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 明け方の夢を膨らませて作った、切ないSMの物語


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性的、暴力的な表現を含んでいます。
虚構と現実の区別のつかない方
18歳未満の方はご遠慮くださいませ。
自己責任に於いて閲覧していただきますようお願いします。

 
 しっかりと、電源が入っているのがすぐ分かるデジタルビデオカメラが三脚に据えられている前で服を脱ぐのは、さずがに恥ずかしかった。服を脱ぐ事よりも、どう振舞っていいのか分からない。何をどうしたって、相手に媚びているような気がして、迂闊な事は何も出来ないような気がした。ただ淡々と、服を脱ぐしか外にない。カメラが据えられている向かい側は壁面いっぱいの鏡だ。鏡に映る像は俺が今カメラに何を撮られているのか教えてくれる。精一杯平静を装って、なんでもない振りをして、いつものことじゃないかと自分に言い聞かせながら、それでも頬が熱く、身体が熱く、胸の奥からなおも熱いものが込み上げて来るのが分かる。そのすべてを、カメラの目に克明に写し撮られていくのが分かっていても、あれこれと惑うのをやめることは出来無かった。

 それは、すべて、鏡の正面。俺の後ろに、でかい革張りの安楽椅子に、やってきた時のダークグレーのスーツ姿のまま座っている男のせいなのだった。少し眉を寄せ、目を細めて肘掛け椅子に片方の肘を付き、軽く脚を組んでいる男、神崎聡史。背が高くて肩幅のあるきちんと筋肉ののった大人の身体を、スリムなイタリアントラッドのスーツにつつんで、度が入って無いんじゃないかと思う仕事用の縁のないメガネをかけ、利休鼠のシャツに濃淡のついた同じ色のネクタイを締めていた。
 いつまでたっても、俺は彼の前で服を脱ぐ事に慣れない。男が好きな俺と、SMが好きな神崎。俺達の間には相容れない性癖の壁があって、それを越えようとするたびに俺は、どうしたらいいのか分から無くて、途方にくれてしまう。相手が何を望んでいるのか全く検討も附かない上に、相手が望むような反応を返してしまうことに常に戸惑いと不安が付き纏う。

 普段のあいつと俺の間には、常に1メーターの距離があって、たまに気が向いた時にあいつはそれをひょいと気軽に越えてくる。それは、髪を撫でたり、キスしたり、すれ違いざまに身体に触ったりする何気ない接触だけど、あいつにべた惚れの俺は、その度に恋している高校生のように舞い上がり、処女のように戸惑うのだ。それは、やっぱり、神埼は別に男を好きなわけじゃないと考えてしまうから、「気持ち悪い」とか「べたべたするな」と思われるの怖さに俺が必死になって死守している1メーターを、彼にからかわれているような気分になるからだった。
 何しろ、初めて惚れて付き合ってる相手。しかも恋は一方通行。相手はサディスト。あいつのほんの気まぐれで俺は突き放されても不思議じゃなかったのだ。用心深く距離を取り、常に「まとわり付くつもりはない」と発信し続けていないと、俺はコントロールを失って、あいつの足にしっかりとしがみついてしまいそうだった。
 そんなみっともない事はしたくない。

 ・・・溜息。

 違う。してもいいけど、そんな振る舞いをするところを神崎にだけは見られたくない。
 好きになるって、なんでこんなにややっこしいんだろう。嘘をつけば後ろめたく、振りをすれば落ち着かない。誠実でありたいと思うほどに身動きなら無くなり、正直になろうとすれば、恥ずかしさでいたたまれない。しかも、あいつが見たいのはそんなふうにギリギリの所で俺が恥をかきたくないと必死になっている有様と来ているのだから、混乱する事この上ない。
 絶対に、絶対に、こいつにだけは見せたくないと思ってる姿を、洗いざらい底まで攫ってさらけ出す以外にあいつの気持ちに応える術が無いなんて・・・。それでも、やっぱり俺はあいつの側に居たくって、だから、こうして言われるがままにカメラの前で服を脱いだりしてる訳なんだ。

