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8、迷う

ここでは、「8、迷う」 に関する記事を紹介しています。
 一本鞭のせいで痣だらけになった淳一は動くのもおっくうそうで、夏休みだというのにどこにも出かけないで家にいた。
 確かに、くっきりと手枷のあとも残っているし、あの体ではプールへ行く事もできないだろう。その前に階段の上がり降りさえ辛そうに顔をしかめている。
 病院勤務を終えて、高原の屋敷へ戻ってくると、所在無げに居間のカウチに寝転がって本を読んでいる淳一を見つける。そのために、夕食の前に促して風呂に入れ、軽く拡張訓練をした後に、体中の痣に薬を塗ってやるのが日課になった。あまりの痛みにおとなしく体を委ねていた彼も、傷の痛みが回復してくるにつれて体の上を這い回る手に、軽く震えるように反応するようになってきた。彼が僕の手の下で何を考えているのか、推測しなくても透けて見える。
「あ・の・悪魔!」
 体の反応をごまかすために、淳一は事さらぷりぷりと悪態をついてみせる。
「否定はしないが……」
「ちくしょう。あいつ、夏の間ずっとあれを繰り返すつもりじゃないよな」
「うーん。傷が治って痛みが軽くなってくれば、またやるだろう」
 淳一は跳ね起きると、薬を塗っている手を振り払った。
「もう、塗らなくっていい!その痣は残しとく!」
「薬を塗っても痣は簡単に無くならないぞ。それに、痣があるからって高原が手加減するとは思えないが」
「……」
 悔しそうに、顔を赤くした淳一は、ためいきをひとつ付いて、またおとなしく横になった。新しい薬を手に取り脇腹へ塗り拡げてやるとビクッと体が引きつる。
「あんたの手つき、やらしい」
「感じる?」
「ばっ……か……!」
  腕を突いて、体を半分起こしかけて顔をゆがめる。自分が感じている事を隠せない事に思い至って、あきらめ顔にまたもとの姿勢に戻る。妙に素直になってしまった彼の行動に、つい、もっと酷い事をして、いじめてやりたくなる。やめろ。高原の思惑通りに振舞ってやる必要なんか無い。掌を握りこむと、僕は内心のためいきを押し殺した。
 そう、だから、都内の知り合いの写真展に出かけた帰りに、淳一と電車の中でばったり会ったのはまったくの偶然だった。淳一も驚いたのだろう、目を丸くして傍に寄ってきた。
「あんたが、電車に乗るなんて思わなかった」
「今日は、病院が休みだったんでね。出かける気になったという事は、もう、痛まない?」
「ちょっと……。でも、もう、一人でおとなしく寝ているのにあきた」
 今日は、木曜日、アレから六日たった。明日は高原はやってくるだろう。ちゃんと日にちを勘定に入れているかのように回復のめどをたてて痛めつけているのは知っているが、それにしてもここまで上手くやるのは簡単な事じゃない。
 彼の思惑に逆らうのも……。
 目を伏せると瞼に紫の影ができる淳一の横顔をみつめた。いずれは……。
 こうやって傍らにいつもいて手をかけてやっていれば、いずれは抜き差しなら無くなってくる。彼の思いも。僕の思いも。
  高原のものだからと線引きをして行動を制していても、気持ちはもう変わってきている。だったら抵抗するのは無駄なんじゃないだろうか。彼に必要なのは、気まぐれな愛人の手じゃない。毎日傍にいて、一緒に過ごし、食事をし、話をして笑う……。本気で心配し、見守り、じっと待っていてやる家族。……ただの他人には難しい。サディストは自分の手の中にいる加虐の受け手に、手をかける暇を惜しまない。少なくとも高原はそうだ。そして僕も……。一度さいなんだ相手には生涯のつながりを感じる。同じ運命を分け合ったつながり……。
だが、それでも、それが本当にいい事なのか。堂々巡りする迷いが、イライラと衝動を強めている事に気が付いていたが、考える事をやめられなかった。このまま、距離を保っていれば、彼はやがて自立して、まっとうな道へ戻っていけるのじゃないだろうか。
 そう、僕は淳一の性癖を読みきれていなかったのだ。それは、僕の迷いに拍車を掛けていた。彼がもしノーマルだったら?なにもなければ、女の子と恋をしていたのではないだろうか。そんな事はない。そんなはずはないだろう。彼は高原が選んだ男なのだから。
 それでも。それでも。真っ白な彼の様子を見ていると、彼の未来に待っているのはごく普通の人生なんじゃないかという疑いが拭いきれないのだ。
 先頭車両の一番前に乗っていた僕たちは、電車の中がだんだんと混んで来るにつれて、自然と運転席の壁際に移動する形になった。淳一はなにも気がついていない。あまり電車に乗らないせいなのか、この路線を使った事が無いのか。次の駅に来ると、急激に人が増える。電車がゆっくりと停まり、何人かの人が降りると、たくさんの仕事帰りの人間が乗り込んできた。端に追い詰められる形になった僕は、淳一の腕を掴むと、向きを変えさせて彼を壁に押し付け、後からぴったりと体を重ね合わせていった。




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コメント
この記事へのコメント
 最近、せつなの妄想はさやかよりもハードじゃん!
もしもし・・・・
せつな、代わりに続きを書いてくれんね!
それにしても、ようやく起きた淳一。
あんたほんとは主人公だったんだから、ガンバレ!
2006/09/09(土) 15:20 | URL | さやか #DS51.JUo[ 編集]
ということは・・・。
電車プレイ???
きゃーΣ(゚Д゚;≡;゚д゚)
まだすこし痛む傷をグリグリしたり
わき腹をサワサワしたり
首筋にかみついたり
されちゃうのかも><
2006/09/08(金) 21:37 | URL | せつな #3/VKSDZ2[ 編集]
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