身体に訊くという約束だったから、志方は、ベッドへ移って仕切りなおすことにした。風呂の中で分け合った異様な興奮状態は、射精とともにすっかり抜け落ちてしまったとは云え、何もなかったように日常に戻っていくのも居心地が悪い。間を置かないで、ちゃっちゃと済ましてしまおう・・・。志方の気分としてはその程度だったが、晃はどうだったんだろう?
だが、もう一度、腹にしまい込むのは無理なのは晃のほうだっただろう。すっかり乾いたお互いの肌をぴったりと重ね合ってはいても、話さなければ何も分からないのはお互いさまだった。
・・・・去年の夏に、一人で海に行って・・・やっぱり同じように、あんな感じで身体を洗って拭ってた時に、誰とも分からない奴に車の中に押し込まれて犯られた事がある。
顔もよく見る暇もないうちにさ・・・・。乱暴に押し倒されて、抵抗しようとしたら殴られた。腕を捻じり上げられて、縛られて・・・。押さえつけて手を突っ込まれた。
知らない奴だからっていうよりも、あまりの性急さと乱暴さに驚いて、そのやり方にかっとなって、反射的に暴れたんだけど、それがいけなかったのかなぁ。手加減なしに何度も殴られるし、痣になるほど手酷く押さえつけられるし、縛っただけじゃなくって、タオルを口に突っ込まれて上から猿轡みたいなのかけられるわ、なんなのか分からない物で目隠しされるわ。もう、後ろ手に縄を掛けられてるから、出来る事ってもがいたり、足を使ったり、はねのけようとすることぐらいだろう?向こうは、それがうざかったのか、乱暴に押さえつけて、膝のあたりにも・・・なんか、縄みたいなものをひっかけてさあ・・・ヘッドレスト辺りに結び付けられてぐるりと胴に回してから、反対の膝にも・・・。
そうすると、もがくと腹に巻きつけられた縄が締まって苦しいんだ。無理な体勢になってて、それだけで痛いのに男の体重で乗っかられると、なんか関節にもろ体重がかかって、こっちは悲鳴をあげるんだけど、タオルのせいで声にならないし、文句も言えないし、息をするのも苦しくって・・・・。で、仕方なく、おとなしくするしかないか、って・・・。
そしたら、相手もはあはあ言いながら、じっと見てるんだよ。動けないで、でも、なんかじっとしてられない俺がもぞもぞするのを、黙あってはあはあ喘ぎながら。
それまでは、頭来てたから、怒りの方が強かったのに、その瞬間に、なんか、モロ「変態」って感じで、ぞおっとしたんだ。嫌悪感に鳥肌が立ってくる感じ。そしたら、相手が触れてきた。もう、ゲロしちゃいそうに嫌な気分で、でも、どうしようもなくって・・・しかも、無防備な男の急所を、そんな変態に握られても逃げようがないんだ。
で、嬲られて、唾つけて、手を突っ込んでこられて・・・痛いし、気持ち悪いし、身体は反射的に逃げようと仰け反るのに、縄が締まって逃げようがなくって・・・準備もろくに出来てないのに乗っかってこられて、押し入ってこられて、そいつの汗ばんだ肌が気持ち悪くって、いやな匂いが・・・・はあはあって息を吹きかけられる度にそいつの口臭が・・・
逃げられない。痛い。嫌だ。嫌だ。嫌だ・・・・
それなのに・・・・
それなのに・・・・
なんだ・・・・これ・・・・
「ほんとに嫌だったんだ。だけど、身体は反応した・・・。」
志方は、考え込んだ。自分だったらどうだろう。よく、そういうことの願望とか、男の幻想であげつらうことがあるけれど、実際に直面してみたら男だろうと女だろうと、関係なくそりゃ厭だろう。だからって、直接的に刺激されたら、反応しないで済むっていう自信はまったくない。
「生身なんだし、誰だってそうさ。だからって、被虐趣味があるとは限らないだろう。」
「そうだけど・・・。」
志方は、晃の額にうっすらと冷や汗が浮いているのを認めた。そっと手を伸ばして、拭ってやる。両腕で身体を抱きしめた、晃が、かすかに震えているのが分かった。
「その後から、夢を見るんだ。その時の夢じゃない。ただ、無理やり、犯られる夢。」
そして、苦しそうに彼は眉を寄せると、首を振った。
「すごく、嫌なんだ。ぞっとする。」
「・・・なのに、・・・なのに。」
ゆっくりと一度目を閉じて、それから、またゆっくりと開く・・・。
「身体は勃ってる。興奮してるんだ。」
一瞬泣きそうに歪んだ表情が、あっという間に普段の彼の整った仮面に吸い込まれた。
「もう一度、犯されたいとか思ってるわけじゃないんだ。あの車の中に充満した、やられちゃった時のあいつの匂いとか・・・ほんと、もう思い出すだけでも嫌だったし。だから、結局、あの車にも乗るのが厭になって、売ってしまったし。いや、だからってさぁ・・・おぼこじゃないんだから、ちょっと無理やりされたからって、その事が忘れられないとか、夢に見ちゃうとかなんて変だろ?」
「変だとは思わないけどな。」
