こんなセックスは初めてだった。ベッドの中での彼は、一から十まで、ゆっくりと、念入りに、丁寧に紳士的に振舞った。気が狂いそうなのは私の方だった。
好きで好きで好きでたまらない人に見られ、さわられ、愛される。その事がどれほどの羞恥と喜びをもたらすのか、知らなかった。
何をされても感じる。体が反応する。ピンク色の渦に巻き込まれ何が何だか分からなくなった。
気が付くと彼の腕の中・・・幸せで、幸せで、泣いている私がいた。彼は、気が付くと、黙ってその涙を拭ってくれて、もう一度覆いかぶさってきてキスをくれた。
うとうととまどろんでいるうちに、ベッドがきしんで彼が起き上がる気配を感じて、目を開けた。
「休んでおいで。」
ぽんぽんと、頭を撫でられて、また、枕に顔を埋めた。彼はベッドルームに隣接する風呂場に消えていった。シャワーの出る音がする。ぼんやりと枕もとのオレンジ色の光に照らされる、今まで彼が寝ていた枕を見つめた。手を伸ばして抱き締める。かすかに彼の香りがする。日向のにおい。
「好き」
トゥルルルルル。電話の音に私ははっとなった。枕もとの電話が鳴っている。急いで、その横の時計を覗き込むと午前2時だった。電話がかかってくるような時間じゃない。二回ほどの呼び出し音の後、すぐに電話は留守録に切り替わった。男の子の声?私はほっとして、また、枕の上に頭を戻す。そして、そのまま全身が冷たくなって固まってしまった。
「・・・・だから、明日の夜会ってもらえませんか?もう、一ヶ月も会ってない。辛いんだ。あなたの鞭が恋しい。恋人が出来たのは知ってます。でも、それとこれとは別でしょう?思いっきり責めて欲しい。・・・・連絡を待っています。」
プツンと、電話が切れてツーツーツー三回鳴った後静かになった。オレンジ色の留守録を示すランプが点滅する。
私は、動けなかった。心臓が咽喉元まで競りあがってきたような気がした。引き寄せた枕を抱き締めて顔を押し付けた。どうしよう。どうしよう。どうしよう。
部屋に石鹸の匂いが漂ったと思ったら、闇の中を博人さんがほとんど音を立てないで近づいてきて、まっすぐ電話のところへやってくると、点滅しているランプの明かりをスイッチを押しなおして切った。
私は、じっと息を殺して、動かないで、枕に顔を押し付け続けた。
ベッドが沈んで博人さんが座ったのが分かった。
「聞いたね。」
聞かなかった。聞かなかった。私は、知らない。聞いてない。だめだ。だめ。・・・知らないときには、戻れない。
私は、勢いよく跳ね起きた。すぐ側に博人さんの体があった。ぶつかるようにしてその背中にしがみつく。博人さんは、私の体にシーツを巻きつけるようにして膝の上に抱き取った。彼の体にしがみつく。しっかりと、強く抱き締められて、ようやく私は呼吸が出来るようになった。
「男の子だった。」
しばらくの沈黙の後、聞かなければよかったと思う答えが返ってきた。
「相手は三人。男一人に女二人。男の子は20。女性の方は・・・」
私は思わず博人さんの口を押さえていた。目が合うとまったく表情のない彼の顔の瞳だけが泣いていた。
「どうして・・・?愛してるって言ってくれたのに。」
「愛してる。」
博人さんに抱き締められて、私は彼の首筋に濡れた頬を押し付けた。
愛してる。愛してる。愛してる。・・・でも、それとこれとは別でしょう?
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