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23、美しい花が咲くように・・・

ここでは、「23、美しい花が咲くように・・・」 に関する記事を紹介しています。
  その時が来たら、自分は叫ぶのだろうか。痛みに、切り裂かれのたうち、悲鳴を上げ、許しを請うのだろうか。晃はどうするのだろう。離れた位置から、いつもちょっと眉を寄せて私の事を不安そうに見ていた。私の身体に手をかけるとき、悩ましい思いを押し殺して、熱い震える息を漏らさぬようにしていた。彼の身体の中の欲求。私を欲しがっている欲望を隠して、必死に押さえ付けようとする度に、強く、より一層強く、彼の存在が私に感じられていた事に、彼は気が付いていたのだろうか…。


 一打目がしない、詩織の身体に巻きつくように喰い込んだ。竹鞭の一節一節が彼女の身体に凶暴な噛み痕を残し、吸い付くように肌に張り付いて離れていく様がまるでスローモーションのように見えた。鞭が遠ざかってから時間をおいて、痛みに肉が引きつり、彼女が叫び声を上げるかのように大きく口を開けた。
 だが、声も出ない…。息も吸うことが出来ないかのように、凍りついたままだった。ひとつひとつ、はっきりと節の形を浮き上がらせた鞭の痕が血を滲ませて浮かび上がってくる。それにつれて、詩織の身体も駆け抜ける痛みを味わうかのように痙攣した。身体がのけぞり爪先までぴんと張り詰めてから、がくっと力を失って、身体が縄にぶら下がった。立て続けのシャッター音が収まるまで、長い時間が必要だった。
 晃は手を伸ばして、彼女が床にふんばれるように身体を引き上げてやる。ひゅううっと、息を吸い込む音とともに、彼女の身体が動きを取り戻す。鞭がふりかぶられ、二打目が襲い掛かった。詩織は、今度は悲鳴を上げて、身体を捻った。一打目とは違う位置に交差して斜めに鞭痕が走る。見開かれた詩織の瞳に涙が盛り上がってくる。晃は歯を喰いしばり、沸きあがってくる黒い欲望にその身を任せた。
 鞭が身体に新たな痕を残すたびに、彼女の身体は跳ね上がり苦痛に捻れた。彼女の身体はあっというまに汗で濡れて光り、爪先から雫が滴り落ちる。六打目を数えたあたりで、もう一度がっくりと崩れ落ちた彼女の身体を、晃は手を伸ばして、もう一度引き上げた。すぐ側に、彼女の開いた唇がある。息が掛かるほど近くに……。
「いや……。もう、駄目。耐えられない……」
 音のない、唇だけの動きで、彼女が訴える。晃は恐怖に曇り、焦点の合わない彼女の瞳を覗き込みながら、腫れあがって血を滲ませている鞭の痕を鞭の先でなぞっていく。ぴりぴりと鋭い痛みに、詩織は喘いだ。晃の身体が動く。いやっ!また……打たれる。察して本能が逃げようと身体を動かす。だが、縄で吊られた身体は、わずかにたわむだけだった。なす術もなく、耐えて打たれ、痛みに翻弄されるしかないのだ。二人の視線が絡み合い、晃の瞳に走る苦痛に詩織は思わずみとれた。


