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13、縄酔い

ここでは、「13、縄酔い」 に関する記事を紹介しています。
 晃が縄を持って近づいてくるのを、詩織は絶望の面持ちで見た。午前中に、明るい縁側で縛られた時とは違う。胸を絞り上げられるような恐ろしさ。もう、何もかも見られて、あんな恥ずかしい醜態まで晒した。改めて着物を脱ぐのは、恥ずかしいだろうが、それでも二度目なのだからさっきよりも楽なはず。そう騒ぐ気持ちを抑えて望んだ撮影だったが、詩織は、自分の考え違いを突きつけられていた。
 裸になるということは、ただ恥ずかしいだけではない。当たり前のように与えられていた人間であると言う事。基本的な人権が守られる一人の人間であるという事を奪い取られるということ。文明の常識をすべて剥ぎ取られるような恐ろしさだった。むき出しの胸を晒す事は、もう何も守るものが無いような心細さを感じさせる。足元が頼りなく、踏む床さえも覚束ない。怖い。






 晃は詩織の手を掴むと後ろに捻り上げた。午前中と同じ様に後ろ手に縄をかけていく。だが、今度は素肌の上に直に縄が廻される。それが、詩織を一層怖がらせている事に晃は気がついた。かすかに震え青ざめている詩織の肩は、細く華奢な少女のようだった。思わず抱き寄せたくなるような清らかさ。
 晃は、奥歯を噛み締めながら、縄をかける事に集中しようとした。今度は留め縄を使って、ゆるまないようにきっちりとかける。素肌の上なので、ゆるいと、かえって擦り傷を作ってしまう。ほんの少しだけ、紙一重で肌に喰いこむ様にじんわりと縄を廻すと、ぎゅっと縄に抱きしめられるような感覚が押し寄せてくるはずだった。
 きゅきゅきゅきゅ……。きゅっ。縄留めをすると、詩織が深く息を吸い込んだ。
「苦しくない?」
 かすかにうなずく気配がする。晃は喉の渇きを感じて、うろたえた。次に待っているものを想像して、自分が高ぶっている事に気がついたのだ。聡史が撮影をするのに任せると、ライトの輪の中から逃れて、たとうのそばに置いてあったペットボトルを取り上げると、一気に飲み干した。
 額に滲む汗を拭く。ライトの中に、詩織がうずくまっているのが見えた。背中を丸めるようにしてひざまずいたまま頭をたれている。まるで、神の前に額ずく巫女のように。その神は、禍々しく祟りを成す男神に違いなかった。後手の指がくねる。身体の中から何かが湧き上がってくるかのように、彼女の身体は肌がぴんと張り詰めてピンク色につやつやと光ってきている。
 晃はその背中を見つめながら深呼吸した。彼女の身体が息を吸い込むのに合わせて、息を吸う。吐くのに合わせて息を、吐く。彼女に同調が始まる。トランスに入っている彼女は、ぼうっとかすんだ瞳をもたげた。誰かを探しているかのようにその視線が流れる。視線の方角から斜めにライトを横切って場に入っていく、ぼんやりと、近づいてくる晃を目で追う詩織。見ているのも定かでないような焦点が合っていない視線は、彼女が三度目の緊縛にして縄酔いに入ってきていることを示していた。
 腕を掴み背中を支えながらそっと後ろへ横たえていく。後手に縛られた腕は身体の下敷きになると痛みが増す。
「足袋を……」
 晃の言葉に詩織はうなずいた。何の疑いも無く足を晃に取らせる。晃は膝の上に取り上げた彼女の足袋のこはぜをひとつ一つ丁寧に外しながら、反対の手でゆっくりと縄を引き寄せた。足袋を脱がせた足はそのまま膝の上に抑えてもう一方の足も抱え上げる。
 素足になった彼女の足首をぐっと掴んで足首同士を交差させた時、詩織は、夢から醒めたようにびっくりして生き返った。くるくるっと縄がまきつけられ、縛り上げられると、もう、膝を閉じ合わせる事はできない。詩織が焦って起き上がろうとしたのとは、反対に、晃はその交差した足首の縄目に腕を乗せると、詩織の身体に向かって押しながら自分の身体をのし上げていった。逆らいようも無く膝が大きく割れて菱型に開いていく。
「ああああ……」
 詩織が必死になって、起き上がろうともがいても、晃の身体の下の足は、胡坐の形に留め縄をかけられてしまっていた。もう一本の縄を足して足首に絡ませると、もう一度強く体重を掛けて縄を首に廻した。身体は二つ折りになり腰巻が残っているとはいえ、一枚めくれば何もかも丸見えだった。しかも、その白絹の腰巻はすでに、足を胡坐に組み合わせた時点ですっかりめくれあがり、腰周りを隠す役にしか立っていない。
 詩織はぎゅっと首を捻って、赤い顔をくなくなと振っている。晃は彼女の胡坐に組まれた脚に何本もの縄をかけ、後手の結び目に向かって腕を抱き締めるように縄を増やしていった。その張り巡らされた縄は、詩織の身体を捕らえ、蝶番のようにきっちりと折り畳む形を作り出していた。
 晃は、ほっそりとしたたおやかな詩織の身体が、くねくねと縄の中でもがくのを身体で感じた。自分の中に確かにある残酷な加虐心が、彼女と肌を接している事でめらめらと燃え上がってくるのが分かる。だが、最後に残ったわずかな自制心が、後戻りする最後のチャンスを捉えた。全部の縄をくるくると巻き込んで、いつものように結び目が身体に当たっていないことを確認すると、晃はさっ……と聡史のほうを振り返った……。
 聡史は、シャッターを切り続けながらも、じっと、晃が始めるのを待っている。晃は視線だけで、聡史を問い詰めた。やめるつもりはないのか。もっと他にもやりようがあるんじゃないのか。聡史は、真っ赤になった目をぎっと開くと、迷いを見せる晃をねめつけた。
 観念した晃は正面を見つめて目を瞑る。もう一度息を深く吸い込む。詩織の呼吸に合わせて吐き出す。さっきは苦も無くできたことが、迷いのある今は集中できない。出来るだけ細く静かに呼吸を繰り返す。彼女に同調する。ひとつになる。そして、溶け合う。
そして晃は肘を彼女の脛に押し当てると、じんわりと体重をかけ始めた。



