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 明け方の夢を膨らませて作った、切ないSMの物語


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性的、暴力的な表現を含んでいます。
虚構と現実の区別のつかない方
18歳未満の方はご遠慮くださいませ。
自己責任に於いて閲覧していただきますようお願いします。

 
 「窓と鍵」って雑誌を拾ったことを、どうして知ってるんですか?「昔は、公園にSM雑誌が落ちていた」って、話をよく聞くんですが、私自身は、そういう 覚えが無いんです。せいぜい、裸のグラビアの載った週刊誌を見かけるくらいだったと思う。だから、「窓と鍵」の事は、すごく印象に残っています。初めてで 一度きり。私が、SMについて、いろいろと調べたがりになっちゃったのは、あの雑誌のせいなんじゃないかなぁ。
 一番良く覚えてるのは、アナル・フィストの記事だったんです。それはそれは、詳しく書いてありました。
 お尻の穴って外部括約筋と内部括約筋って二種類の筋肉からできてるんですよ。知ってました? 外部の方は、中枢神経系なので、自分で意識して動 かすことができるんですけど、内部の方は、自律神経系だから、血圧や呼吸の速さやその他の不随意の身体機能を調節するのと同じで、自分の意のままにならな いんですって。
 それから、異物を入れると痛かったりするのは、入り口から二センチ半くらいのアナル管の周囲がクッションのようになっていて、リラックスしてる と、ここから血液がスムーズに排出されて収縮する事ができるんですけど、緊張すると固くなっちゃって、血液がうまく流れないために痛みや不快を感じちゃう らしいんです。
 アナル管は、その後二十センチから二十三センチくらいの直腸につながっていて、直腸吊り下げ筋で吊られてるような形になってるの。それで、尾骨 の方にカーブをえがいていて、角度を考えないで異物を挿入してしまうと、腸壁に当たって、スムーズに入らないので、注意してください。無理に入れると、絶 対に、アナルは痛いものって意識にとらわれて、身体が緊張してしまうようになるので。
 だから、とにかく、まず、リラックスしないといけないんですよ。できれば腸の中も洗浄する事を薦めてました。やっぱり、最初は、排泄物があると 思うと、いろいろ考えちゃうじゃないですか。相手の手に付いたらどうしよう・・・とか。笑わないでください。乙女にとっちゃ切実な問題です。でも、いちじ く浣腸みたいな薬は使っちゃいけないんだそうです。刺激が強いですから、排泄感を強く感じるようになるので、洗浄した後に、挿入される時によけいな影響が 出ちゃうんですって。人肌のお湯で、洗ってあげるって気持ちですね。使う道具もいろいろ載ってたんですけど、一番気になったのはエネマシリンジだったか なぁ。なんだか、あの色が、ゴムの氷枕みたいな色で、病院で使うような道具に見えてどきどきしました。
 次に重要なのは潤滑で、化粧水やクリームは吸収されてしまうので水溶性の潤滑油とかワセリンを薦めていました。水溶性の潤滑油って、今でいう、 「ぺぺ」とかのことでしょうか。ショートニングとかサフラワーオイルとかピーナッツオイルとかも書いてあって、耳慣れない言葉だったので、なんだか、いろ いろと想像してしまいました。今なら、植物性の油だって、すぐ分かるんですけどね。調べることも容易だし。
 挿入する人はよく手を洗って、爪も切って、それから、ゆっくりと一本の指から入れるんです。相手が違和感や痛みがあったら、馴染むまでじっと待 つ。お尻って、麻酔を打てば、医者が腕を突っ込めるくらいに、拡張するのは一時間足らずなんですって。すごくよく伸びるの。だから、少しずつ、優しく、 ゆっくりと進めれば、だれでも、結構、大きい物を入れられるようになるんです。
 フィストって不思議ですよね。写真とかを見てもグロいだけで、入れる方は、なにが楽しいのかよく分からないです。神経も使うし・・・。相手に対する支配感なのかなぁ。
 入れられる方ですか?実は、私、ここまで、滔々と語れるくらい書いてある事を覚えたのに、経験はたいしてないんですよ。それに、相手も、同じよ うに知識があるならいいんですけど、どうしたって、私が受け手なのでねぇ。やりながら語るわけにはいかないし、無駄に詳しいと相手の機嫌も悪くなったりと かするし・・・。
 でも、その「窓と鍵」によると、奥まで入れると、みぞおちの辺りを内側から、ペコペコ膨らませることも可能なんですってね。身体の中に他人の腕 が入っていって、中で動いてるのが外から分かるってすごいと思いませんか?直腸の奥にあるS字結腸のところから、手のひらをこう返して、えーと、角度に合 せて進めるんですけどね。気持ち悪いですか? やっぱり? 確かに内臓の中をかき回してるようなもんですものねぇ。

