そう、夜中に目が覚めると、瑞季はうなされていた。額に冷や汗が滲み、髪の毛がはりついている。そっと手を伸ばして、髪を掻き揚げ、肩に手をかけてゆっくりと揺すった。
「瑞季?」
目が覚めた彼女は、驚いたように跳ね起きた。手の中をすり抜けた彼女は、ちょっと離れた所にうずくまっている。
「どうしたんです?悪い夢でも見たんですか?」
そう、言いながら、引き寄せようと手を伸ばすと、彼女はじりじりと後ろへ下がろうとする。異様な気配に驚いた僕は、ベッドに起き上がった。
「あなたは……誰?」
一瞬、何を言われたのか分からなくて、ベッドサイドの小さな明かりの中にぼんやりと浮かび上がっている彼女の表情を見つめた。童女のようにあどけない、見開いた瞳が脅えたようにこっちを透かし見ている。なにか…変だ。なにか……。
「僕は、東野です。瑞季の秘書をしている。……あなたは誰なんですか?」
「私は…ゆき……。瑞季は眠っているの」
驚愕が咽喉元に突き上げてきたが、かろうじて声にならずにすんだ。真っ白になってしまった頭がようやく働きだして、考えられるようになった時には、だいぶ時間が経っていたかもしれない。脅えているらしい彼女を驚かせないようにゆっくりと後ろへ下がりヘッドボードに寄りかかった。こんな時どうすればいいんだ?
「はじめまして。なにもしないよ。怖がらないで」
「痛い事しない?」
「しないよ。約束する」
落ち着こうと、唇を舐めて深呼吸をした。起きている事態が信じられなかった。目の前にいる女の子が瑞季の中から出てきたものだとしても、どう見てもその表情は幼い子供のようだった。
「ずっと、彼女のそばにいたのに、君に会った事なかったよ。どうしてだろう」
「真樹が、私を眠らせるの」
「だれ?」
「真樹。水曜日のお相手」
心臓をぎゅっとつかまれたような痛み。思わずビクッと肩が揺れ、そのことに少女は脅えて後ずさった。
「ああ。ごめん。驚かせた?」
しばらく、闇を透かし見ていた少女はまだ警戒している。そうなのか。彼女にとって、必要な事だったのなら、どんなに辛くても受け入れるしかない。自分に言い聞かせながらも、胸が引き裂かれるような思いだった。
「どうやって君を眠らせる?」
少女は、まだ疑っているようだったが、やがて小さな声でゆっくり言った。
「瑞季が彼を痛めつける。彼は、彼女の痛みを引き受ける」
一週間に一度。……そうか!木曜日に結局何もしなかった…そして、今日も。
「それが、必要なんだね」
「そう」
少女は不安げに周囲を見回した。
「真樹は、どこへ行ったの?」
「彼は、今はいないよ。でも、君に必要な事は、僕が変わりに引き受ける」
「あなたが?私を眠らせてくれるの?」
「そうだよ。約束する」
「すごく、痛いんだよ」
「大丈夫だよ。彼女のためなら、我慢できるから」
少女は、疑うかのように黙って見つめていたが、急にくたくたとその場に倒れ伏した。僕は、思わず近寄って彼女を抱き上げた。
「う…ん」
苦しそうに眉を寄せて、顔の前を払うように腕を挙げる。愛しい人。ああ。あなたを楽にする事が出来るのなら、何だって、どんな事だってこの身に引き受けるのに……。怖がらせたくなくてそっと腕の中に囲い込む。
「瑞季…?しっかりして、ここに戻ってきてください。僕のところに」
僕のうかつな言動のせいで、彼女を失う事にでもなったら、そう思うとたまらなかった。
「……とうの?」
ああ…。彼女の声、彼女の表情だった。安堵に息が震える。
「どうかした?」
「ああ…ただ、ちょっとうなされていたから…」
彼女を抱きしめた。今は自分の腕の中にいる。ただ一人の愛しい人を……。
その後は彼女を抱きしめて眠った。恐れと心配でまんじりとしないまま。朝になって、彼女がシャワーを浴びているうちに、館へ電話した。いつも代わりに連絡していたので、電話番号は分かっていた。夜の遅い場所だから、こんな早い時間に掛けても誰も出ないのではと懸念したが、いつものマネージャーの静かな声が電話に出た。
