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1、第一主題

ここでは、「1、第一主題」 に関する記事を紹介しています。
「鞭で……打ってくれないか」
 搾り出すようなフランツ様の囁き声に驚いて弾かれたように振り向いてしまってから、内心、舌打ちしていた。さりげなく流すべきだったのだ。今の行動でフランツ様は余計に警戒してしまわれたに違いなかった。だが、フランツ様は目を逸らすことなく私の視線を受け止め、じっとみつめてこられる。瞳をちらちらと揺らす苦痛の色には、自分から鞭をと望まないといられない苦しさが滲み出ている。
「いったいどうなさったんです?」
 思わず尋ねてしまい、再び心の中で舌打ちする。すっかり無防備になっている自分の行動を呪いたいような気持ちだった。ふいっと、フランツ様は顔を背けてしまわれる。そして、その震える手を身体にまきつけるようにして自分自身を強く抱きしめるように力を込めておられた。伏せられたかげる瞳は、押し殺せない欲望をちらちらと覗かせておられるのが分かる。
「ただ、打たれたいだけだ……」
 こんな事を要求されるなんて、昨夜、陛下との間になにがあったのか。そう、昨夜、一晩中私の胸を苛んでいた妬心は押さえがたく、自分の言動の端々に滲んでいるのではないかと思うと、普段のようにおそばによることも出来ない。私が躊躇っているのに気が付いたのか、フランツ様はご自分から飾り棚の奥にかけてある鞭を取りに動かれてしまった。そうして私の逡巡を無視するようにベッドの脇で上着を脱ぎ始められた。
「フランツ様……陛下との間になにかあったのですか?私には打ち明けられないような事が?」
 今、一歩が踏み出せずにとまどう私に焦れたフランツ様は、日頃はしっかりと理性の下に隠しているめったに見せない高ぶった様子で、脱いだ上着を私に叩きつけるように投げつけられた。
「お前が打てないって言うのならならもういい!陛下の所へ行くまでだ。彼は本当のサディストだから、頼めば遠慮などせずに徹底的にやってくれる。私がそれこそぼろぼろになるまでに!」
 その瞬間、私の胸の中を毒を含んだ嫉妬の鋭い刃が切り裂き、強い痛みが走った。彼の苦痛に満ちた瞳が火を噴くように私に迫ってくる。私は、それを正面から受け止めながら、心の中で身もだえしていた。あなたって方は、こんなに傍にいてどうしてわからないんですか?私がこれほど必死になって押し殺しているこの気持ちを。あなたを貪り喰いたい。そう、傷つけ、引き裂き、血の滴るその肉を喰らいたい。その暗く激しく血の匂いのするそれでいて甘い、私の理性を蝕み突き動かすこの衝動を……。
 激しく肩で息を継ぎながら、きつくきつく拳を握りしめて睨みつけている彼を見ていると、どうしようもない衝動に身を任せたくなってしまう。落ち着け。これに任せたら負けだ。本当にあの人を引き裂いてしまう。いや、だめだ。もう、押さえられない。あの人が欲しい。




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