 でも、私、思うんですけど、身体の中に自分でない生き物の動きを感じるのって、他には、多分、妊娠の時だけなんですよ。男の人には、分からないでしょう けど、八ヶ月くらいになると、ぐーって肘とか踵とかで、身体の中を押しながら、こするような動きをするんです。それが、妙に痛気持ちよくって。懐かしい なぁって、思うことがあるんです。結構乱暴に蹴られたりとか、急になので構えてないし、びっくりするんだけど、でも、すべてを委ねるっていうか、自分じゃ ないけど自分の一部分っていうか、別の人間なんだけど融け合ってるっていうか・・・そんな感じ。
 フィストもそういう行為なんじゃないかな。全面的に相手を信頼して、降伏していないと受け入れられないですよね。不注意で、腸に穴を開けちゃっ たりとか、殺しちゃうことだって無いわけじゃない。だからこそ、相手が細心の注意を払って、自分の反応を真摯に観察してくれる。身体の中が相手の圧力に満 たされる満足感っていうか、一体感っていうか・・・。お互いが宇宙の中を、回りながら漂ってるような感覚を想像してしまうんです。それくらい委ねられる人 が現れたらいいなぁって。
 「窓と鍵」には、他にも、いろいろ珍しい事が載ってたんですよね。だから、大人になってから、他のナンバーも、一生懸命探したんですよ。でも、見つからなかった。取っておいたはずの本もいつの間にか失くしてしまってて・・・。すごく残念でした。


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 その三角木馬の背は、木で出来ていました。鋭角を描くべき背は、気休めのように、先を丸く削って油で磨き立ててあります。その艶やかさは、上に乗って来る女達の股間を、優しく、受け止めてくれるようにさえ見えます。けれどそんなことは、決して在り得ません。もともと股間は、体重を支えるように出来ている場所ではありませんから。
 実は、今から、一人の女性が、この上に乗せられるのを観るために、私はここに来ているのです。周囲にひしめき合いながら座っているたくさんの人たちは、ほとんどが男性で、私を含めて、女性は4、5人という少なさです。今日は、ちょっとした秘密の集まり「女囚拷問の夕べ」なのです。

 昔、私は、公園で、雑誌を拾いました。「窓と鍵」という題名の本です。あなたが探しているのは、その雑誌でしょう? 薄い冊子で表紙も地味なのに、小さな文字でその中に、たくさんの物語を抱え込んでいました。今、私が、ここにいるのは、その雑誌のせいです。その雑誌は、私の好奇心と、いろんな加虐や被虐に対する衝動を目覚めさせたのでした。日常生活に必要のない、益体もない嗜好の知識を拾い集めたがるようになったのも、それがきっかけでした。
 そして、今夜、舞台の上で拷問にかけられる私の女友達も、その雑誌を公園で拾った事があると言っていました。その中の妄想譚の一つを読んでから、女囚になって、拷問を受けてみたいと憧れるようになったらしいのです。もちろん舞台の上で行われるのは拷問ごっこで、彼女もそれは分かっているのですが、与えられる痛みは本物で、なまじっかの覚悟では受け切れるものではありません。

 三角木馬が責問いに使われるようになったのは、武士が台頭してきた時代だと推測されています。武家の家にはどこも、鞍を乗せておく木製の台が備えられていたからです。その台は、人を跨がらせるのに調度良く、拷問のために背をわざわざ尖らせたりしてはいなかったのですが、それでも、その背の部分に人を跨がらせて、自重で、股間に苦痛を与えたり、その台に固定することによって、身体を打ったりするのに都合がよかったのです。やがて、その背は、乗り手の身体を痛めつけ、股を裂くために鋭く尖らせるようになっていきます。
 海外にも拷問の道具として、三角木馬が作られているのですから、文明や時代にかかわらず、目的に叶う道具は同じ形になるのでしょう。

