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そこにあったはずのエロ雑誌・窓と鍵 2

ここでは、「そこにあったはずのエロ雑誌・窓と鍵 2」 に関する記事を紹介しています。
 その三角木馬の背は、木で出来ていました。鋭角を描くべき背は、気休めのように、先を丸く削って油で磨き立ててあります。その艶やかさは、上に乗って来る女達の股間を、優しく、受け止めてくれるようにさえ見えます。けれどそんなことは、決して在り得ません。もともと股間は、体重を支えるように出来ている場所ではありませんから。
 実は、今から、一人の女性が、この上に乗せられるのを観るために、私はここに来ているのです。周囲にひしめき合いながら座っているたくさんの人たちは、ほとんどが男性で、私を含めて、女性は4、5人という少なさです。今日は、ちょっとした秘密の集まり「女囚拷問の夕べ」なのです。

 昔、私は、公園で、雑誌を拾いました。「窓と鍵」という題名の本です。あなたが探しているのは、その雑誌でしょう? 薄い冊子で表紙も地味なのに、小さな文字でその中に、たくさんの物語を抱え込んでいました。今、私が、ここにいるのは、その雑誌のせいです。その雑誌は、私の好奇心と、いろんな加虐や被虐に対する衝動を目覚めさせたのでした。日常生活に必要のない、益体もない嗜好の知識を拾い集めたがるようになったのも、それがきっかけでした。
 そして、今夜、舞台の上で拷問にかけられる私の女友達も、その雑誌を公園で拾った事があると言っていました。その中の妄想譚の一つを読んでから、女囚になって、拷問を受けてみたいと憧れるようになったらしいのです。もちろん舞台の上で行われるのは拷問ごっこで、彼女もそれは分かっているのですが、与えられる痛みは本物で、なまじっかの覚悟では受け切れるものではありません。

 三角木馬が責問いに使われるようになったのは、武士が台頭してきた時代だと推測されています。武家の家にはどこも、鞍を乗せておく木製の台が備えられていたからです。その台は、人を跨がらせるのに調度良く、拷問のために背をわざわざ尖らせたりしてはいなかったのですが、それでも、その背の部分に人を跨がらせて、自重で、股間に苦痛を与えたり、その台に固定することによって、身体を打ったりするのに都合がよかったのです。やがて、その背は、乗り手の身体を痛めつけ、股を裂くために鋭く尖らせるようになっていきます。
 海外にも拷問の道具として、三角木馬が作られているのですから、文明や時代にかかわらず、目的に叶う道具は同じ形になるのでしょう。

 やがて、部屋を仕切った暗幕の影から、私の女友達が男に引き立てられて出てきました。灰色の着物を纏い、後ろ手に縛られて縄尻を取られています。私と彼女の間の距離は5メートルもありません。部屋に入った時に、一度だけちらりと、私を見た彼女は、すぐに、恥ずかしそうに頬を染めて、目を逸らします。
その後は彼女はもう、私を見ることはありません。、舞台正面に引き据えられ、正座している彼女は、肩をいからせ、拳を握りしめ、頑なに床を見つめ続け、身を乗り出し、舐めるように彼女を見つめる男たちの視線に耐えていました。
 これから何が起るのかを知っていて、待っている時間が辛いのは私も知っています。私の友達も、今日は食べ物が喉を通らず、せっかく食べても身体が受け付けずに、吐いてしまっているようでした。昨日は眠れなかったのか、すでに青ざめて辛そうです。
 やがて、責める役の男が、彼女の後ろに、あの大きな木馬を運んで来ました。そして、座っていた彼女を引き上げて立たせると、後手にかかっている縄に、縄を足して、彼女を宙に吊り上げました。それから、着物の裾を大きくまくり上げて、下半身を露出させます。むき出しの尻は白く陶器のようで、脚は足場を求めて足掻き、拠り所を求めてよじり合わされます。今、彼女は彼女の夢に、そして、私は私の夢に入っていこうとしているのです。
 十分晒し者にしたと思ったのか、男が、彼女の身体の下に木馬を引きずってきます。重い木馬が床をこする音は、恐ろしい物が近づいてくる時の序曲のようです。逃げようとする足首を掴まれ、引き寄せられた彼女の足の間に、無理矢理に押し込まれていく禍々しい木馬。今、苦痛の処刑台は、静かに彼女の身体が降りてくるのを待っています。
 ゆっくりと、縄が緩められ、彼女の身体が静々と下降して木馬を跨ぐのを、見開いたたくさんの眼が、彼女の身体の一点だけを見つめています。ほとんど身体が馬の背の上に乗ったかに思えた頃合いに、男は、縄を一旦仮留めすると、彼女の足を二つ折りにして縛り始めました。木馬の横木に足を踏ん張れないようにしているのです。半分に折り曲げられてぐるぐると縄を巻かれていく間、彼女は、激しく首を振って、身体を揺すって泣き出しました。 

