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1、あなたが欲しい

ここでは、「1、あなたが欲しい」 に関する記事を紹介しています。
 最上階へつながる専用エレベーターの中は瑞季とふたりきりだった。一般のエレベーターとは別の場所にあるし、完全に私用のエレベーターなので、乗ってくる人間もめったにいない。小さな個室の中には彼女の体臭が広がる。香水も使わず、化粧も薄い彼女だが、どういうわけだが、甘い香りを漂わせている。もっともそんなかすかな香りに気が付いているのは僕だけかもしれないが。
 胸苦しい。狭い空間が押し寄せてくるような気がした。閉じ込められたふたりきりの空間。手を伸ばして引き寄せればあっという間に彼女を抱きしめられる。もう、一ヶ月近く彼女と「して」いない。
 寸止めを繰り返す自慰を強制され続けて、それでいて、射精の許可が一向に下りない一ヶ月。限界ぎりぎりのところを綱渡りするような生活を続けてきている。いつも彼女の事が頭から離れず、そばにいればただただ抱き寄せたい。キスしたい。彼女の中に入りたい、という欲求が押し寄せてくる。
 仕事に集中するのが困難になってきて、会社にいるときは出来るだけ彼女を避けているような有様だった。それでいて、目は彼女の姿を常に探し続け、隙あらば姿を捉えてみつめつづけたいというジレンマの中に浸りこむ。押さえても、押さえても、無意識のように溜息をついてしまう。
 彼女が欲しい。彼女を抱きしめたい。キスしたい。抱きしめて彼女のうなじに鼻を擦り付けて思いっきりその香りを吸い込めたら…。自分が、また、いつもの想像にはまり込もうとしている事に気が付いて、はっと我に返り、それを振り払おうとする。
 ああ…。だが、こんなに傍に彼女が立っていたのではそれをかき消すのはあまりにも難しかった。右手をこぶしにしてエレベーターの壁に押し付ける。今は、この手の事だけを考えよう。エレベーターが止まるまでは。とにかくこの手を壁から離さないことを。
 そんな事を必死で考えていたので、彼女が身体を寄せてきた時、まったくの不意打ちにあってしまった。気が付けば、逃げようがなく彼女の身体と接近していた。待ち望んでいたはずの身体が後ろ向きのまま正面からやんわりと腰に押し付けられる。手を伸ばして抱き寄せれば、すっぽりと腕の中に納まる位置。
 息を飲み、目を瞑る。体温が伝わってくるほど近くに恋焦がれる彼女の身体があった。思わずその感触にすべての感覚を振り向けてしまった時、彼女が腰を押し付けたまま「くるり」と身体の向きを変えた。すっかり飢えかつえ、彼女の存在にいきりたっていた僕のそれは、そのスカートの柔らかいクッションを通して、すばやくまわされた彼女の身体の刺激を真っ向から受け止めてしまった。身体の中を抑えようのない激しい快感が突き抜ける。
「瑞季…っつ。だめ!」
 全身を突っ張らせて、僕はそれを押し留めようとした。この一ヶ月慣れ親しんだ動作、射精を押さえ込むためのテクニックを総動員して、わずかに身体を前かがみにしてすべての力をその中心へ集める。だが、無駄だった。開放感がまったくない痙攣が襲ってきて、射精するのは押し留めたものの精液はこぼれてしまっていた。
 浅く息をつきながら、それ以上の暴発を防ごうとする僕の身もだえと苦痛の表情を、彼女はじっとみつめている。だめだ。押さえられない。その瞬間。ポーンと軽やかな音を立ててエレベーターの入り口が開き、朦朧としている僕の腕を彼女が強く引いて、もつれ合うように絡まった僕らは、最上階のコンドミニアムのエントランスにはきだされた。





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コメント
この記事へのコメント
 物語が終ったのでコメント付けられる。
エレベーターがすきなのは東野じゃないよ。
さやかが、形式をそろえただけです。
多分、せつなも好きだと思うなぁ。
だって、せつなは羞恥系だそうだから・・・。
いつ、扉が開くかと思うとどきどきするでしょ♪
2006/06/06(火) 06:33 | URL | さやか #DS51.JUo[ 編集]
東野さんはエレベータプレイが好きなのかも!
|`・ω・)ゝ”↑どんなプレイ?ww
だって、エレベータの中で困ってることが多いんだもん。
日常に存在するもっとも手近な「個室」なのかも!
2006/05/28(日) 08:46 | URL | せつな #-[ 編集]
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