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15、重ねるのは身体・・・

ここでは、「15、重ねるのは身体・・・」 に関する記事を紹介しています。
 彼女が僕の唇を親指でそっと押して開かせる。頭が傾けられ、柔らかでぷっくりとした彼女の唇がそっと触れてくる。僕のずっと押さえつけてきた欲望が、彼女の唇にふれた瞬間強く膨れ上がってきた。僕は夢中で手を伸ばし彼女のうなじを押さえつけた。軽く合わさった彼女の唇を追い求め、深く口づける。乱暴とも言えるほどに強く彼女の身体を引き寄せて抱きしめた。
 彼女にフラッシュバックが起こって救急車を呼んだあの夜から、三ヶ月。行動しさえすれば抱きしめられる位置にいながら、決して触れられなかった彼女の身体が腕の中にあった。急激な墜落感覚と上昇感覚が入り混じって襲ってくる。むき出しの素肌に彼女の着ている服の布地が擦れ、自分が裸でいる事を思い出させる。理性をかき集め、無理矢理彼女から離れようとして、そのあまりの苦しさに呻いた。身体中の細胞が抑えがたく彼女を求めていた。
 まずい…残り少ない理性は点滅し、彼女から離れろと警報を鳴り響かせた。触れ合ってしまえば、もう止まらなくなるのは分かりきっているのだ。彼女の身体を押しやろうとした僕のその動きを捉えて、彼女は僕の手首を握るとぐいっと後ろに引いた。
 思いがけない彼女の動きに足がもつれて二人して寝椅子の上に倒れこんだ。結果として彼女を下敷きにしてしまい、その事に驚いて、僕が腕を突っ張って身体を起こそうとすると、その背中に彼女の手が廻されて僕が起き上がるのを引きとめようとするのが分かった。暖かく瑞々しい瑞季の唇が、吸い付くように押しつけられ、舌先が舌先をかすめていく。
 驚きが僕の混乱と暴走しかけていた欲望を一瞬吹き払った。
 目を見張った僕は、彼女の顔を覗き込み、彼女の考えている事を、彼女の表情から読み取ろうとした。
 そうして、反対に、瑞季の真剣な瞳が、僕の考えている事を読み取ろうとしてまっすぐに注がれているのにぶつかった
「私達、セックスしていたのよね?」
 ひっぱたかれたようなショックを受けてたじろいだ。そうして、ショックを受ける自分に戸惑う。この質問を予想していた?それとも予想しなかった?体が溶け合うほどに抱きしめあって、深いキスを交わした後に、セックスしていたか聞かれる事を?もう、逃げようがない。彼女の方が一枚上手。惚れ込みすぎた僕は、決して彼女に勝つ事ができない。
「ええ」
「……」
 彼女が、取り込んだ情報を消化しようと、思考を巡らせている間、彼女の身体に体重を掛けない様に注意しながら、背もたれに腕を掛けて彼女の上から身体をずらした。自分の中で渦巻いていたどうしょうもない葛藤が、一瞬にして氷解し流れ出していくのを感じながら……。伝えなければいけないことは伝え、彼女はそれを受け入れようとしていた。
「なんで早く教えてくれないかな」
 当たり前のように、普段のままの声だった。
「ベッドに行かない?」
「え?」
「ここじゃ、セックスしにくいし……」
「今からですか?」
「だって、和希はもう服も脱いでいるんだから……構わないでしょ」
「いや、でも……でも、瑞季は、まだ僕との事を、思い出してないんでしょう?」
 瑞季は、不審そうな顔で僕をまじまじと見る。
「思い出してないと、セックスできないの?」
「いえ、僕は…」
 馬鹿げたこだわりが、僕を彼女に触れるのを引き止めているのは分かっている。僕は、彼女に愛してもいない男と寝て欲しくないのだ。その相手がたとえ僕だとしても。
「和希って…」
 くすくす…彼女が声を殺して笑ったのが分かった。僕は、覚悟を決めて起き上がり、彼女を引き起こした。
 寝室へ戻ると、スイッチを押して、2つの部屋の電動の格納扉を閉じた。部屋の隅の小さなオレンジ色の照明を残して、すべての電気を消す。ベッドの上に座って、ワンピースを自分で脱ぎ始めた彼女の横に滑り込んだ時、彼女は足の方からドレスを抜き取ると、僕の方へ向き直った。
「思い出してなくてもいいわ。今の私が、和希を好きだから」

 思い出さなくても、忘れてしまっていても、好きよ。和希が好き。たとえ生まれ変わって来ても、別の人生を送っていても、必ず私はあなたを好きになるでしょう。私がたとえ消えてしまっても、私が私で無くなったとしても、あなたがずっと私を忘れないでいてくれるように。私は、繰り返し、あなたを見つける。月のない夜に道を見失っても……必ずあなたという星を見つけてみせる。
 ただ一言で、瑞季は、僕にその全てを伝えた。そうして、僕は彼女を僕の腕の中に取り戻した。






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