fc2ブログ
 明け方の夢を膨らませて作った、切ないSMの物語


★新館・旧館・別館の構成★

1.新館、通常更新のブログ

2.別館、女性向けSMあまあまロマンス
つまりここ↑

旧館バナー
↑本館の旧コンテンツを見たい方はここに
プライベートモードです。パスワードは「すぱんきんぐ」
画像のリンク先は自己責任でお願いします




性的、暴力的な表現を含んでいます。
虚構と現実の区別のつかない方
18歳未満の方はご遠慮くださいませ。
自己責任に於いて閲覧していただきますようお願いします。

 
 志方は、夜のドライブが好きだった。海に行けない晃のために車を出してやるのを、なんとも思わなかったのはそのせいもある。法的にはちょっと問題のある速度で、車の流れを縫うように追い越して行きながら、次々と迫るカーブを滑らかなハンドルさばきで走り抜けていく。オーディオから流れるギターの音を頭の中で追いかけながら、ベースの刻むリズムに合わせて身体の芯を軽くパンプさせた。ポンポンと軽くブレーキを当てながらカーブに入っていく。ハンドルをゆっくりと戻しながらアクセルをぐっと踏み込んだ。身体がシートに押し付けられるような加速が心地よい。オレンジ色の街灯が次々と後ろへ飛び去っていく。海はもうすぐだった。
 やがて、高速を降りて古ぼけた街を抜けると、海沿いの道路に出た。漆黒の海に月明かりが白波を映し出しているのが見えて来る。





 志方は、いつになく無口な様子で窓の外をまっすぐに見つめる晃の事をチラッと見た。おそらくは、期待と興奮のせいだろう。晃のその様子について、理由を考えるのをやめて志方は、海岸線に入る道へ車を乗り入れて行った。早々とやって来て、並んで海の正面に陣取ったサーファー達の車とは少し距離をおいた場所に、ゆっくりと、自分の車を乗り入れる。シートから身を乗り出して海岸を見つめる晃の瞳が、輝いたのを認めて、志方はにやっと頬を緩めた。

 サイド・ブレーキを音をたててかけると、そのままシートに身を預け、二人は、暫くの間、お互いに何も言わず、海の方を見ていた。水平線の彼方上空がオレンジ色に染まリ出した頃、晃が助手席から降りて軽く伸びをした。潮の匂いがした。
 晃は、手早く半そでのウェットに着替えると、ボードに丁寧にワックスを塗り上げていった。その様子を黙って横で見ている志方の存在など忘れてしまったかのように。

 やがて、晃はボードを抱えると、志方に眼だけで合図をして、砂浜へと向かった。その後ろを、志方は、黙ったままディレクターチェアを肩に担いでついて行った。晃は、ビーチの右端まで行くと、ボードを砂の上に置いてストレッチを始める。志方は砂浜にディレクターチェアをセットして、朝陽でシルエットになった晃を、絵を見るような不思議な感覚で見ていた。 リーシュコードを右足に巻きつけ、大きく息を吸い込んだ晃は、歩き出そうとして、ふと、置き去りにしてしまった運転手の事を思い出したのか軽く振り向いた。週末のうちに読んでしまわないといけない資料を広げていた志方が、それに気がついて、さりげなく笑って手を振って見せると、それだけで、すっかり安心したのか、晃は、嬉しそうに笑った。そして、そのまま、海に向かって第一歩めの脚を踏み出す。

 波の音、潮の匂い、オレンジ色に輝く水面と雲、そして晃を押し返そうと当たっては崩れていく波。懐かしい感覚に思わず笑みがこぼれる。久しぶりの感覚。大好きな海の中に滑らかな動きで身体を滑り込ませていく。きれいにブレークしているポイントに向かって、ゆっくりとパドルアウトする。次々と寄せてきて彼を押し戻そうとする波さえ、晃にとっては、久しぶりに会う友人のようだった。目の前に波が迫ると、重心をボードの前に乗せ、ノーズを沈めて波の下に潜り込む。それと同時に右足を跳ね上げてテールを沈めて波の中にすっぽりと潜って。やあ。晃は、そんな、いつもだったら面倒な動作、ドルフィンスルーまでを楽しんでいる自分がなんとも言えずおかしかった。