 やがて、部屋を仕切った暗幕の影から、私の女友達が男に引き立てられて出てきました。灰色の着物を纏い、後ろ手に縛られて縄尻を取られています。私と彼女の間の距離は5メートルもありません。部屋に入った時に、一度だけちらりと、私を見た彼女は、すぐに、恥ずかしそうに頬を染めて、目を逸らします。
その後は彼女はもう、私を見ることはありません。、舞台正面に引き据えられ、正座している彼女は、肩をいからせ、拳を握りしめ、頑なに床を見つめ続け、身を乗り出し、舐めるように彼女を見つめる男たちの視線に耐えていました。
 これから何が起るのかを知っていて、待っている時間が辛いのは私も知っています。私の友達も、今日は食べ物が喉を通らず、せっかく食べても身体が受け付けずに、吐いてしまっているようでした。昨日は眠れなかったのか、すでに青ざめて辛そうです。
 やがて、責める役の男が、彼女の後ろに、あの大きな木馬を運んで来ました。そして、座っていた彼女を引き上げて立たせると、後手にかかっている縄に、縄を足して、彼女を宙に吊り上げました。それから、着物の裾を大きくまくり上げて、下半身を露出させます。むき出しの尻は白く陶器のようで、脚は足場を求めて足掻き、拠り所を求めてよじり合わされます。今、彼女は彼女の夢に、そして、私は私の夢に入っていこうとしているのです。
 十分晒し者にしたと思ったのか、男が、彼女の身体の下に木馬を引きずってきます。重い木馬が床をこする音は、恐ろしい物が近づいてくる時の序曲のようです。逃げようとする足首を掴まれ、引き寄せられた彼女の足の間に、無理矢理に押し込まれていく禍々しい木馬。今、苦痛の処刑台は、静かに彼女の身体が降りてくるのを待っています。
 ゆっくりと、縄が緩められ、彼女の身体が静々と下降して木馬を跨ぐのを、見開いたたくさんの眼が、彼女の身体の一点だけを見つめています。ほとんど身体が馬の背の上に乗ったかに思えた頃合いに、男は、縄を一旦仮留めすると、彼女の足を二つ折りにして縛り始めました。木馬の横木に足を踏ん張れないようにしているのです。半分に折り曲げられてぐるぐると縄を巻かれていく間、彼女は、激しく首を振って、身体を揺すって泣き出しました。 

縄が巻き付いた太腿は、無意識に、自分の出来ることをしようとしています。力を込め、木馬を挟み込み、締め付けて、身体を支えようと。体重が背に乗らぬように、自分の身体を浮かせておこうと、力を振り絞っています。
 その間に男は、彼女の髪の毛を掴んでねじりあげ、俯いていた彼女の顔を晒します。青ざめた生贄の美しい顔が歪みます。縄で髪をくくり、吊られた縄に留められてしまうと、俯くことも、暴れることも制限されて、身体の重心は、まっすぐに馬の背に乗せられた部分にかかることになるのでした。
 それから男は、仮止めを解いて、彼女の身体をわずかばかり苦痛から遠ざけていた、吊っていた縄を緩め始めました。彼女の身体が縄に頼って浮かせられる事が無いように、それでいて、倒れたり落ちたりしない程度に。すると、もう、ほとんど、木馬に乗ったと思っていた彼女の身体は、ゆっくりと沈んでいき、三角形の先は、股間深くにめり込んで行き始めたのです。
 彼女のかすれた悲鳴が響き、全身を貫いた苦痛が、身体の表面を、さざ波のように移動していくのが分かりました。もう、あまりの痛みと、恐ろしさに、身動きすることも出来なのです。それは、その姿を見つめる私たちも同じでした。声も立てず、身を乗り出したまま、ただ、目の前に現れた苦痛のオブジェを見つめるだけです。
 段々と彼女の息が荒くなっていき、着物を捲くられた背の辺りから汗が流れ落ち始めます。しっとりと濡れた身体が、ただ上下に息づいていました。彼女の顔は歪み、その苦痛を表しているのは、しっかりと握りしめられた震える拳と、折り曲がったつま先の血の気の失せた有り様だけとなるのでした。
 頃合いを見計らって、表情を変えずに淡々と男が近づくと、竹に割って、細挽きを巻きつけた笞を振り上げます。そして勢い良く尻に向かって打ち下ろすのです。静寂を破る新たな悲鳴。動くまいとしていた身体が反射的に跳ね上がり、一層、重みのかかった部分の痛みを増幅させてしまうのが分かりました。一発で、彼女の白かった尻には赤いミミズ腫れが浮き上がってきます。
 笞は、何度も振り下ろされ、それからふと止まります。固まって見ている私たちが、息をする事を思い出すように。彼女が落ち着きを取り戻し、もう一度動揺するのを繰り返すために。笞が休んでいる間も、息をする度に上下する肩が痛々しく、くいしばった歯の隙間からは呻き声が漏れます。
 長い時間責めが続き、彼女の体力が削り取られて行き、悲鳴もか細くなってくると、男は、彼女の肩を掴み、全体重をかけて、彼女の股間を木馬に捻り押し付けました。縛られた足に新たな石の錘を結びつけ、その錘を急に落として、衝撃を与えます。新たな責めが加えられる度に、彼女は生き返り、魚のように身体を跳ね逸らすのでした。力を込め続けた太腿はぶるぶると震え、身体はぐらぐらと姿勢も定まらなくなって行きます。
 彼女の頬がみるみるうちに削げ、泣き喚き打ち振られる顔は、涙にびっしょりと濡れて、くくられた膝の先から、汗が滴り落ちるのがライトに光っていました。纏った着物も汗を吸って色変わりしていき、やがて床が汗だけでないもので濡れた時、ようやくその演目は終わりを迎えました。
 彼女の身体を降ろそうと、男が足の縄を解き始め、木馬を彼女の身体から引き抜くと、自分で立っていられないほどに衰弱した彼女は、吊られた縄の先にぶら下がった死体のようになっていました。
それでも、責め役を務めた男は、そのまま静かに幕を引くのをよしとしなかったのでしょう。男は、彼女の身体からびっしょりと濡れた着物を引き剥ぐと、もう一度床に足が着かないよう吊り上げ、抵抗の出来ない無防備な身体を、竹割りの笞で散々に打ちすえました。竹の角で肌は切れ、血が縞模様を描きながら流れ始めます。打擲は、彼女の体中に赤い蛇が浮き上がり、鳴き声が枯れ、息も絶え絶えになるまで続きました。
部屋は、それを見つめ、視線だけで貪り食った、たくさんの鬼達の身体の熱気でむせ返っています。そして、その中の一人にすぎ無い私は、女友達の身を案ずることもなく、我が身のうちの想いに耳を済まし、喜びのため息をもらしてしまうのでした。

