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22、鞭

ここでは、「22、鞭」 に関する記事を紹介しています。
 当日、詩織は、紫に鼓と白い飾り紐の柄を斜めに流した友禅の訪問着を着てきた。髪の毛をねじって夜会まきにまとめている。
「綺麗だ」
 思わず後れ毛を掻き揚げるように手を伸ばして詩織に触れた晃に、詩織はにっこりと恥かしそうに笑った。こんな日に笑える彼女は強い。庭の方から撮影は始まった。打ち水をした庭を辿る詩織の姿を聡史は後ろから追うように撮影する。
 土蔵の扉をくぐり、階段をあがり、二階の手すりにぼうっともたれる彼女。帯締めを解き、帯を解き、一枚そして、また一枚、着物を肩から滑らせる白い綸子の腰巻一枚になって、振り返る彼女はまばゆいばかりに白く輝くようだった。
 いったん着物を全部下げてから、中央に文机を置き彼女をそこにうつ伏せにさせた。前縛りにした手首を文机の脚に結びつける。晃は寄り添うように腰を降ろすと綸子に浮かび上がる大きな雲立涌の文様を指でなぞった。
 なんどもなんども手はさまよい。やがて、掌になり、包むように拡げられる。裾から忍び込み足首から太腿へ向かってすりあげられると、それにつれて腰巻も捲り上げられるのだが、手が足首のほうへ下がっていくと、布の重みとすべりのよさで、またするすると身体を覆い隠した。何度もそれを繰り返されて、詩織は恥かしさに身体が熱くなってくる。
 やがて、晃は裾をしっかりとめくり上げた。まるく真っ白な尻がすっかり姿を表した。
「白くてすべすべとして、ほんとに綺麗だよ。詩織ちゃん」
 撫で回しながらやさしく囁かれて詩織は、喘がずにはいられない。なんなんだろう。この気持ち。詩織は不思議だった。ぞくっと背筋を這い登ってくる、妖しい感覚。足の間が熱くなり、触れてもいないのにそこが気持ちよくなってくる。晃は、チラッと聡史に視線を送ると、すうっと大きく息を腹へ送り込んだ。手を振り上げると右側の尻たぼを狙って打ち下ろした。
 ぱああん!
 澄んだ、肉と肉の打ち合う音が土蔵の壁に響いた。驚いた詩織の身体が大きく跳ねる。真っ白だった詩織の尻に晃の手形がみるみるうちに赤く浮き上がってきた。聡史は、ひとつだけ、くっきりと現れたその手形をあらゆる角度から写した。フィルムを急いで変える。晃は、その間、その手形をいとおしむ様に指でなぞっていた。カメラが構えられると、片膝を立ててゆっくりとリズムを取りながら詩織のお尻を叩き始めた。
 ぱあん。ぱあん。ぱあん。
 手首の力を抜いて、振り切るように動かして打ちつけられる掌が尻に当たる度に、残響を残して音が響き渡った。詩織は息を弾ませた。皮膚の表面だけを叩かれているような表層の痛みが、だんだんとお尻全体に拡がり熱くなってくる。そして、その熱が晃の手が振り下ろされるたびに身体の中心に向かって圧力を拡げてくるようだった。
「あ、気持ちいい…」
 思わず、というような詩織の無意識の呟きを二人の男は確かに聞いた。全体が程よく赤く練り上げられるように、晃は慎重に打つ場所を変えて、叩き続けた。単調な繰り返される音が彼の胸の中に染み入り、彼の感覚は空間いっぱいに拡がって行った。やがて、額に汗が滲んでくる頃、晃は再びほうっと溜息を付いて、その手を降ろした。詩織のお尻は、一回り大きくなったようですっかり赤くなっていた。
 文机を片付けると、詩織の両手をひとつにくくっていた縄へもう、二巻きほど新たな縄を掛けて、その三本の縄を同時に梁に同時に引っ掛けて、彼女の身体を引き上げた。つま先が床にようやくつくくらい。腕を引っ張られてたたらを踏んだ詩織の顔がゆがむ。
 吊られてゆらゆらとゆれる彼女の髪へ晃の手が掛かると夜会まきをとめてあったU字のピンを抜く。晃は、ほどけて顔に落ちかかる髪を梳きながら詩織を抱き寄せると、やわらかく身体を包むように抱きしめた。詩織は驚愕した。詩織の身体を稲妻のように何かが駆け抜けたのだ。その正体を詩織が見極める暇もないうちに、晃の体は名残惜しげにゆっくりと離れて行く。彼が離れていくと同時にその腕は長く伸びていく。最後に彼女の腰に押し付けられていた熱い掌も彼女の身体を滑っていき、人差し指だけが腰骨の辺りに残った。と、その指さえもが宙に浮いて、二人の間につながっていた何かが切れた。
 うっとりと夢見るように詩織を見つめていた晃の表情が、みるみるうちに抜け落ちていく。詩織の中にその瞬間まで予想もしていなかった恐怖が湧き上がってきた。腹の辺りに産まれた蛇がのたくり彼女の息を詰まらせる。竹鞭を取り上げた晃は、ひゅん……、ひゅん……、と、鞭を鳴らしながら、彼女の周りを廻った。
 晃の姿を捉えようと、詩織の顔が捻じ曲げられる。見えなくなったが最後、襲い掛かってくるかのように、反対へと急いで顔を振り向ける。鞭の中ほどが彼女の腰に押し当てられた。ひゅうっと詩織が息を吸い込む音が響く。
 怖い……。
 鞭は一旦離れ、歩きながら位置を変える晃の手によって角度を変えてまた押し付けられる。そして尻のふくらみに添って愛撫するように動く。節の一個一個が、恐ろしくはっきりと感じられて、詩織は息を弾ませた。いや。やめて。そんなふうに、触らないで。早く。打って……。
 目を閉じて詩織は、必死に身体を固くしてその時を待った。晃は、詩織が震え始めるまで、鞭で彼女の身体を撫でまわした。



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