 服を脱ぎ終わって、まっすぐ鏡に向かって立てば、そこには何をどうしたらいいのかわからずに途方にくれている素裸の俺と、両腕を肘掛に乗せて脚を組んでくつろいだ様子でじろじろと俺を見ている神崎が映っている。鏡の中で視線が合う。ちょっと微笑んだ彼の口元。きっちりとネクタイに締めあげられたシャツが包んでいる首筋。スーツに包まれた広い肩。そしてその下で息づいているはずの筋肉。俺は思わず彼に見とれてしまう。裸で所在無げに立ち尽くしている俺よりもずっと色っぽく扇情的な男を。
 我を忘れた俺の視線が服の下の彼をみつめ、呼吸のたびにかすかに上下するスーツの下にある筋肉の動きを想像して、のぼせ上がっていく。鏡に近づく。一歩。また一歩。手を伸ばして彼に触れようとする。ひんやりと冷たいガラスに、掌を当てて・・・。その中にある彼の姿に少しでも寄り添おうとした。
 鏡の中でゆらりと神埼が立ち上がった。近づいてくる。一歩。また一歩。俺は怖気づき、思わず後ろに下がる。憧れが過ぎて、求める気持ちが強すぎて、本能的に逃げようとする。
 近づいてくる鏡の中の彼から。後ずさった俺は、待ち構えていた神崎の腕の中に絡めとられた。逃げようとして、却って近づいていく。近づこうとして却って遠ざかってしまう。背中に押し付けられた彼のスーツのボタンの冷たさが自分の身体が熱くなってしまっている事を教えてくれた。

 ぐいっと顎に当てられた掌が俺の顔を上向ける。彼は眼鏡を外すと片手で折りたたんでスーツの胸ポケットへ入れた。それから、覆いかぶさるようにのしかかってくる。覗き込まれ、彼の息が頬に掛かると、何もかもがその唇に向けて収束してくるような気分になって、俺は俺の唇の上でうっすらと開いて俺を待っているかのようなあいつの唇にむしゃぶりついた。
『カメラの前で・・・』
 息が苦しくなって、何度か唇を緩めて息を付いた隙に神崎が囁いた。なにを?と聞き返そうとした言葉はお互いの接吻の中に吸い込まれていく。角度を変えてもう一度。深く。それからもっと深く。いつの間にか向き合って、胸を合わせ、腹を合わせ、脚を絡ませて尚、もっとぴったりとくっつこうと腕に力を込めている俺。
『随分と積極的だな。』
 しがみつく俺の身体をまさぐりながら、首筋に向かって彼の唇が伝い降りていく。俺はすでに混乱のあまりに何がなんだか分からない状態で必死に彼の身体にしがみつきながら、その言葉を反芻する。なんだっけ?カメラ・・・。そう、ビデオカメラ・・・!
 ようやく、その言葉の意味を捕まえた俺は、間抜けな事に改めて分かりきってる事に気が付いて自分からしがみついている彼の身体を押しのけようとした。だが、そんなこと出来る筈が無い。相反する行動を一度に行っても、目的を達するには程遠い。中途半端に彼にぶら下がっている俺の身体はあっという間に彼の思い通りにくるりと向きを変えられて、両腕は鏡にぴったりと押さえつけられた。
『映ってるぞ・・・。』
 神崎は、後から腰を抱きかかえて、右耳を軽く噛むと耳朶に唇をつけて息を吹き込みながら囁きかけてくる。
『なにもかも・・・。』
 胸を絞り上げられるような羞恥が襲い掛かってくる。どうにも逃げようがない姿勢に押さえ込まれて、スーツのざらざらとした布目が素裸の背中を擦りあげる感覚を味合わされる。鏡をみつめる事もできずに逸らした首筋へ彼が舌をちろちろと動かしながら肩へ向かってその唇をずらしていく。堪らない・・・。見ないで。嫌。いやだ。

 堪えきれない喘ぎに曇る鏡に、ぺったりと頬を押し付けて、降りてくる彼の手の動きが与えてくれる感覚を貪欲にむさぼって、味わって、布越しに感じる筋肉に自分から尻を押し付けて、泣きながら、懇願しながら、揺さぶられながら、それでいて頭のどこかに冷めた感覚が一箇所だけ残っていてカメラに映っているだろう自分の姿をみつめている。二重構造の羞恥。二重構造の快感。愛情と重なる欲望と・・・・。
「いいか・・・?」
 何を聞かれたのか分からなかった。何を要求されているのかも分からなかった。それとも、感じているか訊いてたのだろうか。分からなかった。何もかも。いい。いいんだ。なんでも、どうしても、どんな事をしても・・・。俺は何も応えずに、黙って彼の身体に強く自分を押し付けた。

