「ああ…」
決して計算されたわけじゃない。コードの揺れによるローターの微妙な刺激。博人さんにすべてを見られている、恥ずかしさから来る興奮がそれに拍車を掛ける。むき出しの神経の上を優しく刺激されてまったく考える余裕も無いのに、必死に感覚を研ぎ澄ましてローターの音を追う。わからない。無理。こんなの。
「三番」
「はずれ」
あ、いや!今度は鞭が来るのが分かっているから、身構える。それなのにさっきと違って博人さんはすぐには打たない。ゾロリと一度鞭を這わせて、私がその鞭の恐ろしさに震え上がるまで十分脅えさせておいて
「行くよ」
と、予告までしてから打ってきた。
バシッ!
痛い。来ると分かっていても痛い。涙が溢れてきて世界がぼやける。いやいや。こんなの無理。絶対無理。容赦なく次の打擲が来る。体が逃げようと悶える。
バシッ!
痛い!あ。あ。助けて。博人さん。痛い。心の中で必死に訴える言葉が洩れないようにくちびるを噛む。
バシッ!
三回、きっちりと打たれた。私はもう、すすり泣いていた。お尻がひりひりと痛む。終ってからも、いましめから腕を抜こうともがいてしまう。抜けない。どうして?いやいや。どうして抜けないの。
また、次のローターのスイッチが入れられる。あう、いや。もう、いや。だめ。だめ。思わず首を振っているのにローターはまた、お尻の合わせ目に落ちてきた。ううんっ。思わずのけぞるほど感じてしまう。さっきよりも敏感になっている体に唖然とする。ローターがゆっくりと移動すると体が総毛立つほどの快感が背筋を這い上がってくる。
動けない。固まったままローターの振動を味あうしかない。なぞられていくにつれ、快感が強まってきて動かないでいるのはまるで拷問のように感じられる。あ、どうしよう。どうしよう。気持ちいい。
分からない。ちっとも分からない。答えられない。いじわるなローターがクリトリスの真上に来ると博人さんがそっと揺らす。トントンと、リズムをつけてローターがクリトリスの上で弾む。あ、う、くん。私は猫のように背中をそらす。耐えられない。
「ご、五番……」
「はずれ」
「いやあああ!」
思わず叫んでしまっていた。
「…夕姫。始まったら、嫌は通らないんだ」
博人さんの苦しそうな口調に、ふがいない自分を叱咤してくちびるを噛む。それでも、準備できないうちにひときわ強い打擲が来ると、私は跳ね上がらずにいられなかった。
「ひいっ!」
叫ぶまい。泣くまい。と、必死にこらえる。でも、ちっともうまく行かない。博人さんは、その後もまったく斟酌せずにローターと鞭を交互に繰り返した。体は反応して熱くなってくる。あそこがとろとろと蕩けだし蜜が溢れてくるのが分かる。
耳を澄ましローターの音を聞き取ろうとすると、体全体が感覚をそばだててしまい、敏感に感じずにはいられない。答えなければこのローターの快感に浸っていられるのに、与えられる快感が高まってくると耐え切れずについ答えてしまう。
そして、容赦ない鞭の攻撃にさらされる。お尻は腫れ上がり、ひりひりと熱く、体中が膨らんでお尻だけになってしまったみたい。思わず博人さんの前でねだるように揺すってしまい、恥ずかしさにはっと覚醒する。その繰り返し。痛い。耐えられない。痛い。
「一番」
何度目のローター。何度目の鞭の後だっただろう。もう、混乱しきった頭には、ローターの音を聞き分ける余裕も無くってあてずっぽうに番号を言った。
「当たり」
え?うそ。……ほんとう?やっと、当たったの?これで、終わり?
「いい娘だね。夕姫。ご褒美をあげる」
鞭が背中にそろりと下ろされた。それが、何を意味するのか分かって私は目を見開いて硬直した。
「三十回」
博人さんの冷たい声が無情に宣告する。
「い…いや…」
どうして?やっと当てられたのに。そのご褒美にもっと打たれないといけないの?何も悪いことしてないのに、どうして罰せられないといけないの?痛みから逃れようと必死に答えていた私は混乱した。嫌は通らない。分かっているだけど、体は勝手に反応していた。何とかしてこのいましめを解いて、彼の鞭から逃れたい。半狂乱になって絹の紐をほどこうと必死になってもがいていた。
博人さんの手が、絹紐に掛かる。するり。するり。と、簡単に紐はほどけていた。あっという間に私を椅子に拘束していた絹紐は全部ほどかれて私は自由の身になっていた。博人さんがもう一度鞭を取り上げる。
「夕姫。自分で選ぶんだ。もう、やめる?それとも、最後までやり通す?」
私は、博人さんを振り返って見た。まったく表情のない彼の顔を。王子様の仮面をつけた、私を連れて行こうとする悪魔の顔を。
「……続けま…す」
ぎゅっと目をつぶって自分からオッドマンの足にしがみつく。怖い。縛られていたときよりも…。ずっと。自分がどう行動するのか信じられない。だから、なおさら怖い。
ヒュウウッ……バシッ!
鞭が風を切る音がして、背中に振り下ろされる。お尻を打たれるよりも痛い。ひとつ。ふたつ。みっつ。数えられたのはそこまでだった。狂乱の嵐。振り下ろされる鞭の痛みに叫びながら、椅子にしがみつく。痛い。痛い。痛い。何がどうなったのか。鞭打ちがいつ終ったのか全然わからなかった。
気が付いたときは、ベッドの上。博人さんが何の愛撫もなしに押し入ってきた。私は、引き裂かれる獣のような叫び声をあげながら、それでも、強い快感の稲妻に打ちのめされた…。力に押しひしがれる。揺さぶられる。打ち上げられる。そして、私は気を失った。
やがて、私は、ひんやりとした冷たいクリームが背中に塗り広げられるやさしい感覚に揺り起こされた。
「気が付いた?」
声を掛けてくるのは、いつもの博人さん。ぱしぱしと瞬きをしてから見上げた顔は、優しく笑いかけてきた。
「私……三十回我慢できた?」
「できたよ」
博人さんが、肩にそっとキスをくれる。ほっとして暖かい気持ちが心に満ち溢れてきた。なんなんだろう。暖かい日向にいるような不思議な静けさ。
「さ、終わり」
お尻をポンと叩かれる。振り返ってお尻を覗いてみたけどよく見えなかった。
「大丈夫。赤くなっているだけだから。結構強く思いっきりぶったから、しばらく痣が残るかもしれないけど」
博人さんがシーツを持ち上げてするりと横に滑り込んできた。肩に手をかけて引き寄せてくれる。
「私…一緒に行ける?博人さんと一緒に…。扉をくぐっていける?」
博人さんは、黙って私の目の中をじっと覗き込んだ。
それから、嬉しそうににっこりして、うなずいた。
「大丈夫。夕姫が泣いても、喚いても、絶対放さないから……」
私はちょっとふくれて見せて、それから博人さんの胸をこづいた。博人さんは音を立てずに笑って、私の手を持ち上げると手のひらにキスをした。
「僕のお姫様。結婚しよう」
いばら姫は、こうして「幸せな檻」に囚われたのでした。めでたし。めでたし。
↓ランキングに参加しています。応援してね。☆⌒(*^∇゜)v ヴイッ