 泣かないで・・・。泣かないで・・・。大丈夫だから。

 聡史は、白い花がゆっくりとほころび開いていく様を、目と心とフィルムに焼き付けていた。


hasu1.jpg






 撮影の終了後、なにかを忘れようと無理やり多くの仕事を詰め込んだ生活を晃は続けていた。やがて、その様子がおかしいのに気がついたパトロンの提案で、晃はその海外の旅行先へ同行することになった。一緒にいる間「少し、気を緩めろ」と、何度も宥められたが、晃の心は、何も思うようにならず気持ちはさまよい続けていた。あれから三ヶ月、ようやく日本へ帰ってきて、休みをとろうと思えるようになった。
 だから、休日の時間つぶしにぶらぶらと歩いていた六本木の交差点で、詩織とすれ違った瞬間、晃は反射的に彼女の腕を掴んでいた。驚いて見開いた瞳に出会う。
「詩織ちゃん……?」
 その腕を掴んでいながら、晃は相手がそこにいることが信じられなかった。辺りの人の流れが途切れ、車のクラクションに驚いて二人は手を握ったまま、詩織が行こうとしていた方向へ走り出した。
「どうして?聡史と一緒にヨーロッパへ行っているんじゃなかったの?」
 Bondage2の爆発的な売れ行きをうけて3の撮影はヨーロッパで行われると聞いていた。当然詩織も一緒に行っただろうと思い込んでいたのだ。詩織は、頬をこわばらせながらも、必死に微笑んでみせた。
「聡史とは、別れたの」
 え?意味が分からなかったのだろう。晃の表情が一瞬うつろになって、詩織の腕を握っていた手に力が入った。
「晃さん、痛い」
 慌てて、晃が手を離した時、二人は自然にビルの隙間の路地に入り込んでいた。
「別れた……?」
「うん」
 晃は、呆然と詩織を見つめた。撮影が終った後、晃は意識して二人から遠ざかっていた。パトロンの希望を入れて、スイスへ同行したりしていたので、まったく連絡を取っていなかった。そう、ヨーロッパへ、出発する前に聡史から何度かオファーを受けたが、結局は詰まっている予定を理由に断わってしまった。聡史は、残念そうにしていたが、詩織と別れたなんて一言も言わなかった。
「どうして……?」
 詩織は、ちょっと目を細めて視線を行き交う車の方へめぐらした。ためらうように、ゆっくりと呟く。
「だって、聡史さん。普段、私を抱く時も、縛らないではいられなくなっちゃったんだもの」
 理解できなくて、晃は固まったままだった。そうだ。聡史はそのために詩織を撮影に引き込んだのだ。サディズムに魅せられて、もうやめられなくなってしまった男。そして、その男に育て上げられて美しく花開いた詩織。
「濡れるから、反応するから、Mなんだって……。私、彼の物言いに耐えられなかった」
 遠くを見ていた詩織の視線が、晃の上に戻ってきた。そして、またわずかに微笑む。
「だから、別れたの」
「でも……、写真集が出て……生活とか……影響があったでしょう?」
「うん。でも……、変わらない人もいるし。分かってくれる人もいるもの」
 困惑している晃の頬に詩織は手を伸ばした。そっと押し当てる。
「大丈夫。平気だから」
 晃の中で、彼女の声がこだまする。平気だから。平気だから。にっこりと笑う彼女はまるで高原に咲き揺れる白い花のようだった。
 そう、平気でないのは晃の方だった。あの撮影の後、上手く眠れない。いつも、いつも、何かに追いかけられているような、焦燥と恐怖につきまとわれている。自分のしたことが悪夢となって自分の腹を喰い荒らし、安らかであるはずの夜毎の眠りを遮断した。
「ね。今、暇?よければ晃さん、一緒にご飯でも食べない?」
「あ、……うん」
 屈託なく、詩織が再び晃の方へ手を差し出してくる。その瞳がはっきりと語っていた。自分は、手を取る相手を自分で選んでみせる……と。

 ああ、この手を握ったら……。晃は考える。今夜からゆっくりと眠れるに違いない。晃の胸に、安堵が押し寄せてきた。沸きあがってくる涙を隠して、晃は差し出された手を、強く握りしめた。



