「それからどうするの?」
「あなたは僕を枷に繋ぐ」
「鞭で打つために?」
「ええ、そう……」
逃げようが無く引き伸ばされた身体の、くぼみを乗馬鞭が這っていく様が蘇ってくる。
もう、どれだけの間、あの感覚を味わっていないのだろう。色が無くなり、周囲の音が消えて行く、身体の中の感覚だけを追うような、苦痛を待つ不思議な期待と不安の交じり合った瞬間。鞭の先の舌が身体を這い回る時の、苦痛の予感を上回る快感を。
身体中がむずむずと痺れ、叫びだしたくなるようなうねりが高まってくる。打たれることへの恐れよりも、苦痛への忌避よりも、ただ待ち焦がれる欲望よりも、帰結である強い痛みへの終着を待ち望む時間。
そして、鞭が振り下ろされ、焼け付くような痛みに身体が捻れる。
今、打たれたその場所を彼女が鞭で軽く叩く。もう一度この場所をこれから打つのだと予告するために。
……パン。……パン。………パン。……パン。…パン。……パン。パン。
間隔が縮まり、少しずつ打ちつける力が増して行く。その次の鞭の予告をじっと味わいながら、さっき与えられた痛みを反芻する。同じ場所を二度打たれると最初の時よりも痛い。その瞬間を息を詰めて待つ。いつ来るか分からない気まぐれな鞭を。
……パアアアアアァンン………。
乗馬鞭の音は、乾いていて鋭い。部屋に反響するその音と共に、身体を鋭く切り裂く熱い痛みに仰け反る。そしてまた同じことの繰り返し。三度目の鞭も同じ場所に来ると知った時の、暗い絶望と、繰り返される耐える気持ちを削いで行く様な予告に、思わず呻き声が洩れる。
……ピシャアアアアアァンン………。
痛みに噴出す汗に、鞭音が湿ってくる。歯を喰いしばり身をもがかせないと耐えられない苦痛。波状に襲ってくる、逃れたいと思う衝動を押さえつけながら、次の鞭が来るのをただじっと待つ。
「痛くないの?」
「ああ、痛いですよ」
「痛いのが好きなの?」
今度は、予感がしていたからうろたえずにすんだ。
「好きじゃありません」
瑞季は目を見開いて見せて、それから椅子に斜めに座りなおした。
「好きじゃないのにどうしてそんなことするの?」
「ああ…だって…」
あなたが望むから。
あなたが僕の苦痛を望むから。
僕は、チェーンブロックから手を離して、彼女の方へ近づいた。一歩一歩確かめるようにゆっくりと、そして寝椅子の背もたれに手を掛けて、彼女の顔を覗き込んだ。
「あなたはそれが好きでしょう?」
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