縄が巻き付いた太腿は、無意識に、自分の出来ることをしようとしています。力を込め、木馬を挟み込み、締め付けて、身体を支えようと。体重が背に乗らぬように、自分の身体を浮かせておこうと、力を振り絞っています。
 その間に男は、彼女の髪の毛を掴んでねじりあげ、俯いていた彼女の顔を晒します。青ざめた生贄の美しい顔が歪みます。縄で髪をくくり、吊られた縄に留められてしまうと、俯くことも、暴れることも制限されて、身体の重心は、まっすぐに馬の背に乗せられた部分にかかることになるのでした。
 それから男は、仮止めを解いて、彼女の身体をわずかばかり苦痛から遠ざけていた、吊っていた縄を緩め始めました。彼女の身体が縄に頼って浮かせられる事が無いように、それでいて、倒れたり落ちたりしない程度に。すると、もう、ほとんど、木馬に乗ったと思っていた彼女の身体は、ゆっくりと沈んでいき、三角形の先は、股間深くにめり込んで行き始めたのです。
 彼女のかすれた悲鳴が響き、全身を貫いた苦痛が、身体の表面を、さざ波のように移動していくのが分かりました。もう、あまりの痛みと、恐ろしさに、身動きすることも出来なのです。それは、その姿を見つめる私たちも同じでした。声も立てず、身を乗り出したまま、ただ、目の前に現れた苦痛のオブジェを見つめるだけです。
 段々と彼女の息が荒くなっていき、着物を捲くられた背の辺りから汗が流れ落ち始めます。しっとりと濡れた身体が、ただ上下に息づいていました。彼女の顔は歪み、その苦痛を表しているのは、しっかりと握りしめられた震える拳と、折り曲がったつま先の血の気の失せた有り様だけとなるのでした。
 頃合いを見計らって、表情を変えずに淡々と男が近づくと、竹に割って、細挽きを巻きつけた笞を振り上げます。そして勢い良く尻に向かって打ち下ろすのです。静寂を破る新たな悲鳴。動くまいとしていた身体が反射的に跳ね上がり、一層、重みのかかった部分の痛みを増幅させてしまうのが分かりました。一発で、彼女の白かった尻には赤いミミズ腫れが浮き上がってきます。
 笞は、何度も振り下ろされ、それからふと止まります。固まって見ている私たちが、息をする事を思い出すように。彼女が落ち着きを取り戻し、もう一度動揺するのを繰り返すために。笞が休んでいる間も、息をする度に上下する肩が痛々しく、くいしばった歯の隙間からは呻き声が漏れます。
 長い時間責めが続き、彼女の体力が削り取られて行き、悲鳴もか細くなってくると、男は、彼女の肩を掴み、全体重をかけて、彼女の股間を木馬に捻り押し付けました。縛られた足に新たな石の錘を結びつけ、その錘を急に落として、衝撃を与えます。新たな責めが加えられる度に、彼女は生き返り、魚のように身体を跳ね逸らすのでした。力を込め続けた太腿はぶるぶると震え、身体はぐらぐらと姿勢も定まらなくなって行きます。
 彼女の頬がみるみるうちに削げ、泣き喚き打ち振られる顔は、涙にびっしょりと濡れて、くくられた膝の先から、汗が滴り落ちるのがライトに光っていました。纏った着物も汗を吸って色変わりしていき、やがて床が汗だけでないもので濡れた時、ようやくその演目は終わりを迎えました。
 彼女の身体を降ろそうと、男が足の縄を解き始め、木馬を彼女の身体から引き抜くと、自分で立っていられないほどに衰弱した彼女は、吊られた縄の先にぶら下がった死体のようになっていました。
それでも、責め役を務めた男は、そのまま静かに幕を引くのをよしとしなかったのでしょう。男は、彼女の身体からびっしょりと濡れた着物を引き剥ぐと、もう一度床に足が着かないよう吊り上げ、抵抗の出来ない無防備な身体を、竹割りの笞で散々に打ちすえました。竹の角で肌は切れ、血が縞模様を描きながら流れ始めます。打擲は、彼女の体中に赤い蛇が浮き上がり、鳴き声が枯れ、息も絶え絶えになるまで続きました。
部屋は、それを見つめ、視線だけで貪り食った、たくさんの鬼達の身体の熱気でむせ返っています。そして、その中の一人にすぎ無い私は、女友達の身を案ずることもなく、我が身のうちの想いに耳を済まし、喜びのため息をもらしてしまうのでした。

