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19、ローター

ここでは、「19、ローター」 に関する記事を紹介しています。
 肩よりも少し低い場所に穴があるせいで、俺はちょっと腰を突き出した姿勢になっていた。その尻の割れ目がはじまる辺りにあいつはローションの入れ物を傾けた。冷たいローションが腰の上にたまりゆっくりと尻の割れ目を伝って降りていく。
 そんなところにローションを塗れば、次にやることはもう決まっている。神崎はそれを軽く救い上げるような動きで手の指に絡めてアナルへ突っ込んできた。分かっていたはずなのに、何の前触れも無く、いきなり入ってきた奴の指を意識して俺は硬直した。
 神崎が、俺のアナルに、指を入れている。
 じわっと背中に汗がわいてくる。俺は眼を瞑ってその指の動きを味わおうとした。ほぼ、一年ぶりの他人の指。それも、惚れた相手の指だった。あっという間にペニスが反応した。ぐるぐると乱暴に廻された指はあっさりと抜けていった。硬いものが押し当てられる。拡張もしてない一年ぶりのアヌスは異物の侵入を拒んで硬くなる。
「おい、緩めろよ」
「む、無理だ。自分の意思でどうにかなんてできない……」
「くそっ。不随意筋だもんな。ちょっと堪えろよ」
 だったら、丁寧に緩んでくるまで時間をかけるとかいう優しさはないのか。あっという間に押し割られてその異物が入り込んできた。痛みは一瞬だった。丸くて楕円形のローターはつるんと体の中に納まった。コード一本でぶら下がるコントローラーがゆらゆらと揺れる。
 神崎は、少し後へ下がって、そのコントローラーをぶらぶらと尻の穴から下げたままの不恰好な俺を眺めると、くすくす笑った。そして手を伸ばしてコントローラーを持ち上げるとスイッチを入れた。体の中のローターが生き返り振動を伝えてくる。ぞくっと、背筋が総毛だった。はっきりとした快感に俺は口を開けて喘いだ。
 あいつはまた尻の穴から中指を入れて、俺の反応を見ながらローターの位置を調整した。そして、またコントローラーの手を離したので、それはプランと揺れたものの、またおとなしくぶら下がった。ローターもまた動きを止めていた。
 神崎はいきなり俺の髪を掴んで、顔を上げさせると噛み付くように乱暴にキスしてきた。男同士のキスなんてこんなものだという認識はあったものの、相手は、絶対に手もふれられないと思っていた恋しい相手なのだ。さっきからの行為にすっかり昂ぶっていたペニスはびんびんに反応してしまっている。あいつは無造作にアナルに手を入れた時のローションの残った反対の手で、そこを撫で上げ撫で下ろした。そしてあっさりと髪を掴んでいた手を突き放す。
「俺、飯の片付けして来るから、お前はそこで腰振っていな」
 神崎は、アレほどディープなキスをしたくせに、俺をほったらかして部屋を出て行った。
 惨めな気分だった。ぶらぶらとぶら下がるコントローラーがその気分を増幅する。俺は、さっきちょっとだけ味わった一年ぶりの喜びがもう一度欲しくって、思わず身じろぎしてそこを締め付けてしまった。とたんにぶぶぶぶぶうううううっ。と、ローターが生き返った。
 そしてまた止まる。俺の体は勝手にビクッと跳ねてしまった。ローターはまた動き出す。しかしまたすぐに止まった。
 そのローターが俺の体の動きを拾っていることに気が付いた。だが、どういう動作をしたときに動き出したのか、まったく見当も付かない。俺は、さっきした自分の動作をもう一度思い浮かべてみる。そしてもう一度同じような動作をしてみる。反応はない。そう、体を捻った。それから中を…。
 ヴウウウというくぐもったた音と共に、快感が腰の辺りを襲う。俺は必死にその感覚を捕らえようと腰に力を込める。だが、ローターはあっけないほど簡単にその動きを止めてしまった。くそっ!違う。そうじゃない。もう一度腰をひねる。腰を廻す。後ろに引き。前に押し出す。俺の努力をあざ笑うかのようにローターは黙ったままだった。
 俺は、じれったさにどうにかなりそうだった。さっきちょっと神埼に撫でられて、キスされただけで俺の中の飢餓は目覚め、この一年間押し殺していた本能が俺の神経を食い破った。どうすれば動く?どうすればもう一度味わえる?
