★新館・旧館・別館の構成★
1.新館、通常更新のブログ
2.別館、女性向けSMあまあまロマンス
つまりここ↑

↑本館の旧コンテンツを見たい方はここに
プライベートモードです。パスワードは「すぱんきんぐ」
画像のリンク先は自己責任でお願いします
性的、暴力的な表現を含んでいます。
虚構と現実の区別のつかない方
18歳未満の方はご遠慮くださいませ。
自己責任に於いて閲覧していただきますようお願いします。
思いのほか手間取った資料作りが終わったのは午後11時。パソコンの電源を落として、フロアの灯りを順に落して行くと、だれもいないオフィスはがらんと暗く不思議な雰囲気だ。ふと思いついて志方は、窓の傍まで行って、ブラインドを上げてみた。都会の街はまたたく電気で彩られ、煌めいている。あと少しで日付が変わろうとしている誰もいないオフィスに一人。つい、今まで仕事にのめり込んでいて、よけいな事を思い浮かべる時間もなかっただけに、こんな時間、こんな所に、ただ一人で都会の灯りを見つめて立っていると、自分が、まるで、ぽんと異空間に放り出されたような、たよりない空虚さを感じてしまう。
会社のあるビルは周囲の建物よりもぐんっと背が高い。ずっと遠くまで続く灯りは、眼下に見下ろすような形だった。今から帰っても、冷え切った部屋にはだれもいない。そう思うと、家に帰るのもなんだか億劫な気がしてしまう。いくら、明日が休みだって、こんな時間じゃ晃を呼び出すことも出来やしない。
溜息をひとつ、諦めてブラインドを降ろす。机の間を、縫うように歩きながら、柔らかくもなく、抱き心地がいい訳でもない男そのものの身体を思い返していた。
ベッドの四隅に取り付けられた絹のベルト。手首にくるりと廻して、そのベルトの先に受けられた金属の輪を、反対の輪が掛けられている金具へ引っ掛けるだけ。めんどくさがり屋の志方のが考えだした、拘束具のひとつだった。お約束の手順の一つだから、あまり厳重なわけでは無いが、ぴんっと身体を張り伸ばしたければ手首の周りを幾重にも巻くだけ、緩めにしたければ一重に回すだけ、という調節の手軽さから、普段の生活に十分役立っている。
柱に付けられた金具は、ベッドの底板の方からアンカーを出して、ちょっとやそっとでは壊れないようにしっかりとしたものにしてある。男一人、本気でもがかれちゃあ、ベッドを壊してしまいかねないからだ。
いや、そんな事をしたい時は、この絹のベルトはつかわない。これは、あくまでも、予定外に、ついその気になった時の、インスタントな拘束のためのものだった。別に、四肢を全部つないでしまう必要なんてない。右手だけでも自由が利かなくなれば、いくらでも、相手の快感をひきのばしたり、焦らしたりできる。
そう、ちょっと便利なだけ。べつに、あいつを念入りに焦らして、ドライの快感を引き伸ばして、簡単に終わりが来ないように、ひいひい泣かせて哀願させようなんてつもりでこの絹のベルトを付けたわけじゃない。
それでも、抱え込んだ腕の中で、本能的に逃れようとする相手が、泣いて嫌がっても、訴えても。このベルト一本が志方を楽にしてくれる。この金具を留める時に晃が進んで手を差し出したという事が、抵抗しなかったという事が、お互いの中の暗黙の了解。
吐息がこぼれる。汗で滑る。歯をくいしばって、うめきを押し殺して、力を入れて身体を突っ張って。逆らう身体が、抗う身体が、それでも志方にすべてを預け差し出されている事が、すべての至福の根源にある。それを、示す枷が、自分のベッドに取り付けられている事が、不思議でもあり、信じられなくもあった。
「拓真」
聞こえるはずのない呼び声が耳の奥底で響く。自分を呼ぶ、低い声。ちょっと湿ったような、掠れた声。いつの間にか自分を捕まえて、他の誰のことも考えなくさせてしまった男の声。
会社を出てきたのとは反対に、真っ暗な部屋の中に入ると、空調が動いている事に気がついた。どうやら、朝、エアコンのスイッチを消していくのを忘れていたらしい。冷たい部屋に戻るのにげんなりしていただけにありがたい気持ちはあるが、一日誰もいない部屋を暖めていたのかと思うと、それもまた、情けないものがあった。天井に取り付けられた蛍光灯を避けて、間接照明をつけていく。
志方は、部屋の中を、蛍光灯で煌々くまなく照らすような生活が好きではない。そういう灯りの必要な事を認めないわけでもなかったが、電球のかもしだすオレンジ色のぼんやりとした温かさが好きなのだ。
2年前に購入したこのマンションに引っ越して来る事になった時、あれこれとリフォームした際に、照明にお金をつぎ込んだのもそのためだった。真っ暗だった部屋が、影を作るオレンジ色に彩られるのを目で追っているうちに、部屋の真ん中に靴が落ちている事に気がついた。
なんで・・靴?