 いいえ、それでも、私は、知っています。一時間後に、会って抱きしめるこの女友達のこけた頬は、薔薇色にいろづき、瞳は異様に輝いていることを。彼女は、私の腕の中で、三ヶ月後の石抱きの舞台も、ぜひ、観に来て欲しいと、少女のような声で語りかけてくるのです。
[そこにあったはずのエロ雑誌・窓と鍵 2]の続きを読む
 「新聞社にお勤めされていらっしゃるんですか? それともフリータイターでらっしゃるんですか? わたくし、そういう方は、コーヒーがお好きなのだと思っていました。」

 女性は、少し、緊張したぎこちない笑みを浮かべながらも、歌うように筆者に話しかけてくる。日本人形のように切りそろえられた黒い髪に、くっき りとした深い瞳。語る度に、ひらひらと動き回る彼女の手は、陶器のように滑らかで白く、しなやかで、美しい。しかし、惜しいかな左手には、薬指と小指が無 い。だが、彼女は全くそれを隠すような素振りは見せず、その手は、自由に空間を踊った。そして、筆者は、彼女の話に聞き入っているうちに、欠けた物がある からこそ、かえってその美しさが際立つのだと感じ始めていた。
 普段、ほとんど、家に閉じこもって生活をしているというその女性は、ようこの話の後に、「窓と鍵」の雑誌を拾った時の事を、その人と交わらぬ生活ぶりとは裏腹に、率直に語ってくれたと思う。

