかなかった。これで終り…。つながりは切れた。ぎゅっと目を瞑って、叫びだしたいのを堪える。俺は何で。何で一度会っただけの奴に、こんなに。こんなに囚われてしまったんだろう。もっとかっこいい奴だって、もっと優しい奴だって、すごいテクニシャンだっていたはずなのに……。涙が出そうだった。
「分かっているならいい。家に来い。夜の8時廻れば帰っているから住所は…」
神崎は住所を言い終わると、念押した。
「復唱しろ」
住所を復唱する。声がうわずって掠れた。
「駅から歩いて5分だ。場所分かるか?」
「はい」
次の瞬間、電話はもう切れていた。俺は、受話器を握ったまま呆然と立ち尽くした。
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恋っていうものはもっと甘酸っぱい感情なんじゃないのか。と、我と我が身に突っ込んでみてもどうしようもない。
考えるのは、あの瞬間の彼の鎖骨のくぼみ。シャツを張り付かせた体のライン。空気を振るわせた低く響く声。俺の腕をつかんできた強い握力。そしてあっというまに心まで突き通した瞳の暗いゆらめき。
こんなのは恋じゃない。あまりにかっこよい奴だったから、肉欲にあおられてくらくらしただけだ。なんてったって、歩くフェロモンって言われていたぐらいだし、そういう意味で女をひきつける奴なんだから。いくら自分に言い訳しても事態がよくなるわけじゃなかった。一瞬でもいい。もう一度その姿を目にしたい。もう一度その声を聞きたい。
考えられるのはゼミの実験室。教授の控えの部屋。それから。それから…。だが、彼の姿を見つけることは出来なかった。
「来週結果が出る」だとしたら、その結果を受け取りに大学に来るはずだ。週が明けると俺はありとあらゆる手を使って教授の部屋へ入り浸った。幸い連絡係だった俺が雑用を引き受けると、教授はまったく疑わずに俺を部屋へ入れてくれた。その週の間、俺はずっと教授の部屋でシュレッダーを掛けて過ごした。だが、神崎は現れなかった。俺は焦った。結果を受け取ったらアメリカへ帰ってしまうのじゃないだろうか。
最後の勇気を振り絞ると、俺は教授に直に質問した。
「神崎先輩は、いつアメリカに戻られるんですか」
教授は、シュレッダーに掛けるために、ホチキスの針を外そうと書類と格闘している俺に優しく答えた。
「向こうの用事はすんだと言っていたから、アメリカには戻らないんじゃないかな。もう、就職もこっちで決まっている筈だから。今は、そっちの研究室の方へ行っているんじゃないか」
俺は、思わず目を閉じた。アメリカへ行ってしまう怖れは消えた。でも、もう一度彼に会うにはいったいどうしたらいいんだ?
「連絡を取りたいなら、そのコルクボードに携帯の番号が貼ってあったと思うが…」
俺は、弾かれたように振り向いた。彼の名前と携帯番号がすっきりとした字体で書かれたメモは、いろんな連絡用のメモがピンで止めてあるコルクボードの上に確かに貼ってあった。
やった。一歩彼に近づいた。でも、電話番号が分かったからって、電話を掛ける理由が見つからなかった。何しろ初対面の時にこっぴどく振られているんだから。どんな意味でも電話をするのは、困難だった。俺は、ありとあらゆるシチエーションを吟味して、そのすべてを捨てるしかなかった。
残ったのは、先輩後輩として学業に関して質問することだった。人並み以上に優秀な人だったのだから、それだったら、電話を掛けても不思議じゃない。俺は、周囲の人間に尋ねて廻り、神埼が研究していたというテーマを探り出した。そして、図書館に行くとその関係の本を片っ端から読み漁った。生半可な質問を持って行くと、あっという間にその魂胆を悟られそうで、不安でならなかった。
電話をする決心をするのに一週間かかった。携帯からかけて、知らない番号は取らない人だったらと思って、思い余って学校の事務局で電話を借りた。そして震える手を叱咤しながら、俺は彼に電話を掛けた。
「はい、神崎です」
あっけないほど簡単に電話はつながり、俺は彼のあの声を聞いていた。俺は、相手が気付いて切ってしまわないうちに用件を全部言おうとして焦った。
「おれ、俺、二週間前に、横山教授のお部屋でお目にかかった、折原樹です。この電話番号は横山教授に教えてもらいました。あつかましいのは分かっているんですが、聞きたいことがあって…」
神崎は沈黙した。俺は、もっと焦った。頭の中をでっち上げた質問がぐるぐる廻っている
「あの、あの…リアプノフ法による同期平衡過渡安定度解析についての…」
「俺は、男は抱かないって言ったよな」
一瞬で全部見透かされた。俺は打ちのめされてぺしゃんこになった。重ねて嘘をつく度胸なんてこれっぽっちも残っていなかった。
「はい」
俺は、うなだれてうなずくしかなかった。これで終り…。つながりは切れた。ぎゅっと目を瞑って、叫びだしたいのを堪える。俺は何で。何で一度会っただけの奴に、こんなに。こんなに囚われてしまったんだろう。もっとかっこいい奴だって、もっと優しい奴だって、すごいテクニシャンだっていたはずなのに……。涙が出そうだった。
「分かっているならいい。家に来い。夜の8時廻れば帰っているから住所は…」
神崎は住所を言い終わると、念押した。
「復唱しろ」
住所を復唱する。声がうわずって掠れた。
「駅から歩いて5分だ。場所分かるか?」
「はい」
次の瞬間、電話はもう切れていた。俺は、受話器を握ったまま呆然と立ち尽くした。
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