お互いの体温を分け合いながら、とろとろとまどろんでいると、チリリリリ……と内線の電話が鳴る音がした。僕の体がぎくっと跳ねた。
くそっ。なんで。いつの間に、やってきた?こんな時に、同じ家の中にいるなんて!分かってる。家の中で何が起きているのか、何もかもが高原に筒抜けになっている事は。だからといって、こんなに速く彼がやってくるとは考えていなかった。だが、狙った獲物が罠に掛かった瞬間を外すような男ではない。僕は、反射的に電話を取ってから、ためいきを付いて起き上がった。
「はい……」
「各務、シャワーを浴びたら書斎へ来てくれ」
僕は、チラッと淳一の様子を伺った。すっかり安心した少年は、ぐっすり眠っていて気が付いた様子はない。
「分かりました」
布団をめくって心地よいベッドから滑り出た。ひんやりと冷たい床を踏んで立ち上がってから振り返る。すっかり餌付けが終わって高原のものになってしまった少年を……。そっと髪を掻き揚げて額に唇を押し当てると、僕はシャワーを浴びるために浴室へ移動した。
高原は、部屋の中央へ向けておかれた大きな机の革張りの椅子の中に納まって、書類仕事をしていた。濡れた髪を掻き揚げながらズボンに足を入れてシャツを引っ掛けただけの姿で部屋へ入ってきた僕を笑いながら見上げる。
「今日、届いたんだ」
指し示されて物を見て、僕は思わず顔をしかめてしまった。焼き印だった。高原のイニシャルが斜めになったゴシックのローマ字で綴られている。
「どう、思う?」
僕は手を伸ばしてその凶悪な道具を取り上げた。木の取手の付いたその道具は思っていたよりも小さく軽かった。2センチほどの大きさの活字が2個、間にドットを挟んでおとなしく並んでいる。
「どう……って。誰に使うつもりなんです」
淳一じゃない。契約上彼の体には一生残るような痕はつけられない。彼は契約が切れればどこへでも行き、何でも出来る自由の身なのだから。
本当の所、あの契約はただの口約束で、今、この瞬間でも淳一が出て行きたいと言えば、高原は止めたりしない。それは、淳一も最初に説明を受けているはずだった。借金を肩代わりの交換条件として、衣食住全般の面倒をみて学校へ行かせる。ここへ来たのはあくまでも淳一が選んだ結果なのだ。だが、高原の方は出した条件をきちんと守る。 後に残るような傷を付けないという約束は決して破られる事はない。
高原が名を刻みたいと言えば、わらわらと寄ってくる男たちの心当たりなど履いて捨てるほどあるだろう。それをあえて僕の所へ持ってきて、しらっとして、差し出してくる。しかもこんなタイミングを狙って……。
沈黙に耐え切れなくなったのは僕の方だった。どう転んでも高原のザイルのような神経を上回るような立ち回りなど僕にはできそうも無かった。
「いいですよ。どこに押すんです」
「尻がいいかな。目立つし、脂肪が厚いから、筋肉に差し障りも無い」
「今日やるんですか」
「時間が欲しいのか」
ぶちきれて、ののしってやったら、すっきりするかもしれない。多分、何を言ってもけろっとした顔で応えないだろうが。それとも、そんな事をしても、後で自己嫌悪にさいなまれるだけだろうが。
「ああ……。そういうつもりだったんですね」
「寝室に火を起こしてある」
この人は、僕が嫌がったりしない事を知っている。自ら体を差し出す事を知っている。一生、絆が切れない事を……知っている。
「ひとつ約束してくれませんか?」
高原は僕が何を提案するのか、静かな表情でじっと次の言葉を待っていた。
「他の人間には、この焼き印を使わないでください」
「終わったら、破棄する。それでいいか」
間髪を入れない答えを僕は満足して受け取った。
「ええ、いいです」
暖炉の前にすえられたオッドマンに裸の体を載せた。服を脱いでいる間に暖炉の中へ突っ込まれた焼き印が赤く燃えていた。
「縛るか?」
「ああ……いいえ。でも、何か口に噛むものが欲しいんですが」
高原はベッドサイドの引き出しを開けると、白い麻のリネンを取り出した。枕カバーかもしれない。くるくると捻ると即席の口枷を作って見せた。それを手にゆっくりと近づいてくる。
「口を……開けて……」
私の悪魔。私が自分で選んで、そして望んでその枷につながれた。ただ一人の相手……。私はおとなしく口を開け、頭の後ろでしっかりと止められるとおとなしくオッドマンにまた体をふせた。ぱちぱちとはぜる薪の音。片方の尻の肉に炎が熱い。彼の乾いた手がすべすべの尻の上を這い回る。
「いいか」
もう、応えられない。黙って、うなずいた。
「お前を、楽にしてやろう」
