彼女は目を見開いたまま、僕を声も無く見つめている。ごくりとその喉が鳴り、彼女が覚束ない情報を繰り合わせて、そのシーンを想像している事が分かった。慣れ親しんで、彼女に対してあまり感じなくなっていた、最初の頃の羞恥が蘇ってきて、僕はいたたまれなさに身じろぎする。
彼女は寝室からゆっくりとこちらの部屋の中へ入ってきた。その移動をじっとみつめていた僕の視線も彼女と共に移動し、やがて床の上を這い、窓際に置かれた贅沢なロココ様式の寝椅子へ突き当たった。
彼女は優雅なしぐさでスカートを広げそこに座った。斜めにながした脚の膝のうえにちょこんと揃えられた白いしなやかな掌。まっすぐに伸びた背筋と少しだけ傾げられた首。パッチリと見開かれ、物問いたげに向けられる瞳はなんの躊躇いも無くまっすぐに僕をみつめてくる。
「どんなことするの?」
不意を付かれてうろたえた。顔がかあっと熱くなって上気したのが分かった。彼女にも分かっただろう。眉がほんの少し上がり、傾げられた首の角度が深くなる。それが、一層の羞恥を呼び覚まして、僕は彼女と視線を合わせていられなくなって、急いでそれを逸らした。
その先に壁一面の鏡が曇りひとつ無く磨き上げられて僕の視線を待っていた。鏡の中に真っ赤になった自分の姿が映っている。そして、不思議そうにみつめてくる彼女の姿も。
目を閉じて、その視線を閉め出した。大きく息を吸って、呼吸を整える。落ち着くんだ。相手は瑞季なんだぞ。恥ずかしがる必要がどこにあるんだ。
いくら、言い聞かせてみても、羞恥は去っていかなかった。だが、彼女はじっと待っている。ここで、逃げ出す事になんの意味があるんだろう?それとも、恥ずかしさを堪えて、すべてをうちあける事に何の意味があるのかというべきなのか。いや、意味はある。1メーターの距離を越える事のできるただひとつの方法。
「服を脱ぐ……。あなたの前で」
迷いを振り捨てて、説明を始める。どう表現するのがいいのか、全く見当も付かなかった。
「全部?」
「ええ、全部です」
「恥ずかしくないの?」
「恥ずかしいですよ」
瑞季は、僕の顔をじっと見つめていた。見られている事を意識すればするほど、羞恥心が強く湧き上がってくる。我ながらどうしようもなかった。
「それから?」
「ああ、それから……」
それから?それからどうしたっけ?日々違う行為を説明するのにどうすればいいのだろう?そう、初めての時、彼女は僕に、自慰を命じた。
「たとえば、自分で自分を慰める」
顔を上げると、面白そうに目だけが笑っている瑞季の顔とまともに視線が合ってしまった。僕は、その目をしっかりと見つめ返す。瑞季。瑞季。そこにいるんだろう?いるといってくれないか?
「オナニーするのね」
「そうです」
「それから?」
それから……。
僕の思考は、過去に繰り返された行為の上を彷徨う。彼女の前で何をした?服を脱いで、全裸になって、自分の手をその屹立に這わせて、擦って昂らせる。
「あなたは逝く事を許してくれない」
「ふうん…」
「だから、直前で、ぎゅっと握りしめて…逝くのを堪えるんです」
「苦しくないの?」
「苦しいですよ」
「……そうされるといいの?」
え?彼女が訊いた事が自分の脳に沁み込み、染み渡り、理解できるまで数秒を要した。いいって。いいんだろうか。それは、彼女が望んでいるから。彼女に命令されたから。彼女に求められた行為だから。はっきり言って鞭で打たれるほうがずっとましなような気がしていた。何度も何度も繰り返される射精の直前で停止される快楽の高まりは、苦しみと焦燥の方が強い……。
そうだろうか。本当にそこにあるのは苦しみだけなのか。彼女の前で自分のすべてをさらけ出し、快楽と苦しみの狭間で身もだえするしかない自分を見せるのは、彼女のためだけだったのだろうか。自分の欲望や、自分の欲求はひとつも無かったと嘘偽り無く言えるのだろうか。
彼女に見つめられること。求められる事。愛されている事を確認する事。彼女を満足させる事。彼女を喜ばせる事。弱い自分を隠さない事。それを認めてもらう事。ぎりぎりの苦痛を、ぎりぎりの苦しみを彼女に捧げる事。
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彼女は寝室からゆっくりとこちらの部屋の中へ入ってきた。その移動をじっとみつめていた僕の視線も彼女と共に移動し、やがて床の上を這い、窓際に置かれた贅沢なロココ様式の寝椅子へ突き当たった。
彼女は優雅なしぐさでスカートを広げそこに座った。斜めにながした脚の膝のうえにちょこんと揃えられた白いしなやかな掌。まっすぐに伸びた背筋と少しだけ傾げられた首。パッチリと見開かれ、物問いたげに向けられる瞳はなんの躊躇いも無くまっすぐに僕をみつめてくる。
「どんなことするの?」
