★この作品は、「さわってほしい」の続編として書かれました。
体が冷えてきたような気がしてクーラーを消した後、外気を少し入れようと窓を押し開いた。七月の夜の熱い空気がむっと押し寄せてくる。そして、それとともに遠くの方でかすかにかすれたような悲鳴が聞こえてきた。淳一の悲鳴だ。体を打つ皮の鞭の音が響く。
窓枠に体をもたせ掛けて目を瞑り、その懐かしいような鞭の音を聴いた。風を切り、うなるその音。湿った体に叩きつけられる響き。そして、絞り上げるような悲鳴。おそらくは両手を縛られて吊られているんだろう。聴こえないはずのギシギシときしむ皮枷や鎖のなる音。そして、淳一の激しく吸い込む喘ぎさえもが耳元でしたような気がした。
今日から夏休み。高原が初めて淳一に一本鞭を使っているのだ。夕方に彼の体を洗った時、脅えて硬くなっていたっけ。淳一はまだ十六歳。八月の半ばに十七歳になる。自由にならない体を男達に痛めつけられる運命をどうやって気持ちの中で整理しているのだろう。
めったに吸わないけれど、めずらしくポケットに入れてあったメンソールのスリムの煙草を一本取り出して火をつけた。じっとしていても汗が滲んでくるような夜の外気の中に白い煙をそっと吐き出す。鞭音に続く彼の悲鳴を聴きながら、僕は過去の自分を思い出していた。高原の腕の中で悲鳴を上げながらみもだえしていた自分自身を。出来る事ならずっと彼の腕の中で過ごしていたかった。何も知らない若い頃のままで……。
テーブルの上の灰皿にタバコを押し付けて火を消すと、僕は再び窓を閉めてクーラーをつけた。淳一の悲鳴は耳の毒だ。
毎夜、彼の体の中に自分の手を差し入れながら、いつも考える。自分が本当は何を求めているのかを。彼の若くしなやかな体に自分の体を重ねて見てしまう。快感にうねる背をみつめ、その弾む息を聞きながら、彼が求めている物を拒絶し、哀願を聞き流す。
暗い愉悦。高原の持ち物。そして、どうした事かすっかり僕に恋している少年。押し殺せないためいきも、悔しそうな横顔も、さまよう視線すら彼の気持ちを代弁していた。さわって。さわってよ。僕にふれて……。少しでいいから。ちょっとだけでいいから。
不思議だ。そうやって僕に恋しながら、どんどんと主人である高原に懐いていく様をあからさまに僕に見せ付ける。いや、隠すという事が出来ないのだ。決して幸せであるとはいえない子供時代を過ごしながら、どうして彼はあんなに素直で真っ直ぐなのか。どうしてあんなにまっしろなのか。
チリリリリ……。内線がなる音に、物思いから我に帰ると電話の受話器を取る。
「各務か?」
高原の温かい声が受話器の向こうから流れる。
「来てくれ」
こうなる事は予感していた。短い返事を返すと、部屋の隅に準備してあった医療道具の乗ったワゴンを押して扉を開けた。プレイルームは廊下の一番先だ。無駄に広い造りのこの家の廊下をガラガラとワゴンを押して歩きながら、扉を開いて待っている男の元へ近付いて行きながら、僕は自分の気持ちを持て扱いかねていた。
↓ランキングに参加しています。応援してね。☆⌒(*^∇゜)v ヴイッ
スポンサーサイト