 波がブレークしているポイントに着くと、晃は、一度だけ振り返って浜辺にいるはずの志方を探してみた。波の背に見える志方は、先ほどと変わりなくディレクターチェアに座って、資料を読んでいる様子だった。正面を向いて、空を見上げてみる。まだ明けきらない東の空にオレンジ色が強くなった雲がある。水面はまばゆく輝き、晃は一人、光の中で波が来るのを待った。
 やがて、沖の方から幅のあるうねりが近づいてきた。波のピークを予想して、水をかきわけて少し右に移動しながら波と重なるタイミングに合わせて、パドルを始める。
 波が後ろから晃の下にもぐりこむようにせり上がってきた。ボードが斜面を滑り出す。ボードが落下しながら加速しだすのと同時に、体勢を立てて左足を胸まで引き寄せる。
 前脚に体の重心をのせて、斜面を加速しながら少し斜めに滑り降りる。波のボトムまで降りきる前に体勢を低く保ったままターンをする。波の中腹で左に体を捻りながら軽くテールを蹴り込む。再度ボトムターンで加速していく。前方では徐々にショルダーが張ってきている。晃は、波のトップをめがけて、腰を低くして深いボトムターンから波のトップに駆け上がった。体をひねりながら後ろ足でテールへ体重をかけていくと、大きなスプレーが朝陽に水のカーテンを広げている光景が視界の端に見えた。 視界の先には次々と立ち上がってくる青い斜面がある。 思わず、叫び声をあげたいような興奮を感じながら、一方で冷静に波が崩れるタイミングを測る・・・そして決めたマニューバーで大きく波を切り刻んでいく。 長らくのブランクにも関わらず、晃は身体が勝手に動き、波と同調する感覚に言い尽くせない喜びが湧き上がるのを感じていた。
 ボトムの色が青から砂まじりの茶色に変わっていく。
 最後のショアブレークに巻き込まれないようにプルアウトした。

「ひゃっほーーーーぅ!」
 晃は誰に聞かせるでもなく、思わず叫んでいた。
 それから2時間程、何度も沖に出て、気に入った波を捕まえてその斜面を駆け抜けた。ぱんっと弾けた気持ちがすっかりからっぽになるまで。身体が重くなって、自然に波にたゆたう時を求めるまで・・・。






 すっかり満足すると、ボードから手を離して思いっきり水の中に潜ってみた。
 晃は水中から見上げる、水面に映る空が大好きだった。出来るだけ、深く深く潜り、くるりと身体の向きを変えて今度は水面を見上げながらゆっくりと浮上する。透明な水が揺らめく向こうにまぶしく煌く太陽の光と、透き通るような青い空がゆらめいて見える時。重力も自分の身体の重みもすっかり忘れて、できるだけゆっくりと水の中を浮上していく時。時間が止まる・・・。このまま、どこまでも漂っていけたら。何もかも忘れて、地上へ戻ることを捨ててしまえたら。

 ちくり。砂浜で待っていてくれる、志方の笑顔が視界をよぎった瞬間、自分勝手な想いをいましめるかのように胸が痛んだ。晃は、ボードを手繰り寄せると、ちょうどやってきた崩れた波にちょいと乗って岸に向かった。



※サーフィンのシーンは、いつものackyに取材協力いただきました。

↓ランキングに参加しています。応援してね。☆⌒(*^∇゜)v ヴイッ


スポンサーサイト
[PR]