不意を付かれてうろたえた。顔がかあっと熱くなって上気したのが分かった。彼女にも分かっただろう。眉がほんの少し上がり、傾げられた首の角度が深くなる。それが、一層の羞恥を呼び覚まして、僕は彼女と視線を合わせていられなくなって、急いでそれを逸らした。
その先に壁一面の鏡が曇りひとつ無く磨き上げられて僕の視線を待っていた。鏡の中に真っ赤になった自分の姿が映っている。そして、不思議そうにみつめてくる彼女の姿も。
目を閉じて、その視線を閉め出した。大きく息を吸って、呼吸を整える。落ち着くんだ。相手は瑞季なんだぞ。恥ずかしがる必要がどこにあるんだ。
いくら、言い聞かせてみても、羞恥は去っていかなかった。だが、彼女はじっと待っている。ここで、逃げ出す事になんの意味があるんだろう?それとも、恥ずかしさを堪えて、すべてをうちあける事に何の意味があるのかというべきなのか。いや、意味はある。1メーターの距離を越える事のできるただひとつの方法。
「服を脱ぐ……。あなたの前で」
迷いを振り捨てて、説明を始める。どう表現するのがいいのか、全く見当も付かなかった。
「全部?」
「ええ、全部です」
「恥ずかしくないの?」
「恥ずかしいですよ」
瑞季は、僕の顔をじっと見つめていた。見られている事を意識すればするほど、羞恥心が強く湧き上がってくる。我ながらどうしようもなかった。
「それから?」
「ああ、それから……」
それから?それからどうしたっけ?日々違う行為を説明するのにどうすればいいのだろう?そう、初めての時、彼女は僕に、自慰を命じた。
「たとえば、自分で自分を慰める」
顔を上げると、面白そうに目だけが笑っている瑞季の顔とまともに視線が合ってしまった。僕は、その目をしっかりと見つめ返す。瑞季。瑞季。そこにいるんだろう?いるといってくれないか?
「オナニーするのね」
「そうです」
「それから?」
それから……。
僕の思考は、過去に繰り返された行為の上を彷徨う。彼女の前で何をした?服を脱いで、全裸になって、自分の手をその屹立に這わせて、擦って昂らせる。
「あなたは逝く事を許してくれない」
「ふうん…」
「だから、直前で、ぎゅっと握りしめて…逝くのを堪えるんです」
「苦しくないの?」
「苦しいですよ」
「……そうされるといいの?」
え?彼女が訊いた事が自分の脳に沁み込み、染み渡り、理解できるまで数秒を要した。いいって。いいんだろうか。それは、彼女が望んでいるから。彼女に命令されたから。彼女に求められた行為だから。はっきり言って鞭で打たれるほうがずっとましなような気がしていた。何度も何度も繰り返される射精の直前で停止される快楽の高まりは、苦しみと焦燥の方が強い……。
そうだろうか。本当にそこにあるのは苦しみだけなのか。彼女の前で自分のすべてをさらけ出し、快楽と苦しみの狭間で身もだえするしかない自分を見せるのは、彼女のためだけだったのだろうか。自分の欲望や、自分の欲求はひとつも無かったと嘘偽り無く言えるのだろうか。
彼女に見つめられること。求められる事。愛されている事を確認する事。彼女を満足させる事。彼女を喜ばせる事。弱い自分を隠さない事。それを認めてもらう事。ぎりぎりの苦痛を、ぎりぎりの苦しみを彼女に捧げる事。
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この記事へのコメント
ノーマルの東野がノーマルなままで化けるのを待ってるさやか。
決して、彼にMになるという
簡単であまりにも楽な選択はさせたくないのです。
しかし、どこかで化けてくれないと・・・。
今のままでは、ナンバーワンの座は
他のキャラに取られかねないぞ!
頑張れ、東野。階段、ひとつ昇るんだぁ!
(無責任なさやか・・・・。)
決して、彼にMになるという
簡単であまりにも楽な選択はさせたくないのです。
しかし、どこかで化けてくれないと・・・。
今のままでは、ナンバーワンの座は
他のキャラに取られかねないぞ!
頑張れ、東野。階段、ひとつ昇るんだぁ!
(無責任なさやか・・・・。)
わかるぅ東野さん!
ギリギリの感覚に耐えるって病みつきになる。
本格的なSM(適切な表現が見つからないので…コレで)を
したことがないせつなでも、普通のセックスってどんなのだっけ?
って思うのだ。
(゚∈゚*)どーやら東野さんはM的な役割を担うことに積極的になってる
ように思われる。フレーフレー♪
ギリギリの感覚に耐えるって病みつきになる。
本格的なSM(適切な表現が見つからないので…コレで)を
したことがないせつなでも、普通のセックスってどんなのだっけ?
って思うのだ。
(゚∈゚*)どーやら東野さんはM的な役割を担うことに積極的になってる
ように思われる。フレーフレー♪
2007/01/15(月) 14:32 | URL | せつな #3/VKSDZ2[ 編集]