朝起きると同じベッドに男が寝ているなんて…初めての経験だった。ぴったりと寄り添った温かい身体の心地よさ。意外な発見に驚きながら、ぬくもりを求めてその懐に鼻先を押し付けた。
まだ、外は薄暗い。だんだんとはっきりと目が覚めてくると、このまま目を覚ました彼と顔を突き合わせるのは、何だか気恥ずかしい事に気が付いた。シャワーでも浴びて歯を磨いてこようと身体を起こそうとしたら、すばやく掌が背中に廻されて起き上がろうとした身体を引きとめられた。
「行かないで」
つぶやくように東野が囁く。その声はすでにすっかり目覚めていた。
「東野。あなた眠らなかったの?」
「いいえ。あなたが動くから目が覚めた」
ほんとに?もしそうだったら驚くべき寝起きのよさだった。でも、確かにさっき無意識に寄り添った身体はまだ眠っていた。そのまま彼の腕と身体の隙間のくぼみに居心地のいい場所を探して、身体の向きを変えた。廻された手に力が入って、しっかりと引き寄せられる。頭の上にのせられた東野の顎がもごもご動く。
「今夜、ホテルの手配をしますか?」
今日は、木曜日だ。先週の木曜日、彼とホテルに行った事を思い出した。今までは水曜日だったけれど、一週間に一回。三年間ずっと続けていた習慣。
「今日は、いいわ」
深く息を吸い込むと同時に、肩の上の掌がぎゅっと握りこまれるのを感じる。彼の身体が私を抱きしめようと横向きに姿勢を変える。強く抱きしめられて、彼の懐にもぐりこんだ形になった。
「もう、僕の身体に飽きたんですか?」
それだけで、彼の心臓が跳ね上がったのが分かった。頬をつけている胸がドクドクと強い鼓動を伝えてくる。拒絶される不安に、廻された腕に力がこもる。不満を表す問いかけはまるで睦事のように、やわらかく響く。
「ねぇ。昨日、二回もしたでしょ?」
腕を突っ張って、彼の胸の中から逃れでようとしたが、強く囲い込まれて。脱出できそうになかった。あきらめて、また一番楽な姿勢を探して、もぞもぞと姿勢を変えた。
「それは、セックス。今日は違うでしょう?」
東野が一週間に一度、館に通っていた私の習慣を、自分の物に取り込もうとしているのが分かった。私がよそみをする隙をつくるまいとしているのだ。簡単に喜ばせてなるものかと私は彼の胸にそっと人差し指立てて押した。
「今日は、しない。早く寝るの」
溜息を押し殺そうとする東野の努力は、ぴったりと身体を寄り添わせている状態ではあまり成功しなかった。週に一度の逢瀬では足りないのだろう。若い男にとっては当然なのかもしれなかった。
でも、木曜日という設定は、あまり好みではなかった。一週間の予定を思い返してみる。館に出かけている間は水曜日でもよかった。プレイが終れば、さっさと帰ってこれたし、相手がどうなろうと知った事ではなかったから。でも、プレイの後にセックスするようになると2~3時間で終われない。
平日では翌日にさわりが出てくる。それに、相手は同じ仕事をしている秘書なのだ。起き上がれないほど痛めつけてしまうと、すぐに仕事に差し支えるではないか。
「起きるわ。シャワーを浴びるの」
今度ははっきりと溜息を付くのが分かった。もう、引き止められない。あきらめた東野の腕が名残惜しげに離れていく。はだけていたロープの前を閉じ合わせながら、ゆっくりと身体を起こす。髪を掻き上げながら、東野のほうを見ると、顔色を読もうと細められた目がじっと注がれているのに気が付いた。
ふいっと逸らされた瞳が一瞬泳いで、また戻ってくる。鉄壁のポーカーフェイスはすっかり彼の面から、剥がれ落ちてしまっていた。
シャワーの湯の下で、毎週ラブホテルに行って泊まる事を考えた。朝の事を考えるとあまりに面倒だった。体力だって続きそうにない。どうせ週末は家にいるのだから、金曜日の夜にしたほうがいいだろう。だが、そうすると今でさえわずかしかしてない世間付き合いに、すぐ差し支えが出そうだった。週末家にいる代わりに金曜日の夜は、欠かせない社交の時間を振り当ててあったのだ。残りは土日、家にいる時間しかなかった。だったら、ホテルに行く必要はまるでない。
だが、彼は本当に今日もホテルに行こうと思っていたのだろうか。先週、初めてだったのに結構遠慮せずに痛めつけた。普通ならちょっと引く。普通でなくてもやっぱり引く。しかも、こうやって家に押しかけてこられる事が分かったら、SM抜きでセックスした方がずっと楽なのではないか
けれど、彼は確かに私に断わられた時に落胆していた。あれほど手ひどく屈辱的な扱いをされる事が分かっていても、一緒にいる時間を確保しようとしているのだろうか。
東野が毎週家に来る事を想像してみた。土曜日の昼間からお楽しみの時間をとって、そのまま泊まらせる。日曜日も一緒にゆっくり過ごす。それのどこがいけないのだろう?
