どこへ行っても、男の興味は他の女の上にある。
私の気持ちよりも、新しく視界を横切る自分からより遠い人の反応をおもしろがる。
二人で一緒にいる時くらい私の方を見て。
「見てるよ。君が大好きだ。」と、いう言葉は、いらなくなったフライやーのように、風に舞い散る。
SMバーのソファに私と斜向かいに座ってて、喋りながら男は、何気なく靴を脱ぎ、靴下を脱ぐ。
私に向けた顔は、私の言葉に相槌を打っているけれど、男の視線が気にしているのは、私がテーブルの下を見ないかだけ。
足元には、酔っ払って丸くなっているかわいい野良猫。
テーブルの陰で猫の身体を踏んで、反応を楽しむ男の目は、私の血だらけ傷だらけの心を素通りする。
外に出ると、叩きつけるような土砂降りだった雨は、すでに霧雨になっていた。
雨の匂いがする。
まだ、七分咲きの桜は、散りもせずに、夜空に濡れた花びらを揺らしながら仄白く浮かんでいる。
たち込める冷たい霧に、折り紙のような小さな傘は役に立たず、私の頬を濡らした。
男のさらりと乾いた、それでいて暖かい手が、私の裾をまくる。
軋む縄の音と麻縄の香り。それに重なっていく、湿って濡れている熱く火照ったいやらしい女の匂い。
死んでしまった夫でもなく、情を重ねた恋しい人でもない。
ただ、今の時間だけ。二人濡れて絡まり奪い奪われて、何も考えずに、死んだように眠りたかった。
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私の気持ちよりも、新しく視界を横切る自分からより遠い人の反応をおもしろがる。
二人で一緒にいる時くらい私の方を見て。
「見てるよ。君が大好きだ。」と、いう言葉は、いらなくなったフライやーのように、風に舞い散る。
SMバーのソファに私と斜向かいに座ってて、喋りながら男は、何気なく靴を脱ぎ、靴下を脱ぐ。
私に向けた顔は、私の言葉に相槌を打っているけれど、男の視線が気にしているのは、私がテーブルの下を見ないかだけ。
足元には、酔っ払って丸くなっているかわいい野良猫。
テーブルの陰で猫の身体を踏んで、反応を楽しむ男の目は、私の血だらけ傷だらけの心を素通りする。
外に出ると、叩きつけるような土砂降りだった雨は、すでに霧雨になっていた。
雨の匂いがする。
まだ、七分咲きの桜は、散りもせずに、夜空に濡れた花びらを揺らしながら仄白く浮かんでいる。
たち込める冷たい霧に、折り紙のような小さな傘は役に立たず、私の頬を濡らした。
男のさらりと乾いた、それでいて暖かい手が、私の裾をまくる。
軋む縄の音と麻縄の香り。それに重なっていく、湿って濡れている熱く火照ったいやらしい女の匂い。
死んでしまった夫でもなく、情を重ねた恋しい人でもない。
ただ、今の時間だけ。二人濡れて絡まり奪い奪われて、何も考えずに、死んだように眠りたかった。

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