 「そう、『窓と鍵』でした。私は、その雑誌を、塾の帰りに通りかかった公園で拾ったのです。中学2年生だったと思います。『窓と鍵』という題名 も、平凡な二色刷りの表紙も、扇情的なものはなにもなくて・・・・・・。私は、つい『あ、雑誌が落ちてる。なんだろう』程度の認識に引かれて、公園に入り 込んでしまいました。そして、何の警戒心も無くその場で、拾い上げた雑誌のページをめくってしまったのです。後から思うと、どうしてそんなことしてしまっ たのか、どうしても分かりませんでした。落ちているものを拾うなんて・・・・・・でも、その時は、なんとなく、ただふらふらと、そうしてしまったんです。
 けれど、色刷りのページを開いた途端に、私の喉は、驚きのあまり、締め上げられるような呻き声をあげてしまいました。大慌てで、ぱたんと音を立 てて雑誌を閉じた後も、物凄く悪いことをしている所を見つかった気分に襲われ、おそるおそる、周囲を見回さずにいられませんでした。
 夕暮れの公園には人影もなく、公園の周囲は、木が生い茂り、たとえ、周囲の家の窓から誰かが覗いていたとしても、何も目撃する事は、できないと思われました。
 でも、もし、ここにこの雑誌がある事を知っていた人がいたら。私が、公園に入り込んで、出てきた時に、雑誌が無くなっていることに気づいたら。 持っていったのは、あの中学生の女の子に違いないと分かってしまう。どうしよう・・・・・って、思ったのを覚えています。そんな事、だれにも、知られてい るはずもないのに・・・・・。でも、そう思うだけで、私は、かあっと顔が熱くなり、震える手でその雑誌を塾のバックの中に大急ぎで突っ込むと、足早に家 に、逃げ帰ったのでございます。
 その夜、家人が寝静まってから、布団の中に学習用のスタンドを引き込んで、息を殺してむさぼるように雑誌を読んだのを覚えています。頬のすぐそばにあった、蛍光灯のランプが、すごく熱くて、湿った身体を動かそうとする度に、汗で張り付いた肌が、いやらしく音を立てるんじゃないかと思いました。
 その雑誌は、今で言えばSM雑誌と、人に呼ばれる種類のものだったと思います。けれど、私は、そういう事だけを集めた雑誌の存在を、よく知りませんでした。断片的にしか知らなかった、赤裸々な男女の交わりだけでなく、嫌がる女を縛って無理矢理に犯したり、鞭で打ち据えたり、果ては、たくさんの人達 の前で辱めたりするような絵や小説が沢山載っていました。
 それから、淡々と、まるで科学の実験レポートのように、蝋燭の温度や、縄の手入れの方法を説明しているページもありました。女性はそこでは、実 験の道具で、物のように扱われるのです。その合間には、白黒で刷られた、海外の絵と覚しき拷問図が散りばめられていて、数々の拷問を受け続けていて、私 が、ページをめくる度に、囲まれた壁に悲鳴を響き渡らせていました。
 その雑誌は、私が今まで、自分の中に見つけ、扱いかねていた欲望を全て、余すこと無く、誰の目にも分かる形で、描いた雑誌だったのです。」
(つづく)
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[22] 2014年09月15日 02:29
さやか
 そこで、彼女は、ほうっ・・・・・・と、ため息をついて、もう一口紅茶をすすろうとしたが、カップの中は空っぽだったので、自分で、ポットを引き寄せて、私と自分のカップにおかわりの紅茶を注いだ。指が無くても、動作に不自由さは無く、それでもやっぱりその欠けた部分を、筆者は、無作法にも、じっと見 つめずにはいられなかった。
 「この、指。気になりますか。これは、昨年、包丁で、うっかり、切り落としてしまったのです。」
 筆者は、思わず首を横に振って、気にならないと応えてみたものの、その瞬間に、彼女の着ている襟が隠しきれずに、変色した打ち傷の痣を覗かせているのに気がついた。そして、彼女自身も多分、筆者がそれに気が付いた事に、気がついた様子で、ふっ・・・・・と視線を逸らした。

 「私が、初めて、そういう行為がこの世の中にあるという事を知ったのは、高校の国語教師だった叔父の家に、しばしば遊びに行き、泊まるように なったせいでした。叔父は、壁一面を、たくさんの難しい本で埋め尽くした書斎を持っており、遊びに行くと、私は、その部屋に布団を敷いて寝かせられていたのです。
 小学3年生でした。こんな子供が、小さな字でいっぱいの文学全集や学問の本や、大人用の雑誌の中から、砂浜に落ちている、埋もれかけている桜貝 のようなささやかな存在である、可逆被虐のシーンを探し、隠れて読んでいるなどと、大人たちは、誰も想像していなかったに違いありません。
 私は、私の胸に響くシーンを追い求め、文学全集から、推理小説まで、並んでいる本を次々と漁りました。とにかく、無理やり酷いことをされる女性を描いている部分が好きだったのです。恐怖に頬を引きつらせ、涙ながらに懇願し、許しを請い、逃げ惑い、悲鳴をあげ、痛みに身悶えする女達が表現されてい る部分が・・・・・・。
 それから、私は、本屋に行くと、それらしい記述のある本を探すようになりました。けれど、何しろ小学生ですもの。持っているお小遣いも少なく、ヌードグラビアが載るような雑誌に近づくなんて、到底出来るはずもありません。私は、文庫本のコーナーを行ったり来たりして、ようやく、文庫本になっていた、海外の官能文学を手に入れました。
 そして、白黒の挿絵がわずかばかりに入っているだけの、文字の連なりの中に、恋焦がれる行為をみつけ、戒めを解こうと必死になって、身をもがく女達を探しだしました。優等生の仮面を被ったまま、その子供が読むのは禁止されていると思われる一瞬、一瞬を愛で、繰り返し、繰り返し、心の中で思い巡ら し、身のうちにふつふつと滾るものを抱えて、生きておりました。

