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10、閉じた扉

ここでは、「10、閉じた扉」 に関する記事を紹介しています。

 何も考えずにくるりと回れ右して、走って玄関からとび出そうとして、少し後から来ていた博人さんに腰の辺りを捕まえられた。
「どこへ行くの?」
「あ…私、ちょっと急用が、あの…急に、思い出して」
「逃げ出そうとした」
 恥ずかしくて博人さんの顔が見られなかった。
「……ごめんなさい」
「信用無いんだな。僕は」
「そんな事!」
 慌てて顔を上げると苦笑している博人さんと目があった。そっと抱きしめてまぶたにくちびるを寄せてくる。
「夕姫が、部屋を見て、今日は帰りたいって言うなら送る」
 そんなふうに言われると、とても帰るとは言えない。博人さんに腰に手を廻されてエスコートされるようにしてもう一度扉をくぐった。
 改めてみると、部屋のインテリアは小豆色とクリーム色に統一されていて、落ち着いた感じに仕上がっていた。中央の二本の柱も部屋に溶け込むように精緻な飾り彫りが掘り込まれている。大きな窓に掛けられたレースのカーテンから柔らかい光が降り注いでいた。それでも、あちこちに下がる鎖や取り付けられた金具の恐ろしさを消すことは出来ていない。
 私はおそるおそる飾り棚の方をうかがった。その中にどんなに恐ろしい道具が隠されているのかと思うと息苦しくなって来る。そんな私の様子を見ていた博人さんは、ベッドの側まで来るといきなり私の腰を強く引き寄せると横とびにベッドに飛び乗った。私は博人さんを下敷きにしてぱふんとベッドに倒れこんだ。
「きゃああ」
 じたばたとしばらくもがいて、自分の馬鹿さかげんに気がついた。
「夕姫、怖がっているでしょう」
くるり、と位置を変えて自分が上に乗ると今度は体重がかからないように肘を突いて覗き込んでくる。ちょっと、面白がっているような瞳がいつもの博人さんで、私は少し安心してうなずいた。
「あ、でも、SMするのがいやって訳じゃないのよ。それ、するって、私が決めたんだから。博人さんに付いて行くって」
 博人さんのちょっとさびしそうな微笑を見つめていると、私はすぐに後悔した。
「…がっかりした?」
「がっかりはしないけど…。なんだか怖い」
 え?怖い?……どうして?
「夕姫が、嫌になってしまうんじゃないかと」
「そんな事!そんな事無い」
 慌てて一生懸命否定してみせた。本当は「SMの事が無かったらどんなに安心して博人さんの側にいられるか」と、思うときもあるけれど、でも、反対に何をされるのかどきどきしながらも、期待している自分もいるのだった。
 博人さんが耳の後ろにキスしてくる。
「じゃあ、今日は、ベッドに縛りつけてもいい?」
 そんなことを優しく訊ねられて、私は、真っ赤になっていたと思う。随分とためらった後に目をつむってうなずくのが精一杯だった。
 シャワーを浴びて、ガウン一枚でベッドに座って待っていた。どうしょうも無い不安と期待に火照ってくる体をもてあましながら。博人さんのほうを見ないで一生懸命床だけを見つめて。
 ひたひたと裸足で床を伝っていく人影がカーテンをしっかりと閉じた。部屋は薄暗くなり、私は自分の心臓の音を聞いて震えた。枕もとの明かりがひとつだけ灯される。横に並んで博人さんが腰掛けてベッドのクッションが一瞬沈み、しっかりと跳ね返す。
「手を出して」
 言われるままに手を差し出すと手首に黒い皮でできた枷が巻かれた。ベルトのバックルのような場所を博人さんが止めるとその枷が私の手首によりも先に心に巻きついてきたような気がして、私はその手枷をじっと見つめるしかなかった。
「反対も」
 逆らわずおとなしく手を出す。心臓の音が響き渡り、私はそれを聞かれているのではないかという不安に咽喉元が締め付けられるような思いだった。気がつくと博人さんが足元にしゃがみこんで、私の足首にも同じような枷を巻いていた。そして、反対の足にも……。
 枷を巻いた足が持ち上げられる。足の甲に博人さんがくちびるを当てた。焼き鏝を当てられたみたいに熱くて、私の体を抑えようの無いおののきが走り、思わずぎゅっと目をつぶってしまう。
 立ち上がった博人さんに一瞬抱きすくめられたかと思うと、何がどうなったかわからないうちに体が回転した。いつの間にかベッドにうつぶせにされていた。ガウンを肩から引き剥がされる。裸にされちゃう。あ、恥ずかしい。いや。見ないで。私が自分の羞恥にかまけている間にあっという間に手首は捕らえられてベッドの柱から伸ばされた鎖にカチャンと止めつけられていたそして反対の手も…。
 博人さんが影のように静かに動くと、右足を捕まえ引きはだけられる。ああ…大の字にされるんだ。込み上げてくる恥ずかしさを必死で飲み込もうとする。体全体に力を込めて、手のひらを握りしめて。
 博人さんの手が反対の足に伸ばされる。足首の周りをゆっくりとなぞりながら…。
「夕姫?開くよ。いい?」
 いや!そんな事、聞かないで。私は必死に首を振った。覚悟していたはずなのに、足に力を込めてねじり合わせていた。博人さんは、私のあらがいをしばらく黙って眺め十分楽しんでから、強い力でじわじわと足を割り開くと膝の間に体を入れてきた。
 足が大きく拡げられてしまったのが足の間にひんやりと空気が入り込んでくる事で分かってしまう。思わず夢中で鎖を引っ張っていた。じゃらじゃらと鎖がなる音がして、どんなに力を込めても肘や膝をちょっと曲げられるくらいで大の字に張り付けになって動けなくなったことが分かっただけだった。
 博人さんは、ぞわりと膝の内側を右手で撫で上げた。
「ひいっ」
 私は情けない声をあげて跳ねた。
「夕姫。このまま、こっちの足もつないでしまうからね?」
 博人さんは、しっかりと内腿の間に自分の膝を差し入れておいて聞いてくる。いや。いや。いじわる!私は恥ずかしさでぶるぶると震えながらも、彼の問いにうなずくしかなかった。



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