「お館様。ヴァイスがなにをしたのかは存じませんが、これは、あまりにやりすぎではありませんか」
「分かっている。すまない」
「私に謝られても、困ります」
コール医師の耳元でがなりたてる大声に、現実に引き戻される。私が気を失ったばっかりに、医者が呼ばれてしまったらしい。目を開けると、すでに、フランツ様の寝室に運ばれていた。
「先生……」
叫びすぎたのか声がすっかりしゃがれてしまって思うように出ない。コール医師は、目を覚ました私に気が付いてベッドに顔を寄せてきた。
「ヴァイス。気が付いたか」
体を動かそうとして、思わず呻いた。骨がばらばらになりそうなほど痛い。
「いったい。お前はなにをしたんだ。ええ!」
「もうしわけありません。でも、フランツ様のせいではありません。私が至らぬ事をしてお怒りをかったのです」
ドアの向こうへ視線をめぐらすと、医師も気が付いたのかすぐに声を小さくして来た。腕白小僧の頃からあれこれと怪我をして世話になった気心の知れない相手だからフランツ様も気を許されたのだろうが、他の使用人には知られたくない。
「とにかく、今日はこの薬を飲んで」
ちょっと頭を持ち上げられて、吸いさしを口元に突きつけられる。苦い薬がのどを降りていって、また、体を横たえられる。動くたびに激痛が体を襲う。
「今夜は熱が出るはずです。私が付いていた方がいいですか?」
「いや、いい。下がってくれ。ヴァイスの面倒は私が見る」
「まったく、それほど大事にされていながら、何を考えてこれほどまでに折檻されたのか!」
怒りを振りまきながらも医師は、戸口に控えていた執事に案内されて部屋を出て行った。
「……叱られてしまいましたね」
「平気さ。若い公爵は、短気でかんしゃく持ちだと思われても、侮られるよりいい」
主の優しい目がのぞきこんでくる。
「痛むだろう」
「はい」
「立場が逆転したな」
笑おうとして苦痛に顔がゆがむ。まったく、この人は……。あの王都での最後の夜。露ほども私に悟らせず、しりぞけておしまいになった。同じような苦痛を抱えていたはずなのに。ゆっくりと彼の顔が降りてきて、唇を軽くついばまれた。思わず顔を持ち上げておいすがってしまう。
「ヴァイス?」
自分の気持ちも持て扱いかねているのに、どうしてこの人から隠しとおせるだろうか。思い出して、手を伸ばしで自分に触れた。紐はすでに解かれている。あたりまえか。コール医師に見せられるはずも無いし……。そして、痛みに呻いているというのに、それは起き上がり始めていた。
「何か……着るものを……」
「馬鹿言うな。服なんか着られないぞ」
「あなたは着て帰って来たじゃありませんか」
「裸では帰れないからな」
そう言いながら、自分の服をくるくると脱いでしまわれる。そして、まったく自然な様子でシーツを持ち上げで、ベッドへ入っていらした。フランツ様のベッドは大人三人でも悠々寝られるほどに大きい。しかし、一度も彼と同衾したことが無い私は、無意識にすでに起き上がった体を彼から隠そうと必死でベッドの中で後ずさった。そのため傷を擦り上げてしまい、また呻き声をあげる。フランツ様が咽喉奥でクックッと笑った。
その瞳の久しぶりに見る明るさ。やっと、喜びと安堵が湧いて来て、思わず魅入ってしまった。
「なんだ。どうした?」
腕を差し出す。
「抱かれるのでしょう?」
驚いたように瞳が見開かれる。
「今やると、ひどく痛いぞ」
「そうでしょうが……。苛まれるのが目的なんですから、回復を待っていたのでは、意味ありません」
フランツ様は、困ったように迷っていらしたが、やがて眉をしかめると、肩に手を廻してぐいっと引き寄せられた。今度は待ち構えていたのでうめき声を押し殺すことが出来た。
「縛っていいか?」
「どうぞ」
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