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15、回る記憶

ここでは、「15、回る記憶」 に関する記事を紹介しています。
 体の記憶は、普段は意識の底に眠っている。だが、ふとしたきっかけで思い出してしまうと、昨日の事のように確かな手触りさえ持ってよみがえってくる。
 本来なら、放出するはずの性である体に侵入してくる異物の感覚。最初はただ違和感と苦痛、嫌悪を感じるだけだった。排泄のための場所をセックスに使う事を考え出したのは誰だったのだろう。何かの偶然か、それともあくなき探究心の賜物なのか。体の中でも指折りの感覚器官であるアナル。淳一の体に僕が施した拡張の手順は、嘗て、高原が僕の体で試して作り上げたシステムだった。
 慣れ親しんだ手順。体の中を洗い流して、ローションを入れたそこを、指を使ってゆっくりとほぐしていく一本、二本、三本…。掌を返してくるりと廻してまた一本から繰り返す。
「べつに、この通りやらなくったっていいんだがな」
 覆いかぶさって耳元で囁く高原の息に、背筋はそそけ立った。プレイに入る前のお互いが素の状態での拡張訓練は、気持ちが昂っていない時の行為だけに、即物的に思い知らされる。自分が、そんな場所で感じるようになったそういう生き物だって事を。
 一本の指が、その存在を主張しながら侵入して来る。粘膜の中をなぞるようにさぐりながら。くるりと腸壁を擦りあげながら廻される。体が焦れてもっと強い刺激を欲しがるまで高原はそれを延々と繰り返す男だった。酢を飲まされた時のように中から焼かれて、燻り上げられるように灼熱の感覚が浸食してくるまで。その熱くなってきた体の中に細い指が一本だけ侵入してくる、はっきりとした細さを示す堅い存在感に惑乱するまで。
 好きになった相手の指。その指が、ただ訓練のためだけに出入りしているはずなのに、いつのまにか体全体を支配していく。頼りないただ一本の指が…。
 はっきりと蘇ってくる記憶と感覚にためいきをつく。みぞおちに切なさで絞り上げられる欲望のきざしを感じて、僕は思わず胸を押さえた。淳一の抑えきれずにこぼす喘ぎ声が、その昂りに拍車をかけていた。彼のうねる背中を見つめる。入り口を出入りする指のたどたどしくも懸命な動き。
 柔らかくふっくらとアナルがふくれてくると、指は二本に増える。さかしまに滑り込む明らかにさっきとは違う太さの感覚。そして、自分から飲み込もうと伸縮する入り口の動き。それに答えるように深く押し入れられる指が一番感じやすい場所をさぐりあて、きつく押して来る。そして焦らすように、名残を惜しむようにゆっくりと引いていく。指が別々の方向をさぐり、抵抗する筋肉をしだいに引き伸ばし始めた頃は、もう、自分の体なのに思い通りに制御できない。捉われてどこへも逃げられない。後は、深く、深く沈んでいくしかないのだ。快感という、大きな海の底へ。
 その後に、必ず痛い目にあわされて、喜びを得る前にさんざん泣かされるのが分かっていながら、その静かな訓練の時間は、恐ろしいほどにとろとろと愉悦に満ちて僕の気持ちを侵食した。高原はそれを知っていたはずなのに、なぜ淳一の拡張訓練を手放したのだろう。
  僕との契約が切れて、淳一を向かえる前に、彼はもう一人援助をするために男をこの館へ入れた。香川博之。そう、あの素直ではにかんだように笑う青年の時は、高原はほとんど眠れないほどに忙しくて、サディストの味をしめた僕が、彼を好きにするのを黙認していた。
 とはいえ、それでも、高原は寸暇を割いてできるだけ訓練の時間を確保していたのに、淳一の拡張訓練を一度も自分ではやらないのはなぜなのか。
 最初から、僕を親鳥として引き込むつもりだったのだろうか。でも、なぜ、そこまでして淳一に手を出した?いくら彼がいつかは、自分がノーマルなタイプではないと気がつくにしても、あそこまで性急で暴力的な形で自分の物にする必要があったのだろうか。
 分からない。つかめそうでつかめない。彼の気持ち。こんなに「そば」にいて、いつも、いつも体も心も重ねていたいと願っていても、彼が何を考えているのか何のために行動しているのか。どうしてもつかめない時がある。
 淳一の息が切迫してきたのを感じて、僕は、手を伸ばして淳一の腕を押さえた。それ以上やると、逝ってしまう。淳一は、ぎりぎりの所で引き止められて、苦しそうに顔をゆがめた。ふいごのように、胸が上下する
「なんで……?どっちみち、風呂場でするんだから、いまやったって……いいじゃないか」
  悩ましそうに、深く、激しく息をつきながらも、淳一は名残惜しげなそぶりで行為を中断した。何度も息を吸い込み、吐き出して、体の震えを抑えようとしている。僕の手の中に落ちてきた小さな小鳥。愛しさとないまぜになった強い欲求に押し流されて、僕は彼の首を引き寄せるとその唇を深くむさぼるように味わった。
 高原が作り上げた。危うい……三角形のバランス。傷の痛みが、脳の奥までぎりぎりと喰いこんで来るようだった。



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コメント
この記事へのコメント
 せつなは、淳一に同化してるんだね。
だから、淳一が幸せになって欲しいと思ってる。
恋が成就して欲しいと思ってる。
 コメントも難しいだろうけど
書いてるほうも難しくて悩んでいる。
それというのも各務が愚痴っぽい男だったせいだ。
言い訳ばっかしてないで、ビシッと決めて欲しいぞー!
2006/09/20(水) 23:15 | URL | さやか #DS51.JUo[ 編集]
今回の小説はコメントが難しいです…
毎回、各務さんや高原様から感じることが違う。
各務さんが淳一君をちゃんと捕まえてあげればいーんだ><
あ。
でもこのごろ、高原さまは意外と執着する性質なのでは?
と勝手に思ってます。
嫉妬などとは無縁に思っていたけど…
そんなことないのかもなぁって。
2006/09/20(水) 10:04 | URL | せつな #3/VKSDZ2[ 編集]
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