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2、運命の人

ここでは、「2、運命の人」 に関する記事を紹介しています。
 淳一は青ざめた顔で、ベッドにぐったりとうつ伏せになっていた。背中には幾重にも蚯蚓腫れが走っている。荒い息が背中を上下させる。消毒し、薬を塗り拡げても、呻き声をあげて体をひくつかせる彼の意識は朦朧としているようだった。手首の周りも、枷にこすれて赤く擦り切れていた。
 思わずやりすぎじゃありませんか? とつぶやいてしまう。高原は何も言わずちょっと眉を上げただけだった。何と言っても彼はまだ子供なのだから……と、自分自身に言い訳してみても、おかしいだけだった。自分のしている事は棚に上げて、彼を甘やかしてみたくなるのはどうした事だろう。分かっている。ただの偽善に過ぎない。
 念入りに手当てをした後。 ガーゼの上から濡れたタオルを拡げてやる。程よく冷やせば、痛みは和らぐはずだ。自分の経験からそれはちゃんと分かっている。あまり冷やし過ぎても辛いだけだ。だが、濡れたタオルは何度も絞って換えてやらなければならない。
「お休みになってください。後は私が……」
「いや、いいさ。私が見る。お前は休め」
 意外な、高原の言葉に振り返って彼をみつめた。今までの高原ならさっさと寝てしまう。  
 忙しい男なのだ。無駄な事はしない。どこで休むべきか、無理をすべきかきっちりと割り切って行動する。そうでなくては、男遊びなど出来ないほどに忙しい体だった。腕を組んでベッドの柱に寄りかかっていた男は、視線が合っても何も言わず、しばらく見つめあった後で薄く笑むと、手を伸ばしてきて僕の腕をつかんだ。
「どうした?まさか、嫉妬しているのか?」
 指摘されて驚く。そんな事がありえるだろうか?自分の胸のうちに問いかけてみた。確かにざわめいて落ち着かない感情がある。だが、これは嫉妬なのか。だとしたら誰に?
 ぐいと引き寄せられて、ちょっと驚きつつも体を相手に預けた。熱い体。思う存分嗜好をふるって、尚、熱く燃えている体。そうか、鞭をふるった後、朦朧としている淳一を犯す程にはのめりこんでいなかったのだろう。彼も同じ感覚を覚えているのだろうか。子供である淳一を扱いかねるような。
「各務、彼を受け入れてやる気はないのか」
 今度こそ、僕は驚いて、男の顔をまじまじとみつめてしまった。もちろんあけすけに透けている淳一の気持ちなど、高原がとうに気がついている事は分かっていたけれど、だからと言って余所見を肯定する程にこの男は甘くは無い。
 ぎりぎりと締め付けて、息もつけないほどに絞り上げて、あっという間に自分の懐に取り込んで見せるだろうと思っていた。現に、淳一はこの半年ですっかり高原の体に馴染んだ。最初はあれほど嫌悪を示し、反発していた相手の手の下に、すっかりとひれ伏していた。この夏を越せば、誰が主人で、自分が誰のものか、すっかり身に沁みついてしまうだろうと思っていたのに。何の事は無い、この男は、淳一の気持ちがどこへ向かっているのか分かっていて、掌の上で遊ばせていたに違いない。
「……酷い事を聞くのですね」
 なんだか、傷ついたような気がして顔を背けると、高原は引き寄せた手とは反対側の手も伸ばしてきて、慣れた手で髪の毛を掻き揚げた。目を瞑ってその感触を味あう。十二年前に、初めて彼が自分にふれた時の感覚が急激に蘇ってきて、僕はすっかりとまどった。なぜ?今になって、なぜこんなに胸が騒ぐのか。
 分かっている。淳一のせいだ。彼の若くてあまりにも人間らしい素直な反応が、すっかり背徳になじんだ自分を引き戻しつつある。
 顎にかけられた手が、ゆっくりと余裕をみせつつ、頬を愛撫しながら顔を上向かせる。近づいてくる顔は、見慣れた悪魔の顔をしてそっと唇をついばむ。軽く唇を噛んで、そしてやさしく摺り合わせる。あまりにも軽い愛撫に、物足りなくなった僕は腕を伸ばして、高原の首を引き寄せ、自分から唇を開いて相手の舌を引き寄せて行った。熱く濡れた、爛れた様なキス。すっかり馴れ合って、快感をむさぼるためのテクニックをお互いに知り尽くしたもののキス。さんざん、味わって他人の体をすっかり熱くさせておきながら、ゆっくりとその唇は離れて行った。




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コメント
この記事へのコメント
 更なる新境地・・・。(^_^;)
怖い事言わないでくださーい。
いつも行き当たりばったりで書いてるので
何が出てくるのか本人にも分かってないんですから。
今回、困ったときの高原氏が、クスクス笑うばかりで
扱いかねております。
なに考えてるんでしょうねぇ。
2006/09/02(土) 15:41 | URL | さやか #DS51.JUo[ 編集]
 ありがとう♪
さやかも書いててようやく思い出しました。
四苦八苦、四苦八苦、しながらも書いてるうちに
急速に物語が流れ出す瞬間の快感!
 今週は再開してすぐの土日だったので更新しました。
来週からは素直にお休みします。
物語だけは、一人でハマっているときで無いと書けないから。
さすがに書き溜めるのは難しい・・・。
2006/09/02(土) 15:38 | URL | さやか #DS51.JUo[ 編集]
そうそう!この感じー><
「あ、ここまでぇ…!?」
記事の最後まで読んで、急に現実に引き戻される感覚、
「次はどうなるかなぁ。ワクワク♪」
ああなって、こうなってこうしてくれるうう~と
勝手に妄想してみる楽しさ…。
久しぶりだったからかなぁ…
なんだかとってもさやかさまの文章を読みきってしまうのが
もったいなく感じました。..._〆(゚▽゚*)
週休2日制⇒マイペースで頑張ってくださいね★
2006/09/02(土) 06:42 | URL | せつな #3/VKSDZ2[ 編集]
こんにちは^^
時間がなくてゆっくり読めないのが残念ですが。。
新妻さやかさんの更なる新境地が開かれそうですね☆
2006/09/02(土) 07:21 | URL | ふわく #NgDLdiQA[ 編集]
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