 側に居られるなら。それだけでいい。なんでも、いい。





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 急な予定変更で休日出勤を余儀なくされた志方は、朝から向き合っていた書類の最終チェックをしていた。もう、すでに斜めになり始めた日差しが部屋の奥の方まで届くようになっている。パーティションで仕切られているとはいえ60人分ほどの社員の机が並ぶ、誰もいないオフィスには空調の音が静かに響いているだけだ。凝り固まった肩を回して、うんと背伸びをした。上着は、すでに朝この部屋に入る早々に脱いでしまい、椅子の背にかかっている。終日パソコンと向きあっていたせいでチカチカとする目をぎゅっと閉じて、目頭を押さえた。
 キイッっとかすかなドアの音がして、志方は顔をあげた。ドアを開けて入ってきたのは同じフロアの一番端の部屋で仕事をしている同僚の高野晃だった。二つ年下の彼は、すっきりと細身の肩をダークグレーのスーツに包んだ、整った顔立ちのどこかしら垢抜けた男である。こんな殺風景な会社のフロアではなく、どちらかといえば六本木辺りのしゃれたバーのカウンターにいた方がよっぽど似合うのではないかと思ってしまう。高野は志方をみつけると、フロアを横切ってまっすぐ彼の方へやってきた。高野の動きは、特に他人と違う振る舞いをしている訳でも、しゃれた格好をしている訳でもないのに、どこかしら清清しく人目を轢き付ける。


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「仕事終わった?」
 視線を合わせてにっと笑うと高野は前髪を掻き揚げた。そんなしぐさがよく似合う、あまりの色っぽさに志方はパチパチと瞬きをして、相手の顔をまじまじと見てしまう。
『コレって、誘ってるんだろうか・・・。』
 実は、ふたりは半年前から付き合っているのだった。きっかけは、なんという事もない。誰か先輩の移動に伴う送別会だった。普段ほとんど酒を飲まないように見えていた高野が、どういうはずみか酔っ払ってしまったのをたまたますぐ傍に座っていた志方が引きずって帰って、自分の家に泊めたせいだった。
 志方がふと、夜中に目が覚めて、なぜか起き上がってぼんやりと座り込んでいる高野に声を掛けると、不思議そうな顔でこっちを見ていたと思う間もなく倒れこんできた。お互い、知らない仲じゃなく、そう、どちらかと言えば仕事の息は合うほうだったし、会話も交わしていたんだけど、だからと言って、そういう展開になるなんて、高野を家に連れ帰った時点では、志方もまったく考えていなかった。自分の性癖について高野に仄めかした事も無く、相手もそれらしいことは何も示さなかったから、お互いに相手はノンケだと思っていたと思う。
 だが、もつれ合ってみれば、あっという間に知れてしまうの当たり前の事だった。そして、いつの間にか、お互いにお互いの気持ちを確認する事もないままに、週に一度はどちらかの家に泊まったり、一緒に食事に出かけたりするようになっている。

「ああ、うん。おまえ、今日はなんで会社にいるんだ。」
「拓真が、休出って、女の子が言ってたから見に来ただけ。」
 高野は志方の座っている椅子の縁にちょっと左膝を乗せると、机に手を付いて乗り出してきた。志方の手に持っているさっきプリントアウトしたばかりの書類へ手を伸ばすとぺらりと捲ってみて、にやりと笑う。
「うん、終わってるね。」
「せっかくの休日が台無しさ。」
 志方はチェックした書類を揃えるとホチキスでしっかりと綴じて、新しい封筒へ滑り込ませた。明日、課長に確認してもらってから、コピーを取る事になるだろう。机の一番上の引き出しに放り込み、鍵を掛ける。
「この後、暇なら、どっかへ食いに行くか?」
「ああ、うん、そのつもりで来たんだけどさ・・・その前に。」
 うん?と訊ねるように顔をあげた志方の唇に高野の乾いた唇が重ねられた。キスに気を取られていると高野は椅子の肘掛に手を乗せて椅子を滑らせた。おっと、と慌てて自分もその腕を握ってバランスをとったが椅子は二人の男を乗せて通路を滑り、一番端の壁にぶつかって止まった。

