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9、その枷は荊の枷

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9、その枷は荊の枷

 それは、枕もとの小さなオレンジ色の電気を付けることから始まった。ほとんど手探りだったセックスから、小さな明かりに照らされたセックスへ。彼の愛撫に反応する表情を見つめられながらのセックス…。恥ずかしくて顔をそむけ、腕で覆うようにしても、体の反応までは隠せない。
 それから、体の隅々まで触るか触らないかの愛撫がえんえんと続けられる。最初はどうって事無いその愛撫が、20分も起つと、体のどこへ触れても、叫ばずにはいられないほどに感じてくる。思わず声が洩れる。その声を聞かれることすら恥ずかしかった。今までは、何気なく漏らしていた喘ぎ声。それを憧れ続けた博人さんに聞かれていると思うと耐え難い恥ずかしさに貫かれた。
「かわいい」
 一つ一つの反応を確かめながら、囁いて来る。すぐに自分でコントロールできなくなるほど取り乱してしまう私に比べ、冷静に反応を見つめていると思わせる落ち着いた声。たった、二人しか知らないけど、自分たちの快感を追うのに夢中だった若い牡との性急なセックスしか知らなかった私にとっては、そうやって私を追い上げていきながら、徐々に高ぶってくる彼の吐息を聞いているだけで、痺れるほどの喜びを感じるのだった。
 時には、順を追って興奮を高めていく愛撫を省略していきなり足を開かれることもあった。まだ、素の状態のときに彼に見られることの羞恥。そして大きく足を持ち上げられて、優しくクリトリスを擦られる。それだけでどんどん高まっていく自分をつぶさに観察されているのだと思うと、恥ずかしさに惑乱した。そして、SMを受け入れたことで、そういう「恥ずかしい行為に逆らうことが許されていない」と、いう前提条件は、私を異様に興奮させたのだ。何を要求されても、どんなに恥ずかしいことをされても受け入れないといけないということが。
 実際に、恐ろしく恥ずかしかった。これほどまでの長い時間を憧れと片思いで過ごした相手に抱かれているということすら恥ずかしかった。終った後はどうやって振舞っていったらいいのか。何事も無かったように、穏やかに接してくる彼が恨めしくて……それでいて幸せだった。
 そうやって、少しずつ何かが変わって行ったのだ。その緩やかな始まりは、身構えていた私をいつの間にか油断させ、大きく押し流していった。
 彼が触れる。
 体が反応する。
 それこそが刷り込みの始まりだったのに……。
 何度かの逢瀬の後、彼は初めて私の手首を縛った。柔らかな絹のスカーフのゆるい拘束……。想像していたのとはまるで違う、形だけの戒め。それなのに、昨日までの自分の何倍も感じ始めた体。まるで、魔法のようだった。縛られた腕を頭上に押さえつけられ、首筋から脇の下へ念入りに愛撫されると、耐え切れずに泣きながら懇願せずに入られなかった。
「お願い……。もう」
 その吐息を彼は口付けで封じ込める。触れてくる指はかすかに震え、時には強引に強く肌を吸われる。てんてんと赤い花を散らされるとその痛みに私はのけぞった。
 終った後、彼は私を引き寄せると、息も絶え絶えの私の額に、瞼に、頬に、そしてくちびるに優しくキスをくれた。そして、押さえられないかのように急に深く激しいくちづけを繰り返した。
「考えても見なかったな」
 私の頭を自分の腕枕の上に落ち着けて、私の手を玩び、その指先にキスを繰り返しながらつぶやく。
「好きな相手を縛ることが、これほど喜びと快感と興奮をもたらすなんて」
 口に出して言われると、あまりにも恥ずかしく、私は彼の胸に赤くなった頬を擦り付けて隠れようとした。くすくす笑いながら強引に私をひっくり返し上に覆いかぶさって顔を覗き込んでくる。
「夕姫がそうやって恥ずかしがっていると、ついつい、もっと虐めたくなる」
 ふと、博人さんの目が真剣になる。
「夕姫。夕姫。本当にいいのか。もう、僕は止められそうにない」
 私はこっくりとうなずいて彼の胸に頬を押し付けた。彼に聞かれるまでも無く、何度かの逢瀬がもたらした喜びを失うことなど想像も付かなくなっていた。博人さんに愛されたい。もっと、激しく…。もっと、深く。
「痕が残ったね」
 キスマークが体に花びらが散ったように残っていた。彼は、嬉しげに目を細める。そしてその赤い痣を指で辿りながら囁いた。
「愛している」
私はその愛に飲み込まれていく。なすすべも無く。
 次に私が誘われた時には、がらんどうだった部屋はすっかり様変わりしていた。大きな天蓋つきのベッド。そしてそのベッドの天蓋と同じお揃いの小豆色のビロードのカーテン。
 天井に何本も渡された大きな梁と部屋の中央に立てられた二本の柱。あちこちに下がる鎖や取り付けられた金具。さりげなく置かれた寝椅子や大きな肘掛椅子。片方の壁一面に取り付けられた古風な開き戸の棚。私は、足がすくんで中に入れなかった。
 私に取り付けられた見えない枷はついにその口を閉じたのだった。



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