その時、脱衣場で、衣擦れの音がした。俺は、奴が服を脱いでいることに気が付いた。思わず浴槽の縁に掛けていた掌を握りしめ体を起こす。
神崎が服を脱いでいる。たった一枚ガラス戸を隔てた向こうで。
ごくり、と咽喉が鳴ってしまう。服を脱いでいるのは濡れたからだ。そこは脱衣場で洗濯機もある。あいつがそこで服を脱ぐのはあたりまえじゃないか。
そうだろう?そうだろう?期待と不安が交錯し、心臓が早鐘のように打ち、目の前が暗くなる。
ドアが開き、素裸になった奴が入ってきた時、混乱した俺は、何も考えずに立ち上がろうとして、急激に襲ってきためまいに、耐え切れず、そのまま腰を落としてしまった。湯が体を支えてくれたとはいっても、尻を打ち付けて平気でいられる体じゃなかった。悲鳴を上げて浴槽の縁にしがみつく。
「おい、だいじょうぶか?」
呻きながら顔を上げると、すぐ側に裸の神崎の体があった。俺は、焦って彼の手を振り払い、後ろに下がろうと水の中でもがいた。顔を背ける。欲情に曇った瞳を見られたくなかった。彼はくすくす笑いながら、何も気にせずに、どこも隠さずにかかり湯を使い始めた。
俺は、咽喉をふさぐ塊を飲み込むことも出来ず、顔を覆った手の隙間から奴の体を見つめた。意志の力でその視線を逸らそうとしたがだめだった。欲求が強すぎてコントロールできない。半勃ちになっている奴のそれをむさぼるように見てしまう。からからに干上がった咽喉が唾を飲み込むことも出来ず、舌が上顎に張り付きそうだった。
立ち上がった彼が、回り込むようにして俺がしがみついている浴槽の縁を避けて、体を滑り込ませてくる。お湯がざあっと音を立ててあふれる。その体の優雅な動きをじっとみつめてた俺は、相手も俺を見ていることに気が付いて、すくみあがった。
浴槽を横切って側に来た奴は、なんのためらいも無く俺の体を抱き寄せた。何も身に着けていない体が直に触れ合う感触に、俺は動揺して腕をつっぱり奴の腕の中から逃れようともがく。
「なんだ?嫌なのか?」
嫌なはずが無かった。
「ちが…」
否定する間もなく唇を覆われた。唇を割られ、深く舌を吸いだされ舐めしゃぶりつくされて、目の前が真っ赤になる。俺は、夢中であいつの肩にしがみついて、爪を立てていた。離れていこうとする唇に追いすがると少し角度を変えてまた重ねられた。湯あたりしたかのように頬が熱い。もう、体の痛みなどはどこかに置き忘れて夢中になってあいつの口の中を味わった。好きだ。今、この瞬間に死んでしまいたい。唇の隙間から思わず本音を漏らしていたらしい。
強い力でぐいっと引き剥がされた。
「馬鹿言え」
ビシっと指先で頬を叩かれた。頬を押さえ、ぽかんと神崎の顔を見てしまった。何もかもが遠くて、ぼんやりと頭が働いていない。
「俺を好きなんじゃなかったのか」
「…好きだ」
頬が熱くなる。これじゃ、まるで、青少年の恋だった。
「だったら少しはあがいて見せろよ」
なにを言われたのか分からなかった。首の後ろに廻されていた掌がきつく爪を立てながら強く握りこまれ、顔を上げることを強要してくる
「俺がお前を抱けないって言った理由、覚えてないのか」
俺は、何を言われたのか分からず奴の顔をただ見つめていた。神崎は呆れたように溜息を付くと、もう一度俺の体を抱き寄せた。何も考えられず、くたくたとあいつの腕にされるがままに引き寄せられた。頭を抱きしめて耳たぶへそっと唇が押し付けられる。
「まったく。馬鹿丁寧に全部説明しないと分からないらしいな。俺はSMしないとセックスできないんだよ。だから、するもしないも、お前がサディストの俺に我慢が出来るかどうかにかかってるんだ」
「嘘…」
「最初にはっきり言ったつもりだったんだがな…」
「だって…男は抱かないって言ったじゃないか…」
「あれ?そうだったっけか。うーん。実を言うと、男はお前が初めてだから、勃つかどうか、ちょっと分からなかったからな」
言われた言葉が信じられなくて、俺は相手の顔を見ようと湯をはねちらかして、抱き寄せられた腕を振りほどいた。あいつの体を捕まえようとしたがお互いが裸だからつかみどころが無い。しかも、そういうことにかけては、神崎の方がずっと上手だった。あっという間に、捕まえられて湯の中に頭から押し込まれた。ぶくぶくと息を噴出しながらじたばたともがいた。首の後ろを捕まえられて水の上に引き上げられる。
「まったく。優しくしてやろうとしているのに、なんで抵抗するんだか。体中痛くてしょうがないだろうに」
水を飲んでしまった俺は激しく咳き込んでいるばかりだった。ようやく息が整った時には、もうすっかり元通りに湯に浸かっていたあいつの胸に抱き寄せられていた。
「俺は手加減しないぞ。それでも、俺のものに、なるんだな?」
俺は、あいつの体にしがみついた。ただ黙ってうなずくしかない。また、涙が出そうになってギュッと目をつぶった。彼は、俺の頭を撫でながらふっと笑った。
「泣き虫」
俺は、そうして……生まれて初めて、好きになった奴と付き合うことになった。
end.
