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16、キス

ここでは、「16、キス」 に関する記事を紹介しています。
 

「もう服を着ていいぞ」
 椅子が廻り背を向けられたのが分かった。彼の手が離れていくと、緊張が解け体中から力が抜けていくような気がした。気力を奮い立たせて服を着る。フランツ様は、ただ黙ってその様をじっと眺めておられる。上着を羽織って、最後のタイを結び終わったとき、私の頭は疑問と不安でいっぱいになっていた。
 振り向くための勇気を必死でかき集めていると,いきなり肩を掴まれて強引に向きを変えさせられた。そうと気が付く間もなく、唇をふさがれてしまっていた。
 思わず体を引こうとして、さらに引き寄せられる。それから一度息継ぎの間があって、さらに深く重ねられる。いつの間にか夢中で応えてしまっていた。それから、体の向きを強引に変えさせられ机の上に押し倒された。背中の痛みに顔をしかめたが、彼は容赦しなかった。膝でのしかかってくるようにして、さらに深く舌が唇を割って入ってくると、もうその後は何も考えられなかった。フランツ様がこれほどキスがうまいとは想像もしていなかった。何度も何度も角度を変えて、重ねられているうちに、欲望が膨れ上がり抑えようもなくせりあがってきたと思うとぱっと弾けた。
 彼の体が起き上がって行った後も、私は机の上に仰向けになったまま、目を閉じ、ただひたすら口を空けて空気をむさぼるように息を継ぐしかない有様になっていた。
「これは……ないんじゃないですか」
「ん?」
「こんなふいうち。……想像もしていませんでした」
 くすっと笑われて、顔が赤くなってくるのが分かった。手が伸びてきて胸元を掴まれるとぐいっと引き起こされる。ぱっぱっと服のしわを伸ばされて、乱れたタイを直された。
 視線がぶつかり、ついお互いの表情を探りあってしまう。一週間ぶりにようやく会えた主人の顔には、かすかな笑み以外何も見つからなかった。胸が詰まる。ずっと、胸の中で反芻していたことが、浮かび上がろうとして咽喉元に引っかかっているようなそんな気がした。
「どうして、一度も会いに来てくださらなかったんです」
 聞くまいと決心していた言葉は、あっという間に唇から飛び出してしまっていた。『しまった。』と思って、唇を引き結ぶがもう遅い。部屋に入ってきてから必死に押し殺していた疑問は、もう彼の耳に聞こえてしまっていた。
 ちょっと、驚いたような顔をした彼は、眉をひょいと上げ自分の椅子に座ると、斜め前の椅子を指し示して座るように手振りした。
「怒っているのか」
「怒っていません」
 否定してから、それが嘘だと自分でも分かった。溜息をついて降参するしかない。
「怒っているみたいです。……会いに来て欲しかったのに」
「おまえがいけないんだぞ」
フランツ様の頬に困ったような微笑がこぼれた。
「コールが帰った後に、お前を抱いたのがばれた」
「あ……」
「新しい傷が手首と足首に増えているのを見て、やっこさんにこっぴどく叱られた。とにかくお前が起き上がって、ちゃんと抵抗できるようになるまで、絶対に会っちゃだめだと釘をさされた」
 本当に?そんなはずないでしょう?他人に指図されて、唯々諾々と従うあなたなんて想像もできない。
「それに……怖かった」
 はっと、顔を上げて彼の顔を見直す、真剣な顔で見返されて胸が締め付けられる。
「ひどく痛めつけてしまったからな。頭も上がらないお前の顔を見る勇気が無くて、結局はコールの言うがままさ」
 お互いの視線が絡み合う。言いたいことがたくさんあるような気がしたのに、一言も思い浮かばなかった。フランツ様は私の表情をじっと見つめた後に、ふたたび机に肘をついて頬をのせて頭をかしげると溜息のようにつぶやいた。
「お前、これでも、まだ、私のベッドに上がれるか?」
 思いもかけないことを尋ねられ、率直な彼の言葉にようやく脱力するような安心感をいだいて、ほっと息をつく。
『もちろんです。私は、あなたのものですから。』私は心の中だけでつぶやいて立ち上がり、彼の足元に膝づくと、恭しく彼の手を取り上げて手の甲にくちづけた。



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