 浜に上がってきた、晃は、ちょっと疲れたような顔色で、志方は、不思議な気持ちでその表情を追った。2時間以上も潜ったり、滑ったり、生き生きと波の中を駆け抜けていたというのに。満足して、すっきりとした顔で戻ってくると思っていただけに、おやっと思ったのだ。不思議だった。車の所へ戻るとすぐに、慣れた手つきで手早くウェットスーツを脱いだり、タンクを傾けて頭を洗ったりしている彼を追いかけるように、足早に近づいて行った。
 海の中にいる間、その姿をずっとみつめていたために、片付けるべき仕事の準備はまったく捗らず、ただ、求める相手に近づきたい欲求が高まっただけだった。ウエットスーツを脱ぎ捨て、現れた白いぷりんとしたその尻となだらかに続くくぼみがはっきりとした背中。それが、動くたびに、筋肉の筋がしなやかに浮き上がるのを見つめていると、場所柄も考えずに引き寄せたくなってくる。志方の無造作に伸ばした手が、相手の濡れた腕に触れようとした時、タオルを探して車のドアの奥にかがみこんでいた晃が、ぱっと振り向くなり、その手を激しく払いのけた。






 驚いた。その、振り向いた瞬間の血相が変わった表情と、姿を認めた途端に振り払った相手が志方だった事に、完全に動揺してうろたえた晃が、今、払ったその腕に跳び付くようにしがみついてきた事に。予想もしなかった彼の反応に、
「えっ?ちょ・・・・。晃。どうしたんだよ。」
 普段、彼はあまり激しい感情を表さない。ポーカーフエイスと云うわけでもなく、むしろその表情は、細やかで微妙に移り変わるその気持ちをきちんと表現していたけれど、それでも、やっぱり、どちらかといえば、思ってる事をはっきりと言いたがらない。言わない気持ち。隠そうとする感情。そんなものが痛々しくて、ついつい構ってやりたくなって、そうして始まった二人だったけれど。それだからこそ、いつも晃が、つかず離れずという距離に拘っているのも分っていた。そして、そのせいでつかみどころが無く、感情が揺れ動く理由もいったいどこから来るのかさっぱり分らない。それが、志方に、懐かない猫を飼ってるような気分をもたらしていた。

 顔を覗き込もうとして、しがみついてくる身体を引き剥がそうとしてみたが、男がその気になって腕に取りすがってるものを、簡単に動かせるはずも無かった。
「晃?」
 抱きしめた腕に頬をくっつけたまま、震えている晃の背をそっと抱き寄せた。濡れた身体は、急速に冷えていこうとしている。志方は、自由にならない方の反対の腕で、晃が落としたバスタオルを拾い上げると、降り拡げて晃の肩にかけた。片手でやったので、ちゃんと広がらなかったとはいえ、裸の男を抱き寄せてるよりもましだろう。
 周囲へ目を走らせたが、男同士でもつれ合ってる二人を見ている者は誰もいなかった。一安心した志方は、しがみついたままの晃の身体ごと、車の中に押しやって、続いて自分も彼を奥へ押しやるようにしながら乗り込んだ。
「間違えたんだ。」
 掠れた声で晃が呟いた。
「誰と?」
 先を促しながら、彼の身体に申し訳にまつわりついているバスタオルで、濡れた髪から雫が流れ落ちるうなじを擦ってやった。ショックのせいか、身体はすっかり冷たくなってしまっていた。


W320Q75_moblog_8b52e736.jpg



 引き結んだ唇を噛み締めながら、駄々っ子のように首を振る彼を見て、志方は、しょうがないなぁと、呟きながら、もう一枚のバスタオルをボストンバックから取り出して、晃の身体を拭いてやり始めた。言えない様子の彼に無理強いしても、かえって依怙地になるだけなのだ。四方八方から覗く事が出来る車の中で出来る事と言えば、少しでも彼の身体を乾かしてやる事。何気なく世話をやいてやる事で、彼のこわばった気持ちを暖めてやる事。話を聞く時間はたっぷりある。そして、お互いの距離を縮める時間も。
 あせるな。あせるな。晃に。そして、自分自身に、心の中で言い聞かせながら。志方は、彼の頭の上からバスタオルをすっぽりとかけてやるとゴシゴシと乱暴に擦りたててた。


↓ランキングに参加しています。応援してね。☆⌒(*^∇゜)v ヴイッ