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22、嫉妬

ここでは、「22、嫉妬」 に関する記事を紹介しています。
 
 馬車の中にクッションを持ち込んで眠る。そして、夜になるとお互いの体を確かめ合う。どちらが抱くかは、その時の成り行き任せの日々。私達は初めて知る愛しい相手との夜に夢中だった。毎夜新しい相手の顔を発見し、寝物語に別れていたころの日々を語り合い、昔の思い出を振り返った。
 重ねる唇はますます甘く。一度味わうともっと欲しくなる。喜びは、何度重ねてもあきる事がなかった。私達はどこまで行けるのだろう。
 だが、蜜月のように甘く幸せな旅はあっという間に終わりを告げ、私達は王都へ帰り着いた。
 到着したその日にフランツ様は衣服を改めると帰還の言上のために、王宮へ伺候された。私は、せめて詰め所まででもいいからお供したいと申し出たが、あっさりとそれは拒否されてしまった。
「お前も疲れているんだし、ただ私の戻ってくるのを待っているだけのために詰めている必要はないよ。留守の間の、雑事が溜まっているはずだから、モレンツに諮って万端整えておいて欲しい。お前を連れて上がる時には陛下に目通りさせたいんだ。最初の登城がみなのお前への印象を決めてしまうから、今後の事を考えれば最初から、私の右腕として連れて行きたい」
 あまりにも正論を言われると、反論できなかった。まったく普段と表情も変えず、特に気負う様子も無く、淡々とした様子で、フランツ様は振り返りもせずに馬車に乗って行ってしまわれた。
 雑事がたまっているとは言っても、その多くはモレンツの采配で滞りなく行われている事の報告を聞くことそれの承認だった。先代の時代から家を取り仕切っている執事なのだから、遺漏のあるはずも無い。むしろ、主人が留守の時にどのように館が運営されて、モレンツがどうやってそれを差配しているのかを、私が理解するために残ったようなものだった。
 覚えないといけない事はあまりにも多い。家の運営から領地の支配はもちろん、宮廷内でのしきたりや政治のしくみ。人間関係。家柄や複雑に絡み合った貴族達の婚姻関係がもたらす力の影響等……。
 一息ついて、夕食を済ませてしまうと、後は自室へ戻るしかなかった。フランツ様の寝室の向かいの部屋を私の部屋として家具を入れ替えて用意されていた。書斎のついた続き部屋で、客をもてなすための居間も備えている。
 館内の私の立場も変わっていこうとしているのだ。湯浴みを済ませて、部屋着に着替えると、もう、することがなかった。フランツ様の図書室から抜いてきた法律の本を開いて、ページをめくってみるが、文字が頭に入ってこない。時計を見上げると早時刻は深夜を廻ろうとしていた。
 私の思考はついに、今日一日何とかして締め出そうとしていた事から逃れようもなくなっていた。帰還の挨拶に伺候すれば、当然陛下にお目にかかる。3ヶ月以上も留守にしていたフランツ様を前に陛下が何を要求されるかを考えると気が狂いそうだった。勝手な想像が頭の中をよぎり、考えまいとしても次々にその様子が目の前をよぎる。両手に顔を埋めて、呻き声を押し殺そうと歯をくいしばる。あの方は何を考えて耐えていらっしゃるのか。
 王はあの方を抱きしめられるのか。キスをむさぼり、服を脱がす……。誰かの手があの人の体にかかると思っただけで、胸が刺し貫かれるような苦痛だった。この3ヶ月の間、あの方の体にさわるのは私だけだったのに。あの方は陛下に笑いかけられるのだろうか。
 フランツ様。フランツ様。……目の当たりにした。背中の傷。苦痛にゆがむ顔。吐息。そして私を見た視線のゆらぎ。自分の目で、手で、肌で、体で確かめてしまった以上、妄想はあまりにも確かな形で次々と襲ってくる。心が引き裂かれるような痛みを感じて、椅子の肘掛を握りしめる。その夜私は一睡も出来ず、椅子の上で反転を重ねた。



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