「おい、あぶないだろうが。」
 くすくすと笑う年下の恋人は、悪びれる様子も無く身体を起こすとオフィスの広い窓を覆うブラインドの紐を引いて閉じた。ジャッと派手な音を立ててグレーのブラインドが降りてくる。向かいのビルから丸見えなのだから、ブラインドを閉めるのはいいとしても、この危なっかしい平行移動はいったい何のためだったのか。眉を上げて問いかける志方の両肩に手を掛けると、高野はゆっくりと首筋へ向かってその手を滑らせた。
「あそこ。」
 ちらっと今、志方が座っていた机の方へ視線を走らせる。
「カメラから丸見えなんだよね。」
 防犯カメラという名目で室内のあちこちに仕掛けられているカメラは社員の仕事振りを克明に観察するためではないかというもっぱらの噂だったが、全く気にしていなかった志方は自分の席が、そのカメラの真正面にあることを示唆されてがっくりと肩を落とした。今、その監視カメラの目の前で軽くとはいえ二人は男同士でキスをしてしまったような気がする。

 改めて志方の足の間の椅子の縁に膝を乗り上げさせた高野は、器用な細い指で志方のネクタイを解き始めた。えんじ色の地色に白や黒の斜めのストライプの入った、いたってスタンダードなネクタイがするすると彼のワイシャツから抜き取られていく。
「おい、どうするんだ。まさか。ここでやるとか言うんじゃないだろうな。」
 カメラの件で思わず脱力している志方の目の前で、高野はネクタイに人差し指を掛けるとぐいっと緩めた。ゆっくりと思わせぶりなしぐさでネクタイを解く。
『・・・こいつは。』
と、志方は心の中で感心していた。
『なんで、こんなにいろっぽいんだ。』
 特に綺麗だとか華奢だとか思ったことはない。やってる事だって、ただネクタイを解いているだけだった。だが、どういう訳かこの男、なんでもない仕草さえ、やたらとそそる所があった。身体の関係が出来るまでは全く気が付かなかった以上、これは、志方だけに向けられた高野の気配なのだった。
 志方が思わず恋人を抱き寄せようと腰に手を廻すと、高野は軽くその手を払った。それから、改めて仕方の足の間の椅子の縁に膝を乗り上げて、高野は、器用な細い指で志方のネクタイを解き始めた。えんじ色の地色に白や黒の斜めのストライプの入った、いたってスタンダードなネクタイがするすると志方のワイシャツから抜き取られていく。
 一度は持ち上げた手をもう一度肘掛の上に乗せていた志方は、高野がそのネクタイを彼の手首に巻き付けたのを見てちょっと目を見張った。セックスしていて、ちょっとサドッ気の多い奴だなと思った事はある。それ以上にマゾッ気がありすぎるんじゃないかと思った事もあった。肩に噛み付いてきたり、乱暴に扱われたがったり・・・。だが、こんな風にあからさまな行為に及んだ事はまだ無かっただけに、それが、オフィスの中という事もあって意外だったのだ。右手首にネクタイを結び付けた高野は脚を使って椅子をくるりと廻した。大急ぎで手を伸ばして志方の左手首を掴む。椅子の後ろでひとつにくくり合わせるつもりなのだろうが、抵抗されるのを怖がっているような慌ただしい動作だった。

 『どうしたもんかなぁ。』
 志方はのんびりと考えている。別に、SMするのに抵抗があるわけじゃない。だが、その場合、ほんとにこいつはSなのかしらん。そう考えを巡らしながら、もう一度くるりと椅子を廻して壁に押し付けた高野の瞳を、まじまじと覗き込んだ。後ろめたそうに視線を逸らした高野が自分のしている行為の意味や結果についてよく分かっているとも思えなかった。
「どうしたいんだ?」
「やりたい・・・。」
 動けなくなった志方の首に、腕を廻して高野はしがみついてきた。肩にぎゅっと押し付けられた頭が切なげな溜息を付く。
「やるだけなら、縛らなくてもいいだろう。」
 答えはない。高野は、ただ、黙って腕に力を込めた。




 ギシッ・・・椅子のバネがきしむ。水の中で動くようにどこかしら不可思議な動作で高野は立ち上がると後ろに下がった。そして、椅子から動けない俺の前で、ポケットに手を突っ込んで考え込んでいる。まだ、どうしたらいいのか決められない・・・そんな迷いがありありと表に出ている立ち姿だ。