 いいえ、それでも、私は、知っています。一時間後に、会って抱きしめるこの女友達のこけた頬は、薔薇色にいろづき、瞳は異様に輝いていることを。彼女は、私の腕の中で、三ヶ月後の石抱きの舞台も、ぜひ、観に来て欲しいと、少女のような声で語りかけてくるのです。
下書き

 その三角木馬のその背は、木で出来ていた。やわらかな丸みを描いて、上に乗ってくる女達の股間を受け止めてくれるように見えた。けれどそんなことは、決してありえない。
 実は、私は、撮影スタジオで、撮影用の小道具の三角木馬に乗ったことがある。せっかくだから体験してみたらと言われて、嫌がっているのに、木馬の背に抱え上げられて、乗せられた。その木馬の背はステンレスの板を合わせてピッタリと溶接してあるもので、しっかりと尖って、磨き立てられていた。服を着ていてさえ体重を乗せることが出来なくて、自由になっていた手をしっかりとその背に突っ張って、「助けて、早く降ろして。」と、大騒ぎをしてしまった。
 今、目の前にある木馬は、全体が木でできていて、大きさは以前の物よりも一回りも二回りも大きく感じられた。この上に乗れば、足は決して床につくことはない。けれど、横木が渡してあるので、場合によっては、そこに、足を突っ張ることも不可能ではないかもしれない。もしも、足が自由になっていればだけれど。跨るための背中に渡されている角材は、さっき述べたとおりに、上の角をちゃんと丸く削り、すべすべと磨き立てられていた。
 今から、一人の女性がこの上に乗せられるのを観るために、私はここに来ていた。今日は、ちょっとした秘密の集まり。「女囚拷問の夕べ」なのである。

 三角木馬が責問いに使われるようになったのは、武士の時代が始まった頃だったのではないだろうか。武家の家にはどこも、鞍を乗せておく木製の台が備えられていて、それを使って、折檻や尋問が行われていたらしい。拷問のために背をわざわざ尖らせた物を用いていたわけではないが、それでも、その背の部分に人を跨がらせて、自重で、股間に苦痛を与えたり、その台に固定することによって、身体を打ったりしていた。
 意外なことに、江戸時代に、幕府は、拷問は、公事方御定書に定められた形式に則って行っていた。正式な、責問は笞打ちと石抱え、拷問は海老責めと釣り責めと決まっていた。ここに三角木馬の名前はない。女囚の肌をはだけることもなく、責め殺すことのないように医者が控えていた。また、責問や拷問を受けるのは、証拠があるか、もしくは、共犯者が口を割った場合のみだった。処刑には、自白の必要があったため、その自白を得るために行われていたのである。拷問を行うには老中の許可が必要だったし、拷問を行わないで自白させるのが吟味与力の腕の見せ所ということもあり、実際に行われるのは年に数えるほどだったとされている。
 では、三角木馬は廃れてしまったのだろうか。そんなことはない。公事方御定書に制限されない、直轄地以外の場所で使用されていたのである。だとしたら、ほとんど日本全国ということになる。私たちはこんな風に、歴史の一部分に注目しすぎて、勘違いしがちだ。盗賊、年貢滞納者、そして隠れキリシタン等が、この道具の上に乗せられていた。
 特に、隠れキリシタン弾圧の時には、全裸、または、下半身を裸にし、身体を拘束して跨がらせたり、石などの錘を足にくくりつけて、苦痛を加重することもあったと言われている。その背は、容赦なく角が尖っていて、股間にきつく食い込むために、長時間の責めでは、段々と股が裂けて、血だらけになる。服を着たままとはいえ、ちょっとだけでも、実際に、その尖った背中に載ったことのある私としては、考えるだけで背筋がぞくぞくするような事態である。