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コメント
この記事へのコメント
 オロオロ(・_・;))((;・_・)オロオロ
困った。みんな詩織は晃と付き合うと思ってるね。
だ・め・ ぽ..._〆(゚▽゚*)
晃だって女の子に手握られて癒されてるのに
その女の子は虐められないでしょ。
ああああ・・・
もう、ちょっと、修行して出直しまーす。
2006/07/13(木) 15:18 | URL | さやか #DS51.JUo[ 編集]
 あ、別れると思ってました?
( ̄∇ ̄;)ハッハッハ
さやかは、詩織をMに育てられなかったみたいです。
どうしても、別れる。別れるって・・。
でも、だからって晃と付き合ったりいたしませんけど。
驚いた事に詩織は、普通のサラリーマンと結婚して
普通に主婦となり、普通に子育てすると申しております。
2006/07/13(木) 15:14 | URL | さやか #DS51.JUo[ 編集]
 竹鞭ってやっぱり痛いんですよね。
ちょっと近くの竹やぶにいって掘って来たい気もします。
からっぽになってしまいましたので
いっぱい寝たいと思っております。
最近、夢見る暇もなくって・・。
p(=^‥^=)q がんばるニャ!
2006/07/13(木) 15:12 | URL | さやか #DS51.JUo[ 編集]
今回のお話はどういう結末になるのか予測できなくて
毎回たのしみにしていました(゚∈゚*)
詩織ちゃんはMなのを自覚するのが嫌なのかな…
でも晃さんが優しいからきっとステキな時間を過ごせそう。
さやかさま、お疲れ様でした!
2006/07/13(木) 13:29 | URL | せつな #-[ 編集]
鞭で打たれるのは初めてなのに竹鞭ですものね・・・
それはそれは衝撃的でしょう。。。
ちょっと憧れはありますが、やっぱり怖すぎるかも(~_~;)
9月になったらまた見に来ますよ~
たっぷり充電してくださいね
楽しみにしておりますo(^-^)o
2006/07/13(木) 00:03 | URL | あかね #-[ 編集]
この話はじりじり攻められるようで、なんだかドキドキしました。
やっぱり別れましたね(^^;)
晃は詩織の事ば~っかり考えてる。聡史にはかわいそうだけど、
晃&詩織は良いペアになれるのではないかと・・。
お休みは残念ですが、忙しすぎるのは良くありませんから・・・
本宅をのぞきつつ、9月を楽しみに待っています。
2006/07/13(木) 01:28 | URL | まる #wkQhjsEQ[ 編集]
お疲れ様でございました^^
毎日欠かさずの更新、どんなにか大変だった事と思います。
そろそろ 休息が必要なのでは?と感じていました。
どうぞゆっくりと充実したお時間をお過ごしください。
充電完了後の9月を楽しみにしています。
では
2006/09/02(土) 15:10 | URL | 琴乃 #-[ 編集]
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2006/09/02(土) 15:11 | | #[ 編集]
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2006/09/02(土) 15:13 | | #[ 編集]
 ありがとうございます。
書くことは、充足するって事につながるけど
満足しすぎて、エッチな気分が足りなくなってきました。
ふ、普通の夢しか見ない・・・。
少し、欲求不満にならないと。
2006/09/02(土) 15:14 | URL | さやか #DS51.JUo[ 編集]
ありがとう。
カメラのシャッターの音、陶酔できなかったのか?
それは、時間が足りなかったのかも。
さやかは、一眼レフのシャッターの音、大好きです。
特にモータードライブの連写が・・・
うっとり・・・。
ナルチャンなのかなぁ。
2006/09/02(土) 15:14 | URL | さやか #DS51.JUo[ 編集]
ますます磨きがかかりますね。楽しみにしてます。
2006/09/02(土) 15:16 | URL | saki #-[ 編集]
ありがとうございます。
ある意味、朝から読むってつわものかもぉ・・・。
さやかは、自分の書いた登場人物に岡惚れしてました。
(〃∇〃) てれっ☆
何といっても、自分の思い通りにしてくれるのが・・・
壁┃*ノノ) キャーハズカシ
しばらくは、彼らをおもちゃにして遊びます!
2006/09/02(土) 15:15 | URL | さやか #DS51.JUo[ 編集]
 ありがとうございます。
頑張ります。
何しろ、物語を捻出するのは四苦八苦してるけど
最後の収束へ向けて話がまとまり始める時の楽しさは
・・・・・やめられません。
2006/09/02(土) 15:17 | URL | さやか #DS51.JUo[ 編集]
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