頭の中でこうだろうと想像することと、実際にそうなってみる事には、隔たりがある。
動けないという事。抵抗できないという事。腕の介添えのない身体の重たさ、そして、思い通りにならない事。ただ、まっすぐ立っていることすら危なっかしい。踏みとどまろうと踏ん張る晃の胸を志方の掌が突いた。晃の身体は、あっけなく、ベッドへ向かって放物線を描いて倒れていく。逆らいようもなく、かばいようもなく、ただ、落下物になって落ちて行く。
ベッドにぶつかる直前に、志方の手が背中に回った縄を掴んで引き戻す。体重と動きの反動が、ぶつかるように身体に響き、晃の頭はぐらぐらと揺れた。つかんだ縄を、引っ張って、振り回され浮き上がったその身体は、空中に弾んで、一度、停まった。それから、もう一度突き放される。まるで、洗濯機の中に入れられ、振り回されて、洗濯槽に、ごとごとぶつかるたスニーカーのように。
肺に溜まった空気が、押し出され、そして、慌てて吸い込まれるひゅうっと言う音を晃は自分の耳で聞いた。押しつぶされた手首に、自分の体重がかかり、痛みに、晃は顔をしかめる。
止まっていた時が動きだし、晃は、ようやく、不自由な息を吸い込んだ。それから、肩を喘がせながら、見下ろす志方を見つめ返した。
何度か、息を吸い込んで、吐きだしてを繰り返し、新しい麻縄の香りと、自分の体臭が混じり合った香りを深く吸い込んだ。目を閉じて、それから、耳をすまして。自分の呼吸音を聞く。そして、縄が、きゅうきゅうと、なる音を・・・・。
「・・・随分、乱暴じゃないか。」
淫靡とか、縄酔いとか、響きだけは綺麗な「緊縛」とかいうものを、想像していた晃は、志方の仕様にちょっと、笑った。
「だったら、どうして欲しかったんだ?」
志方の声もわずかに笑いを含んでいた。その事に、自分が安心した事に、気がついて、晃はちょっと眉をひそめた。
怯えている?
いつも、一緒にいて、それこそ、パートナーのように、安心しきって自分を任せていた相手を自分がどこかで怖がっている事に気が付く。
いや、怖いのは、志方じゃないだろう?どこまで志方が我を忘れたって、たかが知れてるだろう?だったら、ほんとに怖いのはなんだろう。自分が、どう反応するか?今から何が起こるのか?何をされるか分からない事に?それに逆らえない事に?晃は、志方の次の動きを見守りながらも、忙しく考え続ける。
・・・・・・違う。
自分は怖がっている。志方を怖がっている。
静かに伸びて来た彼の腕が、自分の髪の毛を掴んで、ぐいっと顔を上向かせる。そして、重い身体がのしかかってくると、荒々しく唇むさぼられた。その、強引なキスと、蹂躙するような舌の動きに、晃は応えるよりも、身体を固くして、手を握りしめていた。
二人分の体重に、手首が悲鳴をあげる。関節に縄をかけて体重をかければ、そうなるのは当たり前。理性を呼び戻し、冷静になろうとする晃の努力は、肩を掴まえて、あっけなく裏返される動きの前に崩壊した。

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