 ですから、「窓と鍵」を、布団の中で読んだ夜は、私にとっては、到底忘れられない夜になったのです。今まで見てきた、白黒の抽象化された挿絵 や、時代小説の中に時折現れる責め折檻とは違って、そそけだつ産毛すらも見えるかのように克明に描かれた女性が、乱れた着物をはだけたまま、眉を寄せた辛そうな表情で床の間に縛られて晒されている絵やあられもない姿で男たちに責めさいなまれている様が並んでいました。また、物語の中で、ただそれだけが目的の物語の中で、延々と、悲鳴をあげ、涙を流しながら、身をくねらせる様が克明に描かれていたのです。
 今まで、飢えながら、あちこちを探しても、得られなかったものを見つけた喜びと、明らかにいけないことをしているに違いないと思う確信に、私の胸は高鳴りました。
 そして、何度も何度も、読み返すうちに、私の身体は熱く火照り、自分の手で、どこかに、振れることも恐ろしいほどに敏感に、むき出しになってい きました。それは、ただ、身体だけの事では、ありません。心もそうでした。蓋を締めてしまい込み、見つからないように、時々こっそりと覗き込み、楽しんで きた、いけない禍事の中に、私の想いはどっぷりと浸かりきり、固く結び付けられてしまいました。今までの飢えを満たすかのように、何度も何度も、頭から泉 に顔を突っ込むようにして、淫楽の泉から水を飲み干していました。」
(つづく)
• 削除
[24] 2014年09月15日 02:37
さやか
 「今では、私も大人になり、いつしか、身体の関係があるような恋人とも、何人もおつきあいした事もございます。
 昔に比べて、そのような本もビデオも、簡単に手に入るようになりました。ただ、私が大人になっただけかもしれませんが。でも、どんな雑誌でも、本でも、「窓と鍵」のように、何度も何度も、繰り返し舐めるように読むような事はありませんでした。
 それから、始めは緊張しましたけれど、それこそ清水の舞台から飛び降りるようなつもりでIDカードがないと入店できないようなお店にも、行った 事もございます。思いの外、店員さんも、常連のお客さんも、フランクで、まるで、行きつけの喫茶店でも出来たような気軽さで、そのお店に通っていました。 お恥ずかしい事でございますが、服こそは脱ぎませんでしたけど、親しくなった方に縛ってもらった事もございました。そういうお店に来るお客さんは、大抵だ れでも縄を自由に操ることができて、紳士的で、優しいのです。身体をいやらしく撫で回すこともなく、いきなり服を引き裂いたりもしません。
 でも、そういう場所では、私は、布団の中に隠れて、あの本をこっそりと読んでいた時のような喜びは、一度も感じたことはございません。実際に、 縛られて自由を奪われているはずなのですけれど、男性は、決して私の嫌がることはせず、その行為に慣れきった他のお客たちは、隅っこで、そんなみだらがま しい事をしている私たちを、いやらしくジロジロと見ることもありませんでした。
 あの店は、安全でした。女性にとっては、限りなく。そして、そこで飲む水はまるで、濾過されてしまった、味の全くしない水道水のよう・・・。不純物はまるで入っていないかけれど、喜びのかけらも見つけることはできないのです。
 だからいつの間にか、自分が、あの本を無くしてしまった事に気がついた時は、わたくし、本当に悲しくて、悲しくて・・・・・・。いつまでも塞ぎ こんでしまい、諦めきれませんでした。それを失ってしまったと思っただけで、もう、なにもかもどうでもいい・・・・・・って、思えるくらいに。」

 話が終わって、彼女が立ち上がった時、どこかで鈴の音が鳴った。筆者は、猫がいるのかと、思わずテーブルの下を覗きこんだけれど、そんなものが いるはずもなく、目の前にあるのは、彼女のむき出しの足首だった。その足首の周囲は、どこか、痛々しく、青黒く変色していて、少し凹んでいるような気がし た。

「ふふふ・・・。」

 彼女が笑ったような気がして、筆者は、はっと姿勢を正した。自分が、女性に取っては失礼なことをしてしまったという意識があったせいか、いつもは無遠慮に、根掘り葉掘り質問を重ねる唇は、気の利いた挨拶を述べることも、うまくいかないかった。