どういうわけかどこへでも顔を出す便利なキャラ高原氏が誕生定着したようです。そのうちに、博人君との短い外伝を書かせていただきます。立派に育って、「さわってほしい」の続きを書けるように、さやかに協力してね。弓人。
コメントに感想をいただければ、管理人も頑張ります!ランキングもポチッと押してやってください。管理人に愛の手をよろしくお願いします。
m( __ __ )m

[PR]

この記事へのコメント
このコメントは管理者の承認待ちです
2010/08/12(木) 21:45 | | #[ 編集]
( ̄∇ ̄;)ハッハッハ
次に会うときのさーやは
これほど初々しくないかもよ。
せつなのことパドルもって追い掛け回す
女主人になってるかも。
ヾ(  ̄▽)ゞオホホホホホ
次に会うときのさーやは
これほど初々しくないかもよ。
せつなのことパドルもって追い掛け回す
女主人になってるかも。
ヾ(  ̄▽)ゞオホホホホホ
ぐっすん!!
もう少し続くと思っていました(T-T)
さーやがなんだか他人とは思えなくて…
博人さんが好きで好きで結局、受け入れてしまう
自分自身に戸惑ってる姿にとっても共感していました。
さーやの素直なドキドキにせつなのドキドキが重なって
毎日の楽しみでした。本当です。
それがぁ…終わってしまったなんて。
またさーやと博人さんに会いたいです。
さやかさまどうぞよろしく!
もう少し続くと思っていました(T-T)
さーやがなんだか他人とは思えなくて…
博人さんが好きで好きで結局、受け入れてしまう
自分自身に戸惑ってる姿にとっても共感していました。
さーやの素直なドキドキにせつなのドキドキが重なって
毎日の楽しみでした。本当です。
それがぁ…終わってしまったなんて。
またさーやと博人さんに会いたいです。
さやかさまどうぞよろしく!
2006/03/22(水) 10:58 | URL | せつな #-[ 編集]
この記事のトラックバックURL
http://aisaretaiwatasi.blog44.fc2.com/tb.php/85-c2980eba
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
この記事へのトラックバック