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18、虜囚

ここでは、「18、虜囚」 に関する記事を紹介しています。
 俺が青ざめてその手枷から、視線を逸らせなくなっている様を神崎は腕を組んで壁に寄りかかったまま薄笑いをうかべて見守っていた。ようやく俺が神崎の方を見ると。神崎は顎でその手枷の方をしゃくってみせ、さっきと同じ言葉を繰り返した。
「おまえが、今夜一晩その枷につながれて、俺にさんざん痛めつけられても耐えられるっていうならやってみてもいい。うまくいけば、抱いてやれるかもしれないし」
 その、拷問のためのベンチの重さが、俺の心臓を縮み上がらせたのは言うまでもない。こんなものを部屋に置く奴がいったいどんなことをすれば、さんざん痛めつけたと満足するんだろう。だが、どんな目に会ったって、まさか殺されはしないだろう。
 俺は、目の前にぶら下げられたご馳走をあきらめきれなかった。「神崎に抱かれる」。ただ、一度でいい。そんな至福の時が過ごせたら。俺は本当に奴に飢えていた。好きになった奴に、抱いてもらえるなんて夢のまた夢と封印してしまったセックス。
 智哉と出会った後のこの1年8ヶ月、セックスライフはほとんどおざなりになっていた。いや、その前だって、一度もそういう意味でのセックスなどしたことがない。第一、こんなに欲しい相手に出会ったのも初めてなのだ。何もかも犠牲にしてもいいと思うほどの相手に。
 体の芯にともって俺を炙り続けていた欲望の火がじわじわと体全体に拡がっていく。さっき、一度味わったあいつの唇の記憶がじりじりと俺を焦がし続ける。触れて欲しい。こいつに、もう一度触ってもらいたい。俺は、なりふりかまってられなくって、黙ってうなずいた。
「いいのか?ほんとうに。始めたら、俺はお前が泣こうが喚こうが止めないぞ」
 俺は、もう一度深くうなずく。考える余地なんて無い。
「じゃあ、服を脱げよ。全部だ」
 ふんぎりをつけるために一度だけぎゅっときつく目をつぶって、それから目を開けると、直ぐに俺はベッドの側に行って、その上に次々に服を脱いで行った。羞恥で耳が赤くなってくるのは分かったが、今さら恥ずかしいとか言うつもりはなかった。神崎は、俺が服を脱ぐのを腕組みして壁に寄りかかったまま黙って眺めている。そして、すっぽんぽんになった俺の体をじろじろとねめつけて、にやりと笑った。
「そう見苦しくもない。細っこいわりには、綺麗な筋肉だ」
 ポンとなにかを放られて反射的に受け止めた。手の中にあるのは、イチジク浣腸の箱だった。
「それで体の中のものをすっきりと全部出して、シャワーを浴びて来い」
 セルフサービスって訳か。他人にそういう行為をされたことがなかった俺は、神崎が自分でそれをする気がないことにほっとした。こんな物が常備してあるってことは、連れ込んだ女とアナルセックスをしてるってことで、その前準備も楽しむような性癖があれば、もっと大げさな道具が出てきても不思議は無かった。
 行為の始まりにこの枷につながれて浣腸を強要されるなんて、今の俺にはとても耐えられそうにない。この一年間、あんなに遊んでいたのが嘘のように、同じ性癖の奴との距離を必要以上にとっていたせいで、アレほど無頓着になっていた性行為にためらいが満載になっていた。
 トイレに行って、ピンクのイチジクのキャップを外して尻に突っ込んだ。きゅっとチューブを押す。冷たい液がちゅるっと入っていくが、たいした量ではないので特に苦しくもない。だが、すぐに便意が起きた。俺は立ったまま、じっと壁に手を付いてそれに耐えた。五分。チラッと腕時計を見る。何度もやったことのある行為だったが、あまり気分のいいものでも無かった。ただただ、時間が経つのを堪えて待つ。あっさりとことを済ませると、風呂場へ移動する。
 体全体も泡を立ててゴシゴシ擦ったが、尻の穴と、性器と足だけは念入りに洗った。最後にシャワーヘッドを外して尻に押し付けるようにして念入りに洗浄した。脱衣場にまっしろでふわふわのバスタオルが出してあった。俺はそのタオルで体を拭き、頭を擦った

 そうして、再びベンチのところへ行くと、ベッドに腰を降ろしてタバコを吸っていた奴は立ち上がって枷の側へ行くと、その大きな南京錠に鍵を差し込んで外した。それから枷の上の部分をゆっくりと起こしていく。相当な重さなのだろう両手で慎重に扱っていた。ごつい蝶番だけでベンチの背もたれにぶら下がると首と手を乗せる半月の穴が現れた。
「首は、入れなくていい。まったく動けない奴をいたぶるのは、趣味じゃないんでね。ちょっとは、もがいてもらわないと。それに、初心者にはあまりにきつい」
 喜んでいいのか、悲しんでいいのか分からない奴の台詞だった。だが、今さら躊躇っても仕方ない。強いて自分を励まして、その離れた二つの穴に右手と左手を乗せる。両手は肩幅よりもずっと広く拡げられた。

「顎を上げていろよ。蓋に当たるぜ」
 さっきと反対の動きで、慎重にゆっくりと、枷の上が元の位置に戻される。どんっと、鈍い音がして蓋が閉じられた。絶望の音に俺の胸はふさがれる。机の上に置かれていた外された南京錠を取ろうと、神埼が後ろを向いている間に腕を返すと力を込めて枷が持ち上がるか試してみた。わずかに隙間が出来る程度には持ち上がったが腕を抜くのは無理だった。くそっ。鍵があろうとなかろうと、俺はもうここから抜け出せない。
 振り向いた神崎は、じろっと俺を見た。
「自分じゃ持ち上がらないぜ」
 お見通しって訳か。だが、神崎は念入りに留め金を嵌めて廻し、南京錠をしっかりとかけた。俺はその鍵を見つめずに入られなかった。そしてその俺を止めつけた枷を。枷は一番上がちょうど顎の下辺りまで来る用に出来ていて、俺はそこにもたれかかった。今晩一晩、俺はずっと立ちんぼって訳だ。


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