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22、ひとつの終わりは始まり

ここでは、「22、ひとつの終わりは始まり」 に関する記事を紹介しています。
 病院と今後の手続きについて簡単に話をして、連絡先を置いてホテルに移動した。車の中で、淳一は一言もしゃべらず終始窓の外を見ていた。だが、お互いの体に触れる事も無く、会話を交わす事も無く、それでいて段々と緊張と興奮が高まってきているのが分かった。こんな時に不謹慎だと人は言うだろうが、死と暴力に触れると人は必ず強い欲望を感じる。自分が生きている事や、触れあう相手がいる幸せを確かめずにはいられない。チェックインをすませて、部屋へ入ると荷物を運んでくれたボーイに金を握らせて追い出した。
 ドアの鍵を掛け振り返ると、部屋の中央にぼんやりと自分の体を抱きしめて突っ立っていた淳一が、顔をあげるなり体ごとぶつかってきた。受け止めて抱きしめてやると、無我夢中の様子でキスをせがんでくる。首をかき抱き、むさぼるようにキスを重ねながら、お互いの服を乱暴に引き剥いだ。ボタンが飛び、淳一の体がよろめく。そのままもつれ合うようにベッドの上に絡まったまま倒れこんだ。
 淳一は、焦った様子で、自分のズボンを蹴り脱ごうとしている。手を伸ばして手伝ってやると、今度はしゃにむに僕のズボンに手をかけてきた。したいようにさせてやりながら、彼の首筋に吸い付いて歯を立てた。肩へ。胸へ。腹へ。手当たり次第にきつく吸い上げて紅い痕をつけてやる。お互いの熱い体が直に強く触れ合っても、淳一はそれだけでは足りないと訴えるかのように僕の腕の中へ足の間へ体を割り込ませてくる。
「痛くして。……お願いだから。めちゃくちゃにしてよ。」
 忘れさせて。考えさせないで。感じさせて。俺を……壊して……。
 おい、ここは普通のホテルなんだぞ。内心で舌打ちしながらも、もう、ここまで来て淳一を放り出すわけにも行かない。行くとこまで行かないと、本当に彼は壊れてしまいそうだった。淳一の体をひっくり返すとその上に馬乗りになって、今、自分が首から抜き取って落ちていたネクタイで彼の手首をきつく縛った。 迷った末に枕の端を彼の口に突っ込んだ。
 人間の体は道具が無くても、痛めつける方法が無数にある。たとえば、関節をちょっと捻ってやれば充分なのだ。僕は、縛られて動けない彼の体を捻りあげた。
「ぐうううっ!」
 声を洩らしてはまずい事は、彼にも分かったのか枕を噛み締めたまま彼はのけぞった。爪先がくの字に折れ曲がり、自由を求めて足がばたつく。
 彼が耐えられる限界を測って、手を緩める。体が一瞬の自由を味わい弛緩する。その気持ちのゆるんだ所を狙って、再度絞り上げる。彼の目がいっぱいに見開かれ、みるみるうちに涙で潤んできた。
 息が続く、ぎりぎりを狙う。顔が赤くなり、そして蒼ざめる。突っ張っていた体が負担に負けて気が遠くなってくる。手を離すと、空っぽになった搾りつくされた肺がポンと膨らもうとしてひゅううっと息を吸い込む。そこを思いっきり反対に捻りあげてやるのだ。
「きゃあああああっ」
  枕が口から飛び出して声が上がる。絞め殺される寸前のような人間の声。ちょっと焦りながら、もう一度深く枕を突っ込んでやる。むせた淳一の体が喉を詰まらせて痙攣する。若い体は、開放を求めてあらん限りの力を振り絞ってのたうつ。僕は彼の背に膝を乗り上げて押さえ込んだ。
 このやり方は、筋を捻ったり、骨が折れたりしないように、きちんと加減を計ってやれば、長く長く続ける事ができるのだ。そして、手の中の魚が呼吸できる空気を求めてばたばたとはねているような、獲物の苦悶を存分に味わう事ができる。
 意識が遠くなり、反応が鈍くなってくると、淳一の体を仰向けにひっくり返してその口をむさぼった。転々と散る紅い痕をもう一度辿っていくと、柔らかい脇腹に歯を立ててやる。
「あああううっ!」
  痛みに痙攣する体を強く抱きしめながら、顎を緩めると、傷口をべチャべチャと舐めしゃぶる。泣きじゃくる淳一の体をあやしながら、位置を変えてもう一度噛み付いてやった。ネクタイでくくられていて体の下敷きになっている腕の筋肉がくっきりと姿をみせる。自由になろうともがく獣の秘めた力を現して浮き上がる筋肉。だが、鎖に繋がれた若い獣はただおとなしく身を任せるしかないのだった。
「淳一……。大丈夫か」
 さんざん痛めつけられ、体力を絞り取られぐったりとしている彼を軽く揺さぶった。ぼんやりと開けられた瞼の下の瞳が何かを探すかのように動いた。
「犯ってよ……。そのまま……」
 本気か。それがどれほど痛むか淳一だって知らないわけじゃない。いくら日毎夜毎に、拡張してきたとは言っても何の準備も無く突き入れられれば、体は簡単に受け入れはしない。分かっているか、淳一。ここを越えるとお前、もう戻って来られなくなるぞ。
「いいんだ。犯って。各務の手で……」
 ためらいは一瞬だった。僕は、彼の体を引き裂いた。硬直した淳一は、声も無く失神した。