「柚木でございます」
「ああ、早い時間にすみません。高月の秘書をしている東野ですが……」
「うけたまわっております」
「申し訳ないが、水曜日に彼女が逢っていた真樹さんという方と、連絡が取れないでしょうか」
とんでもない話に、相手がどう思うか不安だった。彼女を挟んで三角関係になっているのだから、とがめだてられても仕方の無い行動だった。だが、一瞬の沈黙の後、落ち着いた返事が返ってきた。
「真樹の方から電話させます。この携帯の番号でよろしいですか」
「ええ、お願いします」
「ゆきさんは、眠っていますか?」
やっぱり。考えていた事が当たっていた事に、いくばくかの安堵と、そして、上回る不安が巻き起こる。
「ええ。今は眠っています」
「急がせますので、ご心配なく」
電話が切れた後、何も手が付かず、携帯を握りしめてバスルームのドアを見つめた。彼女が出てくる前に電話がかかってきて欲しい。切実にそう思うが、こんなに朝早く、はたして相手が起きているのか。ぶるるるる……。携帯が震え、僕は急いで電話を取った。
↓ランキングに参加しています。応援してね。☆⌒(*^∇゜)v ヴイッ


[PR]

この記事へのコメント
え?忘れちゃったの?
昔、おみやげにもらって帰るって言ったじゃん。
あのままずっとポケットに入ってるんだよ。
(=⌒▽⌒=) ニャハハハ♪
代わりに博人はあげます。
さーやもおまけに付けてあげる。
どうしてせつなが博人さんが好きなのか
・・・・それは、内緒です♪
昔、おみやげにもらって帰るって言ったじゃん。
あのままずっとポケットに入ってるんだよ。
(=⌒▽⌒=) ニャハハハ♪
代わりに博人はあげます。
さーやもおまけに付けてあげる。
どうしてせつなが博人さんが好きなのか
・・・・それは、内緒です♪
ranさん…いつのまに!?
お土産もらってきてネvvステキな動画とか…(w
東野さんまた逢えるでしょうか?
せつなのイメージはイタリアスーツ(もちろんフルオーダー)
を着こなす、少し(ほんの少し)
肌の色の黒い精悍な男性ってかんじかなぁ。
(さやかさま、せつなは博人さんが好きvvv)
⇒訊かれてないので書き込まないようにw
お土産もらってきてネvvステキな動画とか…(w
東野さんまた逢えるでしょうか?
せつなのイメージはイタリアスーツ(もちろんフルオーダー)
を着こなす、少し(ほんの少し)
肌の色の黒い精悍な男性ってかんじかなぁ。
(さやかさま、せつなは博人さんが好きvvv)
⇒訊かれてないので書き込まないようにw
2006/05/21(日) 12:54 | URL | せつな #-[ 編集]
もうすぐ終わりです。
東野とお別れ名残惜しいです。
自分で作ったキャラながら岡惚れしてました。
当分ポケットに入れて歩こう。
現在さやかのポケットには
せつなのranさん
祥子さんの「淑やかな彩」に出演中の美貴さん
が、入っている。
東野とお別れ名残惜しいです。
自分で作ったキャラながら岡惚れしてました。
当分ポケットに入れて歩こう。
現在さやかのポケットには
せつなのranさん
祥子さんの「淑やかな彩」に出演中の美貴さん
が、入っている。
瑞希さんは…だったんだ…。
コメントでせっかくのお話の邪魔をしてしまっては
いけないので控えますが、さやかさま色々なことに
チャレンジされるんですね。
どのようにENDマークが打たれるのか楽しみにしてますね。
コメントでせっかくのお話の邪魔をしてしまっては
いけないので控えますが、さやかさま色々なことに
チャレンジされるんですね。
どのようにENDマークが打たれるのか楽しみにしてますね。
2006/05/20(土) 08:31 | URL | せつな #-[ 編集]