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 明け方の夢を膨らませて作った、切ないSMの物語


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性的、暴力的な表現を含んでいます。
虚構と現実の区別のつかない方
18歳未満の方はご遠慮くださいませ。
自己責任に於いて閲覧していただきますようお願いします。

 

 次の朝、瑞希は、白い包帯を不思議そうに見ていたが、何も尋ねようとせず、僕たちは、彼女のマンションから直接出社しようとしていた。乗り込んでドアがしまった途端に、ガタン、とエレベーターが揺れた。
 その拍子によろめいた彼女の腕を僕は反射的につかんだ。照明が二度点滅して消える。デジャブが起きたかのような、その出来事に僕は息を呑む。ぱっと非常灯がついて、不安げな顔をした彼女の姿が浮かび上がった。エレベーターの中は以前とは違って、二人きりだった。
「故障?」
「さあ、どうでしょう」
 僕は操作盤の電話のボタンを押してみた。
「どうされました?」
どうも、この電話は管理室につながっているようだ。
「中央入り口前のエレベーターが止まってしまったんですが」
「ええ!?すぐに、管理会社に連絡しますので……しばらくお待ちください」
 僕は、溜息をつくとボタンから手を離した。連絡を受けてすぐメンテナンスの係りが来たとしても、しばらくは動きそうに無かったからだ。空調が切れてしまったのか、心なしか温度が上がっているようだった。無意識にネクタイに指を掛けて結び目を緩めようとしながら、ふと、目を上げるとその様子をじっと見つめている瑞季の瞳と視線がぶつかった。
 はっと気がつくと彼女の腕をつかんだままだった。僕は内心動揺しながらも、さも当然の様子を取り繕って彼女の手をゆっくりと離した。不思議そうな表情の瑞季の視線が離れて行く僕の手を追う。それから、その瞳は再びゆっくりと僕の顔に戻ってきた。
「大丈夫ですか?」
 彼女は返事をしなかった。眉を寄せて、ただじっと見つめてくる。彼女の瞳の中で何かが動き、そして彼女はパチパチと二度瞬きをした。
「東野?」
「はい」
 まるで、スローモーションのように、時間が間延びしていくように感じられた。だが、実際はそんな事ではなく、彼女の動きが、まるでコマ送りのように遅かったのだ。両脇に力なく下ろされていた彼女の手がそろそろと持ち上げられ、僕の二の腕にかけられる。それから、ゆっくりとそこに力がかかり、彼女の肘が縮んでいく。当然、彼女の身体がゆっくりと前に出て、受け止めようと差し出された僕の腕の中にすっぽりと納まった。
 僕の中で彼女が僕を呼ぶ声が繰り返し、こだまして消えていく。今、彼女は、名字を呼んだ?この場所は、彼女にとってはどこだと認識されているんだ?
 彼女の白く滑らかな額が僕の胸の辺りに押し付けられている。スーツの襟の合わせ目辺りで彼女の唇が動いた。だが、声にはならず、ただ、熱い吐息がシャツを通して肌に当たったような気がした。
「瑞季、監視カメラに写っていますよ」
 ここは、彼女の住んでいるマンションなのだ。だが、彼女の答えは僕のスーツの袖をぎゅっと握りしめる事だけだった。腕を揚げて彼女の背中に廻して抱き寄せた。
 お互いの身体が隙間無く密着し、温もりを伝え合う。服を着ているとはいえ、ぴったりとくっついていては、感覚を妨げる何の足しにもならない。不埒な妄想と、慣れた反応が身体を駆け上がる。柔らかな彼女の曲線がスーツの固い布地を通しても感じられる。その下になにがあるのか僕はもう知っている。知らなくても…同じだ。こんなに、ぴったりとくっつきあっていては。
「東野?」
 彼女の声がかすかに震えているような気がして、昨日の今日だけに、不安になってきた。
「どうしました?気分でも悪いんですか?」
 左右に首を振った彼女は、急に伸び上がって顔を仰向け、同時に腕に掛けていた手を伸ばして、僕の首の後ろへ掌を滑らせた後、引き寄せた。喘ぎながら押し付けられた唇に、僕はあっという間に反応してしまい、今の今まで気にしていた監視カメラの事などすっかり忘れて、彼女の唇をむさぼった。
 足の間に彼女の太腿がぴったりと押し付けられている。僕の堅くなった身体の反応はすっかり彼女に知られてしまっているはずだった
 世間体もつつしみも振り捨てて、くそくらえと思いながら、僕は腰に腕を巻きつけて思い切り彼女を引き寄せた。重ね合わせられた身体が尚一層密着する。彼女の身体は反り返り僕たちはまるで映画の中の恋人達のように、上下になってキスを奪い合った。重ねる唇の位置をずらし、舌を伸ばし、お互いの口腔を味わうように絡めあう…
 チンという音と共に、エレベーターはゆっくりと動き出した。通常の動きよりも遅い。一番近い最寄りの階へ到着したエレベーターは、ゆっくりと扉を開いて行く。僕は、その動きに気がついて彼女の身体を出来るだけやさしく引き剥がした。離れた彼女の瞳から一滴の涙が流れ落ちた。
「え?瑞季、どうしたんですか」
「東野。あなた、どこへ行っていたの?私、ずっと探していたのに」
 僕は、返事が出来ず、黙ったまま彼女をエレベーターの外へ押し出した。管理会社の人間が何人か扉の外にいて、心配そうに声を掛けてくる。彼女はちょっと不安になっただけです。どこも怪我なんかしていません。だいじょうぶ。だいじょうぶです。
 泣いている彼女を無遠慮な男達の視線を遮るように囲い込むと階段の方へ押しやった。会社へ行くのではなく、部屋へ戻ろうとしながらも、頭の中はましっろで、何がどうなったのかも分からなかった。ただひとつの言葉だけが繰り返し僕の耳に聞こえてくる。
「東野」
 玄関のカードキーを滑らそうとする手は震えていた。僕の確かな記憶は、ドアの中に滑り込んだ所までだった。
「瑞季、思い出したんですか?」
「なにを?何を、思い出したっていうの?」
「僕のことを…?」
「あたし…」
 額を押さえ、頭を振って、それからもう一度僕のほうを見ると、蒼褪めた瑞希は、苦しそうに顔をゆがめた…
「違う。東野のことじゃないわ。あたし、思い出したの。子供の頃の事。私、乱暴された。知らない男に。身体中を噛み付かれた。すごく痛くて、怖くて、ああ、私の身体……」
 急いで彼女の腕を掴んで引き寄せる。うつむく彼女の顔をかがむようにして覗き込んだ。
「瑞季、それは、もう終わったんだ。昔の事だ。もう、終わったんだよ」
 涙を流しながら、彼女は僕を見つめた。こっくりとうなずくとしがみついてきた瑞季は、なんの躊躇い無く僕の名前を呼んだ。
「もう、終わったのね。東野」
「ええ。ええ。そうです。もう、終わったんです」
 あなたは、僕の所に帰ってきた。本当の記憶のある瑞季になって。僕は、彼女を抱きしめた。その時、初めて僕は気がついた。遠い旅路の果てに、帰ってきた僕の腕の中にいる確かな記憶を持った瑞季が、僕を東野と呼ぶそのゆっくりとした口調と、澄んだ丸い瞳をしている事に。




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