「たとえば、今ここでわたしの靴を舐めてと言ったら…瑞季の彼は出来るかしら」
びっくりした様子で瑞季は僕を振り返った。そんな事を提案されるなんて考えてもみなかったんだろう。何しろ、三人がいる場所はホテルのロビーに備え付けの休憩のためのソファのひとつで、その目の前を何人もの客やボーイが常に行きかっている場所だったからだ。だが、この女性が目論んでいるのは、人目を気にして、もしくは、瑞季以外の女性にそれはできないと僕が二の足を踏むだろうという事実を露呈させる事なのだった。
ここで、躊躇ったり間を置いたりして、この女性を喜ばせたくない。その負けん気が僕を、突き動かし、僕は即座に立ち上がると女性の前に跪いた。恭しい手つきで相手が組んだ脚の片方のくるぶしを支えて顔を差し伸べて靴先にキスしようとした。
途端に瑞季が手を伸ばしてきて靴にかけていた僕の手を強く打った。
「東野。やめて」
嬉しそうに三日月の形に唇を吊り上げていた女性は、急いで脚を引っ込めながら驚いたように瑞季を見上げた。瑞季は、立ち上がって忌々しそうに、固まってしまった私達を見下ろしていた。
「私は彼にそれをさせるつもりは無いわ。私は、彼にしつけや服従が必要だとは考えてないの」
途端に、女性の眉が釣りあがり、口元が嘲るように歪む。
「あら、瑞季。あなたらしくもないのね。あんなにたくさんの男たちに這い蹲らせて泣き喚かせて懇願させながら、顔色ひとつ変えずにさんざん酷い事していた人が、自分の恋人は大事にしまいこんでおくつもりなの?きちんとしつけてみんなに披露する自信が無いのかしら。それとも、それほどは愛されていないという事なのかしらね」
「なんとでもおっしゃって。東野、立ちなさい。行くわよ」
取り付くしまもない様子で瑞季がきびすを返してエレベーターの方へ歩き出した。僕は、ゆっくりと立ち上がると膝を形だけ払い、黙ったまま相手の女性に会釈して瑞季の後を追いかけた。結局、僕は女性の靴に唇を触れさせることはなかった。
人前で、いや、それよりも愛する人の前で他人の靴を舐めるなんてことが本当に出来たのかそれとも出来なかったのか、自分に問いかけても分からない。瑞季がそうしろと言えば、何の苦も無く出来るような気もしたが、それだって推察の域を出ないままだった。
僕が躊躇わずに女性の前に膝を付くことができたのは、悔しさと、相手を喜ばせてなるものかという負けん気から出たものに過ぎなかった。女性が指摘したように相手の女性や何よりも瑞季を喜ばせる事を第一に考えての行動ではなかった。だから、瑞季は怒ったのだろうか。だが、女性の靴を舐める事の出来なかった僕は、結局は出来損ないの奴隷として女性からは侮られてしまっただろうし、それは、瑞季の立場を貶めることなのだと考えると、瑞季の満足のいくように振舞えなかった事に対する苛立ちが込み上げてくるのだった。
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びっくりした様子で瑞季は僕を振り返った。そんな事を提案されるなんて考えてもみなかったんだろう。何しろ、三人がいる場所はホテルのロビーに備え付けの休憩のためのソファのひとつで、その目の前を何人もの客やボーイが常に行きかっている場所だったからだ。だが、この女性が目論んでいるのは、人目を気にして、もしくは、瑞季以外の女性にそれはできないと僕が二の足を踏むだろうという事実を露呈させる事なのだった。
ここで、躊躇ったり間を置いたりして、この女性を喜ばせたくない。その負けん気が僕を、突き動かし、僕は即座に立ち上がると女性の前に跪いた。恭しい手つきで相手が組んだ脚の片方のくるぶしを支えて顔を差し伸べて靴先にキスしようとした。
途端に瑞季が手を伸ばしてきて靴にかけていた僕の手を強く打った。
「東野。やめて」
嬉しそうに三日月の形に唇を吊り上げていた女性は、急いで脚を引っ込めながら驚いたように瑞季を見上げた。瑞季は、立ち上がって忌々しそうに、固まってしまった私達を見下ろしていた。
「私は彼にそれをさせるつもりは無いわ。私は、彼にしつけや服従が必要だとは考えてないの」
途端に、女性の眉が釣りあがり、口元が嘲るように歪む。
