最初の撮影は、晃の知り合いの人の家で始められた。最初にその家の前に車をつけたとき、詩織はびっくりした。どこまでも塀が続いていて、いったいどこから入るのか見当もつかないような大きな家だった。車寄せにいったん車を停めて、案内を請うと、大きな門扉を開いて、車を中に入れてもらえた。撮影は庭の奥まった離れで行われるという。機材を運び込む間、庭でも見ていたらと言われて、詩織は落ち着かない気持ちをなだめながら、庭石を踏んで行った
詩織は、今日は着物を着ている。一冊目の「Bondage」と、対比を出すために和風の建物に着物の女というコンセプトで撮影は始められることになっていた。ところが、二人とも着物にはあまり詳しくなかったのだろう。なにか二十代の女性がちょっとした外出に着る着物を着て来るように言われて、詩織も困惑してしまった。
彼女自身何枚も着物を持っている訳でも、詳しいわけでもなかった。しかたなく、箪笥の中から彼女が選んだのは、灰色の地に扇が散らしてある型友禅の着物だった。あわせてある帯は紅柄色の織の名古屋帯で七宝の柄が織り出してあった。クリーム色の帯揚げに牡丹色の帯締め、黒いエナメルの草履には山吹色の鼻緒が付いている。着物の下は綸子の襦袢と、腰巻だけ。脱がされる事を前提の着付けなので、最低限の紐しか使っていないため、着慣れない彼女は落ち着かなかった。
胃の辺りに、蝶がいて、ぱたぱたと羽ばたいているような不思議な感覚が絶えずつきまとい、時折強く痛みが差し込んでくる。いくら、平気だと自分に言い聞かせても、平気じゃないのが分かっているのだった。
昨日、聡史が詩織を抱こうとした時、詩織は激しく拒絶してしまった。明日男二人の前で服を脱ぐというのに、その前の日に抱かれるなんて、詩織には考えられなかったのだ。詩織にとっては、聡史は初めての男も同然だった。だが、お互いにそれほど奔放なセックスをしてきたわけではない。
詩織は、明るいのが苦手で、いつもオレンジ色の小さな灯りしかつけたがらなかった。だから、明るい光の中で彼に身体を見せるのさえ初めてといっても良かった。それなのに、今日、会うのが二回目の男がそれに立会い、しかも詩織を縄で縛るためにいるのだった。
縛られる。SMの写真を撮る。そんなこと詩織には想像もつかなかった。何が起こるのか。自分がどうなっていくのか。
「恥ずかしくて、苦しくて、痛くて、辛い」晃の言葉が蘇ってくる。「どうしようもなく酷い事」を彼女にして、「ぎりぎりまで追い込む」と言い放った男。
溜息を付いて池の端にしゃがみこんだ。足に力が入らない。なんだか、ふわふわと足元が頼りなくって、立っているのも危なっかしいような気持ちだった。
「詩織。おいで」
顔を上げると、同じ様に緊張した様子でこわばった顔の聡史が立っていた。この人も、平気じゃないんだ。二冊目の写真集。そう、観ているだけで身体が火照ってくるほど恥ずかしい写真でありながら、決していやらしいばかりではなかった。哀しくて、エロティックで、どこか胸の深いところに語りかけてくるなにか。
詩織がモデルになるのを承知したのは、そのなにかを作り出そうとして苦しんでいる恋人のためなのだった。大きく息を吸い込むと詩織は立ち上がった。手を差し伸べてくる聡史のそばへ駆け寄る。耐えられる。きっと。彼のためなら。

「詩織ちゃん。セーフワードを決めておきたいんだ」
開け放たれた障子の前に道具を並べている晃は、すでに仕事中の顔になっていた。
「おい。あんまり詩織をおどかしてくれるなよ。セーフワードが必要なほど酷い事、最初はしないだろう?」
「だめだ。彼女にとってどれが酷い事なのか俺には分からないからな。人によっては、縄を手首にかけられるだけでも耐えられない事だってあるんだ」
「セーフワードって……なあに?」
「君を縛って、責め始めたら、もう君がどんな反応をしてもしなくても、僕達はやめたりしない。正直、君が嫌がる事も、恥ずかしくて抵抗したくなるような事もするし、責めが進んでいけば痛かったり辛かったりして、じっと耐えてなんかいられなくなる事もある。嫌だって言う事が、相乗効果になって行くから、ずっと嫌、嫌、言う女性もいるし……。もちろん身体に危険な事は僕が見極めてさせないけど、それはほんとに身体の限界の手前だ。君にとっての気持ちの限界じゃない。だから、万が一ほんとに耐えられなくなった時っていうのを僕達にわからせる言葉をセーフワードって言って、前もって決めておくんだ」
