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13、主がひとりに・・・

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 叫んだ。多分。分からない。全身を絡め取る激痛が体を貫き、よじらせ伸び上がった背中に、噴出した汗が流れ落ちる。
 肉のこげる臭い。じゅうじゅうと音を立てながら…。恐ろしく長い時間が流れたような気がして、真っ白な苦痛の中で意識が薄れていくのを感じた。いつまで続くんだこの苦痛は……?焼き印がカランと音を立てて暖炉の中に落ち、唇の間を巻かれた布がすべり出ていく、とぎれがちな意識の中で、高原の手が顎にかかり、上向けられた唇に唇が合わせられた。 
 僕は、その甘い口付けを思う存分味わった。かすかに血の味がするキス。このまま気を失ってしまいたい。何も考えず。今なら、できそうな気がして、薄れていく意識に身をまかせた。

 俯いてベッドに横になっていると、誰かのしゃくりあげる声で眼が覚めた。だれ?淳一? 
すでに体にはガウンが巻きつけられて尻の上には火傷の傷をふさぐためのシリコンパットが乗せられ、その上に冷えた保冷剤を乗せてあるようだった。やけどが痛いのか、冷たさが痛いのかよくわからない。
「淳一……?」
「ひど……酷いよ……こんな……。俺が欲しいって言ったのに。…のに。む、無理にしてもらったのに。こんな酷い事……各務にするな……んて。人非人!悪魔。ひとでなし!」
 その呼び名はすべてあたっているだけに、かばいようが無い。暖炉に寄りかかって高原が、くすくすと笑っている気配がする。なんでこんな所に淳一を入れるのか。さすがに恨めしくなって、その方を睨みつければ、肩をすくめて見せる高原の姿が見えた。
「お前が殺されるような悲鳴をあげるから、こういう事になる。」
 間に合わせの猿轡は、噛み締めるためのもので声を殺すためにしたものではなかったから、叫んだ声は筒抜けだったのだろう。淳一にしてみれば、浮気の結果のように思えてこんな形の非難になってしまうのも、むべなるかなだった。
「説明してやってください」
 擦れたような声しか出なかった。
「なにを」
 面白そうな高原の声に歯軋りしたかったが、その元気も無かった。
「お仕置きしたわけじゃないって」
「……だ、そうだぞ」
 眉を上げてみせる高原の表情が見えるようだったが、顔を上げ続ける気力も無くベッドにつっぷした。
「お仕置きしたわけじゃない。名前を入れただけだ。誰が持ち主か分かるように」
 淳一が息を呑むのが聞こえた。腕組みをしてにやにやしているだろう高原は、その腕組みをほどくと固くなっている淳一の手を掴んで引き寄せた。
「今日は、まだ準備をしてないか。それとも各務とする時に洗ってあるのか?」
 無造作に長椅子の上に押し倒す気配、それに必死で抗う様子が聞こえた。
「いやだ。やめろ!こんな時に!こんな!こんな!」
 泣き声混じりの罵倒と乱れた息。引き付けるようにしゃくりあげる音……。僕は尻よりも頭が痛むような気がして、なけなしの力をかき集めて腕を突っ張ると体を起こした。
「弓人。やめてください。今日だけは。」
 淳一の首筋に顔を伏せていた高原の動きが止まり、彼の大きな体がむくむくと膨らみ起き上がる。高原は、僕の顔色を見て、心底嬉しそうに、にやっと笑うと、手を伸ばして淳一の頬を流れる涙を無造作に拭ってやり、さっと立ち上がった。ああ、また乗せられたような気がする。
「リドカインをスプレーしてあるから、表層の痛みは無いが、動くと治りが遅くなるぞ。ちゃんと冷やしておけよ。」
  彼は、滑り落ちた尻の上に載せてあった溶けかけた保冷剤をもう一度載せ直すと、顎の下に手をすべりこませもう一度僕の顔を上向かせて軽く唇をすり合わせた。軽くぽんぽんと背中を叩いて部屋を出て行った。淳一は押し倒された長椅子に寝たままひっくひっくとしゃくりあげている。
「淳一……。あの人のする事にいちいち怒っていたら、後七年も神経がもたないぞ」
「サディスト!」
 正直、言い訳する言葉は一言も見つからなかった。



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コメント
この記事へのコメント
どうして高原様は各務さんに刻印したんでしょう?
淳一君も各務さんも繋ぎとめる為?
自分の刻印がある人間が存在するってどんな気分なんだろう。
せつなは怖いなぁ・・・。
一生消えないスティグマを負う各務さんも凄い。
それって淳一君の為なの??
ううう。泣かせる(U´Д`)
2006/09/18(月) 04:10 | URL | せつな #3/VKSDZ2[ 編集]
 高原と各務はなんだかんだいって、一生もののコンビだから。
好きに、いちゃいちゃさせときゃいいんだよ。
さやかは、むしろ淳一が可愛そうだよ。
この馬鹿高原の暴走を誰か止めてよ。
・・・・って、私が書いてるんじゃん。
(ノ_-;)ハア…
ま、今回はさすがに各務が止めました。
それは、淳一のためなのか
それとも・・・
各務も心中複雑でしょうね。
2006/09/18(月) 04:53 | URL | さやか #DS51.JUo[ 編集]
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