だが、想像できなかった。自分の生活に男が常にいるなんて事態が。それに、本気で家でプレイするのならもっとしっかりとした防音装置のある部屋が必要だ。音が洩れるようなやわなつくりのマンションではないが、鞭の音は結構響くし、叫び声に気をつかうなんてごめんだった。梁も柱も補強しないと男を吊るなんて不可能だ。
二人で館に行くとしたら?館をホテル代わりに使っている人間は少なくない。もともとはそういう設定の場所なのだから……。
けれど、東野をそういう場所に連れてゆき、他の人間の目に晒す事は、まったく嬉しくない事に気が付いた。多分東野は、誰が見てもおいしい獲物だ。今まで真樹だけを相手にしてきた私が、相手を変えたという事も人目を引きすぎる。
居合わせた人間があれやこれやとちょっかいを出してくる可能性は十分あった。あれこれ考えているうちに、すっかり身体が温まって、風呂場には蒸気がもうもうと立ち込めてしまっていた。
お湯を止めて、ガラス戸を開けると脱衣場の向こうの部屋へと続くすりガラスのしきりに東野が寄りかかっている影が映っていた。
何をしているの?そう思って、すぐに、自分がずいぶん長い時間風呂場にいる事に気が付いた。出てこない私の事が、気が気じゃなかったのだろう。仕切りにもたれて、気配をうかがっていたに違いない。
ドアが開いた事に気が付いた影は、すぐにガラスから離れた。まるで、後追いをする子供みたいだ。そう思うと、ちょっと嬉しかったりする。とにかくすぐにマンションの一室に改装工事を入れよう。これから、どうするかは、ゆっくりと考えるにしても。
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この記事へのコメント
休憩じゃ、終らないぐらい・・・。
(=⌒▽⌒=) ニャハハハ♪
ただ、体力が無いと長くはもたないよね。
プレイ内容にも寄るし・・・。
瑞希の場合、結構早いと思う。
痛いのは、そんなに長くは耐えられないから。
でも、回復にも時間かかるだろうし・・・。
そういう意味で、館では相手を捨てて帰ってこれるけど
恋人はホテルに捨ててこれないでしょ。
(=⌒▽⌒=) ニャハハハ♪
ただ、体力が無いと長くはもたないよね。
プレイ内容にも寄るし・・・。
瑞希の場合、結構早いと思う。
痛いのは、そんなに長くは耐えられないから。
でも、回復にも時間かかるだろうし・・・。
そういう意味で、館では相手を捨てて帰ってこれるけど
恋人はホテルに捨ててこれないでしょ。
うんうん(〃▽〃)
2-3時間じゃ足りないですよね。
そうそう(゚∈゚*)
平日だと次の日、疲れて仕事にならないですよね…。
SMの平均的所要時間ってどれくらいなんだろう??
2-3時間じゃ足りないですよね。
そうそう(゚∈゚*)
平日だと次の日、疲れて仕事にならないですよね…。
SMの平均的所要時間ってどれくらいなんだろう??
2006/05/20(土) 08:13 | URL | せつな #-[ 編集]