 喫茶店の前で、彼女と別れた。彼女を見送りながら、筆者は、思わずため息をついてしまっていた。なぜか、つきものが落ちた瞬間のように、だるく、力が入らなかった。
 指って、包丁で、うっかり、切り落とせるようなものなじゃないよな・・・・・・。
 筆者は、彼女を追いかけて行って、もっと、色んな話を聞くべきだ・・・・・・と、自分を叱咤してみた。けれど、その足は、意に反して、地面に張り付いたように動かなかった。
 私には性欲らしきものがない。セックスをする事は、苦痛だった。ただひとつ、興奮することといえば、目隠しをされ、うつぶせに縛り付けられて動けない男や 女を、鞭で叩くのが好きなのである。縛られて動けず、何をされるのか見ることも出来ない。そんな相手の恐怖や苦痛が、すべて私の自由になることが快感だっ た。
 けれど、そんなことを、女に、お遊びでさせてくれる店などまったく無かった。だから、入会金が五万円、プレイ料金が一回三万円という、団地の真 ん中にある変わった風俗店の話を友達に聞かされた時、高いな・・・と、思いつつも、一体何をさせてくれるのやら、冷やかしに行ってみてもいいかもしれな い・・・と、思ったのだった。
 そのお店は、聖蹟桜ヶ丘の駅からバスに乗って行ったところにあった。団地の真ん中にある風俗店なんて、どんなところなのか想像もつかなかったけ れど、何気なしにその入口をくぐってみると、あまりの意外さに、びっくりとしてしまった。そう、そこは、まるで図書館だった。しかも、一体どれほど広いの か分からないくらいに、通路の、両側へ書架が並べられた空間がどこまでも続いているのである。
 中央ロビーに螺旋階段がある所を見ると、二階もあるのだろうけれど、一体この沢山の本は、ここで、どう云う役目を果たしているというのだろう。全く想像もつかなかった。
 しかも、この店はプレイが出来るのは、入会金と料金を払った日ではなく、次回からだというのだ。こんな場所で、いったい、何をするのか。裏を返すのは、何のためなのか。何の説明もしない男に、逡巡もせずにあっさりと八万円も払った私は、どういう了見だったのだろう。

 予約を入れた次の週は、よく晴れていた。同じバスで、同じ頃の時間帯に、同じ風俗店を訪ねる。初夏の陽射しが、団地を縁取る木々の葉をいっそう 濃く見せている。太陽は真上にあって、影を作らず、バスの停まったアスファルトの道路は、熱く焼けて、どこまでも明るい地面をひろげていた。
 バスを降りてふと顔を上げると道路の反対側を、裾からレースを覗かせた小花模様のワンピースを着た少女が、通りの向こう側を踊るような足取りで 歩いていた。私は、びっくりしてその少女を見つめた。その少女は、私の、幼い頃にそっくりだったからである。いやいや、そっくりのはずはない。
 私は、子供の頃には、いつも男の子のような格好をしていた。短い髪に、ポロシャツに、膝丈の半ズボン。その事で母をいつも嘆かせていたではない か。常に、男に負けないようにと肩意地を張り、生徒会長を務め、働くようになってからは、タイトスカートにハイヒール。色は黒か紺かベージュ。
その女の子は、レースのペチコートを履いているらしくて、ワンピースの裾はプリンセスラインを描いて膨らんでいた。パフスリーブの袖。えんじ色の小さな小花の散った淡い桃色のワンピース。そして、肩にくるくる と広がる巻き毛。あんな格好をしている子が私のはずはない。
 しかし、その女の子には、明らかに見覚えがあった。私の脳裏には、私が膝に乗せて遊んだ、私とお揃いのフリルの服を着た人形の記憶までがはっきりと目に見えてくる。
 するとその時、向こう側の垣根の影から、まるで待ち伏せをしていたように、背の高い男の影がぬっと現れた。私は、さっきよりも、もっと驚いた。 その男は、どう見ても、人間ではなかったからだ。狼のようなこわい灰色の毛が、肌の見えるところにはびっしりと生えている。まるでお伽話から抜け出て来た ような獣人だった。
 そして、その男は、少女である私になにか話しかけていた。その声は、ここまでは届いてこない。そういえば、ほんとうに、なんの音もしなかった。 世界は、人っ子一人いなくて、みんな死に絶えたように、昼間の通りは、誰の人影も無く何の音もしない。風景は、私の目の前で、飴を引き伸ばすようにゆっく りと横に伸びていく。しらじらと日のあたった道路のぬくもりもそのままに。
 獣人の差し出す手に、その半分くらいの背丈しか無い少女が手をするりと滑り込ませ、ふたりは並んで小道に入っていく。いけない! 付いて行っ ちゃだめ! 私は、必死になって叫ぶけれど、その声は、全く音とならず、私の動きはまるで水の中を泳ぐようにもどかしい。二人の後を追いかけて入った小道 の両側は、空も覆うように、両側に街路樹が生い茂っている細い脇道だった。暗くて二人の姿はよく見えなかった。