「変だよ・・・だって、男のくせにさぁ。」
「納得できないでいるくせに、無理やり蓋をするから、整理できないままに忘れられなくなってるんじゃないのか?」
「分からない・・・。自分が何を感じてるのか・・・何を考えてるのか・・・どうしたのか分からないんだ。」

しばらくの沈黙の後、それを振り払うかのように晃は顔をあげた。
「だから、やってみれば、分かるかなと思ったんだ。・・・けど。どうしたらいいか分からなくて・・。」
なにを、やってみるなのか一瞬、話の流れを見失った志方は、腑に落ちたとたんに、げんなりするような、安心したような、笑い出したいような混乱に襲われてしまった。
「・・・おまっ、だからって、俺を縛ってどうするんだ。」
「よくなかった?」
「違うって、お前、反対なんじゃないか?」
「え?」
「俺を縛るんじゃなくってさぁ。」
頭がくらくらしてきた志方は、自分の額を押さえた。ほんとに、よく分かってないような、ぽかんとした晃の表情に、志方は「こいつ、ぜってぇ、Mでも、Sでもないんじゃないか。」と、ぶつぶつ思わずにはいられなかった。確かに、時々、自暴自棄なのか、考えなしなのか、分からない行動を取る奴だとは思っていたが、それが、嗜好の結果だとはとても思えない、いいかげんさだった。
「縛ってやっても、やられても、俺は、気にしないけどさ。お前、どっちの方が好みかちっとは考えてくれよ。第一、よくなかったかって、俺を縛った上に俺の反応を考えてどうするんだ。」
長い長い沈黙が続いて一層、志方を脱力に誘う。
「あ・・・、そうか。」
本気でお馬鹿な奴・・・志方は心底呆れて首を振った。仕事をやらせたらすごく切れるし、先へ先へと読んで先手先手を打って驚くべき成果を引き出す事のできる実力の持ち主だから、頭がいいと思っていたのは、勘違いだったのかもしれない。
だが、びっくりしたように、見つめてくる彼の瞳を見ていると、何を考えているのか分からない普段の彼よりもずっと可愛く、何でもしてやりたい、悩みがあるのなら、消し去ってやりたい・・・と、思わずにはいられないものがあった。
俺、ほんとに惚れてるのかなぁ。志方は、半分、諦めモードで自分に問いかけてみた。嗜好がどうとか、やりたいとか、やられたいとか、そんな事抜きでも、相手のためなら何でもしてやりたいような気がする。今までに、感じたことの無い保護欲のようなものに、志方としては、ただただ、ため息を付くしかないのだった。
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だが、もう一度、腹にしまい込むのは無理なのは晃のほうだっただろう。すっかり乾いたお互いの肌をぴったりと重ね合ってはいても、話さなければ何も分からないのはお互いさまだった。
・・・・去年の夏に、一人で海に行って・・・やっぱり同じように、あんな感じで身体を洗って拭ってた時に、誰とも分からない奴に車の中に押し込まれて犯られた事がある。
顔もよく見る暇もないうちにさ・・・・。乱暴に押し倒されて、抵抗しようとしたら殴られた。腕を捻じり上げられて、縛られて・・・。押さえつけて手を突っ込まれた。
知らない奴だからっていうよりも、あまりの性急さと乱暴さに驚いて、そのやり方にかっとなって、反射的に暴れたんだけど、それがいけなかったのかなぁ。手加減なしに何度も殴られるし、痣になるほど手酷く押さえつけられるし、縛っただけじゃなくって、タオルを口に突っ込まれて上から猿轡みたいなのかけられるわ、なんなのか分からない物で目隠しされるわ。もう、後ろ手に縄を掛けられてるから、出来る事ってもがいたり、足を使ったり、はねのけようとすることぐらいだろう?向こうは、それがうざかったのか、乱暴に押さえつけて、膝のあたりにも・・・なんか、縄みたいなものをひっかけてさあ・・・ヘッドレスト辺りに結び付けられてぐるりと胴に回してから、反対の膝にも・・・。
そうすると、もがくと腹に巻きつけられた縄が締まって苦しいんだ。無理な体勢になってて、それだけで痛いのに男の体重で乗っかられると、なんか関節にもろ体重がかかって、こっちは悲鳴をあげるんだけど、タオルのせいで声にならないし、文句も言えないし、息をするのも苦しくって・・・・。で、仕方なく、おとなしくするしかないか、って・・・。
そしたら、相手もはあはあ言いながら、じっと見てるんだよ。動けないで、でも、なんかじっとしてられない俺がもぞもぞするのを、黙あってはあはあ喘ぎながら。
それまでは、頭来てたから、怒りの方が強かったのに、その瞬間に、なんか、モロ「変態」って感じで、ぞおっとしたんだ。嫌悪感に鳥肌が立ってくる感じ。そしたら、相手が触れてきた。もう、ゲロしちゃいそうに嫌な気分で、でも、どうしようもなくって・・・しかも、無防備な男の急所を、そんな変態に握られても逃げようがないんだ。