 拷問を受ける女は、汚名に怯え、罪に怯え、処刑に怯え、そして逃れようのない事態に直面させられる。どこからも助けは来ず、手心を加えられる慈悲も望めない。目の前にある恐ろしい道具に、自分の身体を容赦なく責め痛めつけらる。誰もが怯え、震え上がるだろう。
 ところが、そんな目にあってみたいという女性は、なぜか数多くいるのだ。私が、それを初めて知ったのは、「窓と鍵」という題名の本である。薄い冊子で表紙も地味なのに、小さな文字でその中に、たくさんの物語を抱え込んでいた。私は、その本を、公園で拾った。私が、ここにいるのは、その本のせいだ。その本は、私の好奇心と、いろんな加虐や被虐に対する衝動を目覚めさせた。
 そのひとつが、女囚になって、昔の拷問を受けてみたいと憧れる女性の妄想譚である。
 彼女は夢に見る。三角の木材を並べた上に正座させられる自分を。脛に食い込む激痛を。痛みに呻き、膝の上に積まれる石の重さに骨が鳴る。そして憧れる。その苦痛に。
 私も夢を見る。誰かの運命をその手に握り、虫を押し潰すように気まぐれに、人を思い通りにする夢を。腕の中の身体は痙攣し、私の身体を押しのけようとしながら、私の腕にしがみつく。
 しかし、憧れは憧れのままにしておくのが無難である。そんな目にあってみたいと思っていても、実際にその苦痛に直面してみたら、考えていたのとは違うことが分かるはず。その苦痛からの出口は処刑。苦しんだ末に得られるのは無残な死なのだから。
 一夜の夢には、終わりをもらたす。女は、縄を解かれ、現実の世界へ戻っていく。それが、今から行われようとしている集まりの本来の趣旨なのだ。
 