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コメント
この記事へのコメント
 そうだねー。
さやかは、おしゃべりな縄師のSさんや
怒鳴ったり脅したりのべつくまなしにする
アメリカのS女さんは・・・あまり好きじゃない。
Sの人には、囁き声でしゃべって欲しいの。
夢から醒めないように。
2006/07/04(火) 01:42 | URL | さやか #DS51.JUo[ 編集]
あかねは縛られているときに話しかけられると、現実に引き戻されちゃいます
できれば何も言わずにそっとしておいて欲しい。。。
現実に引き戻して打ちのめすのも楽しいのかもしれませんけどねっ
2006/07/04(火) 00:38 | URL | あかね #-[ 編集]
 ほんとうは「縄酔い」は、縄をほどく時に起きる。
と、言う説があります。
ぎゅうぎゅう縛っている縄が解かれ、
滞っていた血流が急激にめぐる時に
気持ちよくなるそうな・・・・。
 しかし、現在のインターネット上では
縄酔いはほとんど縛られている最中に気持ちよくなる
という事を指して言うようであります。
さやかは、じわじわと酸欠になって
トリップするんじゃないかと、思っているんですけど・・・・。
中にはそういう比喩的状態ではなく
しっかりと気持ちよくなって逝く方もいらっしゃいます。
★晃は、好きな人にSMしないかも・・・。
だいたいこいつはSなのか。
緊縛師って、Sじゃないって説があるけどほんとかな。
だって、大概の場合縛られたM女性って
気持ちよくなっちゃうんでしょ?
Sって、「痛みを与える事で性的快感を得る人」なんだから
縄酔い(喜び)を与えてどうするんだ・・・。
2006/07/04(火) 01:39 | URL | さやか #DS51.JUo[ 編集]
実わ!
縄酔いのシーンを読むのを楽しみにしていたせつなです…。
せつなは日ごろから縄酔いとは、どんな感じなんだろうっと興味があり、
ドライサウナから出て水風呂に入るとグルグルするのを
「こんな感じかなぁ…縄酔い…えへ。」
と想像してるんですが…。
(こんな告白いらないですねvvスミマセン><)
★せつなは晃さんが好きかな…。
 晃さんは大切な人は誰にも見せないタイプかなっと。
 君より肌のきれいな人を縛るよ。君より美しい人を責めるよ。
 それは仕事だからだよ。頼まれなければ決してしない。
 でも仕事以外で縛って、息を止めるほど責めたいと渇望するのは君 だけなんだ。自分でも不思議だよ。
 なーんて囁いてくれるんですッ!
2006/07/03(月) 12:03 | URL | せつな #-[ 編集]
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