で、嬲られて、唾つけて、手を突っ込んでこられて・・・痛いし、気持ち悪いし、身体は反射的に逃げようと仰け反るのに、縄が締まって逃げようがなくって・・・準備もろくに出来てないのに乗っかってこられて、押し入ってこられて、そいつの汗ばんだ肌が気持ち悪くって、いやな匂いが・・・・はあはあって息を吹きかけられる度にそいつの口臭が・・・
逃げられない。痛い。嫌だ。嫌だ。嫌だ・・・・
それなのに・・・・
それなのに・・・・
なんだ・・・・これ・・・・
「ほんとに嫌だったんだ。だけど、身体は反応した・・・。」
志方は、考え込んだ。自分だったらどうだろう。よく、そういうことの願望とか、男の幻想であげつらうことがあるけれど、実際に直面してみたら男だろうと女だろうと、関係なくそりゃ厭だろう。だからって、直接的に刺激されたら、反応しないで済むっていう自信はまったくない。
「生身なんだし、誰だってそうさ。だからって、被虐趣味があるとは限らないだろう。」
「そうだけど・・・。」
志方は、晃の額にうっすらと冷や汗が浮いているのを認めた。そっと手を伸ばして、拭ってやる。両腕で身体を抱きしめた、晃が、かすかに震えているのが分かった。
「その後から、夢を見るんだ。その時の夢じゃない。ただ、無理やり、犯られる夢。」
そして、苦しそうに彼は眉を寄せると、首を振った。
「すごく、嫌なんだ。ぞっとする。」
「・・・なのに、・・・なのに。」
ゆっくりと一度目を閉じて、それから、またゆっくりと開く・・・。
「身体は勃ってる。興奮してるんだ。」
一瞬泣きそうに歪んだ表情が、あっという間に普段の彼の整った仮面に吸い込まれた。
「もう一度、犯されたいとか思ってるわけじゃないんだ。あの車の中に充満した、やられちゃった時のあいつの匂いとか・・・ほんと、もう思い出すだけでも嫌だったし。だから、結局、あの車にも乗るのが厭になって、売ってしまったし。いや、だからってさぁ・・・おぼこじゃないんだから、ちょっと無理やりされたからって、その事が忘れられないとか、夢に見ちゃうとかなんて変だろ?」
「変だとは思わないけどな。」
「変だよ・・・だって、男のくせにさぁ。」
「納得できないでいるくせに、無理やり蓋をするから、整理できないままに忘れられなくなってるんじゃないのか?」
「分からない・・・。自分が何を感じてるのか・・・何を考えてるのか・・・どうしたのか分からないんだ。」

しばらくの沈黙の後、それを振り払うかのように晃は顔をあげた。
「だから、やってみれば、分かるかなと思ったんだ。・・・けど。どうしたらいいか分からなくて・・。」
なにを、やってみるなのか一瞬、話の流れを見失った志方は、腑に落ちたとたんに、げんなりするような、安心したような、笑い出したいような混乱に襲われてしまった。
「・・・おまっ、だからって、俺を縛ってどうするんだ。」
「よくなかった?」
「違うって、お前、反対なんじゃないか?」
「え?」
「俺を縛るんじゃなくってさぁ。」
頭がくらくらしてきた志方は、自分の額を押さえた。ほんとに、よく分かってないような、ぽかんとした晃の表情に、志方は「こいつ、ぜってぇ、Mでも、Sでもないんじゃないか。」と、ぶつぶつ思わずにはいられなかった。確かに、時々、自暴自棄なのか、考えなしなのか、分からない行動を取る奴だとは思っていたが、それが、嗜好の結果だとはとても思えない、いいかげんさだった。
「縛ってやっても、やられても、俺は、気にしないけどさ。お前、どっちの方が好みかちっとは考えてくれよ。第一、よくなかったかって、俺を縛った上に俺の反応を考えてどうするんだ。」
長い長い沈黙が続いて一層、志方を脱力に誘う。
「あ・・・、そうか。」
本気でお馬鹿な奴・・・志方は心底呆れて首を振った。仕事をやらせたらすごく切れるし、先へ先へと読んで先手先手を打って驚くべき成果を引き出す事のできる実力の持ち主だから、頭がいいと思っていたのは、勘違いだったのかもしれない。
だが、びっくりしたように、見つめてくる彼の瞳を見ていると、何を考えているのか分からない普段の彼よりもずっと可愛く、何でもしてやりたい、悩みがあるのなら、消し去ってやりたい・・・と、思わずにはいられないものがあった。
俺、ほんとに惚れてるのかなぁ。志方は、半分、諦めモードで自分に問いかけてみた。嗜好がどうとか、やりたいとか、やられたいとか、そんな事抜きでも、相手のためなら何でもしてやりたいような気がする。今までに、感じたことの無い保護欲のようなものに、志方としては、ただただ、ため息を付くしかないのだった。
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