 高原への電話のコールは、三度鳴ってつながった。
「おい、遅いぞ。定時は過ぎている」
「……」
 高原の第一声を聞いて、僕はそのまま電話を切ってしまおうかと思った。その気配はすぐに伝わったらしく、声を殺して笑っている様子がはっきりと分かった。
「淳一は?どうした……?」
「弓人。恨みますよ」
「そうか」
 僕の一言で、何が起こったのか大方は察したのだろう。高原は勘のいい男だから。
「バランスが崩れてしまった」
「いいさ。この位置で。仕切り直そう」
 暖かく、乾いた彼の声。何が起きても、何も変わらない高原の低い声。
「……嘘でしょう。本気なんですか?」
「ああ。……各務?お前、声がへんだぞ……大丈夫か?」
「……大丈夫じゃありません」
 くらくらする額を押さえながら受話器を握りしめた。
「そうか。……愛しているぞ。」
 この、恥知らずの鉄面皮が……!
「ここでその台詞を言いますか?しらじらしい。僕は、愛してない。こんなバランスじゃ続きませんよ」
 一瞬、間が開いて……僕は、ぎくっとした。猛獣の口に手を突っ込んだような恐ろしさが背筋を這い登ってくる。歯をくいしばって、壁に付いた掌に力を込めて何とか踏みとどまった。
「お前は私を愛している。だから、お前には私の名前をつけてやったろう?」
「一度、死んでください」
 高原は、電話口の向こうで嬉しそうな笑い声を上げた。
 次の日の朝、高原はお抱えの秘書を連れて現れた。淳一の頬を一度だけぎゅっとつねってから頭をぽんぽんと叩いてやった。淳一は照れたように笑って、高原のスーツにしがみついてみせた。
 面倒事の後始末ばかりやらされるために、ものすごく事務処理に通じている秘書は、淳一の母親の遺体を引き取って死亡届を出し、翌日には内輪の密葬をすませ、若い男には手切れ金を払った。男は金をもらうとあっさりといなくなった。お骨は、秘書が東京へ持ち帰り、知り合いの寺で供養してもらえる事になった。






 そして、僕は仕事に戻り、淳一は続けて一人で拡張訓練をするようになった。高原は相変わらず二週ごとに週末にやってくる。何も変わらない元の生活。
「もしも、溺れている俺か高原かどっちかを選んで助けないといけないとしたら、各務は絶対にあっちを選ぶんだろう!?」
 淳一は本を読んでいる僕の横でソファに寝そべって、ぶつぶつと怒った様子で文句をつけてくる。昨日、さんざん尻を叩かれたせいで、座る事ができないらしい。時々、痛みに顔をしかめ、居心地のいい場所を探して、もぞもぞと動く。
「高原がおとなしく溺れたりするか?」
「どっちかを、選ぶしかないって事だったらだよ!」
「ああ…。まぁ、そうかな?」
 自分で言い出しておいて、淳一の顔には突き放された子供のような情け無い表情がよぎった。まるで、飼い主を見失いすっかり道に迷ったずぶぬれの子犬のように。
「でも、同じ事を高原に訊けば、あの人は間違いなくお前を助けるぞ」
「そんな事…!」
 むきになって淳一は否定しようとするが、高原は、迷ったりしないだろう。それが、契約というものだ。今のあの人の優先順位は淳一の上にある。
「それに、お前だって、僕か高原か選べって、言われれば、どっちか一人は見捨てるしかないんだ。」
「そんな事……。」
 淳一の声は小さくなって消えた。あっさりと高原の事を見捨てられない自分の気持ちに薄々気がついているのだろう。
 いつの間にか。
 少しずつ。
 あの人は確実に淳一をなつかせている。僕は手を伸ばして彼の髪の毛をクシャッと掻き混ぜた。
「そんな事、考えるんじゃない。選ぶ事なんて必要無いんだから。」
 高原は、契約のある八年間は淳一を一番に考える。本宅にいる妻を除いての事だけど。そして、いつも僕は彼の傍にいる。高原の傍に。だから、それは、八年間は、淳一のすぐ傍にいてやれるという事なのだった。そして、おそらくは、その先も、彼が望みさえすれば、ずっと。