「……どんな言葉にするの?」
「お許しください、とか……助けてください、とか……」
詩織の背中をおびえがぞっと走りぬけた。自分が今からしようとしている事が、ようやく分かってきたような、そんな恐怖。青ざめた、詩織の手を聡史がぎゅっと握った。頼む。口に出さない聡史の想いがその視線に溢れ出ていた。詩織はもううなずくしかないのだ。
「お許しください。で、いい?」
うなずく詩織の引きつった頬に晃の手が伸ばされる。
「大丈夫。怖いことはしないから」
にっこりと微笑んだ晃の頬は、すでに獲物を前にした悪魔のように美しかった。ぴったりと後ろに寄り添う聡史の方を振り仰ぐとその悪魔に生贄を差し出そうとしている恋人が、彼女が逃げ出すのを防ぐかのように背中から腕をしっかりとつかんで押し出してきた。
「じゃあ、始めよう」
聡史がスタンバイさせたカメラとレンズを隣の部屋に並べる。助手を入れないので、全部自分でしないといけない。部屋の中にはいくつものパラソルをつけたプロフラッシュのライトスタンドと光を跳ね返すボードが写真に写りこまないように出来るだけ下げて配置されていた。
縁側の近く自然光でも明るい場所へ詩織は押し出された。ただ、立っている所を何枚も撮られる。なぜか、それだけでも恥ずかしくて、詩織は胸元を手で押さえた。その手を晃がつかむと後ろへ捻りあげる。
「あ……」
不意をつかれて詩織は驚いた。両手を後手に重ねられる。その手を左手で握りこんだままで右手は縄の束をひとつ取り、縄先をつかんで振るようにすると、綺麗に巻かれていた縄が、ぱあっとほどけて床の上に広がった。晃の手が動くとその縄はのたくる美しい蛇のように音を立てて床を這いずってくる。詩織の身体をめがけて……。床を打つように縄が踊る……シュッ……シュッ……。
重ねられた腕に縄をくるくるとかけられた。結び目が作られ二の腕の上を通って胸へ廻される。ギュッ……シュゥ……。手首のところでしっかりと止めつけられ、それからも一度。さっきの縄にぴったりと揃う様に縄目を整えながらくるりと廻してもう一度手首のところで引き絞られると、もう詩織は両手の自由を失っていた。
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詩織は、今日は着物を着ている。一冊目の「Bondage」と、対比を出すために和風の建物に着物の女というコンセプトで撮影は始められることになっていた。ところが、二人とも着物にはあまり詳しくなかったのだろう。なにか二十代の女性がちょっとした外出に着る着物を着て来るように言われて、詩織も困惑してしまった。
彼女自身何枚も着物を持っている訳でも、詳しいわけでもなかった。しかたなく、箪笥の中から彼女が選んだのは、灰色の地に扇が散らしてある型友禅の着物だった。あわせてある帯は紅柄色の織の名古屋帯で七宝の柄が織り出してあった。クリーム色の帯揚げに牡丹色の帯締め、黒いエナメルの草履には山吹色の鼻緒が付いている。着物の下は綸子の襦袢と、腰巻だけ。脱がされる事を前提の着付けなので、最低限の紐しか使っていないため、着慣れない彼女は落ち着かなかった。
胃の辺りに、蝶がいて、ぱたぱたと羽ばたいているような不思議な感覚が絶えずつきまとい、時折強く痛みが差し込んでくる。いくら、平気だと自分に言い聞かせても、平気じゃないのが分かっているのだった。
昨日、聡史が詩織を抱こうとした時、詩織は激しく拒絶してしまった。明日男二人の前で服を脱ぐというのに、その前の日に抱かれるなんて、詩織には考えられなかったのだ。詩織にとっては、聡史は初めての男も同然だった。だが、お互いにそれほど奔放なセックスをしてきたわけではない。
詩織は、明るいのが苦手で、いつもオレンジ色の小さな灯りしかつけたがらなかった。だから、明るい光の中で彼に身体を見せるのさえ初めてといっても良かった。それなのに、今日、会うのが二回目の男がそれに立会い、しかも詩織を縄で縛るためにいるのだった。
縛られる。SMの写真を撮る。そんなこと詩織には想像もつかなかった。何が起こるのか。自分がどうなっていくのか。
「恥ずかしくて、苦しくて、痛くて、辛い」晃の言葉が蘇ってくる。「どうしようもなく酷い事」を彼女にして、「ぎりぎりまで追い込む」と言い放った男。
