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3、惹き

ここでは、「3、惹き」 に関する記事を紹介しています。

「私がサディストじゃなければ、良かった」
 高原の次々と続く思いがけない言葉に、僕は、困惑しながら髪を掻き揚げた。
「そうしたら、僕はあなたの援助を受けられなくって、あなたに会う事も無かったでしょう?」
 ちょっと目を細めて、透かすように僕の顔をみつめている。十二年も供に過ごしていながら、なぜこの男はこんなにも他人を驚かせる行動をして見せるのがうまいのか。
「だったら、おまえがサディストじゃなければよかったんだ」
 その言葉に滲んでいる笑いにちょっとむかついた。こんなにも長い事傍にいて、未だにこれほど他人の痛い所を容赦なく突いてくる。知っていても思わず感心してしまう。
「そんな事。僕は、ちゃんと耐えていたでしょう?」
「だが、あれ以上やっていたらお前は壊れていただろう」
「いっそ、そうしてくれればよかったのに」
 思わず、真剣に言い返してしまって、高原を苦笑させてしまう。しまった。分かっていて乗せられた。本気になったら、適わない事は分かりきっているのに……。
「そうか。やっぱり私が、あれに囚われすぎたのがいけなかったんだな」
 胸に深く刺さる言葉の痛みに呻いて胸を押さえた。この人は、時々こうして僕を痛めつける。誰が主人か思い知らせたいのか。それともそれは本能なのか。
「そうですね。僕を壊してしまうほど、愛してはいなかったんですよ」
「そうだな」
 涙が滲んできて、思わず、ぎゅっと目を瞑った。傍にいる事さえ辛い。離れていてもやはり辛い。なぜ、思い切れない?忘れられない?自分の嗜好にすっかり慣れてしまった今でも、彼の腕の中に駆け戻りたくなる。もう、二度と戻れない事が分かっていながら。
  まだ若かった頃、僕は金のためにこの男に身売りした。せっかく合格した医学部を入学しないまま諦らめなければいけなくなりかけて、とにかくどこからかお金を調達しなければいけなくなった時、あまりにもたやすい目の前の金蔓に、ついついとびついてしまったのだ。彼は僕の身売りをあっさりと受け入れた。
「金の事は心配しなくていい。ちゃんと医者になるまで面倒見てやろう」
 そう、うなずいた言葉の通り、インターンを勤めて正規の医者として勤務するまで湯水のように金を投入してくれた。学業だけでなく贅沢な生活と遊ぶ金まで、一銭たりとも心配させた事はない。
 頭のてっぺんから足の爪先まで、自分は全て彼のものなのだという事を忘れさえしなければ、何もかも自由だった。彼は、僕が好きなように遠くまで泳いでいってもまるで気にしなかった。指先の一振り、視線の一瞥で僕が彼の元へ駆け戻ってくるという事をまるで疑っていなかった。そして、僕は……そうした。
 そうせざるをえなかった。体はあっという間に彼の刻んだ快楽を覚え、心は恐ろしいほど深く彼に囚われてしまっていた。それでいて、彼のプレイは容赦がなかった。真似事のSMしかした事が無かった僕は、自分の甘さを体で思い知らされた。泣いても、笑っても、怒っても、哀願しても……まるで敵わなかった。
「じゃあ、先に休みますよ」
 思いを振り切って部屋を出ようとすると、高原は、にやっと笑った。くそっ。しまった。煽られた。何を考えているのだろう。今でさえ三人の間は主人と僕と介添えの医者というだけでなく、随分とややこしくなってきているのに。
「痛めつけたい」
 高原の囁きが聞こえたような気がして、僕は後ろを振り返った。
 彼の掌の上にいるのは淳一じゃない。僕だ。そして……。それを選んだのは自分だ。深くためいきをつく。ここの所、淳一はためいきばかりついていた。明日からは、自分が同じ様な思いをしないよう十分用心しないとなるまい。




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コメント
この記事へのコメント
 そ、それがねぇ・・・σ(^_^;)アセアセ...
なんかいつの間に主人公は置き去りになってしまってるの。
でも、いつかは復活してくるはず。
だって、この間、彼には無理矢理に生き返ってもらった・・・はず。
でも、まだ、気絶したままですねぇ・・・。
ユサユサッ{{{(ε_ε)}}}\(^^  ) 大丈夫?か淳一?
2006/09/04(月) 09:47 | URL | さやか #DS51.JUo[ 編集]
ちょっと出張していたので、出遅れました。でも、その分一気にたくさん読めて楽しかったですけど・・・。
うれしい再開が、続編ですかあ~!うれしさ倍増!!
アダルトな二人の間には、今もイロイロあるんですね。とってもドキドキな展開で、先が気になります。淳一君はどう変わっていくんでしょう?楽しみです。
2006/09/03(日) 16:01 | URL | まる #wkQhjsEQ[ 編集]
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