end.




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コメント
この記事へのコメント
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2007/10/22(月) 19:15 | | #[ 編集]
 ほんとに好きになったら離れられなくなるのかもしれない。各務が、ずっと高原のそばにいるって決めてるように。淳一がどうなっていくのか、さやかにもまだ分からない。でも、確実に人は大人になるし、一年一年変わって行く。そしてさっきまでは見えなかったものが見えるように、さっきまでは分からなかった事実が分かるようになっていくと思う。時には、うまくいかなくって、何年も何年も苦しくて辛い闇の底から、立ち上がれないと思える時もあるけど、いつか、きっと、状況や気持ちが変わる時が来ると思う。めげそうになった時は、いつでもさやかを思い出して。愚痴でも、なんでも聞くからさぁ。リョウくんには大切なお兄ちゃん二人もいるんだし、これからも、たくさんの人に出会えて、きっと、明日を見つけることができるから。
その明日だって、けっして楽なものじゃないかもしれないけど。それでも、さやかは、リョウくんに一緒に歩き続けて欲しいんだな。さやかも、毎日迷子になりそうで、泣いたり、笑ったり、落ち込んだり。一緒に、転んだり、ぶーたれたりして行こう!
2007/10/22(月) 19:12 | URL | さやか #DS51.JUo[ 編集]
さやかさん、淳一は幸せになれる?
自由になれるの?
それとももう高原と各務から離れられない?
2人は淳一を大事にしてくれる?
8年たったら高原は淳一にどんな態度とるの?
そういうのが気になってまた読みにきてしまった。
2007/10/21(日) 21:59 | URL | りょう #JnoDGgPo[ 編集]
 引っ越ししてから、初めての感想コメントです。
嬉しい♪ヾ(@^▽^@)ノ
この三人は、きっとさやかが成長すれば
また、続きを書きたいなぁって思っています。
でも、さやかは、なんとも成長が遅いもんで。(笑)
次回もコメント期待してまーす。m( __ __ )m
2007/08/21(火) 17:45 | URL | さやか #DS51.JUo[ 編集]
1から一気に読んじゃいました。
もっともっと続きを読んでみたいような・・・
この先どうなっちゃうんでしょうね^^
2007/08/20(月) 14:46 | URL | nao #mQop/nM.[ 編集]
淳一君がいちばん弱いときに側にいてくれたのは
各務さんだったんだ。でもそれって高原さまの手配だし…
o(・_・= ・_・)o この三人どうなっていくんだろう。
さやかさまは淳一君を普通の生活に戻してあげたいのかなぁ。
淳一君はきっと普通の生活に戻れそうな気がする。
でも各務さんはダメだろうな・・・。
だって高原さんの「もの」だもん。
次回は淳一君の気持ちがもっと知りたいな~と思いました。
(何気にリクエストしちゃいました!)
2006/10/02(月) 12:24 | URL | せつな #3/VKSDZ2[ 編集]
 何気にリクエストしないでください(泣)。
この三角関係とってもややこしくて・・・・。
次を書くときはもう、淳一は子供じゃないぞ!
だから、三年か、四年後だね!
・・・・・。
(墓穴掘ってる気がする。)
とにかく今回は完結したのですから
そこんとこ忘れないように。
淳一君については書くべきことは書きつくした。
わはははははははは(-^〇^-)
2006/10/02(月) 15:08 | URL | さやか #DS51.JUo[ 編集]
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