「そんな顔しているお前を放おっておけるか」
淳一は、どう振舞っていいのか分からないという様子で肩をすくめた。
「なんで、青森なんだろ」
「さあ……」
「あんた、この事知ってたの?」
「いや……」
「高原は……知ってたよね」
「……どうかな」
「高原は、俺を買う前に見に来たって言ってた。俺の何を見たんだと思う?顔?それとも体?服を着たままだし、触ったわけでもない。俺、高原が見に来たっていう事も知らなかった」
おまえの時は分からなかった。失敗して、お前を招く場所じゃない所に引きずり込んだ。だから、もう、失敗しないように、磨いたのさ。もう、決して間違えない。もう、絶対に選び間違えない。そう、高原はそう言っていた。
「知ってる?高原は俺の体に一千万も払ったんだよ」
淳一は、ポケットに両手を入れると、爪先で遊歩道の手すりを支えている柱を蹴りつけた。
「あいつは俺に、一人で生きていく自信があるなら踏み倒せって言ったんだ。俺は……俺は自信が無かった。あっという間に立ちんぼに、転落してしまいそうで怖かった。楽な暮らしと高原が保障してくれる金に眩んだんだ」
そう呟きながら、淳一は手すりの支柱を蹴りつけ続けた。彼の中で帳尻があっていたはずの計算は、母親の死と若い男の出現で、理不尽なご名算の結果になってしまったのだろうか。
「俺はそれをお袋のせいにした。お袋が金をつかんで逃げたせいにした。だって、だって!」
顔を上げた淳一は、黙って聞いていた僕をじっと見つめた。彼がすっかり空っぽになってしまったような気がして、僕は思わず一歩を踏み出した。それを見て彼は、慌てたように後ろに下がる。
「だって、そのほうが楽だったから……」
彼の怒鳴り声は、段々とか細くなって消えてしまった。
「いいさ。生きるのに楽な方を選んで何が悪い?お前には高原がいる。金を払うしか能がないパトロンでも、金だけなら無尽蔵にざくざく出してくれる。それに、僕だっているだろう?」
淳一は、思いっきり顔をしかめた。
「どうせ、恋じゃないんだろう?」
「恋じゃなきゃいけないのかい?」
「僕の体が抱きたいわけでもない」
「抱きたいさ」
「嘘つき」
「嘘つきはあたっているけどね」
「それに、愛してるわけでもない!」
「愛していたらどうする?」
言葉を重ねるたびに、淳一の苛立ちがつのってくるのを感じる。もっと怒って見せろ。淳一。怒りを感じる事は、何もかも空っぽになってしまうよりもずっとましなのだから。
「だったら!…だったら、あんた、俺のなんなんだよ!」
「おやどり…かな?」
「はああああ!?なんだよ、それ!」
「毎日面倒を見て、食っているのか気にして、体を洗ってやって、泣いてれば頭を撫でてやる。」
淳一は、まっすぐな瞳で僕を見た。半日ですっかりそげてしまった青い頬。涙に洗われて透き通ったビー玉のような瞳。ショックで立っているのがやっとなのだろう。足元も定かではない。それからふらふらと近づいてくると手を伸ばして、僕の腕につかまった。
「だったら、今、撫でてよ。俺が泣いてるの、見えないの?」
「見えているさ」
手を伸ばして首に廻して胸に抱き寄せた。肩に手を廻して背中を撫でてやる。肩を震わしながら、しがみついてくる少年が静かに泣き始めると、僕はその髪の毛に、そっと唇を押し当てた。そうとも。撫でてやるなんて、お安い御用だ。必要な時は、いつでも。いつまでも。お前が望むのなら。
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淳一は、どう振舞っていいのか分からないという様子で肩をすくめた。
「なんで、青森なんだろ」
「さあ……」
「あんた、この事知ってたの?」
「いや……」
「高原は……知ってたよね」
「……どうかな」
「高原は、俺を買う前に見に来たって言ってた。俺の何を見たんだと思う?顔?それとも体?服を着たままだし、触ったわけでもない。俺、高原が見に来たっていう事も知らなかった」
おまえの時は分からなかった。失敗して、お前を招く場所じゃない所に引きずり込んだ。だから、もう、失敗しないように、磨いたのさ。もう、決して間違えない。もう、絶対に選び間違えない。そう、高原はそう言っていた。
「知ってる?高原は俺の体に一千万も払ったんだよ」
淳一は、ポケットに両手を入れると、爪先で遊歩道の手すりを支えている柱を蹴りつけた。
「あいつは俺に、一人で生きていく自信があるなら踏み倒せって言ったんだ。俺は……俺は自信が無かった。あっという間に立ちんぼに、転落してしまいそうで怖かった。楽な暮らしと高原が保障してくれる金に眩んだんだ」
そう呟きながら、淳一は手すりの支柱を蹴りつけ続けた。彼の中で帳尻があっていたはずの計算は、母親の死と若い男の出現で、理不尽なご名算の結果になってしまったのだろうか。
「俺はそれをお袋のせいにした。お袋が金をつかんで逃げたせいにした。だって、だって!」
顔を上げた淳一は、黙って聞いていた僕をじっと見つめた。彼がすっかり空っぽになってしまったような気がして、僕は思わず一歩を踏み出した。それを見て彼は、慌てたように後ろに下がる。
「だって、そのほうが楽だったから……」
彼の怒鳴り声は、段々とか細くなって消えてしまった。
「いいさ。生きるのに楽な方を選んで何が悪い?お前には高原がいる。金を払うしか能がないパトロンでも、金だけなら無尽蔵にざくざく出してくれる。それに、僕だっているだろう?」
淳一は、思いっきり顔をしかめた。
「どうせ、恋じゃないんだろう?」
「恋じゃなきゃいけないのかい?」
「僕の体が抱きたいわけでもない」
「抱きたいさ」
「嘘つき」
「嘘つきはあたっているけどね」
「それに、愛してるわけでもない!」
「愛していたらどうする?」
言葉を重ねるたびに、淳一の苛立ちがつのってくるのを感じる。もっと怒って見せろ。淳一。怒りを感じる事は、何もかも空っぽになってしまうよりもずっとましなのだから。
「だったら!…だったら、あんた、俺のなんなんだよ!」
「おやどり…かな?」
「はああああ!?なんだよ、それ!」
「毎日面倒を見て、食っているのか気にして、体を洗ってやって、泣いてれば頭を撫でてやる。」
淳一は、まっすぐな瞳で僕を見た。半日ですっかりそげてしまった青い頬。涙に洗われて透き通ったビー玉のような瞳。ショックで立っているのがやっとなのだろう。足元も定かではない。それからふらふらと近づいてくると手を伸ばして、僕の腕につかまった。
「だったら、今、撫でてよ。俺が泣いてるの、見えないの?」
「見えているさ」
手を伸ばして首に廻して胸に抱き寄せた。肩に手を廻して背中を撫でてやる。肩を震わしながら、しがみついてくる少年が静かに泣き始めると、僕はその髪の毛に、そっと唇を押し当てた。そうとも。撫でてやるなんて、お安い御用だ。必要な時は、いつでも。いつまでも。お前が望むのなら。
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