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神崎が服を脱いでいる。たった一枚ガラス戸を隔てた向こうで。
ごくり、と咽喉が鳴ってしまう。服を脱いでいるのは濡れたからだ。そこは脱衣場で洗濯機もある。あいつがそこで服を脱ぐのはあたりまえじゃないか。
そうだろう?そうだろう?期待と不安が交錯し、心臓が早鐘のように打ち、目の前が暗くなる。
ドアが開き、素裸になった奴が入ってきた時、混乱した俺は、何も考えずに立ち上がろうとして、急激に襲ってきためまいに、耐え切れず、そのまま腰を落としてしまった。湯が体を支えてくれたとはいっても、尻を打ち付けて平気でいられる体じゃなかった。悲鳴を上げて浴槽の縁にしがみつく。
「おい、だいじょうぶか?」
呻きながら顔を上げると、すぐ側に裸の神崎の体があった。俺は、焦って彼の手を振り払い、後ろに下がろうと水の中でもがいた。顔を背ける。欲情に曇った瞳を見られたくなかった。彼はくすくす笑いながら、何も気にせずに、どこも隠さずにかかり湯を使い始めた。
俺は、咽喉をふさぐ塊を飲み込むことも出来ず、顔を覆った手の隙間から奴の体を見つめた。意志の力でその視線を逸らそうとしたがだめだった。欲求が強すぎてコントロールできない。半勃ちになっている奴のそれをむさぼるように見てしまう。からからに干上がった咽喉が唾を飲み込むことも出来ず、舌が上顎に張り付きそうだった。
立ち上がった彼が、回り込むようにして俺がしがみついている浴槽の縁を避けて、体を滑り込ませてくる。お湯がざあっと音を立ててあふれる。その体の優雅な動きをじっとみつめてた俺は、相手も俺を見ていることに気が付いて、すくみあがった。
浴槽を横切って側に来た奴は、なんのためらいも無く俺の体を抱き寄せた。何も身に着けていない体が直に触れ合う感触に、俺は動揺して腕をつっぱり奴の腕の中から逃れようともがく。
「なんだ?嫌なのか?」
嫌なはずが無かった。
「ちが…」
否定する間もなく唇を覆われた。唇を割られ、深く舌を吸いだされ舐めしゃぶりつくされて、目の前が真っ赤になる。俺は、夢中であいつの肩にしがみついて、爪を立てていた。離れていこうとする唇に追いすがると少し角度を変えてまた重ねられた。湯あたりしたかのように頬が熱い。もう、体の痛みなどはどこかに置き忘れて夢中になってあいつの口の中を味わった。好きだ。今、この瞬間に死んでしまいたい。唇の隙間から思わず本音を漏らしていたらしい。
強い力でぐいっと引き剥がされた。
「馬鹿言え」
ビシっと指先で頬を叩かれた。頬を押さえ、ぽかんと神崎の顔を見てしまった。何もかもが遠くて、ぼんやりと頭が働いていない。
「俺を好きなんじゃなかったのか」
「…好きだ」
頬が熱くなる。これじゃ、まるで、青少年の恋だった。
「だったら少しはあがいて見せろよ」
なにを言われたのか分からなかった。首の後ろに廻されていた掌がきつく爪を立てながら強く握りこまれ、顔を上げることを強要してくる
「俺がお前を抱けないって言った理由、覚えてないのか」
俺は、何を言われたのか分からず奴の顔をただ見つめていた。神崎は呆れたように溜息を付くと、もう一度俺の体を抱き寄せた。何も考えられず、くたくたとあいつの腕にされるがままに引き寄せられた。頭を抱きしめて耳たぶへそっと唇が押し付けられる。
「まったく。馬鹿丁寧に全部説明しないと分からないらしいな。俺はSMしないとセックスできないんだよ。だから、するもしないも、お前がサディストの俺に我慢が出来るかどうかにかかってるんだ」
「嘘…」
「最初にはっきり言ったつもりだったんだがな…」
「だって…男は抱かないって言ったじゃないか…」
「あれ?そうだったっけか。うーん。実を言うと、男はお前が初めてだから、勃つかどうか、ちょっと分からなかったからな」
言われた言葉が信じられなくて、俺は相手の顔を見ようと湯をはねちらかして、抱き寄せられた腕を振りほどいた。あいつの体を捕まえようとしたがお互いが裸だからつかみどころが無い。しかも、そういうことにかけては、神崎の方がずっと上手だった。あっという間に、捕まえられて湯の中に頭から押し込まれた。ぶくぶくと息を噴出しながらじたばたともがいた。首の後ろを捕まえられて水の上に引き上げられる。
「まったく。優しくしてやろうとしているのに、なんで抵抗するんだか。体中痛くてしょうがないだろうに」