え?高原の言葉の意味を一瞬つかみそこねて思わず聞き返そうとした。だが、もう、間に合わない。すべてはもう決まった後なのだから。
「いくぞ」
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「はい……」
「各務、シャワーを浴びたら書斎へ来てくれ」
僕は、チラッと淳一の様子を伺った。すっかり安心した少年は、ぐっすり眠っていて気が付いた様子はない。
「分かりました」
布団をめくって心地よいベッドから滑り出た。ひんやりと冷たい床を踏んで立ち上がってから振り返る。すっかり餌付けが終わって高原のものになってしまった少年を……。そっと髪を掻き揚げて額に唇を押し当てると、僕はシャワーを浴びるために浴室へ移動した。
高原は、部屋の中央へ向けておかれた大きな机の革張りの椅子の中に納まって、書類仕事をしていた。濡れた髪を掻き揚げながらズボンに足を入れてシャツを引っ掛けただけの姿で部屋へ入ってきた僕を笑いながら見上げる。
「今日、届いたんだ」
指し示されて物を見て、僕は思わず顔をしかめてしまった。焼き印だった。高原のイニシャルが斜めになったゴシックのローマ字で綴られている。
「どう、思う?」
僕は手を伸ばしてその凶悪な道具を取り上げた。木の取手の付いたその道具は思っていたよりも小さく軽かった。2センチほどの大きさの活字が2個、間にドットを挟んでおとなしく並んでいる。
「どう……って。誰に使うつもりなんです」
淳一じゃない。契約上彼の体には一生残るような痕はつけられない。彼は契約が切れればどこへでも行き、何でも出来る自由の身なのだから。
本当の所、あの契約はただの口約束で、今、この瞬間でも淳一が出て行きたいと言えば、高原は止めたりしない。それは、淳一も最初に説明を受けているはずだった。借金を肩代わりの交換条件として、衣食住全般の面倒をみて学校へ行かせる。ここへ来たのはあくまでも淳一が選んだ結果なのだ。だが、高原の方は出した条件をきちんと守る。 後に残るような傷を付けないという約束は決して破られる事はない。
高原が名を刻みたいと言えば、わらわらと寄ってくる男たちの心当たりなど履いて捨てるほどあるだろう。それをあえて僕の所へ持ってきて、しらっとして、差し出してくる。しかもこんなタイミングを狙って……。
沈黙に耐え切れなくなったのは僕の方だった。どう転んでも高原のザイルのような神経を上回るような立ち回りなど僕にはできそうも無かった。
「いいですよ。どこに押すんです」
「尻がいいかな。目立つし、脂肪が厚いから、筋肉に差し障りも無い」
「今日やるんですか」
「時間が欲しいのか」
ぶちきれて、ののしってやったら、すっきりするかもしれない。多分、何を言ってもけろっとした顔で応えないだろうが。それとも、そんな事をしても、後で自己嫌悪にさいなまれるだけだろうが。
「ああ……。そういうつもりだったんですね」
「寝室に火を起こしてある」
この人は、僕が嫌がったりしない事を知っている。自ら体を差し出す事を知っている。一生、絆が切れない事を……知っている。
「ひとつ約束してくれませんか?」
高原は僕が何を提案するのか、静かな表情でじっと次の言葉を待っていた。
「他の人間には、この焼き印を使わないでください」
「終わったら、破棄する。それでいいか」
間髪を入れない答えを僕は満足して受け取った。
「ええ、いいです」
暖炉の前にすえられたオッドマンに裸の体を載せた。服を脱いでいる間に暖炉の中へ突っ込まれた焼き印が赤く燃えていた。
「縛るか?」
「ああ……いいえ。でも、何か口に噛むものが欲しいんですが」
高原はベッドサイドの引き出しを開けると、白い麻のリネンを取り出した。枕カバーかもしれない。くるくると捻ると即席の口枷を作って見せた。それを手にゆっくりと近づいてくる。
「口を……開けて……」
私の悪魔。私が自分で選んで、そして望んでその枷につながれた。ただ一人の相手……。私はおとなしく口を開け、頭の後ろでしっかりと止められるとおとなしくオッドマンにまた体をふせた。ぱちぱちとはぜる薪の音。片方の尻の肉に炎が熱い。彼の乾いた手がすべすべの尻の上を這い回る。
「いいか」
もう、応えられない。黙って、うなずいた。
「お前を、楽にしてやろう」
え?高原の言葉の意味を一瞬つかみそこねて思わず聞き返そうとした。だが、もう、間に合わない。すべてはもう決まった後なのだから。
「いくぞ」
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