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4、そして出会い

ここでは、「4、そして出会い」 に関する記事を紹介しています。
 詩織が初めて尾高晃に引きあわされたのは、聡史が新しく借りたマンションの部屋だった。黒いシャツにジーパン。額にかかる髪の毛。渋谷の町で会う、ちょっと垢抜けたかっこいい男の子。晃はまさにそんな感じだった。モデルになることを悩んだ末に引き受けたものの、不安と羞恥と落ち着かなさが絶えず詩織を悩ませていた。詩織にとっては、早くに両親を亡くした事、口うるさい親戚も兄弟もいない事、去年仕事をやめて派遣社員になっているので、仕事を変わるのは未練が無い事だけが随一の救いだった。
「はじめまして。詩織ちゃんだったね。話はいつも聡史から聞かされていた」
「さ、二人とも座って。コーヒーを入れるから」
 聡史がキッチンに消えると、晃はソファにもたれて足を組むとおもむろに質問してきた。
「本当に、モデルを引き受けるの?」
 詩織はぎくっとした。まだ、悩んでいる事を見透かされたと思ったのだ。不安そうにうなずくしかなくて、詩織はちょっとおろおろとした。
「じゃあ、質問させてくれないかな」
 ちょっと、目を細めて身体を上からしたまでじろじろと見られて詩織はますます居心地が悪くなり、椅子の中へ縮こまった。
「SM、したことないんでしょう?」
「はい……」
「聡史とはいつから付き合っているの?」
 思いもかけないことを聞かれて、詩織はちょっとびっくりした。
「で、その時処女だった?」
 いきなり、Deepな質問になって、詩織はうろたえた。なぜ、そんなことを聞いてくるのだろう?だが、相手はじっと返事を待っていた。詩織は赤くなって首を横に振った。
「その前に何人いたの?」
「どうして、そんなこと聞くんですか?」
 詩織はちょっと、腹立たしく思って、つい尖った声を出した。写真のモデルをするのに必要の無いような質問じゃないかと思った。
「知っておきたいんだ。君がどれくらい、経験があって成熟しているのか。それによって、ペースとか決めて行きたいし……。経験の無い女性に、無理をさせたくないからね」
 詩織は、うつむいて、ちょっとためらった。言っている事は、まともそうなのだが、本当にそんな事が必要なのか検討もつかない。聡史が湯気の立つカップをみっつ盆の上に乗せて現れる。
「晃。お手柔らかに頼むよ。彼女は俺と付き合いだした8年前は、処女じゃないのが嘘みたいに、何にも知らない清純なお嬢さんだったんだ。俺と付き合って8年たってもあんまり変わらない……と、思う。そんな質問。平気にぺらぺらと答えられるようなタイプじゃないんだ」
「だけど、重要な事だ。ちゃんと知っておきたい」
 聡史からブラックのカップを受け取ると、改めて晃は、詩織に向き直った。
「晃がいない2年間、他の人と付き合ったことある?」
 聡史は、困惑して額を抑えた。そんなこと俺の前で聞くかよ……。
「詩織。俺は平気だから答えて」
「そんなことしていません」
「って、事は、この2年間。彼女は空き家だったんだな」
「そうだ」
「オナニーしてた?」
「いやっ……」
 詩織は真っ赤になって両手で顔を抑えていやいやしている。こんな質問を恋人の前で第三者にされて平気なはずは無かった。
「ね、正直に言って。こいつが邪魔ならあっちに行ってもらうから。……ほら、聡史、席を外せよ」
「いや、それは……」
「いいから。過保護な奴だなぁ。あっち行ってろってば」
 聡史はちょっと困ったような顔をして、立ち上がると、そっと詩織の肩に手を載せてから、寝室へ入っていった。
「ね、詩織ちゃん。俺、正直に言わせてもらうよ。写真集を撮っている間、俺も聡史も普通の状態じゃなくなる。君をぎりぎりまで追い込んで、恥ずかしくて、苦しくて、痛くて、辛い。そんな、どうしようもなく酷い事をすることになる。そうじゃなきゃ、聡史の望んでいる写真なんか撮れない。だから、こんな露骨な事も聞かなきゃいけないし、それに耐えられないなら今のうちにやめてしまったほうがいいんだ」
 静かな声で、きっぱりと言われてしまうと、そのとおりなのだった。詩織は、そっと手を下ろして、晃の顔を見た。心配そうな誠実な顔……。もう、覚悟を決めるしかない。
「していました三日に一度ぐらい……」
 口にすると、いたたまれないほどの恥ずかしさが込み上げてきて、赤くならずにはいられない。
「聡史とセックスするとちゃんと感じる?」
 詩織は、ますます小さくなって、かすかにうなずく。
「毎回?それとも時々?いつから感じるようになったの?前の男の時から?」
 詩織はかぶりを振った。
「以前の人のときはちっとも。ダメだったの。回数も多くなかったし。最初は18の時で、その人とは二回だけ……。次の人とは半年付き合ったけど月に一回くらいだったし……。聡史と付き合い始めても、最初は、あんまり……。多分4年くらいたってからようやく……。それも、いつもじゃないの。今でも、時々うまくいかなくって」
 途切れ途切れ、小さな声で必死に言葉をつむいでいく少女のような女性の赤い頬を、晃はじっと見つめた。
「わかった。ごめん。言いにくいことをありがとう」
 晃は、ちょっとためらってから次の質問を口に出した。
「SMしたいとか思ったことある?」
 詩織は、首をすくめてぶんぶんと激しく横に振った。晃は、内心溜息をついていた。この女性は、なんて男の嗜虐心を刺激するんだろう。彼女を前にしたら、どんな聖人でもむらむらと後先を考えられなくなるんじゃないだろうか。聡史は何で彼女を2年もほったらかしていられたのか。その間、彼女が一人で待っていられたこと事態、奇跡のように思えた。



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コメント
この記事へのコメント
 祥子さんに読んで頂けてるとは感激です。
女性を描くのって、まだまだ苦手なので
あっちへぶつかり、こっちへぶつかりでございます。
祥子さんのように、リアルなお話にできるよう頑張ります!
でも、やっぱり、女の子のえっちって
・・・・照れます。いやん (*ノノ*)
2006/06/24(土) 15:40 | URL | さやか #DS51.JUo[ 編集]
はじめてSMの世界を見せられた時の
詩織さんの困惑が手に取るようにわかります。
好きな人の望むことだから、応えたい。
そう思っていても「はい」ということで
どこまで要求されるのかがわからなくて答えられない。
あの感覚を思い出してしまいました。
いつもはご本家にコメントしておりますが、
今日はこちらに♪
2006/06/23(金) 16:01 | URL | 祥子 #NqNw5XB.[ 編集]
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