 踏ん切りがついたのか、やがて高野は、服を脱ぎ始めた。ワイシャツのボタンをひとつずつ外していく。出来るだけ時間をかけて、もったいぶって、ゆっくりと、ひとつずつ。今時には珍しい白いワイシャツの前がはだけると滑らかな肌が少しずつ露になっていった。
 すでに腹までボタンは外されている。ベルトを引き抜き、両手を腹に沿わせながら後ろへ滑らせながらシャツの裾をズボンから引き出して行く。




 見た目はすごく華奢なくせに、サーフィンをやるせいか高野はしっかりと筋肉のついた身体をしてるのだった。慣れ親しんで隅から隅まで知っている身体。男同士だから、別に恥ずかしいわけでもない。だが、明らかに異常なシチエーション。誰もいなくても会社の中でこんな事をしている事が志方の頭をくらくらさせる。腕を縛られていて、どうしようもない。しかし、こんな所へ誰かやってきたら、全く逃げようが無く、どう言い訳のしようもない。




 くらくらしてくる頭とは全く別の所で冷静に、相手のしぐさを見つめる自分がいる事に志方は戸惑っていた。その時、志方の腕を縛ってから初めて高野が顔を上げて、しっかりと志方の瞳を見つめ返した。一瞬の躊躇いの後に視線はゆっくりと逸れて行く。どこを見ているのか分からない高野の様子は、まるで恥ずかしがっているようで、志方は新鮮な想いで彼の仕草を見つめ続けた。




 ものすごく躊躇した後に、高野は、シャツの肩をはだけて見せる。見せるために技巧を凝らしてる訳じゃないという精一杯の虚勢を張って。だが、街頭に立つ娼婦を思わせるようなそんな仕草があまりにも似合う男に、志方は魅せらられるようにじっと見つめずにはいられなかった。思わせぶりに溜息を付くと、高野の手は今度はズボンのボタンへと降りていく。




『おい、おまえ、それはやりすぎだろう。』
 志方は、心の中でそう考えながらも、高野の行為を止めなかった。ここまで来たら、行くところまで行かないと・・・おさまりがつく筈もない。だが、その、行くところはどこなのか。高野が考えている事が全く分からない以上に、志方は自分がこの事態を楽しんでいる事が不思議だった。縛られているのは志方なのに、責められているのは事を進めている高野の方のような気がする。




 服がその重みで滑り落ちていく間、高野は一瞬目をつぶった。シャツは、まだ、身体にまとわり付いたままだ。
『本気で全部脱いでしまうつもりらしい。』
 志方が内心で呆れていたのは、高野のその振る舞いではなかった。それよりもずっと驚きを感じているのは、高野がどこまで自分を追い込めるのかを楽しんでいる自分の気持ちだった。
『俺は・・・。もしかしたら、高野は俺も知らないこの気持ちを・・・?』
 自分から仕掛けて挑発した高野が、最後に来て、初めて辛そうに顔をゆがめるのを見て、志方はぞくぞくと肌が粟立つような興奮を感じた。




 全裸になった高野は、見せ付けるようにゆっくりと近づいて来て、もう一度志方の首に腕を廻して抱きついてきた。切なげにわざとらしく溜息をついてみせる。それから、力を抜くとそのままずるずると足元に滑り落ちていく。そして、志方のズボンのチャックを素早く降ろすと、いつもの手順で引っ張り出したそれをするりと口の中に納める。




 ぴちゃぴちゃ・・・。舌が鳴る淫猥な音を聴きながら、足元から昇って来る強い快感を堪えながら、志方は猫がミルクを飲むように一心にそれをしゃぶっている相手を見つめ続けていた。責められてるのは縛られている志方なのか。それとも床に全裸でぺったりと座り込んで男の物を銜え込んでいる高野なのか。その血の味がするような加虐を味わっているのは、主導権を握っている高野なのか。それともなすがままにされた志方なのか。なりゆきで繋げた身体が導き出した二人の関係が、この先どこへ行くのか。それとも行かないのか。志方は歯を喰いしばり、先急ごうとする自分の欲望を押さえつけた。

 ただ床に跪いている相方のその姿をずっと見ていたいために。




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