水を飲んでしまった俺は激しく咳き込んでいるばかりだった。ようやく息が整った時には、もうすっかり元通りに湯に浸かっていたあいつの胸に抱き寄せられていた。
「俺は手加減しないぞ。それでも、俺のものに、なるんだな?」
俺は、あいつの体にしがみついた。ただ黙ってうなずくしかない。また、涙が出そうになってギュッと目をつぶった。彼は、俺の頭を撫でながらふっと笑った。
「泣き虫」
俺は、そうして……生まれて初めて、好きになった奴と付き合うことになった。
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この記事へのコメント
こんなに読み手を意識しちゃった事ありません。
だって、今までは、自分が好きな事を書いてたの。
読みに来てくれるのも、自分と同じ様な、
ボーイズラブやロマンス小説育ちの女の子だと思うから・・・。
でも、いくら意識しても結局は同じ様にしか書けないんだけど。
Kazさん、ほんとに読みに来てくれてたんですね。
とっても、とっても、嬉しいです。ありがとう。
女の子は♂×♂の方が好きみたいなので
「君は花のように・・・」の次は、またがんばります。
でも、「願い」ほどは、リアルじゃない
もっと、大甘設定になってしまうかも・・・。
Kazさんの更新も待ってるんですよ。
また、遊びに行きまーす。
だって、今までは、自分が好きな事を書いてたの。
読みに来てくれるのも、自分と同じ様な、
ボーイズラブやロマンス小説育ちの女の子だと思うから・・・。
でも、いくら意識しても結局は同じ様にしか書けないんだけど。
Kazさん、ほんとに読みに来てくれてたんですね。
とっても、とっても、嬉しいです。ありがとう。
女の子は♂×♂の方が好きみたいなので
「君は花のように・・・」の次は、またがんばります。
でも、「願い」ほどは、リアルじゃない
もっと、大甘設定になってしまうかも・・・。
Kazさんの更新も待ってるんですよ。
また、遊びに行きまーす。
脱稿お疲れさまでした。…って、もう次の話更新してるっ、すげっ!(笑)
こっそりと毎日通って読んでおりました。特に前半部分、よく勉強してるよなーと感心することしきりで、あるくだりなどまるで自分のコトを書かれているようで妙な心地になったりも(苦笑)
てんこもりの普通の展開(えっちのないシーン?w)に苦労されたそうだけれど、とても丁寧に書かれていたと思いますよ。むしろ筆が走ってるなーと感じられるお得意の(?)SMシーンのほうがテンポが早い気がしてなんとなく読み足りない気がしたかも。いや、偉そうに文章を批評してるわけではありません。ええっ、もう終わり?もっともっと読みたーい、のほうの意です(笑)
またそのうち♂×♂の話書いてくださいね、待ってますw
こっそりと毎日通って読んでおりました。特に前半部分、よく勉強してるよなーと感心することしきりで、あるくだりなどまるで自分のコトを書かれているようで妙な心地になったりも(苦笑)
てんこもりの普通の展開(えっちのないシーン?w)に苦労されたそうだけれど、とても丁寧に書かれていたと思いますよ。むしろ筆が走ってるなーと感じられるお得意の(?)SMシーンのほうがテンポが早い気がしてなんとなく読み足りない気がしたかも。いや、偉そうに文章を批評してるわけではありません。ええっ、もう終わり?もっともっと読みたーい、のほうの意です(笑)
またそのうち♂×♂の話書いてくださいね、待ってますw
神埼優しい声も出せるじゃないの。o(__)ノ彡_☆バンバン!
最後まで読んでいただいてありがとうございました。
手枷の責めのシーンをまず最初に夢に見たさやか。
その前にてんこもりの普通の展開に苦労しました。
映画館の痴漢は平気だったのに・・・
えっちが無いと、とたんに筆が進まない・・・。
ペシペシ(;¬_¬)☆ヾ(@゚▽゚@)ノ" アハハ
最後まで読んでいただいてありがとうございました。
手枷の責めのシーンをまず最初に夢に見たさやか。
その前にてんこもりの普通の展開に苦労しました。
映画館の痴漢は平気だったのに・・・
えっちが無いと、とたんに筆が進まない・・・。
ペシペシ(;¬_¬)☆ヾ(@゚▽゚@)ノ" アハハ
最後の「泣き虫」が、なんだか良いです~。
個人的にとっても好きなラストの感じでした。
う~ん、泣き虫ってやさしく言われてみたい。
個人的にとっても好きなラストの感じでした。
う~ん、泣き虫ってやさしく言われてみたい。
2006/06/20(火) 12:11 | URL | まる #wkQhjsEQ[ 編集]