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21、試打

ここでは、「21、試打」 に関する記事を紹介しています。
 「竹鞭が手に入ったから、見て欲しい。出来れば試し打ちをしたいから」
 そう晃から連絡を受けて、聡史は休日の朝早くから、撮影現場の家へ出掛けて行った。明日も続けてオフの予定だから何とかなるだろう。甘く見ているわけではないが初めてでもない聡史はもう覚悟が出来ていた。
 一回目の時もフュンフトという晃の使った事のない鞭を選んだせいで、試し打ちに付き合わされたのだった。裏門の車寄せに車を止めると、晃のエアウェーブはもう停まっていた。ここまで来るとさすがに胃の辺りに捻れるような恐怖があった。
 車に鍵を掛けると、裏門はすでに開いていた。晃が、家人の案内を受けて先に通っているのだろう。深呼吸をすると、花橘の咲き乱れる中を、庭石を踏んでいく遠くの方で小鳥がさえずる声がしていた。平和な初夏の爽やかな空がどこまでも青い。土蔵の扉をくぐると、ひんやりと暗い乾いた空気が心地よかった。その暗い建物の階段に晃は腰を掛けて肘を付いていた。
「待ったか」
「うん。早く着きすぎた……」
 屈託なく笑う晃を久しぶりに見たような気がして、聡史は驚いた。そう言えば、詩織を引き込んでからこっち、こいつはいつもむずかしい顔をしていた。アメリカの撮影の間は、現場ではしかめっ面の彼も打ち合わせやその後の食事の時などは、おしゃべりでよく笑う奴だったのに。
 いつの間にこいつが、眉を寄せているのが当たり前の様になっちまったんだか。自分の責任である事は聡史だってよく分かっている。嫌がる詩織を無理矢理引き込んだ。それが、晃にとってはずっと足枷になっている。
「撮影も、もう終わりだな」
「ああ……。晃、無理ばっかり言ってすまなかったな」
 晃はうんっと伸びをして、眉を上げた。
「聡史がそんな事言うなんて、気味が悪い。謝っても手加減しないぞ」
「分かっているさ」
 聡史は、黒いシャツを着てきていた。これなら血が付いても分からない。ボタンを外し始める。晃は脇においていた桐の箱を引き寄せた。掛けてある鶯色に紅の縞のある真田紐の結び目をほどくと、蓋を開ける。中から現れたのは二十七個の節のある竹鞭だった。竹の地下茎から作られたこの竹鞭は、乗馬に使う鞭として仕立てられている。そのため、しなやかに強く鋭い。
「絵的には、十分だな。握りも凝った作りだし……」
「うん。軽くて振りやすいんだ。多分これなら、自由に加減できると思う」
「どれくらい綺麗に痕が付くかだな……」
「聡史。どこを打つつもりなんだ?背中?それともお尻?」
「尻の方がいいと思う。傷も残りにくいだろう?」
「だったら、お前も下まで脱いでもらうしかないな」
 聡史は溜息を着いた。さすがに全部脱ぐのは嬉しくなかったがやむを得ない。ここで、ごねて引き伸ばしても事態を悪くするだけだった。
「車で来ているんだから、座れないようにはしてくれるなよ。半分は背中に振り分けてくれ」
「そこまで打つつもりないよ。痕がどれくらい綺麗につくか知りたいんだ」
 全裸になった聡史は、柱に両手をついて息を吸い込んだ。晃は立ち上がるとひゅんひゅんと鞭を鳴らしながら近づいてくる。
「いくぞ」
「ああ……」
 ヒュウン……ビシッ!
 鋭い鞭音が鳴り響き、聡史は足を踏ん張って身体に力を込めた。歯を喰いしばって呻きを押し殺す。
「どうかな」
「え?」
 振り返るが自分の尻なんか見えるはずが無かった。晃が手鏡を差し出す。聡史の尻の中央に斜めに入った鞭痕はくっきりと赤い縞になり、ひとつひとつの節のくぼみまでくっきりと浮き上がってきていた。ひりひりと熱い痛みに顔をしかめながら鞭痕へ指を這わせてみる。
「もう少し強く打ってみてくれ」
「オーライ。おおせのままに」
 もう一度、同じ姿勢にもどると、聡史はまた大きく息を吸い込む。その息が止まる瞬間を狙って晃は鞭を振った。ヒュン……ビシィイ!!!
「ううっ……」
 押し殺せない喘ぎが、聡史の口から洩れる。再度、鏡が差し出され、聡史は鞭痕を確認した。
「いいかな」
「結構強いぞ。耐えられるかな」
「うーん。最初の一発をこれにしてくれ。そうすれば少なくとも一回は痕が残る写真が撮れる」
「だが、一発だけじゃ……組写真としてどうかな」
「平気さ。詩織はきっと耐えてみせる」
 晃の眉が曇る。こうなるのは分かっていても、聡史は最後までやるつもりだった。
「試し打ち……やるんだろ?」
「あ?……ああ……」
「何発ぐらい?」
「二十やれる?」
「……やるさ」
ビシィイ!
「あうっ」
 声を押し殺せたのは、前半の十発だった。後半に入ると、さすがの聡史も柱に押し付ける手が汗ですべるほどになっていた。晃の手の動きにつれて、恐怖に身体がひくつくのを必死に押さえつける。鞭が、恐怖を煽るかのように傷の上を弄りまわす。もう、耐えられない。聡史は心の中で思いながらも、決して許しを請わなかった。次の撮影では、打たれるのは詩織だ。
 ヒュン……ビシィイ!!!
「ああううっ……」
 身体がのけぞる。痛みに捻れる。あとひとつ。汗が目に入る。目を閉じて。歯を喰いしばって、次の鞭が振りかぶられるのを待った。
ヒュンン……ビシィィィイ!!!
「……!」
 ひときわ鋭い痛みに聡史は、柱にすがりついた。
「傷だらけだな……」
 聡史の傷に薬を塗り、冷たいタオルを押し当てながら晃は呟いた。
「座れないかも……」
 ぼそっと呟く聡史の不満げな声にくすくすと晃は笑った。
「いいさ。二十は、叩けないって分かったから」
 そろそろとした動きで身体を起こすと、聡史は晃からタオルを受け取った。今度は晃がシャツのボタンを外し始める。
「やっぱり、自分も打たれるのか?」
「ああ。どれくらいの痛みか分からないと怖くて鞭は使えない」
「俺の身体は、遠慮なしに打ったくせに」
「男だからな」
 思い切り良く、晃が服を脱ぎ捨てた。晃の体は細身のくせにしなやかで強い。そして肌理が細かい肌は女のようだった。聡史はタオルを捨てると、その尻に手を這わせた。そろりと撫で上げられて晃は悲鳴を上げた。
「おい!やめろよ」
「女より綺麗だぞ」
「まったく、もう……」
 くすくすと笑う晃の様子を見て、聡史はようやく気が付いた。躁になってる……こいつ。目の前に迫っている、詩織の鞭打ちが明らかに晃のストレスになっているのだった。


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