それも片方だけ?もう片方は?と、部屋を見廻すと、寝室へ続くドアの手前にもう一個の靴が落ちている。やれやれ。コートを着たまま、志方はそこで煙草に火とつけた。訪ねてくる相方が煙草をやめたために、いつの間にか普段の生活でも煙草を吸う場所は台所の換気扇の前になってしまった志方だった。だが、今は、この不可思議で曖昧な気持ちを煙とともに部屋に漂わせたかった。

多分、あの寝室のドアを開ければ、めずらしく酔っぱらっているか、すごく疲れているかのどちらかだろう恋人が、その辺りに服を脱ぎ散らかしたまま、裸でベッドにもぐりこんでいるに違いない。いつもの癖で枕を抱え込んでうつ伏せになっている晃の横顔を思い浮かべて、志方は、満ち足りた温もりを感じる。手の中に抱えこんだミルクティーのカップの湯気に慰められるようなそんな気分。
家に帰ってくると、誰かが、思いもかけずに部屋にいて、しかも、自分を待っていてくれるわけでもなく、平気で靴を脱ぎ散らかして、勝手にベッドに寝ているのが嬉しいだなんて・・・。
こんなふうになる日が来るとは、思っていなかったのに。
きっちりと根元までくゆらせてから、煙草を灰皿に押し付けて消す。これで、もう、明日の朝まで煙草を吸う事はない。コートを脱ぎながら志方は、明日の休日はゆっくりと寝坊しよう・・・と、思いながら、思わず微笑んだ。
↓ランキングに参加しています。応援してね。☆⌒(*^∇゜)v ヴイッ
会社のあるビルは周囲の建物よりもぐんっと背が高い。ずっと遠くまで続く灯りは、眼下に見下ろすような形だった。今から帰っても、冷え切った部屋にはだれもいない。そう思うと、家に帰るのもなんだか億劫な気がしてしまう。いくら、明日が休みだって、こんな時間じゃ晃を呼び出すことも出来やしない。
溜息をひとつ、諦めてブラインドを降ろす。机の間を、縫うように歩きながら、柔らかくもなく、抱き心地がいい訳でもない男そのものの身体を思い返していた。
ベッドの四隅に取り付けられた絹のベルト。手首にくるりと廻して、そのベルトの先に受けられた金属の輪を、反対の輪が掛けられている金具へ引っ掛けるだけ。めんどくさがり屋の志方のが考えだした、拘束具のひとつだった。お約束の手順の一つだから、あまり厳重なわけでは無いが、ぴんっと身体を張り伸ばしたければ手首の周りを幾重にも巻くだけ、緩めにしたければ一重に回すだけ、という調節の手軽さから、普段の生活に十分役立っている。
柱に付けられた金具は、ベッドの底板の方からアンカーを出して、ちょっとやそっとでは壊れないようにしっかりとしたものにしてある。男一人、本気でもがかれちゃあ、ベッドを壊してしまいかねないからだ。
いや、そんな事をしたい時は、この絹のベルトはつかわない。これは、あくまでも、予定外に、ついその気になった時の、インスタントな拘束のためのものだった。別に、四肢を全部つないでしまう必要なんてない。右手だけでも自由が利かなくなれば、いくらでも、相手の快感をひきのばしたり、焦らしたりできる。
そう、ちょっと便利なだけ。べつに、あいつを念入りに焦らして、ドライの快感を引き伸ばして、簡単に終わりが来ないように、ひいひい泣かせて哀願させようなんてつもりでこの絹のベルトを付けたわけじゃない。