体が冷えてきたような気がしてクーラーを消した後、外気を少し入れようと窓を押し開いた。七月の夜の熱い空気がむっと押し寄せてくる。そして、それとともに遠くの方でかすかにかすれたような悲鳴が聞こえてきた。淳一の悲鳴だ。体を打つ皮の鞭の音が響く。
窓枠に体をもたせ掛けて目を瞑り、その懐かしいような鞭の音を聴いた。風を切り、うなるその音。湿った体に叩きつけられる響き。そして、絞り上げるような悲鳴。おそらくは両手を縛られて吊られているんだろう。聴こえないはずのギシギシときしむ皮枷や鎖のなる音。そして、淳一の激しく吸い込む喘ぎさえもが耳元でしたような気がした。
今日から夏休み。高原が初めて淳一に一本鞭を使っているのだ。夕方に彼の体を洗った時、脅えて硬くなっていたっけ。淳一はまだ十六歳。八月の半ばに十七歳になる。自由にならない体を男達に痛めつけられる運命をどうやって気持ちの中で整理しているのだろう。
めったに吸わないけれど、めずらしくポケットに入れてあったメンソールのスリムの煙草を一本取り出して火をつけた。じっとしていても汗が滲んでくるような夜の外気の中に白い煙をそっと吐き出す。鞭音に続く彼の悲鳴を聴きながら、僕は過去の自分を思い出していた。高原の腕の中で悲鳴を上げながらみもだえしていた自分自身を。出来る事ならずっと彼の腕の中で過ごしていたかった。何も知らない若い頃のままで……。
テーブルの上の灰皿にタバコを押し付けて火を消すと、僕は再び窓を閉めてクーラーをつけた。淳一の悲鳴は耳の毒だ。
毎夜、彼の体の中に自分の手を差し入れながら、いつも考える。自分が本当は何を求めているのかを。彼の若くしなやかな体に自分の体を重ねて見てしまう。快感にうねる背をみつめ、その弾む息を聞きながら、彼が求めている物を拒絶し、哀願を聞き流す。
暗い愉悦。高原の持ち物。そして、どうした事かすっかり僕に恋している少年。押し殺せないためいきも、悔しそうな横顔も、さまよう視線すら彼の気持ちを代弁していた。さわって。さわってよ。僕にふれて……。少しでいいから。ちょっとだけでいいから。
不思議だ。そうやって僕に恋しながら、どんどんと主人である高原に懐いていく様をあからさまに僕に見せ付ける。いや、隠すという事が出来ないのだ。決して幸せであるとはいえない子供時代を過ごしながら、どうして彼はあんなに素直で真っ直ぐなのか。どうしてあんなにまっしろなのか。
チリリリリ……。内線がなる音に、物思いから我に帰ると電話の受話器を取る。
「各務か?」
高原の温かい声が受話器の向こうから流れる。
「来てくれ」
こうなる事は予感していた。短い返事を返すと、部屋の隅に準備してあった医療道具の乗ったワゴンを押して扉を開けた。プレイルームは廊下の一番先だ。無駄に広い造りのこの家の廊下をガラガラとワゴンを押して歩きながら、扉を開いて待っている男の元へ近付いて行きながら、僕は自分の気持ちを持て扱いかねていた。
↓ランキングに参加しています。応援してね。☆⌒(*^∇゜)v ヴイッ


[PR]

この記事へのコメント
to 秘密のHさん
ありがとうございます。
毎日あれこれと楽しく頑張っています。
to あかねさん
あかねさんも高原が好きなんですか?
さやかも大好き♪困ったときの高原頼み。
「ひどい男」なんで、みなさんのうけがよろしいです。
読者のみなさま、Sさんが好きなのかなぁ。
to 秘密のayaさん
最後の土壇場で各務が救いの手を伸ばしてくれ
淳一が生き返って、ようやく物語が流れ出しました。
各務もスーツは似合うでしょうが、高原には適いません。
無敵のS男。体格も相当よさそう。
肩幅も筋肉もずっしりと重そう。
それに何もかもオーダーメイドだから
そりゃその辺の男は太刀打ちできませんって!
to ramuさん
そうおっしゃる方が何人かリクエストを出されたので
今回、無理してひねりだしました!
前回とは語り手が違うので、まったく違う切り口になります。
よろしくお願いします。
to Kazさん
ヾ(@^▽^@)ノ ワーイ見に来てくれたの?
ちっとも会えないの(ノ_・、)シクシク
でも、がんばる!きっと、いつか・・・・。
今回は男性同士だけどあまあまのSMでありんす。
よろしくお願いしまーす。
ありがとうございます。
毎日あれこれと楽しく頑張っています。
to あかねさん
あかねさんも高原が好きなんですか?
さやかも大好き♪困ったときの高原頼み。
「ひどい男」なんで、みなさんのうけがよろしいです。
読者のみなさま、Sさんが好きなのかなぁ。
to 秘密のayaさん
最後の土壇場で各務が救いの手を伸ばしてくれ
淳一が生き返って、ようやく物語が流れ出しました。
各務もスーツは似合うでしょうが、高原には適いません。
無敵のS男。体格も相当よさそう。
肩幅も筋肉もずっしりと重そう。
それに何もかもオーダーメイドだから
そりゃその辺の男は太刀打ちできませんって!
to ramuさん
そうおっしゃる方が何人かリクエストを出されたので
今回、無理してひねりだしました!
前回とは語り手が違うので、まったく違う切り口になります。
よろしくお願いします。
to Kazさん
ヾ(@^▽^@)ノ ワーイ見に来てくれたの?
ちっとも会えないの(ノ_・、)シクシク
でも、がんばる!きっと、いつか・・・・。
今回は男性同士だけどあまあまのSMでありんす。
よろしくお願いしまーす。
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2006/09/01(金) 05:26 | | #[ 編集]
宣言どおり9月1日に再開ですね~
えらすぎますっ
高原さんが絡んでくるお話はとっても好きです♪
各務がどんなことを考えてるのか・・・楽しみにしています^^
えらすぎますっ
高原さんが絡んでくるお話はとっても好きです♪
各務がどんなことを考えてるのか・・・楽しみにしています^^
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2006/09/01(金) 08:06 | | #[ 編集]
再開おめでとう御座います。
「さわってほしい」の続編、密かにずっと待ってました。
「さわってほしい」の続編、密かにずっと待ってました。
うわーホントに公言通り更新してる・・・すげえ・・・。尊敬・・・。
また楽しみに通うことにします・・・え?ウチ?ウチのは・・・あははははははは(逃
また楽しみに通うことにします・・・え?ウチ?ウチのは・・・あははははははは(逃