
気がついたときは、高原はもういなかった。俺は自分の部屋のベッドの上で、赤く蚯蚓腫れになった背中には、しっかりと薬を塗った布が貼り付けられ、包帯を巻かれていた。各務がやったのかな。ジンジンする痛みに眉をしかめながら、俺はまた、シーツの中にもぐりこんだ。とりあえず。二回目は終わったんだ。明日は土曜日。学校へは行かなくていい。
そうやって俺の日々は過ぎて行った。高原は鞭打ちが好きな男だった。吊られて打たれた事も、うつ伏せにされて打たれた事もある。何度打たれても俺は鞭に慣れなかった。恐怖に震え、痛みにのたうった。それでも、だんだんに気がついてきていた。高原は二週間に一度、金曜日にやってくる。そして、さんざん弄ばれた俺は二日間の休みの間に何とか学校へ行ける程度に回復するのだ。
ぎりぎりまで、 俺を追い詰めて楽しみながらも、体に傷をつけないように気を使っていた。鞭も、ありとあらゆるものがコレクションとして飾られていたのに、バラ鞭以外の道具は出てこなかった。そして、回数を重ねていくうちに、最初の鞭打ちが結構手加減されていた事も分かってきた。8年間、壊さないできっちり使いきるつもりなんだ。
そう、高原は、俺が耐えられなくなるぎりぎりのところを狙って責めてくるのだ。だから、回を重ねるごとにいやがおうもなく責めは一歩前に進められる。だから、いつも、限界。いつも、耐え難い。
そして、終わると俺を懐に抱いて眠る。まるで親鳥が雛を抱くように。手当ての必要な時は、すぐに各務が呼ばれた。消毒され薬を塗られ包帯を巻かれ冷やされる。約束通り、決して怪我などさせないように十分注意が払われている。
それに、学校生活は一切干渉されなかった。約束はひとつだけ。夕食の時間までに戻ってくる事。それはおおむね7時半頃で、学校は結構近く、車の送り迎えまで付いていたのでまったく不自由はなかった。高原がやってこない週末には、高校生らしい遊びに時間を使う事も出来た。
平和だ。気まぐれな母親のおもりに明け暮れた十六年間よりも。日常があまりにも平和だと……二週毎の高原の訪れは悪夢だった。だが、それよりも俺を確実に苛んだのは、毎日の「拡張」だった。
各務は絶対に尻以外を触らなくなっていた。もちろん高原がやってくる日は浣腸された。いつものお決まりの手順。そして指を入れられマッサージされコックリングを嵌められる。仕上げにゼリーを注入される。でも、ただそれだけだ。
俺は、ほとんど毎日、各務と差し向かいで食事をする。彼はめったに外出しない。緊急の呼び出しがあって、夜中に出掛けるような事もあったけれど、たいがい夕食時には屋敷に来ている。いや、ほとんど屋敷に住んでいるも同然だった。各務にちゃんと住んでいるマンションがある事も、随分後になって気がついたくらいだった。
俺は驚いた事に、初めて一緒に食事をする人間に出会ったのだ。食べながら会話をする。そして、拡張をしながらもその続きを話す。
こいつ、何なんだよ!俺は、どんどん変な気分になって行く。
縛り付けられて身動きのかなわない体を機械的に開かれながら、俺は喘ぐ。日を追う毎に感じやすくなっていく体。知っているかい?尻で感じるのも訓練なんだ。だから、毎日毎日開発を重ねた俺の体は、どんどんよくなっていくんだ。
十六なんて、やりたい盛り。快感を覚えた俺は、台に上がるのさえ恥ずかしい。何が待っているか知っているから。裸の俺は何も隠す事が出来ない。拘束されるために手を伸ばす。各務がそこへ枷を巻く。俺の息はもう弾んでいる。あそこは、あさましく反り返っている。どこも触っていないのに。何もされていないのに。そして、拘束した後に各務は必ずそのペニスにコックリングを巻いた。食い込むほどに。俺はその時のギリギリと締め付ける痛みをまちこがれる。息を詰めて、早まる鼓動を押し殺して、それを待つ。
だって、だって……。各務が俺に触るのってその時だけなんだ。
冷たい手が俺を探り、リングがはめられる。俺は、目を閉じて、その他の感覚を全部締め出して、ただただ、各務の指先を感じる。冷たくて、さらりとした指が、俺の上を探り、締め上げていくのを、味わいつくそうとして。
それから、各務は双球を押し広げて念入りに俺を観察する。待ちかねてひくつく俺のアナルを……。俺は叫びだしたいほどの羞恥に翻弄される。なぜなんだろう。毎日見られているのに、奴は医者なのに。これは診察なんだ。俺は自分に言い聞かせる。でも、ダメだった。アナルに触れてくる各務の指があまりにもいやらしくて。
なんて触り方するんだろう。ゆっくりとひだを辿り、解きほぐす。それだけで俺は必死に台にしがみついているような有様。指が入ってくると、その様を見られていると思うだけで俺は……。ああ。やめ……。見るな。見ないで。指が中を探る。廻される。そしていつもの道を辿る、一本、二本、三本。入ってくるとき。抜かれるとき。思わず声を上げそうになるほど……いい。ねっとりとしたいやらしい動き。思わず締め上げ、付いていきそうになる。
どんなにこらえても俺の内腿は引きつり、足の指は折れ曲がる。吐息は熱く、悩ましい。
中を探られると腰が捻れる。声が洩れる。なんでこいつこんなにうまいんだ。あっ……く。はああああっ。俺の頭の中はいく事でいっぱいになる。あいつが指を返して二本揃え差し入れる頃には、もう上り詰める寸前なんだ。
なのに、各務は絶対に「射精させて」くれなかった。
最初の頃、俺は恥をしのんで泣きながらねだった事すらある。だって、生殺しだぜ。何度も何度も指を出し入れして、廻して掌を返してまた差し入れる。俺は波に飲み込まれそうになる。するとあいつは、入り口に戻ってやり直しだ。念入りに時間をかけてあおられて、あおられて、あおられて。やっと坂を上りきった先に……落ちる事ができないんだ。いったはずなのに、いけてない。だから、また最初からやり直せる。何度でも繰り返しやり直せるんだ。しかも、そうしながらあいつは、夕食のときと同じ話題を俺に振ってくるんだ。
「うっく……ふ……」
「来週テストだって?」
「あ……ああ……ん。んん……か、火曜日から……」
「この間の物理の問題、分からないならもう一度見ようか」
「う……。各務……ま……まって……あ……。だめっ!」
「お前、滑車の問題解ってなかっただろう?」
いきたい。いま、いけたら。いけたら、どんなにか……。各務の野郎。くそっ……なぜ?そんなにしれっとして俺の中に触るんだ?
「各務……」
「ん?」
「……頼む。……いかせて……」
「ダメだ」
ほら、やっぱりね。分かっていても、俺は聞き返さずにはいられなかった。
「……なんでだよ!」
いきたくて、いきたくて、半泣きになってた。
「お前は高原のものだろう?」
そんなのって。そんなのって。俺が望んだ事じゃない!
そりゃ、そうだけどさ。だったら、なんであんたが俺の拡張なんかするんだよ。俺はあんたの手だけで気が狂いそうなほどよがっているのに。いかせてもらえない事がどれほどの意味があるって言うんだ!
意味なんか無かった。各務はただ、俺を啼かせるのが楽しいのだ。
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