「あら、瑞季。あなたらしくもないのね。あんなにたくさんの男たちに這い蹲らせて泣き喚かせて懇願させながら、顔色ひとつ変えずにさんざん酷い事していた人が、自分の恋人は大事にしまいこんでおくつもりなの?きちんとしつけてみんなに披露する自信が無いのかしら。それとも、それほどは愛されていないという事なのかしらね」
「なんとでもおっしゃって。東野、立ちなさい。行くわよ」
取り付くしまもない様子で瑞季がきびすを返してエレベーターの方へ歩き出した。僕は、ゆっくりと立ち上がると膝を形だけ払い、黙ったまま相手の女性に会釈して瑞季の後を追いかけた。結局、僕は女性の靴に唇を触れさせることはなかった。
人前で、いや、それよりも愛する人の前で他人の靴を舐めるなんてことが本当に出来たのかそれとも出来なかったのか、自分に問いかけても分からない。瑞季がそうしろと言えば、何の苦も無く出来るような気もしたが、それだって推察の域を出ないままだった。
僕が躊躇わずに女性の前に膝を付くことができたのは、悔しさと、相手を喜ばせてなるものかという負けん気から出たものに過ぎなかった。女性が指摘したように相手の女性や何よりも瑞季を喜ばせる事を第一に考えての行動ではなかった。だから、瑞季は怒ったのだろうか。だが、女性の靴を舐める事の出来なかった僕は、結局は出来損ないの奴隷として女性からは侮られてしまっただろうし、それは、瑞季の立場を貶めることなのだと考えると、瑞季の満足のいくように振舞えなかった事に対する苛立ちが込み上げてくるのだった。
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この記事へのコメント
うん、多分ね。
東野はさやかの作ったお気に入りのキャラの中では
ただ一人のノーマルキャラかも。
瑞季のために始めた物語だから、
東野の都合は全く考えずに好き放題させてもらってたら
いったいなんでこんな男になったのか・・・・
自分でもよく分からない動きをする男になってる。
普段は瑞季のためにじっと耐えてる奴だけど
多分、さやかの手には負えないかも。
ずっと、うだうだ悩んでる所しか見てないけど
決心したら、ぽんと飛びそうで
ま、そういう意味では将来は有望株なのであります。
絶対に瑞季を幸せにしてくれるだろうからね。
東野はさやかの作ったお気に入りのキャラの中では
ただ一人のノーマルキャラかも。
瑞季のために始めた物語だから、
東野の都合は全く考えずに好き放題させてもらってたら
いったいなんでこんな男になったのか・・・・
自分でもよく分からない動きをする男になってる。
普段は瑞季のためにじっと耐えてる奴だけど
多分、さやかの手には負えないかも。
ずっと、うだうだ悩んでる所しか見てないけど
決心したら、ぽんと飛びそうで
ま、そういう意味では将来は有望株なのであります。
絶対に瑞季を幸せにしてくれるだろうからね。
もしせつなが、東野だったら出来ない。
自分の主人以外の足元には跪けない。
跪くことが主人の面目を立てることだと分かっていても…
「こんな屈辱的なことは主人以外からは受け入れられない」
とハッキリこの女王様に言うと思う…ハッキリ自己主張することで
自分の主人の面目を立てようとするかも。(逆効果ですねvv)
でも東野は瑞季のために跪いた。
この女王様への服従のために跪いたのではなく瑞季の面目を立てるために跪いたんだろーなってせつなは思いました。
東野は強いからできるんだ。瑣末なプライドなんて拘らないんだ。
自分の主人以外の足元には跪けない。
跪くことが主人の面目を立てることだと分かっていても…
「こんな屈辱的なことは主人以外からは受け入れられない」
とハッキリこの女王様に言うと思う…ハッキリ自己主張することで
自分の主人の面目を立てようとするかも。(逆効果ですねvv)
でも東野は瑞季のために跪いた。
この女王様への服従のために跪いたのではなく瑞季の面目を立てるために跪いたんだろーなってせつなは思いました。
東野は強いからできるんだ。瑣末なプライドなんて拘らないんだ。
2006/12/24(日) 04:29 | URL | せつな #3/VKSDZ2[ 編集]