「追いかけても無駄よ。」
 私の頭の中で誰かが言った。
「あなたは、彼女と話せない。」
 どうして?だって、これから起きるあれを止めないと。止めれば、私は、あのままに、ピンクのワンピースの少女のままで、大人になれたのかもしれないじゃないの。クラスメートと恋をして、平凡な結婚をして・・・。
「あなたは、あなたに会って話すことはできない。他の何人ものあなたも、あなたには会って話せない。会えるのは、私だけ。話せるのも私だけ。」
 他の私?
「そうよ。ほら・・・。」
 鬱蒼と茂った木の影に10歳位の少女が屈んでいる。何をしているのだろう。その足元にはなにかが、もぞもぞと蠢いていた。虫?バッタ?後ろ足を もがれた生き物が。何匹も。何匹も。私が音無き悲鳴をあげると、屈んでいた少女は、ぱっと振り向いた。その顔は、もっと幼い私だった。ビー玉のような瞳が 私の胸を貫く。
 私は、もう一度悲鳴をあげて、もう、ほとんど獣道のように、両脇から樹が怪しく迫ってくる小道を走り抜けた。道はどんどんと細くなり、枝がピシピシと私の頬を、腕を、激しく叩く。痛い。痛い。痛い。もう、叩かないで。
 目の前の地面がなくなり、私は、急激に狭い家の木の階段を転げ落ちた。縁側のガラス戸にぶつかると、ガラスは割れて、キラキラと私の上に降って 来る。瞼の上を切った血が、目の中に流れ込んで、世界が真っ赤だ。だれか助けて。私の宙に伸ばした私の手は明らかに幼児のまるまるとした手だった。思うよ うに動かない。
 階段を振り仰ぐと、鬼のような形相の母が、階段を降りてくるのが見える。手に包丁を握って、ゆっくりと、一段、一段、階段を降りてくる。
「私、死んだほうがよかった。あの獣に、首を絞められた時に、抵抗しないで死んだほうがよかった。」
「黙って。彼女に聞こえてしまう。あなたたちがいることが、彼女に分かってしまう。」
 幾つもの声が重なって私の中で、世界は、グルグルと回った。

 気が付くと、私は、今日尋ねるはずだった風俗店の中にいた。息を切らし、髪は乱れ、スカートの裾がめくれ上がっていた。慌ててみじまいをしなが ら、ぐるりと見回すと、突き当りのカウンターに、この間の男が立っていた。何も起きてはいないかのように、ひっそりと。私は、瞬きを繰り返し、それが現実 である事を確かめた。それから、男に近づこうと歩き始めた。私の足の下で、ハイヒールの踵がコツコツと鳴った。ふと立ち止まって、自分の膝をちらりと見た が、さっき転んだ時の膝の痛みはもう無かった。
「あの、私。」
「はい? いらっしゃいませ。お客様は二度目のご来店でございますね。ようこそいらっしゃいました。ご用件を承ります。」
 私は、何かが間違っているような気がして、今、来た道を振り返ろうとした。頭を振るとその中に詰まっている割れたガラスのかけらが、チリチリと音をたてて、耳からこぼれ落ちてくる気がした。
 しかし、そんな事は起こらなかった。正面の男は、ひっそりと屹立して私の返事を待っている。周囲に並んでいるのは、物言わぬ書架の列だけだ。
 いつの間にか、日が傾いて、並ぶ書架が作る影が、私を捕まえるために足元に伸びて来るような錯覚に私は身震いした。あの薄暗い沢山の本の列の中 に、今、分け入ったら。私は、今の自分を取り戻せなくなってしまうかもしれない。私に取って代わろうとする私は、たくさんいるのだから。いや、それどころ か。この体の記憶は、いつも私の記憶なのだろうか。
「あの・・・『柴山雅俊の解離性障害―「うしろにだれかいる」の精神病理』と、言う本はありますか?」
 私は、自分の口から飛び出した本の題名にびっくりした。一度も読んだことはない本の著者名まで、どうして覚えているのか。
「はい、ございます。」
 男は、振り返って、当たり前の事のように、カウンターの後ろの棚からその本を取り出した。たくさんの書架の中に探しに行くこともなく。
「その本は差し上げます」
 と、図書館の男がニコリと笑いながら言った。
「今、ここで、どうしても書き記しておきたいことがあるのですが、出来るでしょうか」
「はい、皆さん、そう、おっしゃいます」