溜息を付いて池の端にしゃがみこんだ。足に力が入らない。なんだか、ふわふわと足元が頼りなくって、立っているのも危なっかしいような気持ちだった。
「詩織。おいで」
顔を上げると、同じ様に緊張した様子でこわばった顔の聡史が立っていた。この人も、平気じゃないんだ。二冊目の写真集。そう、観ているだけで身体が火照ってくるほど恥ずかしい写真でありながら、決していやらしいばかりではなかった。哀しくて、エロティックで、どこか胸の深いところに語りかけてくるなにか。
詩織がモデルになるのを承知したのは、そのなにかを作り出そうとして苦しんでいる恋人のためなのだった。大きく息を吸い込むと詩織は立ち上がった。手を差し伸べてくる聡史のそばへ駆け寄る。耐えられる。きっと。彼のためなら。

「詩織ちゃん。セーフワードを決めておきたいんだ」
開け放たれた障子の前に道具を並べている晃は、すでに仕事中の顔になっていた。
「おい。あんまり詩織をおどかしてくれるなよ。セーフワードが必要なほど酷い事、最初はしないだろう?」
「だめだ。彼女にとってどれが酷い事なのか俺には分からないからな。人によっては、縄を手首にかけられるだけでも耐えられない事だってあるんだ」
「セーフワードって……なあに?」
「君を縛って、責め始めたら、もう君がどんな反応をしてもしなくても、僕達はやめたりしない。正直、君が嫌がる事も、恥ずかしくて抵抗したくなるような事もするし、責めが進んでいけば痛かったり辛かったりして、じっと耐えてなんかいられなくなる事もある。嫌だって言う事が、相乗効果になって行くから、ずっと嫌、嫌、言う女性もいるし……。もちろん身体に危険な事は僕が見極めてさせないけど、それはほんとに身体の限界の手前だ。君にとっての気持ちの限界じゃない。だから、万が一ほんとに耐えられなくなった時っていうのを僕達にわからせる言葉をセーフワードって言って、前もって決めておくんだ」
「……どんな言葉にするの?」
「お許しください、とか……助けてください、とか……」
詩織の背中をおびえがぞっと走りぬけた。自分が今からしようとしている事が、ようやく分かってきたような、そんな恐怖。青ざめた、詩織の手を聡史がぎゅっと握った。頼む。口に出さない聡史の想いがその視線に溢れ出ていた。詩織はもううなずくしかないのだ。
「お許しください。で、いい?」
うなずく詩織の引きつった頬に晃の手が伸ばされる。
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にっこりと微笑んだ晃の頬は、すでに獲物を前にした悪魔のように美しかった。ぴったりと後ろに寄り添う聡史の方を振り仰ぐとその悪魔に生贄を差し出そうとしている恋人が、彼女が逃げ出すのを防ぐかのように背中から腕をしっかりとつかんで押し出してきた。
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不意をつかれて詩織は驚いた。両手を後手に重ねられる。その手を左手で握りこんだままで右手は縄の束をひとつ取り、縄先をつかんで振るようにすると、綺麗に巻かれていた縄が、ぱあっとほどけて床の上に広がった。晃の手が動くとその縄はのたくる美しい蛇のように音を立てて床を這いずってくる。詩織の身体をめがけて……。床を打つように縄が踊る……シュッ……シュッ……。
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この記事へのコメント
(ノ゚ο゚)ノ オオオオォォォォォォ
ノンケの男性のオープンコメント初めてです!
ちょっと嬉しい・・・。
どの辺りが気に入っていただけたのでしょうか。
よろしければ、詳しく知りたいものです。
このブログはリンクするところが目次になっちゃってるの。
アダルトブログのご様子なので
本宅の方からリンクさせていただきますね。
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はじめまして。
素敵なブログですね。読んでいて感動しました。
私も拙いながらブログはじめました。
時間があったらぜひ遊びに来てくださいね。
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