 ローターの動きなんて、たいした快感じゃない。だが、あっという間に消えてしまったそれを、俺は何とかして取り戻そうとパニックになっていた。長い間封印していたアナルの感覚が、ざわざわと熱く起き上がってきて、「もっと」と俺に要求する。もっとくれ。もっと。気が狂うほどに激しく。強く。もっと。俺は必死に腰を捻りたてた。
 惨めだった。枷につながれた腕が痛い。腰を揺さぶりながら、わいてくる涙を、瞬きを、繰り返して振り払う。泣いても無駄だ。馬鹿野郎。こんなことぐらいで泣くなんて。
 だが、もどかしさと、恋しい男が俺にした仕打ちが、同時に襲い掛かってきて情けなさに胸がふさがれる。あいつは俺なんかなんとも思っちゃいない。それどころか、薄汚いホモ野郎としか考えていないんだ。ノンケの男達はみんな同じ。男に欲情する種類の男を、嫌悪して軽蔑する。
 それは、自分の中にある感覚を認めたくない気持ちの表れでもあるのだが、それでも、好きな男にそう思われているという苦しみを軽くしてくれるものではなかった。初めて好きになった男。そう、俺の上を通り過ぎていった男達が、俺の気持ちを受け入れてくれたことなんて一度もなかった。
 俺は愛しているってことがどんなことか知らずにここまで来た。本当に欲しい相手。いても立ってもいられないほどに、いつも、いつも頭の中から離れない。ちょっと振り向いてもらえただけで、笑いかけてもらっただけで舞い上がるように嬉しい相手。その相手を、どんなに、どんなに愛しても、俺はその相手に何も与えられない。嫌悪と侮蔑の感情以外は……。
 1時間ほどもそうして腰を振っていただろうか。ローターは思い出したように唐突に動き。そして俺を煽り立てては唐突に止まった。何の規則性も、法則性も見つけられない。だが、確かに働きかけなければまったく動かないのだ。わずかな快感に炙られて、俺の体はすっかり熱くなっていた。コックは痛いほどに勃ちあがっていて、あざ笑うかのように腹を打つ。
 ドアが開き、神埼がワインとグラスの乗った盆を持って入ってきた。さっきと同じ。まったく変わらない落ち着いた様子の神崎が、冷たい目で腰を振っている俺をねめつけた。
 俺は、恥ずかしさに赤くなり、目を逸らさずにはいられない。こんな惨めな姿を惚れた相手の前にさらさなきゃいけないなんて。自分の純情さに酔ってないで、どこか、そういう男達のたむろしている場所に飛び込んで、めちゃくちゃになってしまえばよかった。後悔がどっと押し寄せてきて同時に涙が盛り上がってくる。嫌だ。こんなことで泣いている自分を見られるなんて。
 神崎は俺の前のテーブルにお盆を置いて。その横の椅子に腰を掛けた。体を斜めにして、背もたれに肘をかけ、反対の手をその腕に乗せるように組む。そして、うっすらと汗をかいて枷につながれている俺の体をじろじろ嘗め回すように見た。
「感じたか?」
 あ…。これからの時間。こいつが俺をこうやって、ネチネチといたぶるつもりなのは明らかだった。俺は思いもかけない展開に絶望した。SMすると言われた時、俺が思い浮かべたのは鞭や蝋燭や縄のようなそんな行為だった。痛みと狂乱。そんな物。男に輪姦れた経験を考えればたいしたことないとたかをくくっていたのだ。
 だが、これは違う。神崎が俺に仕掛けてきたのは、そんな甘いものじゃなかった。体ではなく心に食い込んでくる羞恥。そして、それがもたらす惨めさ。ぎりぎりと胸をきりさかれるような痛み。
「ああ……。感じたさ」
 だが、もう後悔しても遅い。それに、恐ろしいことに俺はそんな惨めな状況にありながらあいつの視線が俺の体の上を這い回る感覚を追い求めていた。俺が欲しがっていたあいつの関心を、今、少しでも味わえるのなら。惨めさなんかどうでもいいじゃないか。唇を噛み締めて、悔しさを押し殺す。
「フフ…。いい格好だな」
 声を立てないで神崎が笑った。やめろ。そんな目で俺をみないでくれ。俺は、必死に首を捻る。絶対に外れないのが分かっているのに無意識に枷を引き抜こうともがいてしまった。擦り切れた手首が痛い。



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