それでも、抱え込んだ腕の中で、本能的に逃れようとする相手が、泣いて嫌がっても、訴えても。このベルト一本が志方を楽にしてくれる。この金具を留める時に晃が進んで手を差し出したという事が、抵抗しなかったという事が、お互いの中の暗黙の了解。
吐息がこぼれる。汗で滑る。歯をくいしばって、うめきを押し殺して、力を入れて身体を突っ張って。逆らう身体が、抗う身体が、それでも志方にすべてを預け差し出されている事が、すべての至福の根源にある。それを、示す枷が、自分のベッドに取り付けられている事が、不思議でもあり、信じられなくもあった。
「拓真」
聞こえるはずのない呼び声が耳の奥底で響く。自分を呼ぶ、低い声。ちょっと湿ったような、掠れた声。いつの間にか自分を捕まえて、他の誰のことも考えなくさせてしまった男の声。
会社を出てきたのとは反対に、真っ暗な部屋の中に入ると、空調が動いている事に気がついた。どうやら、朝、エアコンのスイッチを消していくのを忘れていたらしい。冷たい部屋に戻るのにげんなりしていただけにありがたい気持ちはあるが、一日誰もいない部屋を暖めていたのかと思うと、それもまた、情けないものがあった。天井に取り付けられた蛍光灯を避けて、間接照明をつけていく。
志方は、部屋の中を、蛍光灯で煌々くまなく照らすような生活が好きではない。そういう灯りの必要な事を認めないわけでもなかったが、電球のかもしだすオレンジ色のぼんやりとした温かさが好きなのだ。
2年前に購入したこのマンションに引っ越して来る事になった時、あれこれとリフォームした際に、照明にお金をつぎ込んだのもそのためだった。真っ暗だった部屋が、影を作るオレンジ色に彩られるのを目で追っているうちに、部屋の真ん中に靴が落ちている事に気がついた。
なんで・・靴?
それも片方だけ?もう片方は?と、部屋を見廻すと、寝室へ続くドアの手前にもう一個の靴が落ちている。やれやれ。コートを着たまま、志方はそこで煙草に火とつけた。訪ねてくる相方が煙草をやめたために、いつの間にか普段の生活でも煙草を吸う場所は台所の換気扇の前になってしまった志方だった。だが、今は、この不可思議で曖昧な気持ちを煙とともに部屋に漂わせたかった。

多分、あの寝室のドアを開ければ、めずらしく酔っぱらっているか、すごく疲れているかのどちらかだろう恋人が、その辺りに服を脱ぎ散らかしたまま、裸でベッドにもぐりこんでいるに違いない。いつもの癖で枕を抱え込んでうつ伏せになっている晃の横顔を思い浮かべて、志方は、満ち足りた温もりを感じる。手の中に抱えこんだミルクティーのカップの湯気に慰められるようなそんな気分。
家に帰ってくると、誰かが、思いもかけずに部屋にいて、しかも、自分を待っていてくれるわけでもなく、平気で靴を脱ぎ散らかして、勝手にベッドに寝ているのが嬉しいだなんて・・・。
こんなふうになる日が来るとは、思っていなかったのに。
きっちりと根元までくゆらせてから、煙草を灰皿に押し付けて消す。これで、もう、明日の朝まで煙草を吸う事はない。コートを脱ぎながら志方は、明日の休日はゆっくりと寝坊しよう・・・と、思いながら、思わず微笑んだ。
↓ランキングに参加しています。応援してね。☆⌒(*^∇゜)v ヴイッ


[PR]