 やがて、部屋を仕切った暗幕の影から、一人の女性が男に引き立てられてきた。灰色の着物を纏い、後ろ手に縛られて縄尻を取られている。私と彼女の間の距離は5メートルも無かっただろう。肩をいからせ、拳を握りしめ、頑なに床を見つめ続ける女性は、そこに正座して、部屋にひしめき合っている男たちの視線に耐えていた。
 これから何が起るのかを知っていて、待っている時間が辛いのは誰もが知っている。あんなに憧れて、叶えられた願望なのに、大抵の女性は、事態を前にして、真っ青になっている。前の夜は眠れず、胃は捻じれ、物を食べても受け付けない。
 やがて、男は、彼女の後ろに、あの大きな木馬を運んで来た。そして、座っていた彼女を引き上げて立たせると、後手にかかっている縄に、縄を足して、彼女を宙に吊り上げた。着物の裾を大きくまくり上げて、下半身を露出させる。むき出しの尻は白く、脚は、拠り所を求めてよじり合わされる。尻から太腿にかけて大きく浮き上がる筋肉に、女の演技ではない本音が映しだされていた。
 彼女の身体の下に木馬は引きずられてきた。その音を彼女はどう聞くのだろう。足を掴まれ、無理矢理に足の間にねじり込まれていく木馬へ、彼女が視線を向けることはなかった。今、苦痛の処刑台は静かに彼女の身体が降りてくるのを待っている。
 ゆっくりと、縄が緩められ、彼女の身体が木馬を跨ぐのを、たくさんの眼は一心に見つめる。ほとんど乗ったかに思えた時に、一旦縄は留められて、男は、女性の足を二つ折りにして縛り始めた。横木に足を踏ん張れないように。半分に折り曲げられてぐるぐると縄を巻かれていく。彼女は、激しく首を振って、けれど瞑った目を開けようとはしない。彼女は、自分の作った世界に、入っていこうとしていた。
 縄が巻き付いた太腿は、無意識に、自分の出来ることをしようとした。力を込め、木馬を挟み込み締め付けて、身体を支えようと。体重が背に乗らぬように、自分の身体を浮かせておこうと、力を振り絞る。
 その間に男は、彼女の髪の毛を掴んでねじりあげ、俯いていた彼女の顔を晒した。青ざめた生贄の美しい顔が歪む。髪に縄をかけ吊られた縄に留められてしまうと、彼女が多少もがいても、身体の重心がまっすぐに馬の背に乗せられた部分にかかることになる。
 それから男は、彼女の身体を吊っていた縄を緩め始める。彼女の身体を浮かせること無く、ただ、倒れたり落ちたりしない程度に。ゆっくりと。体重が。その馬の背に乗る。
 彼女のかすれた悲鳴が、全身を貫いた苦痛が彼女の身体の表面を捻らせる。もう、自ら身動きすることも出来ない。それは、その姿を見つめる私たちも同じだった。声も立てず、姿勢も変えず、ただ、目の前に現れた苦痛のオブジェを見つめるだけだ。
 段々と彼女の息が荒くなっていき、着物を捲くられた背の辺りから汗が流れ落ち始める。しっとりと濡れた身体が、ただ息づく。女性の顔は苦痛の表情に歪み、その苦悩を表しているのは、しっかりと握りしめられた拳と、折り曲がった足の血の気の失せた有り様だけとなる。
 頃合いを見計らって、表情を変えずに淡々と男が近づくと、竹に割目を入れた笞を振り上げる。そして尻に向かって打ち下ろす。新たな痛み。悲鳴。動くまいとしていた身体が反射的に跳ね上がり、一層、重みのかかった部分の痛みを増幅させてしまう。
 笞は激しく振り下ろされ、それから止められる。しばらくの間。見ている私たちが、息をすることを思い出すように与えられた時間。彼女も息を付き、また、動くまいと身体をこわばらせる。最初の時のように、思い通りにはならないけれど。上下する方が痛々しく、くいしばった歯の隙間からうめき声が漏れる。その間は、何度も反復された。より強く痛みを感じるための休憩時間。しかし、その間も、彼女の身体は刻々と自重に責め立てられているのだ。
 男は、彼女の肩を掴み、体重をかけて、彼女の股間を木馬に捻り押し付ける。縛られた足に新たな石の錘を結びつけ、その錘を急に落として、衝撃を与える。
 彼女の頬がみるみるうちに削げ、泣き喚き打ち振られる顔は、涙にびっしょりと濡れる。くくられた膝の先から、汗が滴り落ちるのがライトに光っている。纏った着物も汗を吸って色変わりしていく。やがて床は汗だけでないもので濡れ、彼女の身体はぐったりと縄に身体を預ける。
 演目が終わり、彼女の身体をおろそうと、男が足の縄を解き始める。木馬を彼女の身体から引き抜くと、自分で立っていられないほどに衰弱した彼女は、吊られた縄の先にぶら下がった死体のようになっていた。そして、それを見つめ、思いだけで貪り食ったたくさんの鬼達の身体の熱気が、部屋を暑く湿らせていた。その一人にすぎない、私は、思わずため息をついた。

 それでも、私は、知っている。一時間後に会って抱きしめるこの女性のこけた頬は、薔薇色に輝き、瞳は異様に輝いていることを。
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